「はい、副担任の山田真耶です。皆さん、一年間よろしくお願いしますね」
桜が咲き誇る春。私は中学を卒業し、IS操縦者育成学園であるIS学園に入学した。
割り振られたクラスは一年一組であり、あの人が担任のクラスである。
「織斑一夏くん」
「は、はい!!」
入学恒例の自己紹介が行われ、このIS学園で唯一の男性である織斑一夏の自己紹介の番になった。
流石に予想外のことが起こり、流れるままにこの学園に強制入学したため、頭がまだ完全に理解しきれていないらしい。
「いや、あの、そんなに謝らなくても、しますから、自己紹介しますから」
「ほ、本当ですか?」
本当に、変わっていないわね。
私が一夏を再び目にして、最初に思った感想がそうだった。
「新学期早々騒がしいぞ。織斑」
どうやら、運が良かったのか悪かったのか。このクラスの担任である、織斑千冬がやってきたのだ。
一夏も以外な人物の登場に目を疑っているだろう。
「諸君、私が織斑千冬だ。君たち新人を一年で使い物になる操縦者に育てるのが仕事だ。出来ない者は出来るまで指導してやる。逆らってもいいが、私の言うことは聞け。いいな?」
うん。相変わらずの暴君。
十年近くの付き合いだけど、相変わらずですね。
例の事件以降、代表から引退してIS学園の教師をやっていることは知ってはいた。
「……毎年、よくもこれだけ馬鹿者が集まるものだ、感心させられる。それとも私のクラスにだけ集中させてるのか?」
まあ、IS世界大会を二連覇した強者ですもの。それにファンがこの世界中に結構いますから。千冬さん目当てで入学して来る人もチラホラいてもおかしくありませんからね。
「まあいい。織斑、続けろ」
「え? ああ」
予想外の出来事で、流れたと思われた自己紹介が再開される。
「えー、えッと、織斑一夏です。よろしくお願いします」
手始めとしては、普通の自己紹介をする。
そこで一夏はある人物が目に入った。
「あれ?」
そう、私と窓側にいる、篠ノ之箒にだ。
「愛華と箒?」
私のことに気付いたようで、私は軽く手を振る。
「お前は自己紹介も、まともに出来んのか」
一夏は千冬に引っ張たたかれ、ついでに自分が千冬の弟であることをバラしてしまう。
「さあ。ショートホームルームは終わりだ。諸君らにはこれからISの基礎知識を半月で覚えてもらう。その後実習だが基本動作は半月で身体に染み込ませろ。いいか、いいなら返事をしろ。私の言葉には返事をしろ」
「はい!!」
そして、ショートホームルームが終わった。
後ほど、個人での自己紹介がおこなわれたが、一夏は箒に連れていかれ行ってしまったが、次の授業前にはまあギリギリに戻ってくる。
「さて、授業に入る前に再来週に控えているクラス対抗戦に出る代表者を決めないといけない」
IS学園では何回か実戦イベントがある。
つまり、私たちの初めての実戦なのだ。
まあ、当然この中にはいるだろう。
「はーい!! 織斑くんがいいと思います!」
噂をすれば。唯一の男性操縦者を推薦しない者はいないだろう。
最初の推薦に釣られて、一夏の票が増えていく。
「納得できませんわ!!」
おや?
後ろから怒鳴り声が聞こえ、振り返ると一人の生徒が席から立ち上がっていた。
「そのような選出は認められません! 大体、男がクラス代表なんていい恥晒しですわ!」
(確か、イギリス代表候補生のセシリア・オルコットだったかしら?)
