OVER DRIVE   作:ディニクティス提督(旧紅椿の芽)

6 / 7
05 目覚める力

「…………平和だな」

 

戦場ではなく、普通に学校にいると、そう言わざるを得なくなる。銃弾が飛び交う事もないし、砲撃があるわけでもない。ましてや、ATが隊列を組んでくる事もない。俺の住む世界とはちょうど対極に位置するこの世界で時間を過ごすのは、悪くはない事だ。精神的にも落ち着くし、何より死ぬ心配があまりないからな。…………一応、すぐにナーガを展開できるように準起動状態(セミアクティブ)に設定はしてあるが。

そんな事を抜いても、本当に生きた心地がするという表現は的確かもしれない。丁度昼休みのこの時間の大半は、こうやって屋上で寝そべっていたりする。

 

(お、あの雲、APFSDSによく似てるな)

 

と、どうでもいい思考を、蒼く澄んだ空を見ながらしているんだが。屋上なだけあって、吹き抜ける風も気持ちが良い。一度感じた戦場の風は…………今は言うべきじゃないな。あれはかなり酷い物だから。

 

「悠助、ここにいたんだ」

 

普段なら俺が一人でいるこの場所に聞きなれた声が聞こえた。

 

「ルリアか。俺に何か用か?」

 

ルリアだった。丁度一ヶ月位前に再開した、俺の幼馴染。俺にとっては嬉しい再開でもあった。長い間会ってないから心配もしたし、気にもなっていたからな。

 

「ううん、特にないよ。ただ、悠助を探していただけ」

「何だそりゃ」

 

俺からの質問にそう答えるルリア。そして、俺の横に彼女は座った。俺の視界には空の蒼とルリアの髪の蒼が映った。どっちにせよ、綺麗な物に変わりはない。

 

「悠助ってよくここに来るの?」

「まぁな。気持ちが良いし、何より色々と解き放たれるからな」

「そうなんだ。いい所だね」

「そうだな」

 

そう言葉を交わしてまた、会話は途切れてしまう。というのもな…………ちょっと恥ずかしいんだが、ルリアといるとどうしても緊張しちまうんだ。昔っからこんな感じ。何でこんな事になっているのかはよくわからない。おまけにルリアもルリアで顔を赤く染めちゃっている。何が原因なんだ…………?

 

「そういえば、部活はどうしたの? やっぱりあのトルーパー部に入ったの?」

「いや、あそこにはちょくちょく顔は出しているが、入部してねえ。実質上帰宅部だ。そういうお前は?」

「私? 私はね、テニス部に入ったんだ。友達に誘われて中学の頃から始めたんだけどね」

 

中学の頃か…………俺はその頃戦場で影蛇に乗ってアサルトライフルを撃って戦闘行動していたからな…………そういう日常が羨ましい。

ちなみにここ最近の仕事は、二週間前の東シナ海にあるユーラシア連合残党軍殲滅が最後だったな。感覚が訛るといけないから、マンションで時々簡易的な訓練したり、トルーパー部の影蛇を使わせてもらったりしている。

 

「いいじゃないか。帰宅部よりはマシだ」

「そ、そうだね」

 

返す言葉に詰まってしまったのか、言葉を濁らせるルリア。なんか済まん…………

そんな時、予鈴が昼休みの終わりを告げる。ふう、これから座学か。

 

「ルリア、時間だ。俺は先に行くぜ」

「あ、ちょ、待ってよ〜!」

 

俺は少し早足で教室へと向かった。授業に遅れるのだけは勘弁願いたい。

 

 

 

 

 

「まずはあの劉ヶ崎の管轄範囲を少しつつかせてもらおう」

 

陣川高校からおよそ五キロほど離れた所に、青年と他に四人ほどがいた。彼らは皆ATを所持している。言わずとも、この青年はユーラシア連合残党軍のある拠点を任されている人間だ。

 

「それ正気かよ。劉ヶ崎の管轄には手を出すなって言われる程のもんですぜ」

 

腕に刺青をした男が青年に対してそういう。まぁ、劉ヶ崎重工は管轄外の東シナ海戦隊すら潰しちゃってるのが現実だが。

 

「だからこそいいんだ。確かに劉ヶ崎重工の軍事力は凄い。東シナ海の部隊すら一時間とかからずに殲滅したって話もある。だが、そんな奴らの管轄範囲に攻め入って勝ちを取れば、俺たちの名は瞬く間に世界へと広がる。そして、それを皮切りに世界中の同志に行動を起こしてもらう。世界の変革は必ず起こせるだろうさ」

 

