エクストリミス事件が終結し、ペッパー・ポッツのエクストリミスを解毒剤を作って治し、胸の金属片を摘出してアーク・リアクターを取り外せるようになってから1ヶ月。
不眠症は治ったのだろう、以前よりも顔色が良く健康的になったトニー・スターク。
もうすぐ2月になろうと言う時期、心身が健康となりつつあるプレイボーイが私の部屋で背もたれを前にした椅子に跨がるように座っている。
私はベッドに座って、社長と相対している。
「それじゃあ話してもらうぞ、君が隠している秘密の全てを」
ニックが痺れを切らした、と言うよりもエクストリミス事件で手助けした事で社長が動いたのだろうと考えられた。
ニックと何らかの交渉をして、態々話をするために時間を作ったんだろう。
疑惑か感謝か、疑惑の方が確率が高いだろうけど。
そんな社長に意地悪そうな笑みを作って口を開く。
「スタークさん、一つ賢くなるようなことを教えましょう。 他人に話せるような話は秘密とは言いませんよ」
ほぉら、これでまた一つ賢くなりましたねぇ。
そうやって煽ってみると、社長は鼻で笑って。
「意地を張るのはわかる」
視線を部屋の隅へと向け。
「何から何まで監視されてたんじゃ、気も休まらない」
まあ、私の状況は把握済みだよねぇ……。
「……秘密とやらを話せばこの状況から解放すると?」
「僕ならそうする」
作り笑顔を浮かべる社長、嘘つけ絶対はぐらかしたり適当な嘘並べてその場しのぎするぞ。
「……わかりました、隠している秘密を話します」
はぁ、と一つため息を吐いてパソコンの方を見る。
「ちーちゃん、私の体重は?」
『56.2kgだ』
「はい、私の秘密を明かしましたよ」
それを聞いた社長は作り笑顔を消して。
「……思っていた以上に重大な秘密だったな」
「乙女の秘密を暴こうなんて、女性全てを敵に回す行為だってことを分かってるんですかね」
「確かに、下手に聞くと叩かれるだろうな」
プレイボーイな社長からすれば、大半の女性は体重のことを聞かれたく無いことくらい理解しているだろう。
私からすれば恥ずかしいと思うような体重じゃ無いので、聞かれればあけすけに答えるが。
「重大な秘密を明かしてくれて助かった、ニック・フューリーには僕から話しておこう。 それとついでに乙女の秘密よりも軽いこの秘密も答えてくれると助かるが」
そう言って懐からスマホのような長方形のデバイスを取り出して、一度軽く振る社長。
水平にしたデバイスから上に映像が投影され、本命の秘密を暴きに来た。
まあこんな茶番、通じるとは思ってなかったが。
「この男は誰だ?」
空間に投影されたのは一時停止の映像、それはニューヨーク襲撃の後に私が立ち寄ったハンバーガー店。
社長は拡大した映像の中の男、すなわち変装している未来のキャプテンを指さした。
「気の良いおじさんでしたよ、ニューヨークがこんな状況で災難だったなと同情されましたが」
当然知らないフリをする、まかり間違っても『まだ知るべき時ではない』とか『いずれ分かりますよ、いずれね……』、みたいな思わせぶりな態度を取るのも無しだ。
怪しまれたくない状況で怪しまれる言動を取るとか、頭沸いているんじゃないかと言う話になる。
それを踏まえて全く知らないフリをする、科学的に脳の記憶領域を調べられたり今は存在しないだろうワンダ・マキシモフなどの超能力で記憶を見られたりしなければ大丈夫なはず。
……インフィニティ・ストーン由来とは言え、いずれ超能力関係も調べておきたいな。
「それにしては仲が良さそうに見えるが?」
「……? 仲が良い?」
何言ってんのこいつ? みたいな顔して聞き返す。
初対面で赤の他人の未成年とおっさんが仲が良いとかどんな関係だよ、別の意味で邪推されるぞ。
「何を話していた?」
しらばっくれるも、社長は意に介さぬまま続けて聞いてくる。
「世間話ですよ、どこかの長官と同じようなことを話していましたね」
