OVER DRIVE   作:ディニクティス提督(旧紅椿の芽)

4 / 7
03 売られた喧嘩を買いました

放課後。

入学初日のこの時間は、新入生達は部活を見学する時間が設けられているそうだ。多くの人が部活動の様子を一目みようと動いている。かく言う俺もそのうちの一人だ。

 

「というか、そのトルーパー部的な部活って何処でやっているんだよ?」

「わ、私に聞かないでよ。私だってわからないんだから」

「平次、場所まだ見つからないの?」

「神保さん⁉ いきなり呼び捨て⁉ ま、場所はグラウンドの隅にある倉庫みたいだけど」

 

上から、俺、ルリア、夏希、平次。昼休みに一緒にトルーパー部へ行こうぜ、と言った面子だ。だが、肝心の場所を誰一人としてわかっていなく、学校で遭難しかけていたのが事実。なんとも、阿呆らしい顛末だ。

 

「平次って、突っ込みキャラだったりするか?」

「違うよ⁉」

「俺にはそう思えないのだが…………」

「僕は、突っ込み担当じゃなぁぁぁぁぁぁい‼」

 

俺のどうしようもない疑問に、本気になって答える平次。終いには、思いっきり叫んだ。だが平次、いい事を教えてやろう。そうやって全力で否定するほど、本当の事である事を証明してしまうからな。適当にはぐらかして、誤魔化すのがセオリーだ。

しばらく歩き続けると、グラウンドの方へ出た。それにしても、広いな。それに遮蔽物も少ない。これだけの好条件が揃っているここならーー

 

「ーー両手にガトリング装備での殲滅戦が可能、と言いたいの?」

「夏希⁉ 何故、俺の考えがわかった⁉」

 

俺の思考を読まれた。突然出て来た単語に、一般人の二人はなにを言っているのか理解できてないようだったが、夏希の口から出て来た単語は、戦闘プログラムの一つだ。それも、俺が最も得意な殲滅戦の。

というか、何故にわかったんだよ。

 

「だって、顔に出てるし」

 

ーーどうやら、俺の考えは顔に出やすいらしい。まあ、ATに乗る分には問題ないだろう。フェイスマスクで覆われるからな。だが、ポーカーフェースを体得するのも無駄ではないと思う。俺はそんな事を思っていた。

 

「どうやら、着いたみたいだよ」

 

平次がそう言う。目の前にあるのは大型の倉庫。その横には表札に『競技用搭乗型戦機部』と書いてある。ここで間違いはないようだな。

だが、気のせいなんだろうか。倉庫の中から怒声が聞こえる。一体、どうしたんだろうか。

 

「悠助、何か聞こえない? こう、怒り狂ったようなそんな感じの…………」

 

ルリアも気づいていたようだ。

 

「お前にも聞こえたか。とりあえず、中へ入ってみよう。そうしないとわからないからな」

 

俺がそう言うと、全員頷く。了承を得た俺は、ドアを開け中へ入った。

 

「なんで、お前らのようなペーペーを、俺のトルーパーに乗せなきゃならねえんだよ‼」

 

俺の目に真っ先に入ってきた光景は、何とも言い難かった。おそらく新入生とと思われる生徒が、先輩らしき人物に叱責されている。

 

「何があったんだろう?」

「私に聞かないでよ、わかるはずないでしょ」

「潤滑油をぶちまけたとか?」

 

三者三様に答えるが、その光景に俺たちは見入っていた。普通なら、新入生側を迎え入れるであろう人間が、その新入りを怒鳴りつけているんだからな。

そんな中、一人の先輩が俺たちに気づいたようで、此方へ走って来た。

 

「やぁ、君達もこの部に入りたいのかい?」

 

何処か優しげな印象が感じられるその先輩は、俺たちにそう問いかけて来た。

 

「あ、はい。どんな感じかなってみに来たんですけど」

「そう。ああ、まだ自己紹介していなかったね。俺は、古島京谷。競技用搭乗型戦機部、通称トルーパー部の部長だ」

 

なんと俺たちに話しかけて来てくれた人は部長だった。でも何故かそんな感じはあまりしない。顔が大人しそうな感じなのだからだろうか。

 

「ところで、今何が起きているんですか? 怒声がいっぱい聞こえて来ますが…………」

 

