OVER DRIVE   作:ディニクティス提督(旧紅椿の芽)

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06 エピローグ

「…………嫌な世界なものだな、どこにいてもよ」

 

不意に呟きが漏れた。だが、この呟きは本当のことを言っているにしかすぎない。中東、インドシナ、東シナ、そして日本。どこにいても俺は銃やATから離れることは無かった。いや、すでに離れたくても離れられないのか。

世界規模の大戦争の無い今、世界は平和に向かって進んでいるとは言っているものの、実際はテロによる紛争が多発している。その度に無関係な人までが命の光を散らせていく…………どこまでも無情なものだ。顔もろくに覚えてない俺の親達も、そうやって姿を消していった。俺のように孤児になった者達も少なくは無い。夏希も戦災孤児だから。

 

「…………本当に平和なんてものを手に入れる気があるのか?」

 

平和。文字で書けばたった二文字で書くことのできる、簡単な熟語。だが、その言葉に課せられた意味を叶える事を人間はなかなかできない。

俺は、俺のような人をこれ以上増やさないためにテロリストと戦う事に決めた。たとえ結果が血で洗われた仮初めの平和であったとしても、だ。そのために俺は戦場に駆り出していた。テロリストを根絶やしにするため、影蛇を、ナーガを駆って。

しかし、人を殺してまで手に入れた平和が本当の平和なのかと問われれば、それはどうなのかと俺は思う。平和は何かと問うた時、誰かは必ずこう答えるはずだ。

 

ーー誰も争う事の無い世界ーー

 

俺もその事には同感だ。だがしかし、こう考える者もいるはずだ。

 

ーーそんなものは実現しないーー

 

誰も戦う事の無い世界なんて、最高の理想論だ。完全に叶える事は難しいであろう。それでも、俺は理想なき者に願いを、祈りを実現する事はできない、そうも思っている。

ならば俺はどうするべきなのだろうか。ーーいや、考えるのはよそう。俺は俺のできる事をやり続ける、それだけだ。

 

 

 

 

 

「それで、なんで集まってんだ?」

 

俺が一足先にマンションの自室の方に戻ってきてからしばらく経った後、夏希が平次とルリアを連れて帰ってきた。なんでこんな大所帯になってるんだ。

 

「…………今日のあれでばれた」

「はい?」

「…………今日の戦闘、通信してきた時に、聞かれた」

「あー…………」

「…………それで、あとで訳を話すって言っちゃったから」

「わかった…………」

 

夏希はそう言うと微妙な顔つきで、溜息をついた。それに対して平次とルリアは何かを聞きたがっている模様…………何をどこから話せばいいんだよ。

 

「それで、何から聞きたいんだ?」

「そ、それじゃ、僕から。悠助って一体何者?」

 

平次、そこから聞いてくるか…………話してもいいんだがなぁ、一応重要機密なんだけど。

 

「もう全部話してもいいんじゃない?」

「あ、了解」

 

夏希からのお許しをもらったから問題はないな。

 

「…………まぁ、あまり信じてもらえないだろうが、俺はAT乗りだ。それも、劉ヶ崎重工私兵部隊のな」

「私はその専属オペレーター」

「「…………」」

「もちろんATだから、戦闘なんて普通にやってるさ。もちろん人を殺す事もな。これまでも、これからも戦いから離れる事はない」

「もしかして、トルーパーに乗り馴れているって…………」

「ああ、AT乗りだからな。見ただろ、あの一方的に嬲っていく俺の姿を、な」

 

沈黙だけが流れる。そりゃそうだろうな。友人だった二人が世界最強の戦闘兵器、歩兵搭乗型戦機の乗り手とそのオペレーターだったからな…………ショックもあるか。それに、俺はATというしがらみから逃れる事はできないし、逃げるつもりもない。

 

「…………悠助は、人を殺して何をするつもりなの?」

 

最初に沈黙を破ったのはルリアだった。だが、その質問をしてくるその声は少しだが震えているようにも聞こえた。

 

