アベンジャーズタワーのプライベートルーム、そこからしていた配信を切って背伸び。
現在の時間を見るともうすぐ12時、お昼時ではあるがこれからやる事があるので昼食はまだ食べない。
「J.A.R.V.I.S.、もうすぐ時間だけどスタークさんは居るよね?」
『はい、予定通り準備は完了しています』
これから社長とのフライトを予定していた。
フライトと言っても飛行機に乗ってどこかに行くわけじゃなく、新しく作成した白騎士の二号機のテストフライト。
怪しまれて監視されている中でせっかく作った白騎士を自由に動かすことは許可されない、なので監視役として社長に付き添ってもらう事になった。
もし暴れ出した場合に止められるのはアイアンマンだけ、さらに白騎士のシステムはJ.A.R.V.I.S.管理下に置かれているために私は文字通り動かすだけしか出来ない。
最初動かしたいと社長に言ってみたら断られた。勝手に飛ばれてそのまま逃げられるかもしれないので当然の判断。
なら白騎士のシステム権限全部渡すから飛ばさせてくれよと、ついでに何かあったときのために抑え役として社長も来ればいいじゃんと強請った。
社長は忙しいが機能の全権を渡すんであればとスケジュール調整して付き合ってもらうことになった。
流石にこれで断られたら諦めるつもりだったが、社長は乗ってきてくれたので助かった。
実の所、白騎士のテストはもちろん大事だが本命は別のところにある。
あと2ヶ月ほど経てばチタウリによるニューヨーク襲撃から1年が経つ。
SNSを含むネット上にはアベンジャーズの情報が載っており、ファンになって熱心に情報収集に勤しむ人もいる。
その情報の中のアベンジャーズには7人目として白騎士の情報も載っているが、ニューヨーク襲撃以来白騎士が姿を現したのはエクストリミス事件だけ。
だが当の白騎士は編隊飛行でアイアン・リージョンに混じってたし、途中で日が暮れたから運が良いのか悪いのか、白騎士が撮られることはなくネット上では完全に姿を消していると見られていた。
その噂に拍車をかけているのがアベンジャーズの活動であり、アスガルドに帰っているソーが居なかったりするがその中に参加していないのも噂を助長させている。
私としてはその噂はあまり好ましいことではない、なので今回のテストフライトはその噂を払拭するための行動。
社長やニックやナターシャさんが認めなくとも私はアベンジャーズかアベンジャーズに近しい位置で活動することを余儀なくされているので、仲間外れで遠ざけられるのは困った事になりかねない。
そこで社長と行動することにより一般人に目撃させ、最近は通称ホワイティと呼ばれている白騎士はアベンジャーズの一員なんだと誤解させることが目的。
ウィンターソルジャーのようなS.H.I.E.L.D.崩壊がなければ、アベンジャーズの内情を世間一般に明かすことなどないから、事情を知らなければアベンジャーズの一員として誤解されるだろう。
つまり私はアベンジャーズメンバーになるために外堀を埋め始めた。
その一環で世間一般を利用して、社長たちに圧力を掛ける。
ただ個性的なアベンジャーズメンバーにとっては圧力と言っても影響は微々たるものだろう、それこそウルトロンのようなことが起きない限り外圧には屈しない頑固さがある。
勿論アベンジャーズに入る事は通過点に過ぎず、今後の活動にあたって人助けにも精を出す予定。
私が隠していることを暴けない以上、ヒーローとして実績を積んでいけば社長たちもいずれ認めてくれるだろう。
それでも認めてくれないなら、勝手に活動することになるが。
白騎士のステータスはオールグリーン、ソフトウェア上では問題なし。
あとは飛ばしてみるだけ、PCを終了させエレベーターに向かう。
乗り込めば自動でドアが閉まり、上昇していく。
軽い浮遊感が終わり最上階、ドアが開けば部屋の中央にはアイアンマン。