ルリアが俺たちにとって一番気になっていたことを古島部長に聞いた。部長ならなにか知っていると思ったんだろう。その判断は正しいと俺は思うぞ。

 

「ああ…………風波の事か。実は、新入生が来たものだからそこにあるトルーパーに乗せてあげようとしたんだ。トルーパーに乗れる機会なんてそうそうないしね」

 

確かにな。AT乗りだったら話は別になるが、こんな時期にトルーパーに乗れるっていう事は、滅多にない。そんな貴重な体験をさせてくれようとした、古島部長は心がいい人なんだと思う。

 

「でもさ、一人目が終わったその時に、風波は来たんだ。あいつは勝手にトルーパーに触れた事に対してキレ出した。それで、こんな状態さ」

 

古島部長は苦い顔をしながら、風波って奴にむけて軽く舌打ちをした。風波は部長にもあまり快く思われてないようだ。

 

「全く…………あんなに威張り散らすくせに、腕は散々。仲間の足を引っ張るわ、みんなのトルーパーを独り占めするわ…………退部してくれねえかな」

「部長、口調が変わっている上に、愚痴っているようにしか聞こえません」

 

古島部長も相当頭に来ていたようだ。その話を、俺たちは黙って聞いていた。俺だって聞いていただけでイライラして来た。この学校では俺が最強だ、とか言っているが、俺は古島部長の方が強そうな気がしてやまん。

そんな時、此方へ件の風波がきた。…………嫌な予感がする。

 

「京谷先輩、何してんだ。新入生の雑魚は相手にしてるだけ無駄無駄」

 

本当に尊敬すべき先輩なのか? と思う。この風波は相当、根が腐っているような奴じゃないのか?

すると、風波は夏希とルリアに目線を向けた。

 

「…………京谷先輩、俺この二人の対応ならやるぜ」

「風波、お前は黙っていろ。こっちは俺が担当してるんだ」

「いいじゃねえか。なぁ嬢ちゃん、こんな腰抜け先輩じゃなくて、俺の方がいいだろう?」

 

ぎりっ、と奥歯を噛み締め怒りをあらわにする古島部長の姿が目に入る。風波は、クズなのかもしれん。例え自分が他人より上に立っていようと、それを鼻にかけずいることは人間として最も素晴らしい姿だろう。できなくても、他人を見下すのは慎むべきだ。なのに、こいつは…………。

風波は、夏希とルリアにそう言う。だが、

 

「いいえ、私は部長さんから説明を受ける。その方がわかりやすそうだし」

「だよね。変に怒鳴り散らす先輩よりは、ね」

 

明確な拒絶の意思を二人は示した。これに風波は少しはこたえたかと思ったら

 

「そういう、つれない事言うなよ。俺ならトルーパーに乗り馴れているから、手取り足取り教えられるぜ」

 

さらに詰め寄った。そして、あろうことかルリアの肩に手を置いた。それをみた瞬間、何故か怒りが込み上げてきた。

 

「…………平次」

「な、なに?」

「アンチマテリアルライフルって知ってるか?」

「え? 何それ、知らない」

「そうか…………ッチ、目の前のクズの胴を分断できるかと思ったのだがな」

「ちょ⁉ ボソッとだけど、恐ろしく物騒なこと言ったよね⁉」

 

イライラが収まらない。何故なんだろうか、わからない。とりあえず、あのクズを何とかしないとな。

 

「ち、ちょっと‼ 何するんですか‼」

「いいじゃん、いいじゃん。なぁ、こんな奴ら放って置いてどっか遊びに行こうぜ」

「い、嫌です‼ 絶対に嫌ですからね‼」

 

肩に置かれていた手を、ルリアは振り払った。だが、それが機嫌に障ったのだろうか、いかにも不機嫌そうな表情を風波はした。

 

「なんだよ、折角人が下手に出てやってるってのによ‼」

 

次の瞬間、風波はルリアの胸倉を掴んだ。ルリアは苦しそうにもがくが、女の力で男の握力をほどくことはできず、どんどん締め付けられていく。

 

「せ、先輩…………く、苦しい…………は、離してください…………」

「こっちはこの学校を守っているんだぞ? それなりの敬意って奴が必要なんじゃないのか? ああ?」

「おい‼ 何をしているんだ、風波‼」

「クズは黙っていろよ‼ 戦いを知らない無能が」

 