青年はそう言い切った。無茶な話ではあるのに何故だろうか、彼らは納得したかのような表情をしている。

 

「言うな、ボウズ…………じゃなかった、隊長さんよ」

「俺はボウズでもいいぜ。かたいのは好きじゃないんだ。それに俺達、家族みたいなもんだろ?」

「それは言えてるわね。何年経つのかしら、ロシアであなた達に会ってから」

「俺だって中国でこいつに会わなかったら野垂れ死んでいたさ」

 

白髪でガタイのいい男、ショートカットの金髪の女、左の頬に傷のある男が口々にその青年に向かって言う。皆、青年によって拾われ、そして共にユーラシア連合残党軍の尖兵として今日まで生きてきた猛者だ。彼らは皆この青年が言う変革を見たいと思っている。だからこそ、この青年に対してここまで肩入れをしているのだ。

 

「さあ、思い出もいいけど、今は進む事が大事だ。作戦を始めるとしよう」

「…………説明もなしに?」

「そうだ、忘れていた。そうだな、まずはあそこを襲撃してもらおうか」

 

青年は遠くを見据えて指を差す。その先には、陣川高校があった。

 

「学校? それはいささかまずいんじゃ…………」

 

メンバーの一人がそう言葉を漏らす。すると

 

「何言ってるの? 俺達はテロリスト、法律も何も適用されないんだぜ」

 

青年はそう笑って答えた。その笑みはとても冷めていた。

 

 

 

 

 

「今日も平和な日常が流れる、流れる〜」

「…………悠助、キャラ壊れてない?」

「それ、僕も思った…………」

「私も…………」

「…………ちょっと巫山戯ただけだ」

 

まぁ、それくらいの余裕があるってことだ。今は昼休み。今日は夏希と平次、そしてルリアも集まっての飯だ。まぁ、購買とかで買ったものが殆どだが。

 

「でも、平和ってことは私にもわかるわ」

「そうなの? いつも通りの日だと思うけど?」

「世間一般じゃそうかもしれんが、それ以外の所は平和とはかけ離れていることもあるぞ」

 

夏希も俺と同じ側の人間だからな。いくらオペレーターでも平和なのかといえばそうではない。俺らが順調に仕事ができるよう、補佐をしてくれる。そのためには戦闘区域の近くまでくることだってある。オペレーターも時には命がけの仕事をするのだ。

まぁ、平次やルリアのように戦場を知らない普通の人達もいるからな。俺らは基本的にそういった人達を救うのが主な仕事。平和を脅かすテロリストは確実に排除する。俺の親がテロリストに殺されたから、俺のような人を増やしたくはない。

 

「そうだよね…………私達が住む平和ってのが当たり前というわけじゃないんだよね」

「そいつはまぁそうだな」

 

ルリアの言葉には賛同できる。人っていう生き物は常に争うことしかしてこなかった。競争、喧嘩、紛争、そして戦争。争い合うことでしか自分の力を示すことができず、平和というひと時を自らの手で破壊していった。平和は当たり前にあるものじゃない、努力して維持して行くものだと、俺は思っている。

 

「でも、ここは日本だし、何よりも劉ヶ崎重工が管轄する地区だし、テロなんて起きないよ」

 

平次はそう言う。確かに劉ヶ崎重工の管轄範囲は俺も担当しているからテロの心配は少ないが、絶対というわけではない。この世界に絶対などという言葉はあり得ないのだから。

そんな時だった。不意に校舎から非常ベルが鳴り響き渡った。突然の事態にルリアと平次は混乱し、どうしようもできなくなっている。

 

『生徒は直ちにシェルターへ避難せよ! 繰り返す、生徒は直ちにシェルターへ避難せよ!』

 

陣川高校には非常時に備えてシェルターが存在してる。しかしシェルターに避難とは…………何が起きているんだ?

 

「とにかく、シェルターへと向かうぞ。何かとヤバイ匂いしかしねえぜ」

「そうだね…………ほら、二人とも! 急いで!」

 

夏希は二人の手を取り、俺達はシェルターへと向かって走り出した。

その途中、俺は耳に聞きなれた音が聞こえた。小さいが俺の耳にはよく聞こえる。軽めでサイクルの早いこの音は

 

(ATのラジエーターの音…………‼)

 

間違いない。俺はふと窓から外の様子を見る。そこにはこの学校に向けて進軍してくるATが五機見えた。まずい、このままじゃ俺達が殺される可能性がある。非常時だから致し方ねえか。

 

「…………夏希、二人を頼む。あとデバイスを起動させておいてくれ」

「ちょ、ちょっと悠助⁉」

 

