大事なのは女性になりきっているわけではなく、勘違いさせていること。
理由は女尊男卑のおかげで男性から声をかけてくる人が少なくなってきてるから。
逆に妬みで女性に絡まれることが多くなったのでプラマイは微妙な感じかも知れない
社会復帰の第一歩、とりあえず図書館からでて事務の仕事を手伝おう、とのことらしい。翌日連れ出された僕は初めて教師や事務員の人達と顔を合わせて、彼らをたいそう驚かせた。予想通りというかやはり大半が司書の存在すら知らない人達ばかりであった。この国際的なIS学園という中でもこの銀髪は珍しいらしく、女性にたいそう羨ましがられたが、できることならば交換してあげたいくらいだ。
それからというもの、ごくごくたまにではあるがほかの事務員の手伝いをしている。主に調べ物や授業に使う資料集めなど、図書館を有効活用できることが大半だ。こちらとしてもそれくらいならば大した手間でもないし、研究の合間の気分転換になってちょうどいい。
だが僕は今空港に来ている。なぜかといえばとある人物の出迎えだ。この時期に中国からIS学園に転校してくるらしく、それも専用機持ちの代表候補生、名前は凰鈴音。本来ならば二組の担任か副担任が迎えに行くのが定例なのだが、急な転入と来るべきクラス対抗戦の準備で手が回らないらしい。そして予定外の戦力である僕がお迎えに選ばれたというわけだ。
久々の食料調達以外の外出、普段着ている服よりも少しだけいいものを身にまとい図書館を出た。もちろんどちらとも取れるユニセックスで全身を固めている。そして髪を結い帽子を被って銀髪を少しでも目立たないようにするのはもはや必然だった。まぁ完全な男物を来ていても男装と疑われることのほうが多かったりするのだけれど。
時間は授業中だったので外に出る際に守衛さんと挨拶をしたくらい、でもたいそう驚かれたのは地味にショックだった。普段外に出るときは見つからないようにこっそりとだからまぁ致し方ないことだ。
ISの登場で街は大きく様変わりしている。それは技術的にもだし社会的にもだ。ISの技術を応用した芸術的な建物や乗り物が華やかさを醸し出し、女性をターゲットにした店が増加、エステなどの美容系統やファッション系の店舗が立ち並ぶ。歩いている女性にも自信のようなものが伺えるし、逆に男性は居心地が悪そうに見える。
もちろんそんな中を歩いている僕も居心地が悪い。駅にまで行くのに男性3人、女性8人に話しかけられた。男性には自分が男だと、女性には自分は女だと話して追い払うのが通例なのだが、最近はそれでもいいという猛者が続出して困る。そして電車にのってようやく一安心と思ったのだがそうはいかないようであった。
「ちょっと、あなたみたいな可愛い子がそっちに乗っちゃダメだよ」
男女共用車両に乗り込もうとした僕の手を掴む女性。腰にまで届くツヤのある黒髪、大きな瞳に整った顔、服装は動きやすさを重視したももで背は僕よりも少し高い。そしてはっきりとした物言いはちょっと姉御っぽい。
「えっと、何が問題なのでしょうか?」
「だから、あなたみたいな可愛い子が男がいる車両に乗ったら何されるかわからないの。あれ、もしかして箱入り?真性のお嬢様だったり?」
女性車両というものは以前から存在していたが女尊男卑後は極端化してしまう。10両中2両くらいであったものが5両に、そしてついには女性専用電車というものすら運行している。加速する男性の電車離れ、そしてある出来事が世の中の男性を恐怖の渦に叩き込んだ。それは痴漢冤罪だ。ほぼ100%の有罪率、この人痴漢ですと指さされた時点で既にアウト。そんな状態なのが今の電車という乗り物。自然と男女共用車両はほぼ男性車両と行っても過言ではないものとなっている。
確かにそんなところに一人乗り込もうとする女性がいれば、世間知らずのお嬢様か物好きな人間の二種類くらいであろう。僕が女性の立場であったらもしかしたら止めていたかもしれない。
「いえ、大丈夫です」
「大丈夫なわけ無いでしょ!ほら、馬鹿言ってないでこっちに来なさいっ!」
無理やり掴まれたては離されず、思った以上に強い力で引っ張られていく。向かう先は当然女性専用車両、僕は渋々付き従う。ここで無理やり逃げてもおかしな乗客として注目を浴びてしまうだろう。女性専用車両に乗るのに何かしら検査があるわけじゃない。ただ普段通りにしていれば何も問題はない、ことに問題あるんだけど。
