「J.A.R.V.I.S.、悪いけどこれについてちょっと調べてくれない? 飛行し始めていきなり発砲とかおかしいし」
杞憂であればいいけど、その一言でJ.A.R.V.I.S.は束に言われた通りにネットに潜った。
本来であればその言葉を聞き入れることもなく調べなかっただろう。
勿論気まぐれなどでは無く、最も先進的なA.IであるJ.A.R.V.I.S.は合理的な判断で不自然な出来事を調べることにした。
J.A.R.V.I.S.が初めに手をつけたのは原因となったSNS、次々と増えていく動画や画像、細かいテキストまで洗いざらいに精査していく。
そうしてわかったのは新型ヘリキャリアが飛行して、そのうちの一機が何かに向かって発砲していることだけだった。
S.H.I.E.L.D.職員などが内部情報をSNSで上げているわけもなく、数はあれど核心にたどり着くような情報はない。
J.A.R.V.I.S.はこのままSNSで情報を集めても表面を擦るだけで終わる可能性が高いと判断し、よほど重要な情報でなければ提供してくれる人物に通話を掛けた。
『……ヒル副長官、現在飛行している新型ヘリキャリアに問題は発生していませんか?』
『J.A.R.V.I.S.? トニー・スタークもヒドラに気が付いたのね』
『ヒドラとはスティーブ・ロジャースの活躍で壊滅したとされるあの秘密結社ですか?』
『……その言い方だとただ単にヘリキャリアを不審に思っただけのようね』
J.A.R.V.I.S.はその通話を録音しながら、聞こえてくる拳銃の発砲音で大きな問題が発生していると判断した。
『問題が発生しているのですね?』
『ええ、とても大きな問題がね。 ヒドラがS.H.I.E.L.D.に潜り込んで、長い年月を掛けて組織を再興していた。 そしてS.H.I.E.L.D.の計画を乗っ取って、ヒドラが世界を支配するためにヘリキャリアを使って邪魔になる人物の殺害を企てているわ』
『それなら間違いなくトニー様も標的として狙われているでしょう、すぐにトニー様に経緯を伝えます』
『そうしてちょうだい、今は偵察衛星とヘリキャリアをリンクさせないために動いているわ』
J.A.R.V.I.S.はマリア・ヒルから必要な情報を簡潔に聞き取り、通話を切ると同時にトニー・スタークへと話しかける。
『トニー様、今すぐにアーマーを着てください。 危険が迫っています』
「会長としてこの仕事の山より危険な事なんて早々ないだろう? 早く済まさないとペッパーとディナーを楽しめなくなる」
『トニー様が提供したリパルサーエンジンを積んだヘリキャリアがヒドラに乗っ取られました。艦底の機関砲でヒドラの脅威となりうる人物を抹殺しようとしています』
その言葉を聞いてトニーは手を止める。
SNSに上げられているヘリキャリアの動画を再生して、不自然と思われた箇所を説明するJ.A.R.V.I.S.。
「なら僕を狙うのは妥当だな、それよりなぜヒドラが出てきた? キャプテン・アメリカとそのお仲間たちのおかげで70年前に壊滅したはずだろ?」
トニーがそうJ.A.R.V.I.S.に問いかけた時、エレベーターのドアが開いてアイアンマンが現れる。
『70年前、ヒドラはたしかに一度壊滅しました。 ですがS.H.I.E.L.D.の前身、戦略科学予備軍がヒドラの優れた科学力を取り入れるため、ヒドラの科学者を取り込みました』
「その結果がこれか」
J.A.R.V.I.S.が操作し側に降り立ったアイアンマンスーツが開き、トニーは体を預けてスーツを身に纏う。
「優れた技術は魅力的ではあるが、扱う人物によっていくらでも顔を変える。 取り込むのはいいが監視が不十分だったようだな。 J.A.R.V.I.S.、よく気づいてくれた」
アイアンマンのHUDにアベンジャーズタワーからトリスケリオンまでを表示させると、最短距離を最大速度で飛行しても10分近くかかる。
キャプテン・アメリカとそのお仲間たちが事態の収拾に勤しんでいるが、その10分で問題が大きくなって解決不可能になる可能性もある。