勿論勧誘とかではないですよ、と付け加える。
「……わかっていると思うが、ニック・フューリーは君を疑っている。 僕も君を疑っている、理由は理解しているな?」
「客観的視点で見ればタイミングが良すぎると私もわかってます、ただそれは偶然ですので疑われても疑惑を晴らすものを提示できません。 この男性のことも同じです、声を掛けられたからと疑われても知らない事を明かすことはできません」
「飽くまでなにも知らないと?」
「スタークさんが全く知らない人物のことを聞かれてなんて答えますか? 知らないと答えますよね? 今の私の状況はそれなんですよ」
「………」
なにも言わない社長は私に視線を合わせたまま、椅子から立ち上がる。
「ここだけの話だが、この話の対応で君の進退が決まる」
「次は私が何かを隠しているか暴くまで監禁でもするんですか?」
「それもありうる」
「そうですか、まあ当然今までも私の事を調べ続けていたんでしょうけど、この8ヶ月状況が変わっていない以上何も見つけられていないと判断できますが、スタークさんはどう思いますか?」
「同感だ、ニックもそうだがS.H.I.E.L.D.は君の秘密とやらを見つけられていないし、今後も見つけられるか怪しいもんだ」
「ありもしない事を声高に喚き散らしても、存在しないものは存在しませんからね」
再度腕を上げた社長はデバイスをもう一度振る、今度は静止画ではなく再生された動画。
「知らないのなら仕方がない、話を変えよう。 確かに君の周辺は疑わしいが、僕としてはこっちの方が気になる」
流れる映像は私と未来キャップの口元を隠した会話シーン、だがその映像は異様な不自然さがあった。
「……これは?」
映像が歪んでいるとか途切れていたりするわけではない、流れている音が極めて不自然だった。
社長のデバイスから流れる映像と音声、S.H.I.E.L.D.の進んだ技術で作られた盗聴機器なんだろう。
映像から見ると店からそれなりに離れた場所から店の中の音を盗聴しているようだが、奇妙な事に中央の音だけが綺麗に切り取られたように存在していない。
波形で見れば綺麗に中央部分が見事に存在しないのが予想できる。
「最初はよくある逆位相で打ち消しているものだと思ったが、調べればそんな単純な現象じゃなかった」
さらにもう一度デバイスを振ると、映像は消えて分析結果の情報が表示される。
「君は男が話したと言った、だがこの音声からの分析だと男の周囲にはそもそも音が発生していない」
音とは振動だ、状態に関わらずあらゆる物体が振動し、伝播する事によって発生する。
映像の音声の解析結果から、私と未来キャップの一定範囲内は何らかの作用によって完全に音が断絶している。
効果範囲内では私と未来キャップの会話だけではなく、発生しているはずの店内の音も存在していない。
社長も様々な方向から解析アプローチを掛けたが、結果的にどうしてそうなっているのか理解できなかったようだ。
私も解析情報を一通り見たが、同じようにどうしてそうなるのか判断がつかない。
色々推察してみるもしっくりこない、実際にイメージを形にして見ても同じような効果が得られるかは疑わしい。
こうなってくると社長は持っておらず、私だけが持つ情報で判断するしかない。
どう見ても未来の私が犯人です、本当にありがとうございました。
未来キャップはおそらく誰にも人生をやり直すことを話しておらず、それを知っているのは私だけ。
社長が生存しているかわからんし、おそらく私だけがこうなる事を知っているから未来の技術で作った無音化装置を未来キャップに渡した可能性が高い。
話を聞かれないための必要な措置ではあるが、そのせいで今の私がとても困った事になっている。
礼を言いたいからって私に会いにくるんじゃねぇよ! 面倒な事になってるじゃないか!
自業自得に見えるが鶏が先か、卵が先かじゃねぇんだぞ!
