ACfAヤンデレ集   作:粗製のss好き

7 / 8
今回の不時着感すごい。


メイ・グリンフィールドの場合:3

 目が覚める。カーテンを照らす日差しは眩い。

 

 「……人が良すぎるわよ」

 

 見知らぬ部屋、口に残る酒精、暖かいベッドと掛けられた毛布から香る男の匂い。それで何となく、自分の置かれた状況を理解する。そして昨夜、己が粗相を犯したということに思い至り、メイ・グリンフィールドは重苦しく息を吐いた。

 

 「あーもう。本当に」

 

 悪態をついた後、メイは寝台から身を起こす。あまり音をたてないように部屋を出るとそこはリビングだったようで、そこそこ大きいテレビの前に配置されたソファで彼、ダイキ・イシザキは眠っていた。

 

 男らしい寝息、と言えば聞こえはいいだろうか。些か煩わしい鼾を聞きながら、メイは彼もまた一人の男である事を自覚した。そして容姿や動作の割に、その性質が紳士に近しいという事も。同じGAグループのリンクスでもここまで常識的な人間はカラードランク4、ローディくらい思い浮かばない。

 

 「……人の気も知らないで」

 

 昨日の飲み交わしはメイの自己満足だった。彼を困らせて、その困った顔を肴にお酒を飲んで、そして二度と対面するつもりはなかった。自分の存在が彼の心に少しでも残れば、少しでも響けばそれでいいと思ったのだ。

 

 どうしてだろう。自然と涙があふれる。

 

 嬉しいはずなのに、切ない。飲み潰れてしまったのは完全に自分のペース配分を怠ったがためであると、彼女自身理解している。だから放って置けば良いのに、それが許せないのであればGAの社員だったり店側に預ければいいのに。彼はどうしてかメイを自宅で寝かした。

 

 それが善意で、彼なりに考えた行為であることをメイは知っている。

 

 「……あなた、彼女がいるんでしょう?」

 

 きっと苦心したに違いない。特定の女性がいながらも、他の女性を自宅に置くことに何の抵抗もなかったわけがない。それでも実行したという事に、メイは嬉しくも苦い感情を覚えた。

 

 しかし、彼にとって自身は多少なりとも()()()()()であるという実感をメイは得る。そしてその実感こそがメイの求めて止まない()()に他ならなかった。

 

 「本当に、私はなんて―――」

 

 醜い女だろうと、彼女は独り言ちる。意中の男を傷つけることに躊躇いがなく、自信の欲求が満たされれば更に上を夢見てしまう。だから恋は実らないのだ。

 

 でもそれでいい。実らなくても構わない。メイ・グリンフィールドという個人が、ダイキ・イシザキという個人に刻み込まれているのであれば。こんなにも混沌とした世の中で、こんなにも素敵な男性に覚えてもらえるだけでも望外だ。

 

 しかしただ覚えてもらうだけでは意味がない。夢で魘されるくらいの強烈さがなければ、何の意味もない。

 

 だから例えば―――

 

 「ここで自殺したら、あなたはどう思うのでしょうね」

 

 きっと苦しんでくれるだろう。メイの突拍子のない死に様に、彼は見当違いな罪悪感を抱いてくれるだろう。そしてずっと、ずっと覚えていてくれるだろう。メイ・グリンフィールドという哀れな女がいたという事を、一生大事に胸に秘めていてくれるだろう。何故ならダイキ・イシザキという男は残酷なまでに優しい人なのだから。

 

 あまりに倒錯的で、そしてどうしようもない破滅願望。

 

 メイは愛しい人と共に生涯を歩むという未来を視る事はない。何故なら彼には既に愛すべき隣人がおり、そして彼の幸せを心から祝福したいという想いが彼女の中にあったからだ。

 

 だがそれでも何かを残したい。恋したことをなかった事にしたくない。それを()()()()()()()()()彼に伝えたい。綺麗なだけで終わらせたくない。鮮烈で悍ましい愛を受け取ってほしい。

 

 「だから、だから―――っ!!」

 

 メイは自分のこめかみに銃を向けていた。護身用として持っていたその得物は、この世界では決して強力な代物ではない。しかし人を一人殺す分には何の不自由もないのも事実だ。

 

 この引き金を引けば自分は死ぬ。そうすればメイは晴れて己の目的を達成する。

 

 「———ん、んん!!」

 

 だというのに、メイは引き金を引けずにいた。手は震えて、涙がこぼれる。女性としておよそ整っていると言える顔を酷く歪めて、苦悶の声を上げた。

 

 彼女は恐怖していたのだ。それは、決して命を投げ出す事にではない。矛盾するようだが、自身が死ぬことによって、彼の心に深い傷を負わせてしまう事がどうしても在り得なかったのだ。

 

 ごとりと、拳銃が落ちた。

 

 「結局、最後まで意気地なしじゃない」

 

 瞼を泣き腫らしながら彼女は呟く。

 

 どうしてもダメだった。自身の欲求に感けて彼を傷つける。それはメイの彼に対する愛には違いない。だがソレは彼の事を何も考えてない一方的に過ぎる愛だ。

 

 不思議な話だ。想っているから、傷を残したいのに。それは決して彼のためではないのだ。どこまでもいっても自己満足で終わってしまう。

 

 「……それでいいと、思ってたのに」

 

 この心の内に夥しいほどに詰まった愛は綺麗である必要はない。だがその愛を伝えるには、あまりに彼を好きになりすぎてしまった。

 

 好きな異性の前では綺麗でありたい。そんなありきたりな願いの方が、彼女にとっては大事だったのだ。

 

 

 

 ★

 

 

 

 がちゃりと、玄関を開けてダイキの部屋を後にする。するとその先には銀の長髪を携えた少女がいた。

 

 「……いいんですか?」

 

 そして出合い頭に、少女は気後れするように尋ねる。

 

 「———ええ。これでいいわ」

 

 多少驚きつつも、晴れやかにメイは答えた。その顔には一切の後悔が見られなかった。

 

 「それにまだ結婚はしてないんでしょ? なら、私にもチャンスはあるじゃない」

 

 「許しませんよ」

 

 「あら、言うようになったわね。彼のあれこれを教えてあげたのは一体誰だったかしら」

 

 からかうようにメイは告げる。或いは楽しんでいるとも言えた。

 

 「……確かにその件については感謝しております」

 

 「そう。ならこれでおしまい」

 

 じゃあねと、メイはその場を離れる。背を向けた彼女に対して、少女は尋ねた。

 

 「本当によろしかったのですか?」

 

 少女は()()を見ていた。そしてメイの奥底にあった願望は方向性は違えど、本質的に少女のソレと同質であった。故に少女は気になった。

 

 ()()満足なのかと。

 

 「私、大人だから」

 

 振り返り際にメイは笑顔で応えた。

 

 それは。とても失恋した者の表情とは思えないくらい、素敵な微笑みだったという。

 




ヤンデレって別に監禁したり暴力を振るったりする事が本質ではなくて、相手に自分の愛を伝えることが手段としてそうなってるだけだと思うんですよね(意味不明
まぁ何が言いたいのかと言うと、ヤンデレって最終的には純愛なんじゃねって事です。

ただ思ってた事があまり形にならなくてすっごい苦しい。
文章能力と構成力がほしい……あと感想も欲しい(強欲

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