性別:千早
基本は原作通り。違うのは聖應女学院にはいかず父親の命令で当時突如出現したISの研究に没頭していたこと。束とはその過程で知り合った。
相変わらずのハイスペックは健在、というよりも孤高を貫いた結果よりグレードが上がった。
現在は社会情勢により失脚した父親の呪縛から逃れIS学園に。研究はこっとり続けている様子。
ちなみに専属メイドである史ちゃんはIS適性がなかったため付いてこれなかった。
『白銀(ぎん)の姫君』
ここ数日聞く名詞。私が日本に帰ってきたときに迎えに来た司書はIS学園ではそう噂されているらしい。確かにか弱そうで女性の私から見ても可愛らしい女性だとは思うけれど、姫君なんて呼ばれるような高貴さは感じなかった。その自慢の銀髪も帽子に隠れてほとんどわからなかったし。雰囲気だけ見ればどちらかというと『可愛すぎる保母さん』とかそういった柔らかいイメージだ。まぁあの挙動不審というかオドオドとした感じはお姫様の一種と言われればないとも言えないけれど。
「鈴音はいいよねー。織斑君と幼馴染だし、なにより千冬様と知り合いだし!」
「はいはいわかったから。そんなに顔を近づけるなー」
ドアップのクラスメイトの顔を押しのける。転入してからというものこういった輩が多いこと多いこと。でもこれはこれで悪い気分ではない。世界にただ一人の男性操縦者と世界最強の称号《ヴァルキュリー》の称号とお近づきになりたい人間なんて山のようにいる。その二人共と親しくしているのだ、優越感に緩む頬をたまに抑えきれない時があるのは仕方ない。
「それにしても先生遅いね。何かあったのかな?」
「どうせまーた仕事たまって動けないんでしょ?あの先生私が来た時も仕事抱えすぎて迎えに来なかったらしいし、よくここの教師に採用されたわよね」
エリートが集まるこの学園は必然として教師のレベルも高い。織斑先生を筆頭に各分野のトップクラスが集まっている、がその分変人も多いのが難点と言えるかもしれない。そういえばあの司書もここにいるんだっけ、あの日以来あっていなけれど。
がらっと扉の開ける音が背後で響いた。エリートといっても今時の少女たちが多いこの教室、直前まで騒がしかったが突然しんと静まり返る。
「お待たせしました、席に着いてください」
はっきりと耳に届く声、大きくも力強くもないのに声だけで存在感を表せるような、あれ、どこかで聞いたことあるような。後ろを向いてクラスメイトと話していた私は振り返る。
「・・・はっ!?」
一瞬誰かわからなかったけれど、背の高さ、足の細さ、そして整った顔に髪型は全然違うが見覚えのある透き通るような銀髪。そう、あの時の司書がいた。
・・・ただし服装はメイド服であった。
教室は混乱の渦にあった。実は結構非常識なIS学園とは言えメイドが教壇に立つということ自体意味不明である。しかも本当にただのメイドかといえばおそらく異なる。なんというかメイドにはありえない気品というものを感じてしまうのだ。どこか高貴なご令嬢が戯れにメイド服を着た、そんな妄想を抱かせるような似合っているのに似合っていないという矛盾をはらんでいるのである。
「担任の柊先生は手が離せないそうで、この時間は自習とするそうです。では各自始めてください」
自習、と黒板に書き終えるとそのまま教師用の席に着き、どこから出したのかわからないが本を読み始めた。その姿もやけに様になっていてクラスは思わず固唾を呑んで見守ってしまう。メイド服だけど。
しかしクラスの一人、元クラス代表が意を決して話しかけた。
「あ、あの。どちら様でしょうか・・・?」
「御門と申します。普段は図書館の司書をしているのですが、今日はヘルプでこちらにまいりました」
やはりあの時の御門さんで間違いないらしい。あまりにもあの時とはかけ離れすぎて、まるで別人のようだ。噂通りの美しい銀髪、見惚れるような佇まい、はっきりと聞こえ、どこか落ち着くようななめらかな声、大らかで優しげな笑み。
メイド服ではなくドレスでも来ていれば『白銀(ぎん)の姫君』と言われても申し分がなかった。