「ご要望のお楽しみの時間だぞ」
既にスーツを装着していた社長、その先には窓の外を見据える白騎士。
笑って白騎士へと向かうと、背面が開いて入り込みスーツを纏う。
すっぽりとスーツ内に収まると軽い音とともに背面装甲が閉じ、ディスプレイが起動して室内と外の青空が表示される。
「J.A.R.V.I.S.、渡しておいた基礎データをインポートしておいてくれた?」
手を握ったり開いたり、サイバネティックインターフェイスは正確に私の動きを読み取って機体の動きに反映する。
『アップロード済みです』
「ありがと」
『どういたしまして』
本来ならちーちゃんが行うのだが、権限を渡してあるんで代わりにJ.A.R.V.I.S.がメインサポートとして稼働させる。
「フライトシステムをテスト」
『フライトシステム、テスト中』
白騎士の装甲が動き、装甲に保護された機体各所のスラスターが見え隠れ。
スカートスラスターもそれぞれ個別に可動して、装甲に守られた推力偏向板が波打つように動いた。
「射撃管制装置をテスト」
『射撃管制装置のテストは許可されていません』
「まあそうだよね、じゃあ他に許可されてることをテスト」
『了解、全機能のテスト完了まで約30分』
「……よし! 飛びましょう! スタークさん!」
流石に30分は長い、社長もそこまで待ってるわけにもいかないだろう。
最適化は一号機のデータを流用してほとんど省くことはできるが、その他諸々の装備テストは別の話になってくるのでこんなに時間がかかる。
『……シノノノ様もまず歩くより走る方がお好みのようですね』
「文句はスーツを取り上げたスタークさんによろしく」
「おいおい、それは君も承諾しただろう? 責任を罪のない者になすりつけるのは良く無いぞ」
パカッとフェイスガードが開いて社長が文句を言ってくる。
「出来てすぐ持っていかれたんじゃこっちも調整しようがないと思うんですけどねぇ」
「それも織り込み済みで行動しない君が悪い」
疑われているのに干渉を受けず動かせる状況にしたらまずいと思うんですけど(正論)
「はいはい、私が悪うございました」
軽く言いつつ重い足音を鳴らして外に出て、ヘリポートへ向かう。
私も含めて重量350kg超の重量でありながら、その足取りは重さのかけらも感じられない自然体。
スーツのパワーアシストは正常に機能し、マンマシンインターフェイスの設計には間違いがない。
この白騎士の二号機、とりあえず白騎士二型と呼ぶとして、この二型は新技術を組み込んだ意欲作。
二型の目玉を挙げるとすれば、花火大会で綺麗に散った一型とは大きく変わった推進システム。
一型は推進力としてターボジェットエンジンを載せて推進剤を圧縮して目一杯詰め込んでいたが、活動時間が予想より短い事がニューヨーク襲撃の際に分かった。
消費量から推測すると、あと30分戦闘が続いていれば推進剤切れに陥っていた。
予想が甘かったとしか言えない、いくら推進剤を圧縮して詰め込んでも容量に限界がある為、効率を大きく上げなければ飛行可能時間の延長は厳しい。
そこで問題改善の為に推進機能の改良を決意、基本は改良したターボジェットエンジンに新しく組み込んだのは反重力装置だ。
この反重力装置は私が新規に開発した物ではなく、チタウリのチャリオットやリヴァイアサンが搭載していた物を解析して実用化した。
はっきり言って最初は手も足も出なかった。私や社長を含め純粋な地球人類科学が低質なおもちゃと思えるほど極めて高度な技術で構築された物だ。
散々頭を捻って実用化したと言ってもチタウリ製の物と比べれば性能は著しく低い、しかもエネルギー馬鹿喰いで片足ずつに専用の改良型アークリアクターを載せる必要があるほど。
それでも反重力ユニットは推進装置の強化に成功、脚部推進装置は一型とサイズ変わらずで全体的に性能が向上した。