「そうか…………テロリストも人だもんな。俺は平和な世界を作りたい、それだけだ」

「そ、そんなの…………おかしいよ…………人の命を奪ってまで手に入れた平和なんて、誰が喜ぶの⁉ いくらテロリストだからって、その人たちにも家族があるんじゃないの⁉」

「…………」

 

俺はルリアの言葉に返すものがなかった。確かにテロリストにだって、家族の一人や二人いるだろう。だがだからといって、奴らの行動を許す訳にはいかない。奴らを放置していたら、それ以上に命が失われ、悲しみの渦が大きくなってしまう。大を生かすため小を切り捨てる、それは仕方のない行為だ。そんなことわかってるはずなのに、ルリアの言葉は嫌に頭に残る。

 

「もういいよ‼ 悠助のバカ‼」

「お、おい! 待て!」

 

俺がなかなか返事をしなかったことに痺れを切らしたのか、ルリアは急に立ち上がりどこかへ行ってしまった。ドアが開く音を聞く限り、外へ行ったのか…………

 

「ルリア…………」

 

玄関に向かうが、そこにルリアの姿はなく、扉が開けっ放しにされていた。

 

「…………夏希、すまねえ。ちょっと行ってくる。ナーガ、使うぞ」

「…………わかったわ。その代わりちゃんと連れてきなさいよ」

 

俺は一旦ベランダの方に向かい、外に出る。そして、左腕の籠手にあるスイッチを押した。

 

「ゆ、悠助…………そのトルーパーって…………」

「知っての通り、歩兵搭乗型戦機さ、俺専用の」

 

展開されたナーガを見て平次が驚きの声をあげた。そりゃ、新鋭機がこんな間近で見られる事そうそうないからな。

俺は背部拡張ユニットをB型にセットする。そして、可動スラスターで一度マンションの屋上付近まで上昇する。そうでもしないと、風圧で窓ガラスが粉砕されてしまうからな。

 

「ナーガ、出る」

 

すでに暗くなった空を俺は駆けた。

 

 

 

 

 

捜索から二分、ルリアはあっさり見つかった。まぁ、まだ上空にいるんだがな。場所は近くの公園、そのベンチに座っていた。

 

「やっと見つけたぞ」

 

俺は出来るだけ風圧が発生しないようにゆっくりと地面に降り立つ。うむ、やはり大出力ブースターのB型は扱いが難しい。

 

「ひっ…………‼」

「そう恐るな、俺だ」

 

ルリアがあまりにもビビりすぎてしまった。そうだ、こいつとんでもねえビビりだったんだ…………。少し不憫に思った俺は、ナーガを格納した。装甲が六角形の非発光体となって消え、俺の素顔が露わになる。

 

「ゆう、すけ…………」

「全く、突然飛び出して行くからびっくりしたじゃねえか。ほら、一回戻るぞ」

 

俺はルリアの手をとって、強引に立たせる。びっくりして、腰が抜けてるのか、うまく立ててない。いわゆる、生まれたての子鹿状態だ。いや、子鹿の方がしっかり立てるか。

 

「お、おい、ちゃんと立てよ。歩けねえだろうが」

「え、いや、その…………」

 

俺が何かを言うと口をもごもごとさせ、はっきりと話そうとしない。いや、だからなんでなんだよ。

 

「まぁ、いい。強引にでも引っ張って行く」

 

俺はルリアの手をしっかりと取り、そのまま無理矢理連れて行く。途中ルリアが「あうぅ…………」とか「ひゃうぅ…………」とか言っていたが、最早気にしない。そして、街灯まできた時、俺はやっと気づいた。

 

「お前…………まさか、靴履いてねえの?」

「だ、だって、焦って出てきちゃったし…………」

「お前なぁ、それ位ちゃんと言えよ」

 

どうしようもない事態に、戸惑う俺と俯くルリア。アニメとかドラマでありそうなオチだな、おい。うむ…………早く戻らないと夏希にどやされるしなぁ、しゃあないか。

 

「ほら、乗れよ」

 

俺は少ししゃがんで背中を指差す。面倒だから、おぶって行ってやろうという考えだ。べ、別にやましい考えとか無いからな!