ざわつく周囲、あちこちで小声での会話が飛び交う。噂の実物を見て、興奮冷めやらぬ様子だった。
「わ、わっ。あの人だよね、噂の『白銀(ぎん)の姫君』。うわー、まさか本人がご登場だなんてび、びっくしだよね。それにすごい美人!」
「ああもう、ちょっと黙って!考えがまとまらないじゃないっ」
目の前まで詰め寄ってきた友人の顔を押しのける。当の噂されている本人は少し困ったような笑みを浮かべ、周りを見渡している。
「皆さん、あまりうるさく言いたくはありませんが今は一応授業中なのでお静かにお願いします」
そういったものの静かになる様子はない。このあと御門さんが質問攻めにあうまでには対して時間はかからなかった。
なにこの罰ゲーム。たった一日限りのメイド仕様。
机に無造作に置かれたその服を見てもはや何も言うことができない。束が示した妥協点、それがなぜか今目の前にあるメイド服だ。手元には『束さんより愛をこめて♪』なんて今時手紙なんかが添えてあるのが余計に腹が立つ。
だがこれを受ける他選択肢がなかった。ナース、スチュワーデス、セーラー服、一体束は目指しているのかわからない。それにメイド服ならばまだ実家に居た使用人の姿で見慣れていたため、違和感はそれほどない。自分が着る未来なんて全く想像もしていなかったが。
「うひひっ、千早ちゃんも物好きよのぅ」
なんかいかにもという笑いをしたのでどついておいた。地面に転がりのたうち回る情けない姿、これが天災である。
慣れたいとも思わないスカート、たくさんのフリルとひらひらが僕の心をガリガリと削り取っていく。鏡で見た自分の姿はまったくもって違和感を感じ得ないものとなっており、それが余計に落ち込む原因となる。メイドとは元々欧州の文化、この銀髪がより一層映える。
「千早ちゃんの銀髪にすごいよく似合うね!ナイス束さんちょいす!やばい、これはやばい。思わず家に飾っちゃいたいくらいだね。どうどう千早ちゃん、剥製になってお持ち帰りされてくれないかな!?」
恐ろしいことを告げた天災はわざわざ朝からやってきて、僕にメイクまで施してご満悦だ。自分のことは普段から適当なくせにやればできるところが非常にムカつく。僕にお盆を手渡し、ポーズポーズと満面の笑みでカメラを構えている束の頭に、容赦なくお盆の一撃を叩き込んだ。
そしてステルスで見張ろうとする束を追い出し、図書室にて誰も来ないことを祈るがやはりそうは問屋が卸さなかった。先日の2組の先生がまたしても急用で今度は授業に出られないらしい。その間自習になるわけだが監督の先生がいないとのことで僕に話が回ってきたようだ。なぜ今日という日に限って忙しいのか、束が裏でなにかしているんじゃないかと疑ってしまう。
「2組は比較的お淑やかだから。・・・1組と比べてだけど」
なにやら不穏なことを聞かされたような気がするが致し方ない。というかこのメイド服姿の僕を見ても特に驚きの声を上げていなかったこの柊さんは一体何者なのだろうか。あろう事かあのブリュンヒルデすら絶句していたというのに。その後無言の圧力と軽蔑の眼差しを浴びせられたのだが、原因はあなたの親友なんですよとはっきりと言ってやりたかった。
そして授業開始を見計らい職員室をでる。多少遅れたものの誰にも合わず2組の教室までこれたのは上出来だといえよう。そういえば凰さんも2組だったか。
開けた扉、注がれる視線。見た目ゆえに見られることには慣れているが、それでも好き好むようなたぐいではない。というか嫌だから引きこもっていたわけで。
内心でため息をつきつつ、僕の登場で空気の固まった教室内へと突き進む。
「お待たせしました、席に着いてください」
一部の者に対して述べた言葉。唖然としていた人たちは慌てて席に着く。僕の声に反応してか振り返った凰さんを発見、案の定固まった。僕でもきっとそうなるから仕方ない。
「担任の柊先生は手が離せないそうで、この時間は自習とするそうです。では各自始めてください」
