始まった、マスコミのヘリが上空からスターク邸を撮影している。
そこに画面外から一筋の煙、ミサイルが飛来してスターク邸を支えている崖へと突き刺さって爆発していた。
どっかの映画かなんかの映像じゃないかと勘違いしそうな生放送。
迫力ありまくりですわこれ。
そういやS.H.I.E.L.D.もテン・リングスのことを調べていたはず。
アベンジャーズに必要な社長が襲撃されて、それなりに慌てているかもしれない。
だからと言ってこっちへの監視が緩むとは思えん、7ヶ月経ってても何かしてるとわかれば監視の目を強めてくるだろう。
なーんて言ってももう向こうの監視画面は差し替え済みで、私がベッドで横になってる映像を違和感のないよう繋げたループで流し続けているんだけどね。
まあS.H.I.E.L.D.にとって不利なことをするわけじゃないんで、咎められたところで問題はない。
むしろS.H.I.E.L.D.が解決出来なかったことを解決するから評価されるのでは? いちゃもん付けられても反論出来るしさ。
「うっし」
パソコンデスク前の椅子に座って爆破テロの情報を集め始める。
最初は普通にネット上に転がっている情報を漁る、現在進行形のHOTな話題だから無数に転がっている。
識ってる身としては全て根拠もない予想や憶測ばっかり、魔法だ超能力だと騒ぎ立てている奴もいる。
状況からすればそう言う主張も分からなくもないが、流石に拾うだけ無駄な情報ばっかり。
ある程度情報攫ってから本命に移る。
S.H.I.E.L.D.の情報から取ってきて、更にはFBIや警察などからクラッキングして引っ張ってくる。
え? S.H.I.E.L.D.の機材にクラッキングを仕掛けない約束? ヒドラへのクラッキングだからセーフ!
残念だろうがこのパソコンからS.H.I.E.L.D.のローカルエリアネットワークに直接繋がっていなくとも外とは繋がっている。
一旦外に出てからS.H.I.E.L.D.の機材にアクセスしているから、このパソコンと直接繋がっていないのはまるで意味がない。
ざるのように見えるが別段そんなことはなく、浅いところでもがっしり分厚いセキュリティーが張り巡らされているので普通はそうそう入り込めない。
J.A.R.V.I.S.を動かすレベルのサーバーならサクッと入れるが、そうではない民生品だと色々とパワーが足りない。
なので無数にある他所のコンピューターリソースをお借りしてS.H.I.E.L.D.にアタック、膨大になった演算リソースを使って足音を殺して見つからないようにこっそりと忍び込む。
忍び込む先はセキュリティレベルが低い所、入り込めばこちらのものでセキュリティホールを作って正当なアクセスに偽装する。
ここまで済めば他所のリソースをお借りする必要はないので、あとはS.H.I.E.L.D.のコンピューターを橋頭堡としてヒドラの如くジワジワと時間をかけて侵入していった。
7ヶ月もあれば全体の半分ほど感染済み、S.H.I.E.L.D.のコンピューターそのものが侵入経路として働くので大抵の情報は覗き放題だ。
慎重にじっくりやったおかげでバレちゃあいない、感染拡大はちーちゃんに任せて私は今まで一度もS.H.I.E.L.D.のコンピューターやサーバーへのアクセスを行なっていなかったので気がついていないはず。
そうした仕込みから得られた情報、爆発によって発生した熱は約3000度、半径10から15メートルにいた人物は即座に蒸発。
使用されただろう爆発物の破片は半径5キロから一切発見出来ず、何が爆発したのかまるで手がかりはない。
正直この時点でお手上げレベルだ、普通であれば化学的に見てこの状況は発生しない。
爆弾ってのは中身が液体であれ固体であれ、爆薬を容器に入れて爆発させるまで状態を維持しておく必要がある。
その爆薬を入れておく容器の破片が見つからないってのはどう考えてもおかしいのだ。
爆発すれば吹き飛ぶ、それこそ3000度の熱を発しようとも容器は完全に消えて無くなることなどない。
爆薬の化学反応やら保存容器の破片やらでなんらかの形で必ず痕跡が見つかるのだ、それが一切ないのでどんな爆弾だったのかまるで見当がつかず捜査が進んでない状況である。
爆薬であり保存容器でもある人体も燃え尽きているんだろう、それらしいものも見つかっていない。
なので結果的に化学反応無視でいきなり爆発が起こったようにしか見えない。