 

「え…………でも、それじゃ悠助に…………」

「このまま裸足で歩いて靴下汚すのと、俺におんぶされるのどっちがいい?」

「…………おんぶでお願いします」

 

俺はルリアを背負うと立ち上がり、マンションに向かって歩き始めた。というか、何気なくおぶってやったのはいいが…………なんつうんだ、ルリアの体温が直に感じられるのな。それに細かな息づかいまで…………理性のたがが壊れそうで怖いぜ。いや、壊さねえよ。壊れたら、夏希による折檻を喰らってこの世の地獄を見る羽目になる。

 

「悠助…………」

「なんだ?」

「その…………さっきは、ごめん。あの後少し考えたんだ…………悠助だって必死に戦っているのにあんな事言っちゃって…………私、無神経だったね」

 

なんだ、そんな事か。

 

「気にするな。それにお前の言っている事もあながち間違っているわけじゃない。いろいろ考えさせてもらったさ」

「で、でも…………」

「これ以上はいい。きりがねえ」

 

まだ謝ってきそうなルリアを静止させ、俺は歩みを続ける。

 

「なぁ、ルリア。俺言ったよな、平和な世界を作るために戦ってるってよ」

「うん、でもなんで?」

「まぁ、一つは俺みたいな人間を増やしたく無いだけ」

「悠助みたいな人?」

 

あ、そうか。こいつ、俺の家族関係知らないんだった。

 

「俺の前の両親はさ、テロで死んでんだ。確か、夏希もだったはず」

「…………ごめん、嫌な事聞いちゃったね」

「今更気にするな。とにかく、俺たちのような戦災孤児みたいな奴らをなくしたいんだ。もう、あの戦争から二十年以上経っているわけだからな」

 

2060年初頭、ユーラシア連合を発端として起きた第三次世界大戦。今年が2086年だから、かなりの時間が流れたわけだな。戦災孤児の大半は軍に流れるか、はたまたテロリストになるか、そのどっちからになる運命が多い。そう考えると、俺と夏希は恵まれていると言っても過言ではないのかもしれない。

 

「一つはそれだな」

「え? もう一つあるの?」

「ああ。大切な居場所、大切な人達が安心して生きていける場所、俺はそれを守りたい、守り続けたいんだ」

 

理不尽とも言える武力の暴力でテロリストを殲滅してきた俺だが、心まで機械にはなっていない。初めて戦場に立った時は、人を殺した事に恐怖すら抱いた。夢にまで出てきたからな…………呪われるかと思ったぜ。だからこそ、ひと時でも心を休められる安らかな場所が俺には必要だ。それに、親父を始め、多くの人間に俺は支えられてきた。俺は彼らに命のせめぎ合いの中で生活させる事をさせたくない。戦場に立つのは兵士だけで十分だ。特にルリアには死んで欲しくはない。あいつがビビらずに安心して生きていける世界、それこそが真の平和なのかもしれないしな。それ以前に…………誰だって思うだろ、好きなやつに死んで欲しくないってな。

 

「そうなんだ…………ねぇ、その大切な人達に私も入ってる?」

「勿論。俺に関わってくれた人全員だからな」

 

実際、人付き合いが下手くそなのと、仕事先で知り合っても殆どが命を散らして行ったからな…………そんなに人がいない。両手で数えられるくらいか。

 

「今はなかなか笑う事もできない世の中だけど、いつか笑い合える世界にしたいもんだ」

「悠助のその願い、叶うといいね」

「ああ、叶えてみせるさ、きっと」

 

ーー命と引き換えにでもな。

 

「…………その時は、どこか静かな場所で暮らそうか」

 

俺は誰にも聴き取れないような小さな声でそうつぶやいた。

気がつけばマンションにもう着いていた。その正面には夏希が待ち構えていた。

 