俺は夏希の静止を振り切り、再び屋上の方へと向かった。彼女達を守るためには、この方法しかないからな。

 

 

屋上についた俺は左腕につけられた籠手のスイッチを押した。

 

ーーメインシステム、起動

ーージェネレーター出力、ラジエーター冷却力、正常

ーーTCM、正常

ーー背部接続コネクタ、正常

ーー搭乗者バイタル、正常

ーーメインシステム、戦闘モード(ミリタリー)

ーー搭乗条件をクリア、闘蛇龍、起動します

 

脳に響くマシンボイスと共に、六角形の無数の非発光体が体を包んでいく。しばらくして、俺の身体は堅牢な装甲に覆われ、視界には武装選択欄と各種ステータスバー、そして拡張背部ユニット選択欄が表示された。完全に起動完了、おまけにレーダーには敵ATの位置がはっきりとマーキングされている。

俺は右手側にある武器を呼び出す。

 

ーー200mm試作型レールキャノン

 

戦車砲を遥かに超す威力のレールキャノンだ。しかし砲身は短く、試作型のため基部が大きい。L型ユニットが開発される前、砲撃戦用に装備を整える際、芝本率いる開発部が作り上げた、ATが扱える最大クラスの火器である。ただし、両手で構える必要があるが。

流石にナーガ単体で鮮明に目視でわかる距離は限られるので、レールキャノンに取り付けられたセンサーで目標をロックする。狙うのは、後方で警戒をしている空戦型らしき機体。おそらくロシア製のジュラーブリクだとは思うが、カスタムされ過ぎてて、元を判別するのは不可能。本来あるはずのないガンポッドに、頭部のブレードアンテナから強襲と偵察用の機体と思われる。未確認の赤と黒の機体もいるが、それでも潰す優先度は高いな。

 

(射程距離は適正。風は無し。後は夏希から連絡がくればいいのだがな…………)

 

今から撃ってもいいんだが、もし外してしまった時、学校が攻撃されてしまうと…………考えたくもねえな。デバイスを起動させておけって伝えてはあるし、避難が完了したら連絡の一つは寄越すだろう。それに、ルリアが無事シェルターに入れたかも気になるし…………って、こんな状況で他人の事を考えてしまった。いかんいかん、警戒を厳にしておかなければ。

しかし、一向に連絡は入ってこない。避難が遅れているのか? まぁ、こんな平和な日本だしな…………訓練なんてやっているのかすら怪しいところだ。マジで勘弁してくれよ…………奴らは確実にこっちに向かってきているんだからな…………。

 

 

 

 

 

「それで? 最初にスナイパーライフルで校舎に撃てと?」

「そうそう。どうせ、向こうにはATはいないようだし、軽くつついてみよう」

「了解。なら、私の腕の見せ所ね!」

 

悠助がレールキャノンを構え待機している頃、あの青年が率いるテロリストにも動きはあった。空戦型のジュラーブリクに乗る女がその手にスナイパーライフルを呼び出した。だがそのライフルはスナイパーライフルの中でも異形で大型のものだった。一般的に対陸戦型歩兵搭乗型戦機(アンチ・グラウンド・アームド・トルーパー)ライフル、略してAGAT(アガット)ライフルとも呼ばれる、ライフル系最強クラスの武装だった。その貫通能力は大抵のATなら余裕だ。対物ライフルとしても効果的な性能を発揮する。しかし、反動が厳しい他、マガジンが使えずボルトアクションの一発込めが殆どである。そして何よりも反動制御が厳しく、空戦型で扱うのは厳しいのだ。

そんな怪物を彼女は空戦型で撃つと言うのだ。殆どの人は『非常識な』『イカレていやがるぜ』などと思うだろう。だが、彼らの中でそう思う者は誰一人としていない。彼女の狙撃技術は皆が認めている。

 

「でも、的が大きすぎるわよ。細かい所を教えて」

「深く考えなくていいさ、お前が思ったとこに撃てばいいんだ」

「なら、あのシェルターに向かって撃ってもいいわけね?」

 

そう彼女が言うと、その銃口を未だ避難の終わっていないシェルターへ向けた。すでに初弾は込められている。あとは、トリガーを引くだけだ。

 

「それじゃ…………おさらばね」

 

彼女は口を僅かに綻ばせ、一切の躊躇いなどなくそのトリガーに指をかけたーーーー

 

 

その瞬間

 

 

長大なライフルは砕かれ

 

 

グリップのみが手元に残ったーー

 

「えーー」

 