「あなた危なっかしいなぁ。どこ行くか知らないけど大丈夫?」
「はい。何度かいったこともありますし問題ありません」
そのまま一緒に乗り込んだ彼女は、心配そうに僕の顔を覗き込んだ。顔が近い、こんなに近づかれたのは束くらいなものだ。少しだけ恥ずかしさとともに恐怖を感じる。
「あのすみません、もう少し離れてもらえると」
「え、あ、ごめんごめん。可愛かったからつい。もったいないよ、帽子深くかぶって顔隠しちゃ」
「すみません。恥ずかしがりやなもので」
恥ずかしそうに見えるように自然にわざと俯く。これ以上向こうも無理に言うつもりはないらしい。強引な性格だと思ったが、変なところで気遣いできるのはこちらとしては助かる。それに常識的に考えれば先程のは明らかに僕の落ち度だ。こんなことなら車を使えば良かった。
「うーん、でもほんとちょっと心配かな。私今空いてるし、よかったら行き先まで送ってあげようか?」
「いえ、流石に悪いですし」
「悪くない、私が心配なの。うん、決めた。無理矢理にでも私が送ってってあげる」
僕の意見も聞かずに強引に決められてしまう。これはもう何を言っても無駄かもしれない。どうせそこまで長距離でもないし、追い払うよりかはそのまま送ってもらったほうがいいかもしれない。虫除けにもなるし。
「そこまで言っていただけるのならお願いします」
「よっし。私は七々原、七々原薫子」
「私は御門、御門千早と申します」
どうせ大した付き合いになるわけがない、そうタカをくくっていた僕は後にしっかりと痛い目に遭うのであった。
「うわー、千早さんすごい人じゃん。まさかIS学園司書とか」
「私がすごいわけじゃないので、胸を張って言えることじゃないんですけどね」
あの後無事に空港までたどり着けた僕たちは、世間話に花を咲かせていた。短い間ながらこの七々原さんは多少強引であるが誠実な人だというのがわかった。人間不信である僕がつい歓談してしまうほどの、である。ついつい今の自分の身の上を喋ってしまうほど、もちろん性別のこととかは隠して、親しくなれるような相手は初めてといっていい。
「でもいいなー。今年は男性操縦者が一人見つかったって大騒ぎしてたよね。たしかその子も在籍してるんじゃなかった?」
「ええいらっしゃいますよ。残念ながらまだ私はあったことがありませんが、騒ぎに反してあまり本人の情報が出回らなかったみたいですね」
「うんうん、ブリュンヒルデの弟ってことで多少情報統制?ってやつがされてたみたい。それに大々的に顔出ししたら危ないもんね。過激派っていう人たちに狙われたりとか」
「七々原さんは、そのへん思うところがなさそうですね」
「そりゃね。私は適正ないからどっちにしろ乗れないし。それに男が偉いとか女のほうがすごいとかどーでもいいかな。本人が凄ければせーべつなんか、ね」
そう言って彼女は空を見上げた。世間は今までの鬱憤を晴らすかのように女尊男卑を謳っているのに、はっきりとそう言える彼女はすごいとしか言いようがない。僕はその男尊女卑を上手く利用しているので世間的に言えば完全に悪い人なんだけど。
そう言ってる間に、徐々に飛行機の予定到着時刻が近づいてきた。そして予想通りコアの反応。登録名《甲龍》中国の第三世代、凰鈴音の専用機。そしてそれに付随してもう一つ《玄武》の反応も共に。ISと搭乗者をセットで送ってくるとは、中国もやることがなかなか大胆である。《玄武》は恐らく護衛であろう。
「ん、きたみたいです」
「そっか、じゃあここでお別れかな」
七々原さんはそっと手を出してきた。僕は少しだけためらって、その手を掴む。
「また、会えたらいいな」
「そうですね。私もぜひ会いたいと思います」
「ならアドレス交換しておく?」
「ですね。仕事上なかなか返事ができないかもしれませんがそれでもよければ」
10件にも満たないアドレス帳に新しく追加された”七々原薫子”の文字。面倒な仕事がまだ残っているけれど、それでもこの出会いがあったなら図書室から無理やり連れ出されたのも悪くなかったと思えるかも知れない。
「では次の機会にはゆっくりお茶でもしましょう」
「だね、またね」
あ、もちろん僕が男だってことは言っていない。
手を振って七原さんと別れたあと、それなりに待たされることとなった。流石に国内にISを持ち込むには様々な手続きが必要らしい。それもその筈、ある意味核兵器を持ち込まれるのと同義なのだから仕方がない。
