ACfAヤンデレ集 作:粗製のss好き
これはいったいどういう事なのだろうか。
目が覚めたら嘘偽りなくマジの目の前で、リリウム嬢が俺の首に噛みついていた。銀の光沢を放つ頭髪から物凄くいい匂いがするが、それ以上に痛い。と言うかそのせいで起きた。結構顎に力が入っている。
しかもどうやらその傷口から零れる血を飲んでいるようで、割と大きな音を鳴らしながら喉を動かしている。
「———ん、ゴクっ、んん」
めっちゃ悩ましい鳴き声しますね。地味に指を絡めるようにして俺の手を握ってるし。なんなら空いてる方の腕で俺の頭を抱きしめてるし。ご褒美かな?
「あー、リリウム嬢?」
とはいえ、流石に覚醒してしまったらこのままでいるのも少々居たたまれない訳で。早速だが声をかけたみた。しかしこのリリウム嬢、吸血行為に随分とご執心なようで、俺の声が届く事はなかった。心なしか息も荒くなっており、抱きしめる力も強くなっている気がする。
仕方がないので彼女の気が済むまで放置してみた。が、一向に止める気配がない。何この娘、吸血鬼か何かなの? だとすれば割と納得できん事もない。今更この世界に人間以外の知的生命体がいたところで驚くこともないしな。
でも流石に痛いのでもう止めて頂きたい。彼女の頭を軽く触れて、さりげなく「起きたよー」ってアピールしてみる。するとリリウム嬢はビクリと大きく体を揺らして、そのままビデオの一時停止の如く固まった。仕草一つ一つがかわいいな。
「……おはようさん」
なるべく優しい声音を努める。今のリリウム嬢は正常な精神状態にないと感じたからだ。間違っても突き放すような事は言ってはいけないと。
「とりあえず、話は出来るかな?」
そう尋ねると彼女はゆっくりと首から口を放した。赤い粘着性のある糸が彼女の口元から垂れ下がる。すっげぇいけない気持ちになるな、これは。リリウム嬢はポケットからハンカチを取り出して粘液を拭った後に、「……はい」と小さく答えた。酷く狼狽している様子で、申し訳なさそうに目を伏せている。
一応、アブノーマルな事をしている自覚はあったらしい。ひとまずそのことには安心した。
「よかった。それじゃあ、なんだ。少し座って話そうか」
流石にこのままの状態で会話するのは色々と良くない。なんせ彼女は俺の上体に跨るようにして腰かけているのだ。誰かに見られでもしたら俺は社会的に殺されるし、俺自身理性的な面でよろしくない。
「それは、できません」
しかし返ってきた意外にも否定の言葉だった。マジか、と思った。
彼女は起き上がろうとする俺をもう一度押し倒して、両方の手首をつかんで抑え込んだ。力づくで振り解こうとすれば出来なくはないのだろうが、今はその気になれない。一応、この状態でも対話は出来る訳だし。
「えーとそれはどういう―――」
「リリウムは決めたのです。誰かに奪われるくらいなら、奪ってやると」
ほう。そろそろお兄さんの頭も処理落ちしそうになる。つまりどういうことだ? それとも俺の理解力のなさが問題なのかな? なんにせよ、今俺は何一つ状況を理解できてないぞう。
「ダイキ様。不遜にも貴方を愛してしまった事をお許しください。リリウムには、こうすることでしか想いを示せないのです」
ふむ、愛ときたか。確かにマーキングと言う文化(?)は前世から聞いたことはあるが。
とりあえず、もう少し彼女の主張に耳を傾けてみよう。恐らくだが、下手な対応をしたものなら取り返しのつかない事態になる予感がする。そしてソレは俺もリリウムも望むところではない。
「前からこうしてみたいと、想いに耽っておりました。ダイキ様を手籠めにして、乱暴に扱って、いっそ壊してみたいと夢見ていたのです。こんな素敵な殿方を傷つけられたら、どんなに気持ちがいいのだろうと。思いつくことすら悍ましい発想を、どうしても考えずにはいられなかったのです」
そうだろうな、見れば分かる。俺が素敵かどうかはともかくとしてだ。
「これがリリウムの愛情表現で、そして本性なのでしょう。ですから、吹っ切れる事にしたのです。もはや拒絶されても構いません。その覚悟は出来ています。どうせここからは出られないのですから」
吹っ切れちゃったかー。しかしどうして今日になって? 彼女の話から予想するに、長いことその倒錯じみた欲求を抑えることは出来ていたはずである。