彼女は何が起きたのかさっぱりわからず、ただ戸惑う。だが青年は気付いた、そのライフルを狙撃した者の存在を。

 

「ーーどうやら、一筋縄じゃいかないみたいだ」

 

青年はそう言って、校舎の屋上へ視線を向ける。そこには、大型の火器を構えた陸戦型歩兵搭乗型戦機の姿があったーー

 

 

 

 

 

(あれはーーAGATライフル⁉ あんなもの撃たれたら、俺は無事で済まねえし、学校は衝撃波で倒壊するかもしれないぞ‼)

 

数分前、レールキャノンを構えて待機していた俺だが、あの空戦型が取り出した武器を見て背筋が凍りついた。AGATライフル、重装歩兵からATが取り扱う対陸戦型歩兵搭乗型戦機兵装だ。ナーガの装甲がいくら厚くたって、放たれる多段階アーマーピアーシング弾の前では耐えられないかもしれない。ましてや、碌な装甲もないシェルターや校舎に放たれたら、衝撃波で良くて半壊、悪くて全壊だ。無論、中の人間がどうなるのかだって大体は予想がつく。

 

(夏希からの連絡は未だに来ねえか…………仕方ねえ、放たれる前にぶっ潰す‼)

 

あの空戦型は本当にまずい。俺は夏希からの連絡を待つ事を辞め、レールキャノンへ電力チャージを開始した。

右目のすぐ前に表示されているレールキャノンの欄の下にあるゲージが溜まっていく。このゲージが満タンになれば発射は可能になる。

 

ーーチャージ終了まで残り2.7385

 

(長い…………‼ 早くしてくれ…………向こうは火薬銃なんだから…………‼)

 

だがチャージも時間がかかる。威力が同等かは知らないが、発射するのは明らかに向こうの方が早い。火薬銃は後ろの信管を叩けば撃てるからな。

 

ーーチャージ終了、初弾装填完了

 

(上等‼ こいつでも喰らいやがれ、クソッタレ共‼)

 

すでにロックをかけていたあの空戦型、狙いはその手に持つ長大なライフルの弾倉。俺はトリガーをを引いた。

激しいフラッシュと共に飛翔体は撃ち出され、一瞬でライフルを打ち砕いた。ある程度の衝撃には耐えられるAGATライフルの銃身や弾倉を粉砕するレールキャノンだが、俺に反動は殆どない。実弾兵器でありながら、反動が少ないのは嬉しい事だ。

俺はレールキャノンを再度構え、発射可能状態に移行する。こうなったら、奴らを全部叩きのめしてやらなければならない。じゃないと…………本当に皆殺される。

 

「テロリストが! 平和を掻き乱しにくるんじゃねえ!」

 

再びチャージが完了したレールキャノンをぶっ放す。狙いは狼狽える空戦型。突然ライフルを打ち砕かれ、現実に頭が追いついてないようだ。

だが、急に目を覚ましたのか、空戦型はその場から一気に離れた。その直後、空戦型の右肩にあるパーツが吹き飛ばされた。ダメコンがうまく効かない空戦型にとってそれが致命的ダメージになったのか、現場からの離脱を開始する。くっ、流石に速い…………。俺は再度レールキャノンを放つ。次こそ直撃コースだ。次の瞬間には空戦型など飛び散っている、そう思っていた矢先だった。飛翔体が迎撃された。あり得ない話だ。秒速1040mを超える速度で撃たれた飛翔体を撃ち落とすなど…………できるはずがない。だが、それは現実で起こってしまった。これにより空戦型は完全にロスト、範囲外に逃げられてしまった。

 

『客人を追い返すなんて、少し礼儀がなってないみたいだね』

 

唐突に通常回線からの通信がかかってきた。声は二十代前半。だが、その声には年不相応の威厳が隠されている。何が起こるのかわからない俺はレールキャノンを構え直した。

 

『まぁいいさ。でも、俺達の邪魔になりそうだからね…………皆はビェールクの援護に回って。今日は撤退だ』

 

撤退…………? いや、このパターンは違う。自然とグリップを握る手に力が入った。

 

『俺は皆が狙われないようにこいつの相手をしておくよ。多分、今のグレゴルムじゃあの機体の相手は厳しいだろうし、こいつのテストもしておきたいしね』

 

やはりなーー大体予想はついていたんだが、目の前の機体は撤退する気はない。俺との交戦をお望みなようだ。俺は屋上から飛び降り、地面へと着地した。それを確認したのか、残ったあの赤い機体がこちらへと歩み寄ってくる。

 