手にとったチョークで黒板に自習と書き殴る。チョークなんて触るのも久々で手についた粉が少しだけ昔の嫌な思い出を蘇らせる。よくよく考えると僕は学校にいい思い出なんてないのによくここにいられるなぁと少しだけ自虐になって笑ってしまった。
目に付いた教師用の椅子に座り、読みかけだった小説を取り出す。流石にこんなところで研究の資料を取り出すのは躊躇われた。だからといって小説を読むのもどうかと思うけど、まぁこれくらい大目に見てもらいたい。
だけどそんな気楽さはひとりの少女が質問を始めたところから一転、少女たちの好奇心というため息をつきたくなるような理由で遥か彼方へと突き飛ばされた。
ギリギリのところでチャイムが鳴り出す前に脱出を果たした僕は、ひっそりと誰にも見つからないことを祈りつつ、図書室へと逃げるように帰っていった。ちなみにこの格好のことについては質問されたが、性別については全くのノータッチであったことについて記しておく。果たしてそれはいいことなのか悪いことなのか、とりあえず言えることは、女性の格好をしていれば疑われる心配はないらしい。
「で、次はなんのいじめですか?」
「いじめとは心外だな。これは仕事だ、ちゃんと全うするべきことだろう」
図書室で心を落ち着けていた僕に追い打ちをかけるようにやってきたのは織斑千冬。いつもどおりビシッとスーツで決めてきた女傑は今でもメイド服でいる僕に冷たい視線を送る。彼女は手に持っていたものをドサりと僕がいた机に置いた。
「これを生徒会室に持って行ってくれ」
「これを・・・ですか?」
「ああ、これ全部だ」
この人は何を言ってるのだろう。。目の前にはには高く積み上がった書類の山。この時代に紙媒体だなんていやがらせとしか思えない。資源の無駄にも程があるだろう。そしてなにより彼女は職員室からこの書類の山をこの図書室まで持ってきたのだ。明らかに生徒会室よりも遠いのに。
「なんだ、その目は」
「いえ、なんでもありません」
こちらの非難するような視線に気づいたのかまるで一昔前の不良のような言葉で僕を脅すように睨みつける。この人は僕をなぜここまで目の敵にするのだろう。とりあえず今は大人しく引き下がるしかない。
「ほう、引きこもりにしては意外と力があるのだな」
その顔は純粋な感心というのが見て取れるのだが、その言い方がいかにも嫌味に聞こえるのは僕の性格がひねくれているからだろうか。
「一応司書ですから、本を整理していればこれくらいはできるようになります。それにあまり引きこもりに偏見を持たない方がよろしいかと。人それぞれ事情がありますし、私の知り合いにはオンボロ長屋で延々と筋トレを行う元売れっ子プログラマーの引きこもりという方もいらっしゃいますよ」
「・・・その切り返しの意味は分からないが、それはすまなかった」
「いえ、こちらこそすみません」
案外素直に謝られ逆にこちらが恐縮してしまう。束の親友なだけあってもっと唯我独尊の人かと思ったが、意外といい人かも知れない。ただ固いというか融通が利かないというか、体育会系気質なのだろうか。ドイツでISの教官をしていたというし、鬼教官と生徒の間で呼ばれているだけのことはある。ただその人を殺しそうな目つきを僕の方に向けるのはやめてほしい。
「ではさっさといけ。生徒会室に更識がいるはずだ」
そう言って彼女は出て行った。しかし何故彼女は命令口調なのだろう。彼女は僕の上司でもないし直接命令できる権利などないはずなのに。疑問符を浮かべながらも生徒会室に向かう。こうやってなんだかんだ言いながらも拒否できないのは悪い癖だ。
授業が終わり生徒たちが続々と教室から出ていく風景を眺めながら生徒会室までの道のりを行く。幸い方向が逆のため生徒たちとあまり鉢合わせにならずに済んだが、それでもすべてを回避できるはずもなくすれ違いざまにジロジロと見られる。僕としては平静を保てたと思うが、途中でチラリと見えた窓に反射した顔はほんのりと赤く染まっていた。またこれが下手に噂にならなければ良いのだけれど。
「どうぞ」
「失礼します」
ようやくたどり着いた生徒会室、ノックの後に部屋に入ると既に生徒会長である更識楯無と副会長である布仏虚の二名が書類片手に仕事を始めていた。