「あー疲れたァ。めんどくさいったらありゃしないわ」
「ご苦労様です」
「ひゃぁ!」
空港の備え付けの大型ソファーに倒れ込んだ凰さんに声をかける。なぜ驚かれたのかはさっぱりわからないが。
「あ、あなたがIS学園のお迎え?」
「ええその通りです。IS学園の司書を務める御門です。お迎えに上がりました」
「・・・なんで司書が?」
「学園もなかなか忙しいみたいですよ。なので私まで駆り出されることになりまして。もしかしてブリュンヒルデが来るんじゃないかって期待させてしまいましたか?でしたら申し訳ありません」
「ち、違うわよ。確かに一夏が来たらどうしようとか思ってたけど。別に期待なんかしてないわっ」
顔を真っ赤にして否定する凰さん。そしてつい口から出たであろう一夏という名前。苗字の織斑、ではなく一夏と呼んだということはそれなりに親しい関係、恋人という可能性もあり得るのではないだろうか。だとするとなかなか学園が面白いことになりそうだ。修羅場的な意味で。
「そうですか。一夏くんでしたら毎日女の子を侍らせているらしいですよ。なんでもイギリスの代表候補生を誑し込んだとか、司書の私の耳にも・・・」
「っ!?」
「!?」
煽りすぎた。今一瞬この娘ISを起動させようとした。こんなところで起動させたら怒られるだけでは済まされないのに、知っててやったのかそれとも衝動的にか。とりあえずあったことないけどすみません一夏君、きみ、死ぬかもしれません。
「うふっ、うふふふふ。いーちかぁ、覚えてらっしゃい」
「ぜひ本人に言ってあげてください」
煽るだけ煽っておいて逃げに徹する僕は悪くないっ、悪くないはずっ・・・今頃IS学園で授業を受けているであろう織斑一夏にエールを送る。ただ一言頑張れとだけだけれど。
「ではさっさと行きましょう。荷物はそれだけですか?」
「ええ、必要なものは現地で買い揃えるから大丈夫よ」
凰さんはボストンバックをポンポンと叩いた。女性なのに荷物が少なすぎる、と思ってしまったのは偏見からか。フットワークが軽いのはいいけど流石にこれは軽すぎるだろう。
「よければもちましょうか?」
「いいわよ。人に持たせるなんて主義じゃないし。それにあなたみたいにか弱そうな人に持たせるなんてこっちが悪いことしているような気になっちゃう。これでも代表候補生なんだからそれなりに力あるし」
気を利かせたつもりだったが、逆に気を使わせていたみたいだった。一応こちらとしては男だし、腕力で自分よりも年下の少女に負けるとは思わないけど、それでいいならこちらとしても甘えておこう。あと今後はそういった方面に対しても気を使っておかなければいけないかもしれない。一応意図的に女性と勘違いさせているわけだし、そこまで考えていなかった。
「そんなにか弱そうに見えますか?」
「初対面の人にこう言っちゃアレなんだけど、背は高いけど華奢だし雰囲気が小動物系というか。それに人の顔色伺いすぎよ、何をそんなに怖がってるか知らないけど」
なんとなく聞いた返事は、最初に会った時とは逆に今度は僕が驚かされる番であった。自分としてはそんなつもりはなかったが、この凰さんにはそう見えたらしい。凰さんが鋭いのか、僕の仮面が緩んでいたのか。できれば後者であってほしい。
「すごいですね、凰さんは。はっきりと人に言えるところ含めて」
僕の賞賛は彼女に耳に届くことはなかった。それよりも劈くような悲鳴が上がった為に。
「な、なに?!」
「・・・どうやらあちらの方から、のようですね」
悲鳴の方からひとりの男が駆け出してくるのが見える。帽子にサングラス、マスクといかにも怪しげな格好。手には明らかに不相応といえる鞄。
「ど、泥棒!誰か捕まえなさい!ほらそこの男、ボケっとしてないで私の鞄を取り返すために走りなさいよ!」
男のさらに後ろからわめきたてる女性は尻餅をついているものの高圧的な口調で叫ぶ。典型的なIS登場後の女尊男卑で成り上がった女性、と言ってもいいかもしれない。あそこまでいくと女性からもあまりいい顔しないかもしれない。
「なるほど」
「わっかりやすいわね。でもわざわざこんなところで泥棒なんてしなくてもいいのに」
凰さんの言うとおり、ここは空港という一般の場所よりもセキュリティのレベルが高く設定されている。常時警備は見回りもしているし、人も絶えないし、なにより犯罪に対する対応力が段違いだ。テロリストなどを想定している警備があの程度を捕まえるのにわけ無いだろう。