ルリアの目尻に溜まった輝く何か。それがしっかりと見えた。…………無理だ、もう我慢の限界。俺の怒りは溜まりに溜まっている。もう、これを全て噴き出すしか、解決策は無い。

戦いを知らない、だと? 本物の戦場を知らない奴が、そんな事を語るんじゃない。

 

「だいたいこっちは、お前らを守っているんだ。そういう、先輩に敬意を払わない奴は教育しないとーーふべらっ‼」

「ーーなんか言おうとしたか? このサル野郎」

 

俺は風波を殴り飛ばした。かつて共にいた仲間が苦しめられているのを見捨てることは、俺にはできない。風波はそのままバウンドし、俺を見る。

 

「なんだ、テメエは‼ 俺に何しやがる‼」

 

よっぽど頭にきたのか、激昂している。だが、俺は風波よりブチ切れているだろう。肩で息をしているのが、自分でもわかる。

 

「それはこっちの台詞だ。お前こそ、俺のダチに何してんだよ。事によっては、さらにもう一発殴り潰す」

「テメエ…………いい度胸してんじゃねえか。おい、俺とトルーパーで勝負しろ。ここには三機ある。テメエを俺の土俵でぶっ潰してやるよ‼」

 

向こうから俺にトルーパーでの勝負を言ってきた。俺は表情には出さないが、内心ほくそ笑んだ。向こうから俺の得意な領域に足を突っ込んで来てくれたもんだからな。

 

「上等だ。受けて立つ」

 

緊迫した空気が、その場を支配していた。

 

 

 

 

 

「全く…………厄介ごとに巻き込まれたわね」

 

夏希は少し呆れたような顔をしている。うっ…………すまん。

 

「まぁ、私もあのサル野郎にはムカついたしね。それよりもルリア、大丈夫?」

「う、うん…………悠助が助けてくれたから。ありがとう、悠助」

 

先ほどまで胸倉を掴まれていたルリアは、ベンチに腰掛けている。さっきの事があったせいで、まだ気が動転しているだろうが、少しは元に戻っただろう。

 

「気にするな。ダチを見捨てることはできないからな。古島部長、俺はどいつを使えばいいんだ?」

 

古島部長に俺が使っていいと思われる機体を聞く。

 

「片方は修理中だから…………こいつだな。劉ヶ崎重工製の第二世代型」

 

そう言って古島部長が俺に見せてくれたのは、俺もよく知っている機体だった。

 

「汎用陸戦型[影蛇]…………」

 

程々に厚めの装甲、少ししなやかなフォルム、頭部のライン・アイ・センサー。間違いない、俺の知っている奴とは少し違うが、こいつは俺が富嶽のテストをするまで共にいた奴と同じタイプだ。

現在、何処の国でも第三世代型が主流となり、さらに汎用性を広げた第四世代型の開発が進んでいるところだってある。そんな中でも、第三世代型とあまり性能差がない影蛇は未だ戦場にも、こういう競技用搭乗型戦機(ホビー・トルーパー)としても顕在している。

 

「悠助、この機体知ってるの?」

 

平次が何か聞いてくる。どうやら、俺がこの機体を知ってる事に疑問を持ったようだ。って、待て待て。

 

「平次、一応国防軍の方にも配備されている代物だぞ。普通、誰でも知ってるだろ、普通」

「だよね。トルーパー関連の本を読む悠助には常識だよね」

 

どうやら、俺を試そうとしたようだ。というか、国防軍に配備されていようがいまいが、劉ヶ崎重工っていう時点でもう分かるわ。いくら、十年以上前にロールアウトされた機体でもな。

 

「部長、こいつの武装は? 俺は非武装状態でも、問題ないが」

「非武装は流石にまずいだろ。一応武装しているが、近接用のスタンナイフだけだ」

 

ナイフだけ、ねえ。まぁ、うち(劉ヶ崎重工私兵部隊)には、拳だけで戦闘する奴もいるしな。俺もそこまでとは言わないが、ナイフなら扱いに長けている。少し頼りないが、別段問題はない。

 

「よし、わかった。それじゃ部長、遠慮なくこいつを使わせてもらうからな」

「ああ。その代わり、風波を完膚なまでに叩きのめしてくれよ」

「了解」

 