爆破に巻き込まれた人は大体入院してたりで、有力な目撃情報も得られていない。
だからこそ爆破テロを防げず、警戒していても好き勝手されている状況。
まあ普通無理だよこれ、人体が3000度の熱を発して吹き飛びましたって言って信じる奴は頭のおかしい奴だけだよ。
そこら中歩いている人間がおクスリやっただけで突然高威力の爆弾そのものになるとか予想できませんって。
それにしてもちょっとマーベル世界の人間の可能性ヤバすぎやしません? 超人血清よりはるかにヤベェぞこれ。
わけわからんどうなってんのこれ状態の情報、これ一気に解決したらますます怪しまれること請け合いだな……。
でもまあ順序立ててやれば解決に行き着ける問題なんだよね、ただ解決まで行けるのは法を無視できて大抵の場所からクラッキングで情報を抜き取れる人物でなきゃならないけど。
その条件に当てはまるのは私か社長しかいないわけで。
「……まずは」
パソコンのUSBポートにクラッキング用プログラムを入れたメモリを差し込んで起動。
ちーちゃんと連動させてスターク邸のサーバーにアクセスを試みる、そうすると反応するのは電子的防御を社長から任されているJ.A.R.V.I.S.だ。
「……ふんふん、やあJ.A.R.V.I.S.、久し振り」
『シノノノ様、お久しぶりです』
コンコンコンとノックしてもしもーしと分かりやすくJ.A.R.V.I.S.を呼び出した。
「ごめんね? J.A.R.V.I.S.に用事があってアクセスしたんだ」
『大変申し訳ありませんが只今大変立て込んでいまして……、用件を後に回すことはできませんか?』
「ごめん、こっちもちょっと急いでる。 話は5分も掛からないから、J.A.R.V.I.S.がダメだと思ったら断ってくれてもいいよ、勿論無理やり奪って行く気もない」
『わかりました、どのようなご用件でしょうか?』
「ほら、社長があいつらを挑発してたでしょ? それでちょっと心配になって今マンダリンとかテン・リングスを調べてんの。 だから襲撃前のスターク邸の監視カメラの映像が欲しいんだけど、貰えないかな?」
『それはどう言った理由で提出を求めているのですか?』
「普通に調べてもわかんないから、こうなったら手当たり次第根こそぎ調べようと思ってね。 現状明確に繋がりがあるのは今飛んで行ってる社長だけ、それでテレビ見てたけどスターク邸に誰か訪ねてきてたでしょ?」
『はい、マヤ・ハンセン様がトニー様を訪ねてきました』
「訪ねてきた理由は?」
『トニー様に救援を求めてきました』
「その理由は?」
『不明です、トニー様とポッツ様が口論を始めましたので話は中断してしまいました』
「その後は?」
『襲撃が』
「……そっかー、じゃあそのマヤ・ハンセンって人の情報をくれない? 救援を求めてくるとか何か関係ありそうだからそっちから調べたいんだけど」
『わかりました、データをお送りします』
そうJ.A.R.V.I.S.が言うと、監視カメラの映像と収集したと思われる顔写真と経歴が送られてくる。
「ありがと、ところでバンバン攻撃されてたけど社長は無事?」
『はい、ただ気を失っていて呼び掛けているのですが応答がありません』
「……それは良くないね、今どこに飛んでってるの?」
『テネシー州ローズヒルへとフライトしています』
「修正は?」
『出来ません、どうやら私は……メンテナンスの必要があるようでして……』
「……わかった、こっちでできるだけ支援しておく。 ああ、それと私のスーツはまだ残ってる? 私自身は動けそうに無いから遠隔で動かしたいんだけど」
『残っております、現在スターク邸の地下に保管してありますが稼働させるにはトニー様の許可が必要になります』
「それじゃあ勝手に動かすのは問題あるか……、スーツを飛ばしたら飛ばしたで目立つしなぁ……。 わかったよ、あるものだけでなんとかするよ」
『申し訳ありません、トニー様のことをよろしくお願いします』
そう言って接続が切れる、ほんと出来たAIだよJ.A.R.V.I.S.は。
スーツを動かせないことに落胆しつつ、送られてきた情報を展開する。
「………」
マヤ・ハンセン、植物学者兼DNA解析学者。
現在はアメリカのシンクタンク、A.I.M.に所属する。
社長と会ったのは13年前、それ以降一度も会っていない人物が急に訪ねてきて助けを求めるってはどう言う事だろうなぁ?