本来なら反重力ユニットを衝撃吸収とか姿勢制御などで全身に付けたいところだが、アークリアクターの数を3倍ぐらい増やさないといけなくなるので今回は見送った。
反重力ユニットのエネルギー消費程ではないが、全体にアップデートを施したのでエネルギー消費も上がっている。
エネルギー消費増加に対する解決策はアークリアクターの改良で、エネルギーの出力と供給時間が向上したので全力機動と搭載武装をフル稼働させても5時間は持つ想定。
武器がライフルとブレードしか使えなかったニューヨーク襲撃と比べ、フル武装でも稼働時間2割増で動ける。
一型と違って完全フル武装、充足感に満ち足りた白騎士二型を動かしてヘリポートの縁に立ち、全身のスラスターが展開する。
「飛行ルートは入力済みだ、指示通りに従って飛んでくれ」
「……スタークさん、せっかく飛ぶんですからここは一つヒーローっぽいことしませんか?」
「人助けをするのか、君が?」
「疑われている人間が人助けをして点数稼ぎすることはダメなんですか? 面倒な紛争や違法な武器商人をぶん殴るだけがヒーローの活動じゃないでしょう?」
「……正直で結構、君の案に乗っておこう。 J.A.R.V.I.S.、消防と警察の無線を傍受しろ」
『了解しました、緊急性が高い事件をピックアップします』
やけに乗ってきてくれるが、なんらかの裏が社長にはあるのだろう。
私の言動を観察する意味合いがあるのはわかる、後は白騎士二型がカタログスペック通りに性能を発揮するかどうかを確認でもするんだろうか?
流石にこんな街中でフルスペックを発揮したらビルの一つや二つ、簡単に倒壊する。
なんなら全力飛行するだけで死人が出かねないから、性能確認なんざ出来ないだろうが。
それでもやってくれるというなら乗るしかない、このビッグウェーブに!
準備を整えると体が前のめりに傾き重力に引っ張られる、スラスターが光を放ち機体を持ち上げる。
真っ逆さまから水平へ、出力を一気に上げてビルの間、道路の上空を飛ぶ。
J.A.R.V.I.S.のナビゲーションに従い、最短距離で災害現場へと飛んでいく。
当然10メートル後方にはアイアンマンが追従し、時速300キロメートルほどで向かう。
歩道を歩く市民たちは飛行の音に上を見上げ、飛んでいる私たちを見つけて指を差す。
中には素早くスマホなどを取り出して撮影する市民もいた。反射だろうがいの一番にネットへと上げれば注目を集める事は請け合いだ。
1分ほど飛行し続ければ目的地が見えた。
「一件目」
『見ての通り火事が起こっています』
一軒の8階建のアパートメント、3階から5階の窓から火が吹き出しており、6階から8階からは黒煙が上がっていた。
既に消防車が数台駆けつけて消火活動に当たっているが、火の手の勢いは止まる様子はない。
下手しなくても数時間は燃え続ける火力、このアパートメントの修繕は不可能だろう。
『あのアパートメントの住民の殆どは脱出したのが確認されていますが、数名所在が判明していません』
『逃げ遅れたか、中に居ても不思議じゃないな。 J.A.R.V.I.S.、アパートメント内部をスキャンだ』
『了解』
アパートメントの正面に到着、滞空したまま白騎士とアイアンマンはセンサーでアパートメント内部をスキャニング。
『君は5階だ、僕は7階のを助ける』
「了解」
スキャニング結果を共有し、アパートメント内部に取り残された住人を発見。
弾かれるようにアパートメントの内部に突入、噴き上がる火炎を浴びつつ壁やドアをぶち抜きながら直行。
目的地の部屋のドアを引き剥がして踏み込めば、スキャニング結果と同じ住民がピクリとも動かず倒れていた。
おそらく親子、子供に覆いかぶさるようにして気を失っている女性と子供に抱き抱えられている猫で二人と一匹。
そばにはベッド、昼寝をしている時に火事に見舞われ、気が付いた時には煙を吸い一酸化中毒やシアン化物中毒などを起こし手遅れになったと推測できた。