『ごめんね。また次の機会を待とう。ーーこっちも待たせたみたいだね』

「ふん。そっちが通常回線で話しかけてくるのは、あまりメリットがないんじゃないのか?」

『どうだろうね? さて、それじゃ始めるとしよう、アヴェンジャー』

 

俺はとっさに身構えるが、その直後に起きた事によって、それどころではなくなってしまった。

 

「なっ…………‼」

 

赤い機体が空へと浮き上がった。あり得ない。あれはどう見ても陸戦型歩兵搭乗型戦機と同じレベルの装甲のはずだ。そんなの大出力のブースターを背負うしかないだろ。だが、その上り方はブースターを使った時よりも静音生に優れており、そしてなにより滑らかな動きだった。

 

『ふふっ、どうやらアヴェンジャーが何で浮いているのかが気になっているようだけど…………始末させてもらうよ』

 

あまりの事に見上げている俺に向かって、奴は銃口を向けてきた。その妖しく輝く紫色のデュアルアイと俺の目があった瞬間、俺は拭えない恐怖に狙われた。

 

 

 

 

 

「悠助、どこに行ったんだろう…………」

 

何とかシェルターへと逃げ込む事ができた夏希、平次、ルリアの三人は未だに姿を見せない悠助を待っていた。

 

「さ、さぁ、僕にはさっぱり…………」

「そういえば、屋上の方に向かって行ったよね…………何かあったのかな?」

「でもあいつの行動は読み取りにくいからなぁ…………」

 

どこに行ったのかもわからず、ただ心配するしかなかった。最も、ここにいる三人のうち誰もが悠助は何事もないと思っている。それが信頼なのか、それとも違うものなのか、それはわからない。

そんなこんなで悩んでいる最中、不意に夏希のポケットから着信音と思わしき音がなった。しかし、その音は着信音ではない。夏希はその音の発生源である、あるデバイスを取り出した。一見するとスマホにも見えなくもないが、中身は全くの別物。携行型戦術支援端末、略称P(ポータブル)O(オペレーション)D(デバイス)。その端末に登録された機体に対して、どこからでも作戦指示が可能なように試作された端末である。今の所の保有者は夏希ただ一人だけだ。彼女はその画面を見、そして驚いた。

 

「ナーガが起動…………⁉ 交戦中⁉」

 

画面に表示されていたRGATX3-71 NAGAの文字、それは悠助の愛機であり彼の左腕の籠手として装着されているナーガが起動し、戦闘状態に入っている事を示したものであった。 夏希はその表示を見て、直ぐにデバイスをナーガの通信回線へと繋ぐ。それと同時に、デバイスの周りには複数の空中投影ディスプレイとタッチパネルが現れた。また、彼女の頭にもインカムが装備された。このデバイス自体が一種のトルーパーであり、中にはTCM(トルーパー・コア・モジュール)も搭載されている。装備の召喚も簡単にできるのだ。

 

「な、夏希⁉ そ、それは何⁉」

「ルリア、今は静かにして! こちらオペレーター、ナーガ返答を願います!」

 

夏希はいつものようにナーガへの回線を開く。するとどうだろうか、

 

『おっ‼ やっと返答が来たか‼ こちらナーガ、テロリストと思わしき敵と交戦中‼』

「了解しました。G型ユニット以外、全兵装の使用を許可します。絶対にシェルターを狙わさせないで」

『了解した!』

 

それっきり通信は切れた。夏希は複雑な顔をしてルリアと平次の顔を見た。

 

「…………ねえ、神保さん、今の通信ってーー」

「ーーいつか必ず話すわ…………でも、今だけは黙ってて」

 

夏希はそう平次に告げると、空中投影ディスプレイを格納、デバイスの画面に映し出されるナーガの機体データに目を通すのだった。

 

 

 

 

 

「いや、G型ユニットは使う気ねえし…………」

 

俺はひたすら走ったり、ホライゾナル・スラスターでのホバー移動を繰り返してあの機体からの攻撃をかわし続けていた。だが、ただやられるわけにもいかないので、L型ユニットを拡張背部ユニットに装備、主兵装160mmレールキャノンを放っていた。L型ユニットには機動性確保のため追加のホライゾナル・スラスターが取り付けられている。そのおかげか、重装備を施した今でも回避はできている。

 

『見かけによらず速いね、君』

「っち!」

 

だが、装甲の表面には細かい傷がつき始めている。と言うのもだ、相手が撃ってくる弾なんだが、まるで光の様に速く、小さいながらもダメージを確実に与えてくる。何とかかすめる程度には避けてはいるものの、それだけで装甲の表面は融解寸前だ。幸いな事はジェネレーターが撃ち抜かれないのと、拡張背部ユニットがぶっ壊されない事か…………ミサイルポッドなんて撃たれたら即死だな。

