OVER DRIVE   作:ディニクティス提督(旧紅椿の芽)

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00 プロローグ

人間とは脆弱な生き物だ。

鋭い牙や爪を持たず、その身一つで戦う事はまずままならない。猿人が生まれた当時、最も捕食者に狙われやすい存在であった事も、それが起因しているだろう。

だが、人類は何万年と渡り生き延びてきた。その身一つでは戦う事はおろか、身を守る術を持たない無防備な生き物がなぜこの世界を生き延びてこれたのか。

それのうちの一つは知恵だ。人間ははるかに高い知能を持っている。石どうしを叩き合わせ打製石器を作り、獲物を狩り始め、氷河期、縄文時代と生き延びてきた。だが、その知恵は時に悪い方へと働く事もあった。弥生時代中期から見られるように、同じ人間同士の戦いが始まる。目的はただ一つ、自分の欲を満たす事。人間の最も汚い面である。人は生きるために持たされた知恵を、同種間同士で争うために使い始めた。

最も、戦いに利用されたものは、その生み出された知恵の副産物と言っても過言では無いが。

科学技術の発展。それは人類の生み出した最高の知恵であるが、それゆえ戦いへと使われて行った。

石器の槍での刺し合いから金属の刀剣での斬り合いへ、弓を撃ち合う戦いから銃を放つ戦争へ。科学技術が進歩して行くたびに、戦争は一段、また一段と激化して行った。

火薬の発明により、弓矢よりも遠くを狙えるようになった鉄砲。

空中や水中からも攻撃ができるようになった戦闘機や潜水艦。

微々たる攻撃をいにも介さず地上を蹂躙して行った戦車。

全てを無に帰する力を手にした核兵器。

元は平和的利用を考えられ作られた物たちも、欲に塗れた人間たちにとっては、とても使い勝手のいいものだった。各国はこぞって自分たちの力を誇示するため、さらに強大な力を求めるようになった。その度に戦争が起きた。

世界は二度の大戦を経験している。だが、それはあまりにも大きすぎる損失をもたらした。

そして現在に至るまで、世界から紛争というものが消える事はない。科学技術の進歩は新たな火種を生む事になるしかないのだ。

 

2058年。それは世界にとって新たなる技術革新をもたらす年となった。

世界各国の重工業企業が、開発した産業用パワードスーツ、作業員搭乗型重機。通称「トルーパー」。

重作業をこなすために取り付けられた補助駆動人工筋肉。

災害時の二次被害から搭乗者を守るための特殊合金製装甲。

地形、水質、大気などのデータを瞬時に把握するセンサー。

大量の工具などを搭載する事が可能となる最重要ユニット、トルーパー(T)コア(C)モジュール(M)

それらの技術は、今までの社会を覆す事となる。人々はその技術革新へ歓喜し、産業は活発化するかのように思われた。

だが、人の欲はその革新すらも利用した。そのあまりにも突出した能力ゆえ、兵器への転用が行われた。

搭乗員の命を守るための特殊合金製装甲はさらに強固に。

補助駆動人工筋肉の出力はさらに高出力なものへ。

データを瞬時に把握するセンサーは、敵の位置を把握するためのレーダーへ。

そして、工具などを大量に搭載するTCMには、人を殺すための兵器を。

人を助けるためのトルーパーは、本来の役目を忘れ、人を殺すためのキルマシーン、歩兵搭乗型戦機「アームド・トルーパー」と、いつしか呼ばれるようになった。

そして、人々は過ちを犯す。三度目の大戦を引き起こしたのだった。この戦争は後に第三次世界大戦と呼ばれ、僅か二ヶ月で決着がついた戦争であった。

これにより、まともな財政機能や行政機能を失った国家は衰退して行く結果となった。

北欧の国々は互いに手を取り合い、一つの国家として「バルト連合国」にその名を変えた。

比較的損失の少なかった南ヨーロッパとアフリカは海外との貿易により、その力を取り戻し始めている。

アジア州のほとんどは今まで通りの国家として生きている。唯一、中国と朝鮮連合国のみが国家再編計画の真っ只中である。

南アメリカ、オセアニアの国々は戦争へ参加しなかったため、損失はほとんどなかった。

環太平洋共同連合として戦い続けた、憲法第九条を改正した日本とアメリカも、人的被害は参加国の中ではあまり無く、金融危機も訪れることはなく、国民は平和のもと暮らしている。

なお、この戦争での敗戦国は、ロシア、中国、朝鮮連合国であった。

そして、この戦争から早くも二十年近くが経った。国際連合はその名を国際連邦へ変え、平和維持活動を行っている。安全保障理事会常任理事国も、従来の五ヶ国以外に日本とオーストラリアを含めた七ヶ国となった。