「あら御門さんじゃない。一体何用かしら?」
「これをお届けに来ました」
どさり、と机の上に音を立てて書類が置かれる。やはり運びなれていても長時間となると疲れが貯まるものであり、これを図書館に持ってきた織斑先生は相当な化け物であるといえよう。
「ご苦労様。って虚どうしたの?」
「いえ、ちょっと突然の目の前の光景に頭痛が・・・」
書類から手を離し頭を抱える布仏さんは正常である。いや全く動揺していないうえむしろ楽しんでいる生徒会長と幼い頃から対等に付き合っていて正常な感性であることが異常だといってもいいかもしれないが。
「では、私も仕事がありますので戻らせてもらいますね。お仕事頑張ってください」
仕事は終えた。下手に面倒事に巻き込まれるよりもさっさと図書室に引きこもってこの荒んだ心を一刻も早く癒そう。そう踵を返そうとした僕に待ったの声がかかる。
「御門さん、ちょーっとお願いがあるんだけど」
「申し訳ありません。私にも仕事がありますので」
「なによっ、どうせ図書室に戻るだけでしょ?少しくらいいいいじゃない」
「それはもちろん司書ですから」
「実際にはほとんど機械任せじゃない。それとも何か特別な事情でもあるのかしら?そうね、図書室の奥の隠し部屋・・・」
「少しくらいいならよろしいですよ。さて、何をすればいいでしょう」
互いに笑みで返すものの圧倒的な不利はこちらのほうだ。思ったとおり図書室の隠し部屋はバレていて、その秘密を盾に今後も様々な要求をしてくるに違いない。性別という致命的な秘密ではないものの取り上げられてはたまったものではない。束といいこの生徒会長といいいい性格している。僕が言えた義理はないけれど。
「いい子ね。さて私はこれから剣道部の新しい顧問に挨拶に行かなければならないのだけどそれについてきて欲しいの。本当は虚が一緒に行ければいいんだけどちょっと手が離せなくてね」
「え、あ、すみません」
突然話を振られたことに驚いたのか、布仏さんは反射的に謝罪した。
「それは私がするような仕事ではないと思うのですけど。ご存知かと思いますけど、一応私はこの学園の職員でありあなたたちよりも年上ですよ?単なる雑用ならばとにかくそういったやりとりに私が出る幕はないと思いますが」
普通に生徒会長のお供に司書がついてきたらおかしいだろう。
「あら、今のあなたはメイドでしょう?特におかしいなんてことはないわっ!それに本来ならあなたも既に新しい顧問と顔を合わせていないとおかしいでしょうに、きっとまだなのでしょう?どうせ図書室にでも引きこもってたのだから」
ぐっ、微妙に正論だ。今の僕を見て誰が司書だとおもうだろう。生徒会長の後ろをついて歩けば完全に付き人、本職のメイドとして認知されてもおかしくはない。それに今日は束襲来のせいで朝礼にも出ていない、普段からだけど。
「それになにより私がつまらないもの。ほら、さっさと行くわよ」
その手に開かれた扇子には『即断即決』の一言。ああつまり拒否権はないわけですか。今度はこの姿のまま剣道場へ行くという羞恥プレイをしなければならない。
「今回は従いますが、次はありませんよ?」
「そう?なら次は次の手を考えておくわ」
あまり意味はないかもしれないが釘を刺しておくと生徒会長は無邪気に笑って答えた。苦笑いを浮かべる僕の視界にため息をついた布仏さんの申し訳なさそうな、それでいて無関係を装った横顔が見えた。
「で、その新しい顧問はどのような方なのでしょう?」
「私は直にあってないから人となりはどうか知らないけど、なんでも剣道の全国大会出場、他にもフェンシングやら薙刀やら様々な武道を修めてるすごい人よ。ISの適性は低いから直接授業とかに参加することはないけど、その技とか精神はISを使う上で必要なものだから特別顧問として招いたわけね。それに年齢もまだ若いわね。うーん、織斑先生と戦ったら面白いかも」
突然飛んできた矢を躱しながら生徒会長は僕の質問に平然と答える。
「いやぁぁぁぁぁ!」
「ん、っと。よければあなたもどこかの顧問でもやってみる?一定の水準があればやらせてあげてもいいわよ」
