再び私達の前に現れた茶色の生物。この幻想郷に導いてくれたあの生物は一体何だろうか。普通なら姿を見た瞬間に逃げ出すが、あの子だけは警戒心を感じず、こちらと遊んでいるようだった。底つきそうな体力を好奇心でカバーしつつ、私とメリーはいつの間にか先程の場所とは少し違う森林に差し掛かっていた。
「また見失ったよ…何だろうねあの子…」
森林にて一度立ち止まり、辺りを見渡した私達。然し先程まで前方を走っていた茶色の生物の姿はいつの間にか居なくなっていた。メリーは息を切らしながら膝に手をやり、疑問の一言を呟く。彼女の言葉に私は答える言葉が見当たらい事とがっかりしたと言う気持ちが先走り、少し黙り込んでいた。このまま迷子になってしまうのだろうか、という不安が頭を過ぎる中、聞こえてきたのは人の声と先程の生物の鳴き声。私はそれを耳にした瞬間にハッとし…
「ね、ねぇメリー!!今、何か人の声が聞こえた!!先程の生物の声も!!」
「え?私には全くだったけど…」
私の言葉に顔を上げずに首を振るメリー。然し私は汗を拭いながら辺りを見渡していると、左の方から何やら草むらをかぎ分けるような音が聞こえ、私はそちらに振り返る。すると私達の目の前に現れたのは、眼鏡を付けた水色の髪をした女性。彼女の両腕に包まれるかのように、私達が探しに探していた茶色の生物の姿がそこにはあり、私は思わず指を差して声を張り上げた。
「え?…あー!?ホントだ!!」
私の声に驚く形でメリーも顔を上げて声を上げる。そして私達の声に反応するかのように、茶色の生物も「ぶぃ!!」と声を上げた。女性は生物の頭を軽く撫でた後に笑みを浮かべながらこちらに近づいてきた。
「やあ。イーブィが少し面倒かけさせたみたいだね。君達、幻想郷に来るのは初めてだろ?」
「え?あ、はい!!」
女性はまるでこちらがどういう経緯でこの世界に入って来たのかを知っているかのように、微笑みながら語りかけて来る。私は驚いて思わず返事してしまったが、そんな私と少し疲れ切っているメリーを見て、女性はクスっと軽く笑った後に…
「コイツ。前も二人、違う世界から人を幻想郷に引き込んでしまったんだ。私もなるべく注意はしているんだが……ひとまず」
「うちに来なよ。君達大分疲れているからさ。そこでゆっくりと語り合おう。ついて来て」
女性は私達が疲れているのを察してくれたのか、自分の自宅に案内してくれると言ってくれた。私とメリーは女性について行く形で、ただついて行く。その中でメリーは私に近寄り、耳打ちでとある事を尋ねて来た。
「ねぇ蓮子。今あの人、イーブィって生物の事を呼んでいたよね?それが名前なのかな…?」
「さあ…自宅で話してくれると思うよ。実際あの人の名前を知らないし…」
そう。私達はまだ女性の名前を聞いていない。淡々と彼女の自宅に案内される手筈にはなったが、一体彼女が何者で誰なのか、全く聞いていないが為に何が何だか分からない状況にある。様々な疑問を抱きながら女性について行く事数分。女性がとある家の前に足を止め、イーブィと呼んでいた生物を地面に下ろす。
「ささ。入ってくれ。今紅茶とかを用意するよ」
眼前に広がるのはちょっと私達の幻想郷のイメージとは違う建物。これが彼女の自宅なのだろう。女性の言葉にただ頷いた私達はついて行く形で建物の中に入る。入り、彼女が電気を付けた瞬間に広がった光景に私達は驚かせられた。何かのデータを作成している装置と本棚にしまってある大量の本。私達が驚きのあまり黙り込んでいると、奥に歩きながら女性が語る。
「今、君達の足元にいるのはイーブィ。ポケットモンスターと呼ばれる生物の一種さ。コイツらが入って来てから、幻想郷もえらく変わってね…」
「イーブィ…」
女性の口からようやくこの生物の名前とその正体が明らかになった。名前はイーブィ。いわゆる幻想郷に入って来たという未知の生物らしい。私達を見上げながらイーブィは軽く鳴くと、そのまま女性の方に走って行く。私達もイーブィに連れられる形で奥に進んでいくと、何やらデータを見つめているイーブィとは違う二匹の黄色の生物の姿が。