「で、こっちに向かってきてるわね」
「そうですね。あまり関わり合いにならない方がいいでしょう。避けますよ」
だが凰さんの顔は明らかに戦意が満ちていたというか、嬉々として男の辿るであろうルートに立ちふさがる。
「ちょっと凰さん!?」
「市民の平和を守るもの、代表候補生のお仕事よっ」
「憂さ晴らしに悪を討つ、のまちがいじゃないですか?」
明らかに過大解釈、逸脱行為だ。止めるべきだろうか、しかし悩んでいるまもなく犯人の男はもう目前まで迫ってきていた。
「てめぇ、小娘どけぇっ」
「うっさい!」
勢いに任せて突破しようとした男の胸元に素早く入り、そのまま勢いを利用した一本背負い。小柄な凰さんの体格であの相手を投げ飛ばそうとするなら、よほどの技術と度胸が必要だろう。
「ふん、まぁまぁね」
「おー」
凰さんにとっては多少納得がいくものだったらしい。痛みに悶絶している犯人をよそに投げ飛ばした勢いで飛んでいったカバンを拾いに行った。ここは畳の上でもなければマットが敷いてあるわけでもないただの空港の通路、勢いもあったし相当痛かっただろう。
「あんまり無茶なこととしないでくださいね。一応私はあなたをIS学園に連れて行く仕事があるんですから」
「あ、そうだったわね。ごめんごめん」
僕は凰さんを注意しながら犯人の手を蹴り飛ばす。勢いよく弾かれた小振りのナイフは地面を滑りながら壁にあたり勢いを止めた。
「流石に刃物は駄目ですよ。もう警備の人がきますから、諦めてください」
蹴られた手を抑えながら殺意を込めて睨みつけてくる犯人は慌ててやってきた警備の者によってあえなく拘束された。なにやら騒ぎ立てているが一切シャットダウンする。あれくらい人から怒鳴り散らされるのは慣れきっている。だからといっていつまでも聞いていたいほど好きなものではなかったが。
「へぇ、か弱そうなんて言ってごめんね。やるじゃないあなたも」
「たまたまですよ」
そう、たまたま懐からナイフを取り出したのが見えただけ。犯人がこちらに来るまでに何度も懐に視線を向けたり空いた手で触っていたのを見て隠し玉があると気づいただけのこと。顔色を伺う、人を観察している僕にとってはそれほど特別なことじゃない。
警備の人がお礼を言いにやってきた。ちょっとお話を、と言われた瞬間凰さんの横顔が明らかに嫌がったのが見てとれた。
「あー、ようやく解放されたわ」
「ほぼ自業自得です」
あれから数時間捕まった僕らはようやくIS学園にたどり着くことができた。結局今回の件はIS学園にもばれ、僕はこのあとお叱りを受けることになる。
関わって良かったことは、凰さんの気が晴れたことと送迎してもらえてくらいだ。
「職員室はこっちです」
手続きを済ませ警備の人に軽く会釈し、門を通り抜ける。織斑先生とかならば顔パスで通り抜けることができるらしいが、まだ顔出しして日が浅い僕には流石にそんなことはできない。
「へー、さすが綺麗ね。あの、それで一夏はどこのクラスなの?」
「1年1組ですよ。凰さんがそこに入れるかは残念ながら私の管轄じゃないので知りません」
「なによ、まだ怒ってるの?さっき謝ったじゃない」
「別にもう怒ってませんよ。私は怒られる側ですから」
「怒ってるじゃん・・・」
ブツブツ何やら言い続ける彼女を無視し歩き出す。勝手な行動して巻き込まれた自分にはこれくらいは言う権利があるだろう。まぁ止められなかったのも事実だから説教は甘んじて受けるつもりだけど。逆ギレしてきた彼女をなだめ、職員室までの道のりを歩くついでに施設の説明を行っていく。まだ授業中だからか生徒も歩いていない。特に問題もなく職員室までたどり着いた。
「失礼します」
ノック後扉を開けた。ちょうど二組の担任は自分のデスクで書類と格闘中のようだ。
「凰さんをお連れしました」
「お、ありがと。なんか色々と大変だったみたいだね。悪かったね押し付けちゃって」
「いえ、これもお仕事ですから。凰さん、彼女が二組の担任を勤めている柊先生です。あなたの担任ですよ」
「・・・初めまして、中国代表候補生の凰鈴音です。よろしくお願いします」
一瞬ものすごい形相で睨まれた。そこから読み取れるのは『やっぱ知ってたんじゃない』といったところだろうか。素知らぬ顔で僕はこの場を逃げ出すことにした。
「では私は失礼します。凰さん、良い学園生活を」