世界のどこを見渡しても戦争の後は全く無く、どの国も安定した生活を送っていた。

だが、それでも各国の軍需産業は未だに衰えることもない。どの国家もいつ始まるかわからない、次の戦争へ備えているのであった。

 

 

ここまで科学技術や知恵ーー人の生き延びてきた力の一つを紹介していったが、もう一つその力は存在する。

それはとても単純で、だが複雑で、わかりやすく、理解し難い。人の心を簡単に支配することができる、人のみならず全ての生き物達が莫大な力を発揮できる鍵ある。それはーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー愛だ。




用語

作業員搭乗型重機
通称トルーパー。世界各国の重工業系企業が開発した、産業用パワードスーツ。
搭乗型を包み込むような形で起動し、その稼働時間は各企業によって違うが、長くても三日以上補給を受けなくても、作業員以外は疲労から回復しているため作業を敢行する事が可能である。
また、機体の稼働に用いられるエネルギーや傾向できる道具は、全てトルーパー・コア・モジュール、通称TCMに依存する。TCMは各企業によって性能が少しずつ異なるが、あまり大した差ではない。
人の体の延長として開発されたものであり、その基本ポテンシャルは極めて高く、汎用性も広い。





歩兵搭乗型戦機
通称アームド・トルーパー、AT。作業員搭乗型重機の装甲強化、補助動力人工筋肉の高感度電位センサーの感度と出力の強化、TCMの上方調整などを施した、戦闘用のパワードスーツ。作業員搭乗型重機の登場後、各国の軍隊および軍事企業がその高い汎用性に目をつけ、生産した。
装甲材質を変化させる事により、一般歩兵の持つ小火器程度では有効打を与える事は不可能であり、破壊可能であるとしても戦車砲クラスの火砲か、HEATなどの成形炸薬弾が必要。確実性を持つならアームド・トルーパー専用兵装が必要である。
様々な工具を格納するためのTCMの格納庫(ハンガー)には、多数のアームド・トルーパー専用兵装が積まれ、単機でも強大な戦闘力をえることになった。
第三次世界大戦時には、その装甲の硬さ、火力の高さ、索敵範囲の広さなどから、戦力の中心をになっていた。
現在は、各軍の主力の一つとしてだけではなく、企業の自衛戦力にもなっている。




朝鮮連合国
対立を続けていた韓国と北朝鮮が手を結び、形成された新国家。もとよりあった拉致問題、貧困層の国民の増加問題なども互いが協力し合う終わりを告げた。





第三次世界大戦
作業員搭乗型重機及び歩兵搭乗型戦機の登場後、ロシア、中国、朝鮮連合国がユーラシア軍事同盟を名乗り、米軍アラスカ基地を襲撃、それが引き金となって始まった戦争。
戦場には多くの歩兵搭乗型戦機が投入され、戦争は激化して行った。だが、歩兵搭乗型戦機はその開発に高い技術が要求され、激化して行く戦場では、技術力の低い国が作った歩兵搭乗型戦機から撃破されて行った。
戦争の激化により、わずか一ヶ月で戦死者は八千人を超え、民間人も多くが死んで行った。
そして開戦から二ヶ月、ユーラシア軍事同盟がベルリン条約を受け入れ、彼らの敗戦が決定打になり、戦争は終わった。
この戦争による戦死者は、軍人・民間人を含めのべ五万人を超え、負傷者は二十万人にも及んだ。





憲法第九条の改正
第三次世界大戦の勃発と共に、自国にも被害が及ぶと予想した国民による抗議が日本各地で発生。政府は国民審査を開始、多くの国民が憲法改正を望んだ結果となったため、交戦権が認められた。それと共に、自衛隊も日本国国防軍とその名を変え、第三次世界大戦に参加した。





環太平洋共同連合
第三次世界大戦時に協力関係にあった日本とアメリカの事を指す。技術的に高い水準の二ヶ国が手を結んだ事により、戦況が一気に緊迫化したのは言うまでもない。搭乗員の命を最優先した彼らの歩兵搭乗型戦機は、数多くの戦死者がでる戦場において高い生存率を誇っていた。





国際連邦
従来の国際連合を解体、再編した国際機関。大きく変わったところと言うと、安全保障理事会常任理事国に日本とオーストラリアが参加し、常任理事国が七ヶ国となった。
また、敗戦国の中国、ロシアの発言力は弱まり、実質アメリカが国際連邦本部の意を代弁する事もあり、国連総会においての絶大な発言力をほこる。
本部はオーストラリア、メルボルン。
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