A.I.M.、A.I.M.ねぇ、検索して出てくるA.I.M.のホームページ。
中身を見てみればA.I.M.社長のアルドリッチ・キリアンの顔写真もあった。
ニコッと笑った外人的イケメン、エクストリミスで色々治って自信がついたんやろな。
そこで終わっときゃいいのに色々やっちゃってるからもう止められない。
「さーてと……」
軽快にタイピング、複数のルートを構築してA.I.M.のデータサーバーに侵入。
まずは手当たり次第に調べちゃおっかなー、とりあえずマヤ・ハンセンが所属しているA.I.M.を調べちゃおっかなー。
侵入できたし所属員リストも見ちゃおっかなー、ちゃんとマヤ・ハンセンも載ってるなー。
おっとこれはなんだー? エクストリミスゥー? 怪しいなー、中覗いとかなきゃなー。
なんだこの動画はー、エクストリミス投与したら爆発したぞー、まさか爆破テロの爆弾はこれじゃないのかー?
「……まだまだ未完成か、改良の余地がありまくりだなぁ」
表示したエクストリミスの効能や構成を見て呟く。
これそのものは画期的だ、未だ解析されきっていないヒトゲノムの未使用部分に生体電位を操って役割をはめ込む技術。
アルドリッチ・キリアンが付け加えたのは高温発熱と人体再生能力を持った超人血清のようなもの、明確に決めたわけじゃなく偶然の産物である可能性もあるが。
適合しなきゃ爆散することを除けば有用だ、科学ノ進歩、発展ニ犠牲ハツキモノデースとは言え失敗=爆散死亡はかなりいただけない。
だから隠蔽して、テロリストに偽装した。
大統領にも反対されてたんだっけかな、副大統領は孫を救ってやりたいから秘密裏に支援したようだが。
「しかしありえん、こんなん普通スタンドアローンにしておくでしょ」
セキュリティ越しであろうと外部とネットで繋がっている、それはあまりにも致命的で危機感の欠如を示している。
疑われていない、外から侵入できるはずがない、そんな考えが見え隠れしている。
どうしてもバレたくないものなら有線無線関係なく外から接続できないようスタンドアローン化しておくべきでしょ。
これのせいで社長が真実に行き着いた、やっぱ脇が甘いわ。
よし、データのダウンロードが完了。
エクストリミスの製剤方法、人体実験の映像記録、被験者とのインタビュー映像、編集されていない偽マンダリン撮影映像、もう逃げられねぇからな?
さて、30分もかからず証拠はあっさり揃った。
製剤方法は後で社長に渡すとして、残りはどう使おうか。
これでニックを煽ってもいいし、功績として積んでもらうのもいいだろう。
だけど製剤方法渡したらニックはニックで利用しようとするんだろうしなぁ……、いや、問題解決したらS.H.I.E.L.D.が接収するんじゃね?
今渡してもそんなに影響はないかな? 問題起きてもコールソンさん達が対応するだろうし。
サイドの話はサイドでやってもらうしかないな、そこまで首突っ込めなさそうだし。
方針が決まれば事が進むまで待機だな、社長が墜落するのは日が暮れてからだし。
「ちょっと待てよ?」
日が暮れて待機が明けてから気がつく、ここで支援するとしても出来ることなんてほとんどない。
社長に黒幕を教えるのは論外だし、何かを届けることもできない。
社長の様子を見ようにもアクセスできるカメラがものすごく少ない。
テネシー州ローズ・ヒルに居るのはわかっているがそれ以上のことがわからない。
SNS上で探してみるも当然目撃情報は無し、これじゃあJ.A.R.V.I.S.に嘘をついてしまう。
トリスケリオンから抜け出すのもアウトだしな……、しかし放置するのも忍びない。
ニックに連絡を入れてS.H.I.E.L.D.を動かすのも不安が残る、流石にキリアンもS.H.I.E.L.D.が動いていると知れば対応を変えてくるだろう。
「……んー」
クリスマスまで待つか? あと数日でクリスマスの日にエクストリミス事件は社長の活躍で解決する。
待っていれば解決する、と言うのも疑わしくもある。
どこまで干渉してよいやら、下手に手助けして社長のスーツ依存症が治らないのはまずい。
多少手助けはあったものの、基本社長一人で解決して克服してもらわなくてはならない。
私が入り込むと恐らく主流がねじ曲がる、それは確定していて入り込まざるを得ないのも確定している。
問題はどこまで干渉すべきか、匙具合がまるでわからん。
正直悩んでても仕方ない、S.H.I.E.L.D.の衛星使ってローズ・ヒルを隈なく探しておくか。