悪ならざる敵   作:百日紅 菫

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幕間/二人の力

 

 さて、私は神守少年と冬神少女にもう一度負ける。すでに終わった話だが、悪に屈しない平和の象徴は、二人の子供に三度負ける。

 けれど、今までの敗北とは決定的に異なる敗北だった。

 一度目は、何も知らずに負けた。

 二度目は、二人の過去を知ってなお負けた。

 敵と対峙するとき、相手の過去を知っている事がカギになることがある。特に、少年犯罪においてはその傾向が顕著に表れる。過去の経験が、現在の個性の扱い方に現れるからね。轟少年は、よく知っていると思う。

 けれど、冬神少女はともかく、神守少年は無個性だ。

 

 でも、ここまでの話を聞いて、君たちも思ったことだろう。

 無個性の子供が、否、個性を持っていたとしても、あまりに強く、大人びていると。

 

 例えば、校長先生のように頭脳が個性ならば、それも納得できる。だが少年は無個性だ。爆豪少年のように爆発できないし、尾白少年のように尻尾が生えていたりしないし、葉隠少女のように透明じゃないし、私のように超パワーでもない。

 少年の過去を知っても、無個性たる少年が強く賢い理由は分からない。

 だからこそ、我々は少年の現状について考察し、戦闘データから少年の身に何が起こっているのかを研究した。目にもとまらぬ速さ。重い刀を扱う技術。人の首を斬り飛ばす力。小学生とは思えない思考と信念。

 その源は何なのか。

 我々は考え、研究し、一つの結論に至った。

 個性因子の存在が発見されて数年。

 個性の発現が人間の進化の形というのであれば、少年のそれは、人間のもう一つの進化の形。大昔から示唆されていた、人間の究極系。

 

 神守少年の脳は覚醒していた。

 所謂、リミッターが外れると言う奴だ。

 

 普段、人間の脳や身体は、無意識にリミッターをかけている。それは意識的に外せるようなものではないし、未熟な脳や体で限界以上の力を扱えば、向かう先は破滅以外ありえない。

 それを神守少年は、自由自在に操れる。

 普段からリミッターを外しっぱなしにするのは身体が保ないだろうし。

 そして、我々が個性を扱い、身体が慣れ、成長していくように、神守少年もリミッターを解除した状態に慣れ、成長していった。

 力を扱う際の負担が減り、少ない力で大きな力を生み出し、頭の回転が速くなっていった。

 それは、個性を扱うヒーローに匹敵する強さになるまで。

 

 もはや彼は、無個性の犯罪者とは言えない程に強くなり過ぎた。

 遺伝子的、生物学的には無個性かもしれない。けれど、その凶悪的なまでの強さ、何をしてでも冬神少女を守らんとする頭脳。ヒーロー、というより自分たち以外の人間に対する容赦のなさ。

 

 敵と呼称するに相応しい存在に、彼は成り果ててしまった。

 

 原則的に、無個性の人間は敵とは呼ばれず、ヒーローの管轄外だ。だが少年の強さは警察では手に負えない。

 そうして、史上でも例を見ない特例措置が発せられた。

 無個性犯罪者、神守優。並びに、共謀している少女、冬神雪を敵と断定する、と。

 対外的には、逃走中に突如として個性が発現した、ある種の特例として処理された。成長してからの個性の発現は基本的にありえないが、ごく少数とはいえ無いわけでもない。

 そして、二人は名実ともに敵として、ヒーローに追われる存在になったのだ。

 

 

 

 

 「冬神少女の体が…!?」

 「ああ。これを見てくれ」

 

 二度目の敗北後、我々は確実に二人を止めるために、警察とヒーローの合同捜査本部を立ち上げた。作戦立案や捜査は警察が、二人の捕獲に30名のプロヒーローと、周囲の警備にサイドキックたちが参加する、近年で最も大きな捜査本部だった。

 