「ありがとうございます。御門さんにも必ずお礼に行きますね」
互いに社交辞令を塗りたくって微笑み合う。
このあと僕はブリュンヒルデに盛大に叱られた。より図書室に引きこもった僕は絶対に悪くない。
「あ、また起動した」
もう幾度となく現れる反応、《甲龍》が訓練場以外の場所で起動されている。具体的に言うと1年1組のクラスとか、織斑一夏の部屋で、だ。一応学園の敷地内とは言え勝手に起動していいものではないはずなのだが学園の締めつけが緩いのか、はたまた凰さんが懲りていないのか。ただ言えるのは被害者である織斑一夏に合掌、である。
「あの中国娘じゃまだよねー。いっくんと箒ちゃんの邪魔ばっかしてさ」
「だからといって手を出したら、織斑先生に殺されますよ」
「ちーちゃんは容赦ないからねぇ・・・」
束にも僕と同様なにかしらトラウマがあるのだろう、顔を青ざめさせていた。
「いやぁしかし千早ちゃんの手料理は美味しいねぇ」
「でしょう。わざわざ用意したんです。もっと感謝してください」
「うん感謝してる。でも、でもね!まさかシーフードラーメンINミルクを本当に出されるとは思わなかったよ。束さんびっくりだね!しかも、インスタントじゃなくて麺から手打ち?!努力の方向性がおかしい!」
「それ、束にだけは言われたくないです」
カッとなってやってしまったが、予想通りの反応で頑張ったかいがあったというものだ。わざわざ時間をかけて研究に研究を重ねてこの為に作ったのだ、驚いてくれなきゃむしろ困る。
「んで今日はどうしたんですか?」
「千早ちゃんがちーちゃんに叱られたと聞いて!」
「帰れ!」
「しどい!」
どうでもいいことだった!というかその情報はどこから仕入れてきたのか。もしやこのIS学園に情報収集用になにかしら機械を放っているのではなかろうか。こう易々と警備をかいくぐって図書室まで来ていることといい、それくらい簡単にやってのけるのが想像できる。
「それで本当の用事はなんですか?」
面倒なのでさっさと本題を促す。当の本人は先程まで地団駄を踏んでいたがその一言であっさりと切り替える。
「あのねあのね、無人機が無事完成しました~ぶいぶい!この短期間であっさりと作っちゃったんだからさすがは束さんだよね!」
「なるほど。ということ近いうちに襲いに来るということですね」
「だいせいかい!もうすぐクラス対抗戦とやらがあるらしいから、そこでお披露目するよ~。いっくんがどれくらい強くなったか楽しみだねっ」
さらっと相当ひどいことを言っていることを全然気にもとめていないこの天災。手渡された仕様書を見ると競技用ISをはるかに凌駕するスペックだ。いくら切り札があるとは言えまだ稼働させてから間もない織斑一夏が対処できるとは思えない。
「死ぬんじゃないですか、これ」
「はっはっは。いっくんはちーちゃんの弟だよ?」
普通ならだからなんだと思うだろう。いくら姉がブリュンヒルデでも姉は姉、弟は弟。でもこの天災から見れば全然違うらしく、織斑一夏が死ぬとか微塵も考えていないらしい。
「まぁ僕には無関係ですから。一応手加減はしてあげてくださいよ。人死はごめんです」
「もっちろんだよ。束さんは誰が死のうがどうでもいいけどちーちゃんたちが悲しむのは見たくないからね」
さすがマッドサイエンティストは言うことが違う。
「まぁ千早ちゃんも無関係じゃないんだけどね」
「それは困りますね」
入れておいた紅茶を一口飲む。やはり正しい手順を踏んで入れたものは別物と言っても過言ではない。それだけお金も手間暇もかかるが、かけた分元が取れてるような気がする。まぁ普段はネットで大量購入した安物のペットボトルなんかを飲んでいる人間がいうようなセリフではないだろうけど。
僕がこれほど余裕ぶれるには訳がある。『IS』に関して言えば確実に先手を打てるからだ。
「そうそう、あとねあとね。今日は千早ちゃんにプレゼントがあるのだ!」
「プレゼントですか。嫌な予感しかしませんが一応なんですかと聞きましょう」
「じゃっじゃーん!ふりふりごすろ」
「アホか!」
わざわざ量子化して持ってきたものがゴスロリとか様々な方面に喧嘩売りまくってるこの天災。僕のチョップにもめげずに次々といろいろな女物を取り出す束に一つ一つツッコミを入れるのは正直しんどかった。それほど僕に一線を越えて欲しいのだろうか。
最終的に脅迫された。
まともに出てこないISはいつになったら出せるのだろうか