「……何とも言えませんね、音は迂回もしてないようですし。 ……これは振動そのものを制御している?」
そんな内心をおくびにも出さず、考えられる可能性を呟く。
私が社長と同じ立場なら間違いなく同じような分析内容になっているだろう、かなり詳細な分析結果を見てもどうしてそうなってるのかわからない。
未来は今現在実用化できていない量子化も実装出来るほど進んでいる以上、私が見つけていない法則があるだろう。
その未知の法則によって作られている可能性がある以上、未知の法則を解き明かさないと無音化装置の原理を暴くことはできない。
「結論から言いますと、私にはわかりかねます。 というかこの映像もらえませんか? 私も調べてみたいので」
社長があらかた調べ尽くしているが、個人的に結構気になる。
「本当に知らないんだな?」
「この男の人の事もそうですが、知っていると嘘をついてもどこに居るとかこの技術の提示は出来ませんよ」
存在しませんからね、と断言しておく。
「そうか、わかった。 それじゃあこの部屋から出る準備をしておいてくれ、それとS.H.I.E.L.D.のシステムから手を退けておくように」
そう言って、返事を待たずに社長は部屋を出て行った。
「予定通り、彼女は連れて行くぞ」
束の部屋を出て、トニー・スタークは長官室へと足を運んでニック・フューリーと対面する。
「話の通り、S.H.I.E.L.D.は彼女の秘密を暴けなかった。 この男の所在も見つけられなかった、彼女の頭の中を覗けば解決するかもしれないが、今それをするには色々と足りない」
「S.H.I.E.L.D.のシステムの件がある、やろうと思えばできる」
「その結果、S.H.I.E.L.D.の崩壊か?」
デバイスを懐にしまいながら、鼻で笑ってニックに言うトニー。
「僕はお勧めしないな、今J.A.R.V.I.S.にセキュリティーを解析させているがなかなか手強い。 監禁からの記憶拝見をすれば彼女は抵抗するし、報復としてシステムの破壊を実行するかもしれない」
「だから泳がせろと?」
「スパイ活動は僕の分野じゃない、だが8ヶ月掛けても証拠を見つけられなかった事は失敗だと言うのは僕にでもわかる」
ニックの鋭い視線がトニーに突き刺さるも。
「そう怖い顔をするなよ、チャンスだと考えよう。 自由に動かせて尻尾を出させればいい、その尻尾を掴めるかはそっち次第だが」
「……彼女が隠している秘密が、世界の安全を脅かしたらどうするつもりだ?」
「その時は、アベンジャーズの仕事だ」
「使い方は去年の時とあまり変わっていない、まあ問題ないだろう」
トリスケリオンから連れ出し、戻ってきたのはスタークタワー。
場所は世界最先端と自負するラボ、スタークタワー上層階の僕のプライベートルーム。
「設備は自由に使ってもいい、それも去年と同じだ。 ただ製造する全ての物は一度提出してもらう、スーツを作っても同様だ」
「ええ、もちろん」
彼女、タバネ シノノノは嬉しそうな笑顔を浮かべてうなずく。
「では早速」
早足でコンピューターに向かい、バッグからUSBメモリを取り出して差し込んで仮想キーボードを叩き始めた。
「何かあればJ.A.R.V.I.S.を呼べよ」
「はーい」
その返事を聞いてエレベーターに乗り込み、もっと上の僕の自室へと戻る。
いつもの椅子に座り、J.A.R.V.I.S.にアイアンマンスーツの改良案が性能に即しているかシミュレーションを行う。
その傍ら、彼女がいるラボの映像を見る。
部屋には監視カメラを仕掛けてある、流石にニックと違って彼女の尊厳やら人権やらを尊重してやるつもりだ。
監視のことで他にも色々あったが、彼女の監視関係はJ.A.R.V.I.S.にほとんど任せてある。
連れ出す前にも話したが、僕はニックが気を揉む謎の男や彼女の秘密とやらよりも盗聴防止に使われた技術や彼女の作るスーツや機器の方が気になっている。
……あまり思い出したくはないことだが、数ヶ月前に魔がさしてしまった。
言い訳をすれば、精神が参っていたんだ。
奴らのことを考えてしまって、悪夢を見てしまうほどだった。
眠れずにスーツの改良と製造に明け暮れ、性能の強化にひた走っていた。
そんな中で睡眠不足で体調と精神を崩していた僕は、気がつくと彼女の技術に手を出していた。