そうなる前にここは一つ、少し前に作ってみた道具でも使ってみるかとトニー。
『いいえ、最初に気がついたのはタバネ様です』
「……なに? どういうことだ?」
『SNSでこの映像が投稿された事を不審に思ったようです』
それを聞いたトニーの眉間にシワが寄る。
「いいか、終わった後で僕から話す。 それまで彼女と何も話すな」
『わかりました』
そうしてアイアンマンはアベンジャーズ・タワーから飛び立ち、衛星軌道から降下してきた全長10メートルに近い飛行物体が並走する。
6つの角張った楕円体で出来た傘の骨組みのような飛行物体からアームが伸びてアイアンマンを掴んで中に収納、そして一気に加速してトリスケリオンへと向かった。
連れて行ってくれなくて泣きそう、とでも言えばいいのか。
飛んでいくアイアンマンに、上空から降りてきた細長くてでっかいやつが社長を収納したら超高速でかっ飛んでいったのを見送った後。
ネットに公開されたS.H.I.E.L.D.とヒドラの全情報を開いて私の情報を表示させる。
「ひぇー、こりゃとんでもない」
名前はもちろんのこと、年齢、身長、体重、スリーサイズ、利用しているSNS等々。
性格や思考などの内面や、どこで生まれてどこの学校に入学して卒業したのか。
『読めばわかる! 篠ノ之 束!』みたいな私のことを隅々まで調べ上げた情報が記載されている。
幸いな事にお願いしていたのを聞いてくれたのか、トリスケリオンに居た時の監視映像は綺麗サッパリ消されてあるので助かった。
人類文明が滅びない限り転載されまくって残り続けるデジタルタトゥーになるところであった。
安堵しながらS.H.I.E.L.D.の情報を閉じて今度はヒドラの方を開いてみると。
「こいつらガチでやばい……」
そう呟くほど、ヤバい言葉が沢山載っている。
私の性格分析から始まって白騎士の性能評価や利用価値、拉致から洗脳、幾つか抹殺方法まで載っている。
拉致は色々考慮されたが、トリスケリオンに居た時は私の監視メンバーの中にヒドラ構成員が少なかったため実行されず。
アベンジャーズ・タワーに移った時も全く外出しなかったため拉致計画は頓挫。
私の拉致が出来ないなら両親を拉致して言う事聞かせようとしたが、ニック・フューリーがどこにも居場所の情報を載せてないし探しても見つからなかった。
拉致計画は破棄され、身柄を押さえられないので洗脳も同じく破棄。
じゃあ白騎士の製造方法だけでも調べるも、知っているのは私と社長だけでデータ自体もJ.A.R.V.I.S.と社長謹製セキュリティに守られた社長のプライベートサーバーに保管されててお手上げ。
欲しいものはどれも手に入らず手が出せないとなり、アーニム・ゾラが開発したデータマイニング・アルゴリズムで解析するとトニー・スタークと同様にヒドラに敵対すると判定されて私の抹殺計画が始まる。
基本的に引きこもってるので引きずり出すのは難しく、外に出るのは白騎士を装着している状態なので普通に殺すのは難しい。
ウィンター・ソルジャーを送り込む案も考えられたが、白騎士を着たり私が超人である可能性があるため失敗する可能性のほうが高いと判断されて見送り。
普通に殺すの無理じゃね? しょうがないからインサイト・ヘリキャリア計画でアベンジャーズメンバーと一緒に殺すべって事になって計画実行待ちだった。
私とは関係ない実験記録とか計画とか見ると、人権? なにそれおいしいの? 我々が人類を支配するのを邪魔する奴らはみんな死ね! とか真顔で言ってる狂信者ども。
やっぱヒドラは滅ぼさなきゃ……! と再度心に誓うほどにヤバいのオンパレード。
もう完全に人類の癌細胞になっててどうしようもないなこいつら、一匹見かけたら十匹居るとも言われるゴキブリみたいな状況になってる。
「……あーあ」
ニュースで流れる世界各国にあるS.H.I.E.L.D.支部で巻き起こるヒドラの一斉蜂起を見ながらツイート。
「次の配信は延期、落ち着いたら再度告知します、っと」
万単位で増えていくフォロワーを横目にツイートした。
What If...?、めっちゃ面白かったです。
皆も見よう!