俺は影蛇の背部にある、搭乗ハッチに手をかける。すると、背中が開き、俺を迎え入れる体勢が完成した。その中へ、ちょうど滑り込むような形で搭乗する。

俺の体が入った直後、ハッチは閉まり、開いていた隙間が完全に閉じる。え? 息はどうするかって? 浄化フィルター越しに空気が送られてくるから問題ない。一応、放射能汚染地域でも普通に呼吸できる。

全身の肉体に張り付くような感じで取り付けられて行く、電位センサ。補助動力人工筋肉が体を締め付けるように、まとわれていく。

そして、肉眼よりもクリアに映る周囲。

 

ーーTCM、異常なし

ーー全ジェネレーター、及びラジエーター、正常稼動

ーー搭乗者バイタル、正常

ーー機体ダメージ、0%

ーー搭乗条件を確認、影蛇、起動

 

そして脳に響いてくるマシンボイス。影蛇は起動した。俺は感覚を確かめるように、拳を握ったり開いたりする。

 

「問題はないようだ。しかし、ここまで整備がいいとはな…………思わなかった」

「そうか? 一応言っておくが、俺整備が得意なんだよ」

 

部長は少し得意げな感じでそう言った。戦闘には向いていないが、代わりに整備に長けているとはいう事か。多分、風波の使っている機体も部長が整備しているんだろうが、奴はそれもわかってない。とんだ馬鹿野郎だな、あいつは。

 

「トルーパーも、いろいろと手をかけてやらないとダメだからな」

「部長、あんたの言ってる事に間違いはない。だから、俺はそのあんたを馬鹿にしたサル野郎を叩きのめしてくる」

 

俺は、閉ざされているシャッターの前に進む。流石に富嶽と比べたら、反応が少し遅いかもしれない。だが、それでも使えない事はない。

 

「夏希、シャッターを開けてくれ」

「オーケー。シャッター、開けるよ」

 

シャッターが重い金属音をたてながら、上に持ち上がっていく。外の景色は茜色。夕方だ。太陽は沈みかけている。早いうちに勝負を決めるしかない。

 

「悠助‼」

 

ちょうど、外へ歩き出そうとした時だ。ルリアが俺を呼び止めた。

 

「どうした?」

「その…………負けないでね‼ 必ず、勝って来て‼」

 

そんな事か。

 

「心配するな。俺は負けない。お前は、ここで事のいく先を見ていろ。それと平次」

「悠助、どうしたの?」

 

平次は俺を見て、怪訝そうな表情をする。

 

「お前に、トルーパーに乗り馴れた俺を見せてやる。楽しみにしてろよ」

「ああ‼ 楽しみにしているよ」

 

俺は外へ再び向き合う。向こうには一機のトルーパーが見える。おそらく、俺と同型。乗り馴れている分、アドバンテージは俺の方にある。だが、油断だけはしない。それが、自分を殺す事になるから。

 

「影蛇、出る‼」

 

俺はコマンドで水平噴射推進機(ホライゾナル・スラスター)を点火、奴がいるであろう場へ向かった。

 

 

 

 

 

「遅かったじゃねえか」

「うるせえよ、サル野郎。こっちは、あんたのようにスカスカの時間なんてねえんだよ」

「こいつ…………‼ 言わせておけば‼」

 

俺は風波を挑発する。表情を読み取る事はできないが、向こうは完全に切れているだろう。ただでさえ、サルのように吠えまくっていたからな。

 

「こいよ、サル野郎。俺を潰すんだろ?」

「言われなくても、望み通りにしてやるよ‼」

 

堪忍袋の限界に来た風波は、俺に殴りかかってくる。普通の人間なら、当たるだろうがな。

 

「甘い‼」

 

俺は体を軽くひねり、その一撃を躱す。攻撃が直線的すぎる。その分、読みやすい。

 

「この野郎‼」

 

今度は、また殴りだ。しかも、動きが単調すぎる。新人のペーペーでも倒せるんじゃないの?