私と同じでIS学園に代表候補が入学することは稀にあった。
現在知っているだけで、この学園にはロシア代表と日本候補が在籍している。
幸い、その二人はこのクラスではなかった。
「決闘ですわ!」
「いいだろう。その喧嘩買ってやる」
話がいつの間にか進んでおり、セシリアの決闘を一夏は買っていた。
「とにかく、話はまとまったな。勝負は一週間後の放課後、第三アリーナで行う。それでよいな?」
「「はい!!」」
「それと、神崎」
「はい」
私は何かいやな予感がした。
千冬のその笑顔を見て。
「織斑にISの知識を可能な限り叩き込ませろ」
「……はい。了解です」
全く面倒なことを押し付けられるとは……。
◇
「久しぶりだな。愛華」
「そうね。一夏」
放課後、私たち以外は寮へと帰宅した頃、一夏が声をかけてくる。
例の事件以降から会ってはいなかったが、どうやら元気よくやっていたようだ。
「私がISに関わって以来だから一年半ぶりかな?」
「そうだな」
私が学校に来なくなってからあったことを一夏から聞くと、どうやら鈴が家庭事情で転校してしまったらしい。
「多分、その内に会える気がする」
「そうなのか?」
100%絶対に会う。これは断言してもいい。
だって、あの子今……中国代表候補生だし。それに、一夏のことを……。
「とりあえず、千冬さんからの頼みである以上、この一週間で叩き込ませるわよ」
「お、おう」
ISは女性にしか使えないため、男性である一夏は全く勉強していないとのことで、短い時間の中で必要なことだけを叩き込ませるしか方法がない。
それだけでも、相当の量がある。しかも相手は代表候補生。
「代表候補生と言うだけで、一夏はかなり不利だというのに……」
「なあ? 代表候補生って……なんだ?」
いきなりの爆弾発言に私は言葉を失う。
「一夏……」
「ん?」
「私は、泣いてもいいかしら?」
「はい?」
流石にこれはない。
文字通りの意味すら理解できていないとは、思ってもみなかったのだ。
「は~あ。モンド・グロッソに参加できる選手はどんな人か知っている?」
「強い奴だろ?」
「正確には違うわ。モンド・グロッソに参加できるのは、その国に所属する代表と数人の代表候補生だけなのよ」
モンド・グロッソとは、アラスカ条約に参加している国を中心に行われるIS同士での対戦の世界大会であり。格闘・射撃・近接・飛行など、部門ごとにさまざまな競技に分かれ、各国の代表が競うことになる。各部門の優勝者は「ヴァルキリー」と呼ばれ、総合優勝者には最強の称号「ブリュンヒルデ」が与えられるのだ。
「つまり、代表候補生とは、国家代表の予備群なのよ」
「ほうほう」
「ちなみに、私もこの日本代表候補生なのよ。わかる? この意味」
「おう。わかった。つまり、あのセシリアって子も愛華ぐらい凄い奴って事なんだよな?」
「まあ、今はそれでいいわ」
本当に理解しているのか分からないが、今はそれでいい。
「良かった。織斑くんたち、まだ教室にいたんですね」
「あ、山田先生」
説明が一通りに終わった頃に、山田先生が教室に入ってくる。
どうやら、一夏の寮の部屋割が決まったらしい。
そのカギを渡しに来たようだ。
「1025ね……」
「愛華は?」
「1024よ」
「隣か」
運よく、一夏の部屋の隣になった。
多分、千冬さん辺りがそう調整した可能性がある。
「織斑」
「おう」
教室のドア前に千冬さんがいた。
「本来なら自室以外の部屋での宿泊は禁止されているが……今回は特例として許可してやる」
千冬さんの言う通り、生徒手帳にもそのことについて記載されている。
一週間後の決闘に向けての勉強のために、無理矢理だが私のルームメイトを一時的に交換するらしい。
「わかった」
必要事項を伝え、山田先生たちは退室する。
私たちも、教室ではなく寮でやることにし、私の部屋に向かう。
「そんじゃ、時間が惜しいからちゃちゃっとやるわよ」
そして、その日は徹夜覚悟で私は一夏に試合に必要な部分だけを叩き込む。