 「前回、二人を追うためにジーニストがパトカーに乗っただろう。その車載カメラにはサーモグラフィで記録する機能も付いていて、何か手掛かりになるものが無いか、一応確認してみたんだ」

 

 パソコンを操作した塚内君が開いたのは、前回の戦闘時の画像だった。右側に私とジーニスト、ミッドナイトが。左側に冬神少女と神守少年がいて、今まさに冬神少女の個性が発動せんとしている場面だ。

 

 「そうしたら、ここ。君の体温の高さはともかくとして、他のジーニストたちと比べても明らかに体温が低い。というか…」

 「体温が無い…?」

 「ああ。体温がマイナスを下回っている。しかも、この腕と脇腹の極一部分だけ」

 

 塚内君が画像を拡大して指さしたのは、冬神少女の腕と脇腹だった。筋肉量や個性故に私の体温は常人より高い。だが、その場に居たジーニストやミッドナイト、神守少年、何より冬神少女のその一部以外の体温に比べ、色が黒に近い青で映されていたのだ。

 

 「専門家にも見てもらったが、この箇所だけ氷になっているそうだ」

 「氷!?人体がか?」

 「ああ。そして、さらに昔の写真を探し、一つの仮説が立った」

 

 新たなウィンドウに表示された画像には、幼い冬神少女が写っていて、服がめくれて右の脇腹が見えていた。

 

 「これは数年前、児童相談所の職員が撮影したものだ。近隣からの電話で雪神家を訪れた時、暴力の痕跡がないか診察したが、そんな痕跡は一切なかった」

 「母親の個性…。幻覚を見せられていたんだな」

 「そうだ。だが、彼女の個性は写真まで騙せない。つまり、彼女の体には、少なくともこの写真から見える範囲は、正常な身体だったんだ」

 「ん?だが、彼女の体の氷は…?」

 「そう。ここからは我々の仮説になる」

 

 冬神少女の個性は、個性因子を媒介に全てを凍らせる個性。

 医者の診断では、彼女の個性に充てられたジーニストとミッドナイトの復帰には最低でも1か月はかかる見込みだ。

 そんな強力過ぎる個性の副作用で、彼女は自身の個性因子さえも凍らせてしまう。その結果、個性の発動範囲分、身体を氷に変化させてしまうのだろう。 

 今まで神守少年が戦っていたこと。冬神少女が個性をほとんど使わなかったこと。使った時の苦しみ様。仮説が正しいと判断するには、あまりに材料が揃い過ぎていた。

  

 「今はまだ、この程度の氷で済んでいる。それは、生まれてからほとんど個性を使っていなかったからだろう」

 「神守少年は、それを知っていたから、あそこまで必死に…」

 「だろうな。しかし、これ以上彼女が個性を使うのであれば、それは命に関わることになる。というより、すでに危険な状態だ。表面だけが氷で覆われているのか。血管や臓器まで氷になってしまっているのか。変化した氷が臓器の役割を果たしているのか、いないのか。彼女の個性の副作用について分からないことが多すぎる」

 「つまり、捕獲の際にはまず第一に冬神少女を気絶させなければならない。それも、戦闘力が図抜けて高い神守少年を抑え、個性の天敵である冬神少女が個性を発動するよりも前に」

 

 それは、正直言って限りなく不可能に近い作戦だった。

 そも、冬神少女の個性は意志一つで発動できる。彼女が捨て身で個性を使う覚悟があるのであれば、我々は何をするでもなく敗北することが確定してしまう。加えて、彼女を守護する神守少年の相手はトップヒーローかつ、速度に特化したヒーローでなければならない。

 あまりにも隙の無い二人。その実力は底知れず、こうして考えている間も進化しているかもしれない。

 

 「…頭が痛いな」

 「ああ。だが、絶対に捕まえなければ」

 

 彼らは、我々の罪そのものなのだから。

 

 

 

 

 

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