「はぁ…………本当、この(ルリア)戦機(悠助)にかなり迷惑をかけるわね」

 

深い溜息と共にそんな呟きをしながら。

 

「うぅ…………ごめん」

 

その言葉の意味を理解したルリアは咄嗟に謝る。

 

「まぁ、この子が悠助に迷惑をかけるのはいつもの事だし、とりわけ悪い事もしていないから、別に怒らないけどね。さ、早く戻るよ」

「はいはい」

 

夏希の言ってる事も強ち間違いじゃねえんだよな。ビビりだし、ヘタレだし、ドジだし、根性もほとんどない、取り柄がどこにあるのかすらわからない彼女。だが、そんなこいつの事が好きだ。それはいつまでも変わらない事実だ。

しかし、未だにわからない事が一つだけある。今日の戦闘、なぜか起こった限界負荷起動(オーバードライヴ)。何が引き金で引き起こされたのか…………思い当たる節がない。今度本社に戻った時、あの変態技術者(芝本)にでも聞いてみるか。どうせナーガが中破寸前だし、一度オーバーホールする必要もあるだろうしよ。

 

「悠助? どうかした?」

 

不意にルリアに呼ばれ、後ろを振り向く。そして、俺は気づいた。今回の件、一つだけ可能性がある。そいつは案外単純な事なのかもしれない。

 

「いや、なんでもないさ」

 

ーーそばに、守りたい人がいたから。

 

 

 

 

 

「どうやら、闘蛇龍は目覚めたようだね」

 

開発部の部署に一人残っていた芝本は、夏希より送られてきたナーガの戦闘データを見てそう呟いた。突然赤黒い粒子を撒き散らしながら、飛行用のB型ユニットも装備せずに空中に佇む機体へと斬りかかるナーガ。その戦闘力は陸戦型歩兵搭乗型戦機の範疇ではない。

 

「しかし、まさかインサニティ粒子がここまで撒き散らされるとは…………俺が言える立場じゃないけど狂気だね」

 

芝本は何かを得たかのように、その映像データを食い入るように見続けた。

 

「インサニティ粒子…………全てのトルーパーの動力源でもあり、未だに未知の物質。質量保存の法則を無視し、膨大なエネルギーを生み出す、まさに人の狂気が生み出した粒子…………クレイジーだ」

 

トルーパーを起動させるのに必要なジェネレーターとTCM。そのどちらにも必要な物、それがインサニティ粒子。トルーパーを別形態として保管する事も可能な上、TCMには設定した分だけの物が格納できる。この世界に存在するありとあらゆる法則を捻じ曲げた狂気の具象物。変態技術者の芝本ですらクレイジーという代物だ。だが、その映像を見る目は明らかに新しい物を見つけた事に対する、興味の目であった。

 

「でもまぁ、こんな風に使われるんだったら、これはこれでいいのかもね」

 

芝本はどこか納得したようなつぶやきをした後、映像を止めた。

 

「蛇龍は姫を守るか…………なんというか、劉ヶ崎の言い伝えのようだな、芝本」

「そうですね。彼には期待してますよ、これまでも、これからも。ところで、あの機体はどうしますか?」

「機体と開発データを闘蛇龍に格納、その時を待てばいい」

 

いつの間にか現れていた進矢はそうとだけ言って、開発部を後にした。不思議な静寂が部屋を包む。

 

「まぁ、封印処置も考えるとしますか。でも、お前も嫌だろう…………蒼龍」

 

芝本はそう言って背後の歩兵搭乗型戦機の装甲を撫でた。その姿はまるで子供をあやす父親。それに呼応してか、歩兵搭乗型戦機もそのデュアルアイをメタリックグリーンに光らせるのだった。

 

 

 

 

 

ーー解き放たれた蛇龍は一人の姫を守る為、その力を放つ

 

一人の少年と少女の物語はまだ始まったにすぎないーー




OVER DRIVE一部は完結です。
今後の更新は未定ですが、要望さえあれば番外編としてやって行きたいと思っています。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
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