「あ、あの…そこにいる二匹は?」
「ん?ああ。左側がワンパチ、私のパートナーで…右側がピカチュウ。コイツはイーブィと同じく弱り切っていた所を保護したんだよ」
黄色と黒色の右側にいるのがピカチュウ、イーブィと同じく保護されたらしい。そしてその隣の犬のような生物がワンパチ。どうやら女性のパートナーらしい。女性は机の上に紅茶を置くと軽く深呼吸した後に、私達の方を見て…
「で。私は河城にとり。元は山に住んでいたんだけど、今はこうしてこの不思議なポケモンと呼ばれる生物の研究をしている。一応河童さ」
「か、河童!?」
にとりと言う名前を聞く前に驚いたのは、彼女が河童だと言う事。よく見ると着ている白衣の後ろから若干、甲羅のような緑色の物が見える。私達は目を疑ったが、彼女が河童と語ってくれたおかげでようやくここが幻想郷だと言う事を実感出来た。私は息を呑み、メリーと共に彼女がいる机の近くに歩み寄る。
「ああ。初めてだろ?ここに来るのは初めてだし、そんな反応になるのは無理ないよ。さて…そこに座ってくれ。外の世界に出回っている幻想郷の本を読んだ事があるのだが…コイツらが入って来てからめっきり状況が変わってな…」
どうやらにとりさんも幻想郷に関する本は読んだ事があるらしい。ポケモンが入って来てからめっきり状況が変わったと話す彼女の言葉が気になり、私達はとりあえず指定された席に腰掛ける。彼女も私達とは反対側の席に腰掛け、一息吐くと…
「状況が変わったってどう言う…」
「コイツらはな。元は違う世界からやって来た生物なんだ。そして一匹、一匹が強力な力を持ってる。どうしても力では敵わなかった妖怪達に、ポケモンを使って対抗する人間があっという間に増えたんだ」
にとりさんはさらに話す。それが文化すらも変えてしまい、いつの間にか今まで見るのが当たり前だった妖精達が、ポケモンに変わってしまったと。そしてポケモンが好き勝手に幻想郷の結界を通り抜けるが為に、私達のような違う世界から幻想郷に入って来る人もかなり増えたと。
「元々、結界によって幻想入り者を防いでいたんだけど。どうもね、コイツらには効かないらしくてね。もうやりたい放題で、変な方向に幻想郷が発展して行ったって訳さ」
「そうだったんですね…」
話しているにとりさんはどこか寂しそうだった。然し、起こってしまった事は仕方ないと今は切り替えているらしい。彼女の話からようやく幻想郷にポケモンなどが妖精より目立っているかと言う事を理解出来たのだが、未だにメリーには気になると言う事があるらしく…
「あの…変な方向に発展したって…具体的にはどんな感じに?」
「ん? ああ。主に遊び方とかそんな感じかな。力を持つ者は弾幕ごっこという弾幕などを使って遊んでいたんだが、ポケモンが入って来てからはポケモン勝負になったのさ。それが発展し過ぎて今はスタジアムなんて場所があるくらいだよ」
幻想郷にポケモンが入ったせいで弾幕勝負や弾幕ごっこと呼ばれる遊びがまるきり無くなったという。彼女が出したスタジアムというワードは今、私達の世界で当たり前となっているワード。それに対して心の中で驚いた私ではあったが、さらにメリーはにとりさんに問いかけ…
「結局ポケモンはどこから…」
「それを調べているって言った方が近いかな。誰が入らせたかどうかなんて、分からないけど…もしかするとポケモン自体の仕業であるかもしれない。何かの異変ではある事は間違いないけど、犯人が分からない。今は少しもどかしい気持ちだよ」
淡々と話すにとりさんの言葉を聞き入る私達。何もかもが分からない状態と話す彼女の目はどこか悲しそうではあったが、その口元は真逆でどことなく楽しそうだった。そして今足元にいるイーブィとピカチュウを引き渡される事になるなんて、今の私達は知らない…
見てくださりありがとうございます。