 

(しかしなんなんだよ、あの光? 光線? 化け物級の破壊力秘めてんじゃねえかよ‼ どうやったらあの小口径ライフルからあんな弾が撃てんだ⁉)

 

通常、破壊力を求めるなら弾丸は大型化し、火砲も大口径になる。しかし、やつの謎の火器にはその実弾兵器としての理屈が通用しない。明らかに小口径と思わしきバレルから、ナーガの装甲に傷をつける破壊力だ。

…………そういえば、芝本がこんな事言ってたっけ。

 

『そういえばさ、欧州でなんだか光学兵器が完成間近にあるらしいよ』

『光学兵器? なんだそいつは? レールガンと同系の武器なのか?』

『レールガンとは全く異なる武器さ。レールガンは実弾を撃つだろう? しかし、光学兵器は違う。弾という弾が存在しない。イメージとしては、そこのレーザーカッターのようなもの』

『ナーガの装甲を切り出したあれか…………当たったら即死だな』

『実弾兵器にはとことん頑丈だけどレーザーには紙装甲だよ。それに、光学兵器は弾薬が銃身内の触媒だけだから、空戦型にも積める。ナーガには天敵だね』

『できれば戦場でご対面する事はしたくねえな』

 

…………まさかと思うが、あの機体は欧州で開発されてた光学兵器を強奪して搭載したのか? 光学兵器ならナーガの装甲を抉るのも頷ける。

しかし、そんな事がわかったからって、戦況に変化などない。未だに劣勢なのは俺の方だ。レールキャノンの弾薬はほぼ尽きかけている。かといって、残った拡張背部ユニットのB型ユニットは直線機動の激しい代物、到底やつとの機動戦には無理だ。だからと言ってもう一つのG型ユニットを使うのは危険すぎる。下手したら、この辺り一帯が焼け野原になってしまうだろう。それだけは避けたい。

 

『でも、そろそろ終わりかな? 復讐者(アヴェンジャー)に慈悲なんて無いんだよ』

 

そう言って、その手に大型のライフルらしきものを取り出す。危険だ、避けろ、と俺の本能が訴えるが、身体が上手く反応しない。

そして、奴の銃口から放たれた高出力のレーザーは、辛うじて後退できた俺の足元に着弾、派手な爆発を引き起こした。

 

「がはっ‼」

 

その爆発に煽られ、一トン近いナーガをまとった俺は無惨に地面を転がされた。…………くそっ、痛えな、畜生。

 

(機体ダメージは…………損傷レベルCか。動けるには動けるが、ちと厳しいか)

 

ディスプレイにもノイズが入り始めた。L型ユニットはもう使えないだろう。だが、全弾撃ち切る位はできるだろ、まだ。

 

(RM1から3、LM1から3、目標、所属不明機、発射)

 

脳内コマンドで一気に指示を出し、残されたミサイル発射管内の中型ミサイル六発を一斉に放つ。破壊力はそこそこある。腕の一本でも吹き飛ばせたらいいんだがな。

 

『ふっ、最期の悪あがきかい?』

 

だが、奴はミサイルを全て撃ち落とした。これで俺にはもう対抗手段は殆ど残されてない。銃火器を出そうにも恐らくトリガーは引けない。

 

『さて、君にも飽きちゃったみたいだ。そこのシェルターを吹き飛ばしたら、君も同じ処へ送ってあげるよ』

 

奴はライフルをシェルターへと向けやがった。奴が狙っているシェルター、確かそこには…………‼

 

「夏希‼ ルリア‼ 平次‼ 聞こえてんだろ‼ すぐにそこから逃げろ‼ ロックオンされてるんだ‼」

『無駄だよ。君は無力だね』

 

そう言って無情にも、レーザーは放たれた。あの速かった弾速すら今の俺には酷く遅く見える。…………動けるならこの身を盾にでもして守れるのに。それにまだ彼奴らには言いたい事が沢山あるのによ…………。彼奴らは平和な世界で生きて欲しいのにさ…………ごめんな、こんな無力な俺で。

夏希、俺の事を支え続けてくれてありがと。お前のおかげで俺は今まで死ななかったようなもんだぜ。

平次、お前には嘘ついちまってたな。できればお前にはナーガを見せてやればよかったな。

そして、ルリア。こんな俺に、ずっと話しかけてきてくれて、嬉しかった。正直にいうとな、早々と話を切り上げてたのは、お前の事が好きで恥ずかしかったからなんだ。この想いだけでも伝えられたら良かったんだけどよ。