「遠慮しておきます。柄じゃありませんし」
「ちぇらっ!・・・そうかしら?結構に合いそうな気もするけど。あ!今度レディーススーツに白衣で女医さんっぽい格好とかしてみない!?眼鏡もあればお姉さん高ポイントよっ!」
「おっと。それただのコスプレって言うんじゃありませんか?それに医師免許とか持ってませんし。あ、でも白衣はたまに着ますね」
「!写真!一枚よこしなさい」
「断固拒否します」
先程から様々な人に襲われ続ける中、どうしてこんなにもしょうもない話をしているのだろう。弓、木刀、バット、鞭、その他もろもろを相手取っても余裕を失わないこの生徒会長は本当に人間か疑わしい。たまに流れ弾というかこちらにも襲いかかってくる相手がいるのが非常に困る。一応生徒だし手荒な真似をするわけにもいかず、武器を弾き飛ばしたり足を引っ掛けたりと傷つけないように無力化をするのは大変に手間だ。
「あら、意外とやるわね」
「そういう生徒会長は本当に人間でしょうか。飛んできた矢を躱すならいざ知らず、掴み取るとか頭おかしいですよ?」
「それ、笑顔で微笑みながら言う言葉じゃないわよ」
こんなやりとりをしつつようやくたどり着いた剣道場。今年の新入生には昨年の中学剣道全国大会優勝者である篠ノ之箒さんというホープが入部しているという話を、束から嫌がらせのごとく幾度となく聞かされた。というかただの妹自慢だ。
「まぁでもほとんど出てないみたい。剣道部の部長にどうにかしてくれって泣きつかれちゃった」
「ああなるほど。織斑君が原因ですか」
「そうそう。一夏くんにべーったりみたいで、全然顔出さないみたい。一応自己鍛錬してるみたいだけど、それじゃ衰えないだけで上達はしないからね。金の卵がァって残念そうにしてるわ」
その辺の事情も束から詳しく聞かされている。というか実の姉にモロバレというのは正直妹としては相当恥ずかしいのではないだろうか。明らかにこのことで姉妹の溝は深まるばかりだと思う。箒LOVEを明言している束にはいい気味である。
「失礼しまっす。っとまだ練習中みたいね」
生徒会長が扉を開けると勇ましい掛け声が耳に飛び込んできた。どうやら素振りの最中らしく、生徒たちが並んで竹刀を振っている姿、そして真剣な目つきで見守る女性。
「あの人ね。ってどうしたの、驚いた顔して」
僕はその新しい顧問とやらに見覚えがあった。というかついこの間あったばかりである。名前は七々原薫子、勇ましく、美しく、可愛らしい女性だ。
「!やめっ!15分休憩するわ。水分補給を忘れないように」
こちらに気づいた彼女は練習を止め指示を出したあとこちらに駆け寄ってきた。
「初めまして。生徒会長の更識です」
「はじめま・・・」
慌ててこちらに挨拶に来た彼女は声を失う。それもその筈、生徒会長の後ろにはメイド服の僕がいたのだから。
「ち、千早さん!?こんなところで何やってるの?!」
「ほんと、何してるんでしょうね。私は」
「あら、もしかして知り合いだったの?」
周囲の生徒もざわめき始める。一人、また一人とこちらに近寄ってくるがそんなことはおかまいなしに。
「うわー、千早さんなんでそんな格好してるの!?あれ、司書じゃなかったの?!いや別ににあってないわけじゃなくてね、うん、すごく可愛い」
「いえ、私の格好は置いておいて。それより七々原さんこそどうしてここに?」
「あ、薫子でいいよ、千早さん。私はちょっとまえに突然ここの顧問にならないかって話が舞い込んできてね。どうしようか迷ってたんだけど千早さんがいるならいいかなって思って。驚かせようと思って内緒にしてたら紹介の時に千早さんいないし、そしたら今度は千早さんがそんな格好して現れるし!」
「私もこんな格好したいわけじゃないんですけどね」
「あー!ちょっと生徒会長である私を無視して話進めないで!」
駄々っ子のように生徒会長が横槍を入れた。いや、まぁあえて無視したわけじゃなくて驚きすぎてほかのことに気が回らなかったというか、いつの間にかギャラリーがものすごいことに?!