普段通りであればそんな事はしない、自分の技術に自負がある。
彼女のスーツに採用されているものよりもより良い技術を開発し、より高性能のスーツを作れると自信を持って言えた。
そう、普段通りであれば……。
精神がやられていた僕は彼女のスーツの性能を見て、最悪なことにインスピレーションが湧いてしまった。
敵対する相手を圧倒する高火力に生半可な攻撃を跳ね返す硬い防御力とジェット戦闘機を軽く引き離せる加速力と最高速度。
それだけじゃあない、極限環境下での活動を目指しただけあって超高温から極低温まで問題なく活動でき。
以前食らったソーの雷を受けても余裕、深海での高圧力下でも問題なし。
対腐食性も高く、詰め込めるものは全部詰め込んだと言ってもいい性能だった。
今では低性能と言えるアイアンマンMark.7と同じ時期にこの性能、当時開発していたMark.42では分離飛行と重量位しか有利な点が無かった。
開発していた機能特化型スーツ群の長所を一纏めにして高性能化したようなスーツに、僕は何かを見てしまったんだろう。
Mark.42の開発を一時中止して、多機能かつ高性能なスーツの開発に着手。
試行錯誤を重ねて出来上がったのが、アルドリッチ・キリアンを倒したアイアンマンMark.43だった。
出来上がったスーツの性能は満足いくものだった、それまでのスーツを易々と破壊していたキリアンの攻撃を耐え抜いて逆に倒してしまえるほど。
そうして出来上がったスーツを前に技術の盗用と言うあまりにも恥ずべき行為に罪悪感を浮かべたのか、カラーリングに彼女のスーツのメインカラーである白色を差し込んでいた。
彼女は気がついているかもしれないが、それを伝える気はない。
逃げていると言われればその通りで、正直に伝えて謝れる気がしなかった。
いずれ謝るにしろ、別に今でなくてもいいだろう。
恥の現物であるMark.43は戦いが終わったあと、スタークタワー上層階の改装が終わり次第解体した。
今のメインスーツであるMark.45は彼女のスーツから得られた技術は一切使っていない、その上で性能を上回り防御力を落とさず軽量化し分離飛行を盛り込んだものとなっている。
いい状態に仕上がっている、今のところ不満点はない。
彼女はあの戦いを見ていた以上、スーツを破壊したことを知っているだろうからまたスーツを作るだろう。
どのような性能に仕上げてくるか少し楽しみである、Mark.45と同程度の性能に仕上げてくるのか、それ以上の物を作り上げるのか。
もちろん負ける気はない、もしも上回るスーツを作ってきてもすぐにもっと優れたスーツを作ってやる。
『楽しそうですね、トニー様』
「……なに?」
『いえ、笑みを浮かべていましたので』
ハッとして顔に手を当てると、口角が上がっていた。
すぐに指で口角を押さえて下げる。
「なんで笑う必要がある? J.A.R.V.I.S.の気のせいだろう」
『確かに気のせいかもしれません』
「そうだ、気のせいだ」
口元を揉みながら、一心不乱に仮想キーボードを打ち込むタバネ シノノノが映っている映像を閉じた。
56.2kg
・重いと感じた人はちょっとサブカルに浸りすぎかもしれない。
実写ベースなのでオリ束さんは確実に重いメロンを抱えている上、ガチトレーニングしているのでこれでも軽い方な乙女の秘密。
ちなみにキャップは100kg超え、流石アメリカのケツや。
現在のオリ束さんを困らせている人ベスト3
・1位 サノス 2位 未来の自分 3位 未来のキャプテン・アメリカ
1位は言わずもがな、2位と3位のせいで味方のはずなのにめんどくさいことに。
Mark.45
・オリアイアンマンスーツ、結構ゴツい、全領域対応型でシンプルに強い。
150kgほどで以前のアイアンマンスーツより重い仕上がり、白騎士の方は足とか長いし詰め込んでるので武装込みで300kgほど。
以降のスーツは影響出ているので形や性能はおそらく変化している。
技術の盗用
・オリ束さんがアベ入りして仲良くなったらバラして謝るかもしれない。
社長の笑み
・技術競争の始まりだあああああ!!
バナーとは話ができるが、同じ分野で話が通じるどころか競え合える人物社長の周りにいなかったやろ。
いたら間違いなく張り合うと思う。