でも、そんな思いも今の俺には伝える事すらできない。ただの儚い物。くそっ、好きな奴すら守れない俺は本当に無力だ…………。

 

〔その想いは本物か?〕

 

突然脳に声が響いた。それも俺の声と似た声だ。

 

〔もう一度聞く。その想いは本物か?〕

 

そんな事、決まってるじゃねえか…………。

 

(ああ‼ 本物だ‼ 偽りなんてねえよ‼)

 

心の内で俺は叫ぶ。遣る瀬無さと無力さが合わさり、半ば投げやりにはなっているが。

 

〔ならいいさ。その想い、力に変えるぞ〕

 

その言葉が聞こえたかと思えば、ディスプレイのノイズは消え、俺はいつの間にかシールドを投げ飛ばし、レーザーをかき消していた。

 

〔さて、目覚めたな。世界を変える二つの強大な力の融合体が〕

 

その言葉を最後に声は消え、二度と聞こえてはこなかった。代わりにディスプレイにはこんな文字が表記されている。

 

ーー搭乗者の感情に変化を確認

ーーパターン赤と認識

ーージェネレーター、出力最大

ーーホライゾナル・スラスター、最大出力

ーーリミッター、一時解除

ーーシステム起動

ーーCODE:OVER DRIVE

 

その言葉が何を意味するのかはよくわからない。だが、一つだけわかる事はある。

ーー俺はまだ、戦える。

 

 

 

 

 

「な、なに、この異常な出力は⁉」

 

ナーガの状態をモニタリングしていた夏希は、急激に上昇していくジェネレーター出力に驚きを隠せないでいた。すでに計測最大値を突破し、モニタリングどころでは無い。

 

「き、急にどうしたの⁉」

「あ…………いや、なんでも無い…………」

 

驚きすぎて声を抑える事を忘れていた夏希は、ルリアの質問に言葉を濁す。ここで扱っている情報は企業の重要機密情報の塊にも等しい物だ。それをやすやすと民間人に見せるわけにもいかない。

それに彼女は、言葉を濁せばルリアは大抵引き下がる事を知っているので、難を逃れることができた。

 

(せめて使用武器の確認だけでも…………悠助の助けになればいいけど)

 

夏希は再びデバイスを起動、ナーガのデータを逐一更新しつつ、最適な戦闘プランを出せるように、思考を巡らせた。

 

 

 

 

 

「行くぞぉぉぉぉぉっ‼」

 

俺は脚部、背部のホライゾナル・スラスターを全開にし、空へと飛んだ。視界には何やら赤と黒の入り混じった粒子が撒かれている。この粒子のせいなのかはわからないが、B型ユニット無しで空を飛んでいるのは確かだ。それに、L型ユニットはすでに格納済み。弾薬が尽きた今、装備していてはデッドウエイトにしかならない。

おまけに空中ではキャノン系は使用不可、頼みのブラストライフルは弾切れ。しかし、並の射撃兵装では奴に勝てん。そう思った俺は両腰からある物を取り出す。

 

ーAAD-73 対装甲ナイフ改

 

それはナーガに唯一装備された近接兵装。一見貧弱そうに見えるが、これでも陸戦型歩兵搭乗型戦機の装甲を貫通させる事が可能な代物だ。

 

『そんなナイフで敵うのかな?』

「意地でもやってやる…………!」

 

一気に接敵した俺はナイフを奴に突き立てるべく、一気に振り下ろした。しかしそのリーチの短さゆえ、後退されて当たらず。もう一方も勢い良く突き出したものの、掠った程度である。一撃で胴体か頭部を貫かなければ勝ち目は無い。奴の場合、ジェネレーターの搭載位置が判明してないから、ジェネレーターの破壊は望めない。

再び一気に距離を詰めた。

 

『あれ? もしかして俺が格闘戦できないと思ってる? ハハッ、それは間違ってるねえ』

 

俺がナイフを突き出す前に、奴は大剣を振り下ろしてきた。射撃戦専門かと思い、格闘兵装が貧弱なことを想定していた俺には大きな誤算だ。大剣と比べてリーチの短いナイフでその攻撃を受け止める。しかし、その衝撃は完全に殺せず、腕全体にダメージが広がってゆく。ナイフにはひび一つどころか刃こぼれすらしていない。このナイフ、ナーガの装甲すら貫通する事が可能らしい。

だが、そんな事がわかっているからと言って、こっちが劣勢な事に変わりは無い。取り出した二本目の大剣と連続してその凶刃は、装甲の表面に浅い傷を作った。

 