 

「だから、甘いって言ってるんだろうが‼」

「ぐわっ‼」

 

殴りかかってきた腕を掴み取り、そのまま一本背負い。地面に叩きつけた。土埃が舞うが関係ない。

 

「テメエ…………よくもやりやがったな‼ ぶっ潰してやらぁ‼」

「ぴーぴー、うるせえんだよ、この三下ァ‼」

 

風波は俺に組みついてきた。胴体をがっちりとホールドされ、腕での攻撃は不可能。だが、それだけだ。

 

「どぉぅらっ‼」

「がはっ‼」

 

向こうのガラ空きの腹に膝蹴りを叩き込んだ。人が繰り出す技の中で、膝蹴りは高い威力を誇る。最も、トルーパーの装甲がある限り死にはしないだろうが、相当なダメージが入ってる事は確かだ。風波は、そのダメージを完全に殺せず、悶えている。

 

「どうした? 俺を叩き潰すんだろう? それとも、その程度なのか?」

「うる…………せえ…………うがぁぁぁぁぁぁぁぁ‼」

 

風波は突然叫んだかと思いきや、右手にハンドガンらしきものを呼び出す。

 

『くそっ‼ あいつ、飛び道具を仕込んでいたか‼』

 

通信から部長の怒声が聞こえてきたが、こういった想定外な事はよくある事だ、特に戦場では。敵さんはどんな武器、兵装を持っているかわからん。だから、俺らAT乗りには、どんな状況にも対応できる事が求められる。それが、例え核に汚染された地域でも。

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉ‼」

 

風波はその手に持つハンドガンらしきものを放ってきた。だが、撃たれてきたのは、タングステン弾でもなければ鉛玉でもなかった。

 

「釘…………?」

 

大きめの釘、いわゆる五寸釘というやつが放たれていた。どうやら、ハンドガンらしきものは工具であるネイルガンだったようだ。そこは元の作業員搭乗型重機としての名残なのか、それとも教育機関だから銃器が使えないのか、理由はわからん。俺的には、後者だと思うが。

だが、ネイルガンがいくら工具だとしても、やばい事に変わりはない。

 

「うらぁぁぁぁぁぁぁぁ‼」

 

五寸釘を連射してくる風波。俺は、ひたすら避け続ける。釘の勢いは凄まじく、掠めた装甲をわずかだが抉っている。立て続けに当てられたらたまったもんじゃない。俺は、水平噴射推進(ホライゾナル・ブースト)で後退した。

 

「弾切れ…………じゃない、釘切れにならねえのかよ…………」

 

俺はそう毒づく。いくら、近接格闘戦だけで戦えると言っても、飛び道具を使われたら厳しいって。

だが、そんな毒づきが効いたのか

 

カチッ

 

やつのネイルガンから釘が出てくることはなかった。釘切れだ。

俺はこのチャンスに、目線で武装スロットを動かし、武装を選択する。そして、右腕のナイフシースからスタンナイフを抜刀し、そのまま風波目掛けてホライゾナル・ブーストで突っ込んだ。

 

「そらよっ‼」

「うがっ‼」

 

なかばラリアットのような形なったが、右腕を首元に叩きつけそのまま地面にひれ伏せさせる。そして、片腕をひねり上げ、首筋にスタンナイフを突きつけた。

 

「く、くそっ‼」

「もう、終わりだ。降参しろ」

 

自分の体勢と首筋に当てられたスタンナイフを見て、風波は負けを認めた。それを見た俺もスタンナイフをナイフシースに戻し、戦闘体勢を解除する。まだ、夕陽は沈んでおらず、紅く輝く太陽が俺の目に入ってきた。

 

 

 

 

 

「お疲れ、悠助」

 

そう言って夏希とルリアが俺を出迎えてくれた。二人の表情は、何だか何処となく嬉しそうな感じだ。

 

「ああ。とりあえず、影蛇をハンガーに戻してくる。少し待ってろ」

 

俺はそんな二人の事を軽く流しながら、ハンガーへと向かう。そこには修理中の機体とすでに戻されたもう一機の影蛇ーー風波が乗っていたやつーーがあった。

 

「紅城君、お疲れ様。君の戦いすごかったよ」

 

部長がハンガーにいた。どうやら、修理中の機体をいじっているようだ。その隣に平次もいる。あいつ、技術屋体質なのか?