そのことを尋ねると、リリウム嬢は隠す気もなく顔を顰めた。
「メノ・ルーという方をご存知ですよね?」
「そいつは―――」
純粋に驚いた。その名は俺を支えてくれるオペレーターの本名であるからだ。現在はとある事情で『ラビアン・ルカ』と名乗り、その素性を隠している筈なのだが。どこから漏れた? いや、今はそんな事どうでもいい。
「お二人が並んで歩く姿を見て、羨ましく思えたのです。世間一般で言う男女交際とはあの事を言うのでしょうね。ええ、だから私はダイキ様を誘拐したのです」
「それはどうして?」
何となく、見えてきた。もしかしたら俺は彼女にとって極めて残酷な振る舞いをしてしまったのかもしれない。それが例えリリウム嬢の致命的な
「……リリウムが、己の性でこんなにも苦しんでいるというのに、どうしてあの人は幸せそうにしているのだろうって。求めてやまない
―――だから許せなかった。
彼女は声を震わせながらそう呟いた。あふれんばかりの感情が籠った言葉に、思わず竦んでしまう。何故ならそこには、明確な殺意が滲んでいたからだ。
だがビビってはいられない。そして間違いは正さねばならない。恐らく初めての『恋』に一番困惑しているのは彼女だ。ここで先達が導かなくてどうする。
「リリウム嬢、君の言いたいことはよーく分かった」
「はい、ですからダイキ様―――」
「でも二つほど、君は勘違いしてる」
彼女が何かを言い切る前に、俺は指を二本、彼女の前に立てて遮った。きょとんと、ほんの僅かに驚いた様子を見せる彼女に、俺は畳みかけるように告げる。
「まず一つ。俺はメノと付き合ってなどいない」
これは純然たる事実である。彼女の身体的な関係上、確かにボディタッチや食事を共にする機会が多いかもしれない。だがソレはあくまで仕事付き合いの延長上であり、リリウム嬢の想像するような男女交際とは程遠い。
「う、嘘です。だってあんなにも……」
明らかに狼狽えるリリウム嬢。嘘じゃあないんだな、これが。確かに仲は良い方だとは思うが、それはどちらかと言うと姉弟関係と言った方が表現としては正しいだろう。
だがそれ以上に―――
「二つ。俺は君の愛に応える用意があるという事だ」
何を一人で悲観的になっているのか。早とちりにもほどがある。相手の気持ちを聞きもしないで、勝手に絶望しないでほしい。
★
「俺は君の愛に応える用意があるという事だ」
困惑すると同時に、少女の胸は酷く高鳴った。頭の中ではありえないと不遜な警笛を鳴らすが、男の表情は至って真剣で、そこに虚偽が介在する余地がないのは明白だった。
昔からそうだった。彼はどうあっても嘘をつかない。誤魔化すことはあっても、その言葉と態度にはいつも誠実さと相手を思いやる真心があった。だからこそリリウムは彼に惹かれて、そしてこのような凶行に及んだのだ。
「……り、リリウムは」
何かを伝えたくて、しかし今更何といえば良いのか彼女には分からなくなった。
当然である。これまでの異常な行動の数々が彼女の口から純粋な言葉を奪ってしまったのだから。そしてそのことを何よりも一番、ダイキ・イシザキは理解していた。
「無理して話さなくていい」
「ですが……」
「そうか。言葉よりも態度で示した方がいいよな」
自分から呟いて勝手に納得した。彼は掴まれた手首を優しく解き、静かにリリウムを抱きしめた。先ほどの己の欲求を満たすためだけの激しい抱擁などではない。ただ相手を慮るだけのソレは狂気の縁に立っていた彼女の心を鎮める。
リリウム・ウォルコットは幼い頃に両親を失い、およそ愛と呼べるものを享受し得なかった。だからこそ分かる、これを味わえばもう戻れない。
「いいんだ、もう我慢しなくて」
差し出すように彼はうなじを首筋を見せつける。それがたまらなく嬉しくて、でも切なくて。どうしようもなく体の底が熱くなる。
「……ほら、どうぞ」
何より、なんて甘い囁きだろう。そんな事を言われてしまったら―――
「———はむ」
もう二度と正気ではいられない。
みんなヤンデレssを書くのじゃ……
自給自足がこんなにもつらたんとは思いしなかった。
Q.ヤンデレが暴走しないためには?
A.受け入れるんだよ馬鹿野郎!!