「社長、壁をぶち抜くからショックブラストの使用許可を頂戴」
『社長? ……いいぞ、だが今回だけだ』
右腕を上げると使用制限が解除されたショックブラスト、右前腕の装甲が可動して開き衝撃砲がせり上がって展開する。
ドンッと重い音と共に最短で外に通じる壁と窓を一直線に吹き飛ばし、親子とペットを抱えて一気に飛び出す。
5階の高さから降りて、待機していた救急車のそばへと降りる。
アイアンマンも男を抱えてアパートメントから飛び出してきた。
「一酸化中毒を引き起こしている、適切な対処を」
驚きの表情を浮かべている救急隊員が慌てて救急車からストレッチャーを引き出す。
救助した住民を救急隊員へと引き渡し、振り返ったアイアンマンは放水を続けている消防隊員たちへ向かって一声。
「消防隊員の諸君、このアパートメントの中に要救助者はもう居ない。 君たちの仕事を全うしてくれ、延焼もちゃんと抑えてくれよ? 行くぞ」
その一言で私たちは一気に飛び上がる、唖然とした消防隊員たちや野次馬を残して。
『次は人質を取り逃走中の銀行強盗です』
「……治安悪くない?」
『それは事件を起こす奴らに言ってくれ』
警察の無線から逃走中の車両、速度規定を超過して走るワゴン車を発見。
無線を聞いてから2分ほどでそのワゴン車の上空へとつける。
「運転席と助手席に一人ずつ、後ろに銃を持ったのが二人と人質らしき人が二人か。 後お金もいっぱい」
『小銭稼ぎをするのも大変だな。 さて、君はあの車をどう止める?』
「何でもいいんで社長が犯人を無力化、私が車を止めるでどうでしょう?」
『いいだろう、君は武器を使えないからな』
私は頷いて加速、ワゴン車の斜め上へと位置付ける。
『やるぞ』
一気に下降してワゴン車とほぼ同じ速度で後退しながら目の前に降りると、アイアンマンの肩から小型兵装が顔を出して銀行強盗たちの手足をワゴン車の天井越しに撃ち抜く。
痛みに驚きハンドルを切られる前に広げた腕でフロントを掴む。
両腕を車体に食い込ませながら上半身をそらし、ワゴン車を持ち上げてスラスターを吹かせて上昇させる。
『やあ、助けに来たが怪我もなく元気そうだ』
アイアンマンはワゴン車の天井を引き剥がし、人質の安否を確かめていた。
「社長、車がアクセル全開なんだけど運転席からひっぱり下ろせない?」
『丁重に降りてもらうとするか』
社長はわざわざ運転席ドアまで移動して軽く窓をノックする。
『ノックノックノック、少し聞きたいことがあるんだがおっとこれは大変だ、誰にやられたんだ? すぐに病院に運ばないと!』
鍵が掛かっていたドアハンドルを握り潰しながらドアを開いて強盗犯を掴んで引き摺り出した。
『良いぞ、降ろせ』
位置をずらして歩道にゆっくりとワゴン車を置き、銀行強盗たちも引き摺り下ろしておく。
銀行に用事のあった客だろう、人質たちも車から降りて私たちに頭を下げて礼を言ってくる。
『怪我はないか? そりゃ良かった、助けた甲斐があったよ』
その光景に周囲の野次馬から歓声が上がる、超有名人のヒーローが人質を救って事件解決したので騒いでいる。
私はそれを聞きながらエンジンキーを回してエンジンを停止、キーを引き抜いて運転席に放り投げる。
「この傷じゃすぐに出血死しないだろうけど、一応手当てしときますよ」
手早く縛って出血を抑える、その後ワゴン車の後部に銀行強盗たちを押し込む。
その間にも野次馬たちが挙ってスマホのカメラを向け、アイアンマンと白騎士を撮影する。
この分だと一時間もしないうちにネットに拡散、世界中に白騎士の存在を示すことになるだろう。
予定通り順調に進んでいる、このまま社長と世間にアピールを続けていこう。
出来る限り面倒な事件は起きないでくれよと私は祈った。
陛下の俳優がお亡くなりに、ブラックパンサー2はどうなるんやろなぁ……。