「っち…………‼」

 

苦し紛れに左手のナイフを振るう。その時、微かに引っかかる感触と、硬い物同士が擦れ合い、砕ける音が聞こえた。

 

『いやぁ〜、危ない危ない。もう少しで足を切られていたねえ』

 

右膝の装甲を抉っていた。だが、それでも奴は撤退するそぶりを見せない。

 

「くっ…………お前らは何が目的なんだ‼ 何のために戦う⁉」

『決まってるよ。俺たちはこの世界にもう一度変革を起こすのさ』

「なんだと⁉」

 

俺は奴が言い出した事に声を上げ驚いた。そして奴は俺と切り結んだ状態で、語り始めた。

 

『先の大戦でユーラシアの多くの国々が衰退し、その力を弱めた。だが、アメリカや日本といった戦勝国は彼らを尻目にその力を伸ばし続け、あまつさえユーラシアからの不当な資源の搾取を始めた。これでは世界のパワーバランスは崩壊寸前だ。俺たちはその力をならし、もう一度均衡の取れた世界を作る事が目的だ。それが俺たちユーラシア連合残党軍の存在する意義だ』

「テロリスト風情が! この世界にもう戦争はいらねえんだ‼ なぜそれがわからない‼」

『それは仕方の無い事なのだよ。人間はどちらかが倒されるまで争う事を辞める事は無い。そのために生み出されてきたんだ、銃も爆弾もアームド・トルーパーも。科学の技術による力、それは何にも変えられない争いの力であり、この世界を覆う力でもあるのだよ』

「そんな戯言…………勝手にほざいてんじゃねえ‼」

 

奴の主張に真っ向から対立する俺の声に反応してか、撒き散らされる粒子の量は増え、次第に奴の大剣を押していった。

 

『なんだ…………この力は…………』

「俺も知らねえよ。でもな、俺にはお前とは違う点があるんだよ‼」

 

俺は大剣を弾き飛ばし、一気に飛翔する。ナイフを片方しまい、残された一本を逆手持ちで構えた。

 

「俺にはな!」

 

ホライゾナル・スラスターの出力は最大値を突破し、もう止まらない。止める事は不可能だ。

 

『くっ…………ここでやられるわけには‼』

 

奴が手首のあたりからレーザーを放ってくる。しかし、それはライフルから放たれる物よりも弱く、装甲の表面を軽く焦がす程度だ。俺は気にもとめない。

 

「最高の相棒と!」

 

ナーガは俺が乗ってきたATの中で最高の機体だ。信じるには十分だ。

 

「愛する女がいるんだよっ‼」

 

不意に脳裏に浮かぶのはあの蒼髪の少女。彼女のことは好きだ。その想いは変わらないし、変わることは無い。

俺はまともな対応をできないでいる奴に向け、ナイフを突き立てようと、一気に振り下ろした。

 

『ちっ、ダメージをもらうわけにはいかない。今日はここで撤退させてもらうよ。でも、俺は信じない…………科学技術と愛が共に成す力など』

 

しかし、奴はブースターを点火、一気にこの空域から離脱し、俺の攻撃は無意味に終わった。

 

ーー搭乗者のバイタル、青

ーー全システム、通常時切替

 

その電子ボイスの後粒子の放出は終わり、そしてーー

 

「嘘だろっ⁉」

 

ーー無様にも一気に地面へと落ちた。なんとかホライゾナル・スラスターでバランスをとって着陸するも、地面を抉り、前につんのめる俺。なんとも締まりの悪い終わりである。

 

『悠助! 応答して! 悠助!』

 

夏希の声が大音量で響く。あぁ…………鼓膜が死ぬ。

 

「どうした? そんなに焦って」

『無事なの⁉ 怪我とかしてない⁉』

「俺は無事だけど…………ナーガが中破ってところだな」

『それで、敵は⁉』

「…………逃げられちまったよ。そっちの方はどうなんだ?」

『被害は無いみたい…………』

「そうか…………お前らも無事か?」

『もちろん、愛しの姫君もよ』

「あぁ…………わかった。俺は先にマンションの方に戻ってる。先生には適当に言っておいてくれ。俺は疲れた…………」

 

そう言って回線を閉じた。そろそろ避難していた連中もシェルターから出てくるであろう。ナーガの姿を見られるわけにはいかない。てか、中身が俺とばれたらまずい。俺は全兵装類を量子へと還元し、その場から立ち去った。

 

 

 

 

 

戦闘という、大きな傷跡だけを残して。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。