 

「ありがとうございます、部長。んで、風波は?」

「あいつなら…………さっき自主退部していったよ」

「そうすか…………」

 

風波はこの部を去った。部長は最初叩きのめせとかなんとか言っていたが、いざこうなってしまうと感傷に浸るものがあるのだろうか。俺にはそう言ったものはあまり感じられないが…………あいつとの付き合いがほとんどなかったからだろう。

ハンガーに影蛇を預け、中から這い出る。トルーパーを降りたあとは、こうして吸う空気が新鮮に感じられる。

 

「平次、お前なにしてるんだ?」

 

ここで俺は平次に疑問を投げかける。さっきからこいつがしている事が気になってしょうがない。整備なのか、それとも改造なのか知っておきたい。

 

「え? 修理だけど? 左脚のアクチュエータの調整してただけだから」

 

どうやらこいつは俺の読み通り、技術屋体質のやつだった。てか、アクチュエータの事をよく知っているな。専門書などを読まない限りは、絶対にわからないはずだが…………。

 

「平次って、トルーパーオタク?」

「何でそうなるの⁉」

 

部長がそのやり取りに軽く笑っていた。

 

「それじゃ、部活見学は終了だな。するかしないかは自由だけど、できるだけ入部してくれよな」

「部長、それは遠回しに入部しろと言っているようなものだぞ」

 

部員の人が、部長のセリフに突っ込んでいる。さりげなく、キャッチセールス紛いで入部させようとしたのか、部長は。

 

「ま、まぁ、今日はもう遅い。また明日にでも会える事を楽しみにしているぜ」

 

部長はそんな事を言って何処かへ向かって行った。部員もそのあとに続いて向かって行く。ハンガーには俺と平次、いつの間にかきていた夏希とルリアだけが残っていた。

 

「俺たちも帰るか」

「「「うん」」」

 

俺たちも倉庫を後にし、帰路へとついた。すでに外は暗く、時刻は六時を回っていた。

 

「四月だっていうのに、夜は暗いもんだな」

「確かに、日の落ちが早いね」

「そのうち長くなるでしよ」

「あと二ヶ月くらい後になるけどね…………」

 

他愛もない話をしながら、昇降口をでる。その時、ルリアが異様にビクついていたが、何かあったんだろうか。特に俺は気にも止めていなかった。

 

「悠助」

 

突然、ルリアが俺に話しかけてくる。なんだこいつは。今日はよく話しかけてきたな。

 

「い、一緒に帰らない?」

 

ルリアは少し上目遣いで俺にそう言ってくる。いや、別に上目遣いしなくても、それくらいいいんだが。

 

「ああ、別に構わないぞ。帰るんなら、早く行くぞ」

「あ、悠助。僕も一緒にーー」

「室戸君、私ちょーっとお話があるんだけど…………」

 

何故か校門をでる前に夏希の黒い笑みが見えた。あれを見たものは最後、地獄をみるとかなんとか。劉ヶ崎重工では一種の都市伝説になっている。

後ろから平次の断末魔が聞こえてきたが、俺は何も知らないし、何も聞いてない。ああ、何も聞いてない。

こうして、残された俺とルリアはそのまま帰り道を歩いて行った。

 

「ねえ、悠助。こんなことを聞いてもいい?」

「ん? どんな事だ?」

「悠助は、私と再会して良かったと思う?」

 

うん? ルリアの発言の意味がわからん。何が言いたいんだ?

 

「おい、それはどういう意味だ?」

「あー‼ やっぱなんでもない、なんでもないよ」

「そのままの意味なら、良かったと思ってるぜ。三年も会ってないってのは、結構気になったりしてたからな」

「え? それって…………」

「幼馴染として、心配だったからな」

「…………」

「どうした?」

「別に…………はぁ〜、そうだよね、悠助ってそんな性格だったもんね。期待した私がバカだったよ…………」

 

どういう意味だ‼ と突っ込みたくなったが、何故か意気消沈しているようなので、そこは控えた。うーむ、何があったというんだ?

そのあとを他愛もない話をしながら、帰り道を歩いて行った。その中で、俺と夏希の仮住まいのマンションが、ルリアの住んでいるマンションと同じだったことに、双方驚いた。最も、ルリアが物凄く驚いていたけどな。

どうやら、俺の高校生活はこのまま波乱が尽きなさそうな気がしてきた。それが、現実にならないことを祈るが、ちょっとくらいならいいかもしれない。

俺の隣では、ルリアが何故か頬を赤らめているようだが、理由はわからん。だが、こいつと夏希、今日ダチになった平次、これからお世話になるであろう古島部長など、俺と関わる人間の笑顔だけは守っていたい、そんな感じに思う。それがただの自己満足である事はわかる。でも、やりたい事はやった方がいいからな。俺はそう思っている。

帰り道を歩く俺とルリアを、月明かりと街灯だけが照らしていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。