姐御肌で実力者、背が高くスラっとしていてカッコ良さの中に時折可愛らしさがある七々原さんは、初日にしてすでにこの剣道部ではカルト的な人気が出ていたらしい。そしてそんな七々原さんの知り合いで、しかも銀髪メイドの僕が突然現れた。少女たちの妄想は膨らむばかり、この日、IS学園に新たな一ページが追加された。
このあと僕と七々原さんは剣道部の部員の前で公開処刑をされることになった。
「あはははははっ、お腹が、お腹がねじ切れそうっ」
腹を抱えて笑う束を見てもはや何も言う気が起きない。あれから僕たちの噂は千里を走るかのごとくIS学園中を駆け巡り様々な憶測と想像が入り混じり恐ろしいことになっている。
「僕にとっては全然笑い事じゃないんですけど」
「ええー。これで千早ちゃんが男だーっていう人なんかきっといなくなるよ?」
「それはそれでものすごく複雑な心境なのですが」
今現在IS学園は3つの派閥が構成されつつあるらしい。
一つ目はご存知のとおり第1回IS世界大会(モンド・グロッソ)総合優勝および格闘部門優勝者『ブリュンヒルデ』こと織斑千冬。あの一本の刀のような何者も一刀両断にするかのごとく鋭い雰囲気と氷のような視線にやられる淑女が後を絶たないらしい。IS操縦者を目指す少女たちにとって憧れの人である彼女は、現役を引退してなおその伝説は忘れ去られることはない。
二つ目は突如として現れた新星、初日でいきなり『騎士(ナイト)の君』の二つ名を頂いた剣道部顧問、七々原薫子。クールで他人と一定の距離を開ける織斑千冬に対して誰にでも親身で、そして頼れる彼女はまた別種のカリスマを備えている。ISには乗れないものの実力はお墨付き、少し頭の弱い部分もあるがそれもまたご愛嬌。そのフレンドリーさは確実にファンを増やしている模様。
三つ目はこのまだ間もないIS学園の七不思議として語り継がれ、つい最近その姿を確認できるようになった司書、御門千早。なぜか姿を確認される以前からつけられていた『白銀(ぎん)の姫君』の二つ名は伊達ではなく、その容姿と佇まいから見惚れるものが多数出現。司書なのにはぐれメタル並みのエンカウント率に日々期待値がものすごいことになっていたりする。でも裏切られたという声は聞かれない。ちなみにたった一度限りのメイド服姿の写真は高値で売買されている。
・・・
なぜ僕が入っている!
「いやーびっくりだよね。まさかこんなに面白いことになるなんて」
「僕の平穏を返してください・・・」
連日僕見たさに図書室に人が押し寄せてきて、ついには入場規制が入るとか意味がわからない。僕は動物園のパンダかなにかと勘違いしているんじゃないだろうか。
「いっそ千早ちゃんも授業を担当させてもらったら?ほら家庭科とかとっても似合うと思うよ?」
「それ、エプロン姿の僕が見たいだけなんじゃないですか!?」
普段の僕はジーンズパーカーの上にシンプルなエプロンをつけている。が束のことだ、ふりふりの可愛らしいエプロンを用意するだろうことは容易に想像できる。
「えーもちろんそれだけじゃないよ?ほら千早ちゃん料理うまいし、裁縫とか家事も上手な顔してるし」
「どんな顔ですか!」
ロールキャベツを美味しそうに食べる彼女は本気で言っているのだろう。こんなことならリクエストに応えずカップ焼きそばでも投げつけてやれば良かった。そもそもリクエストに応えた理由が何も考えたくないという現実逃避であることからして間違っているんだけれども。
「で、今日はどうしてここに来たんですか?」
そもそもこの人は襲撃準備で忙しいはず。ってすでに無人機は完成してるから逆に時期を待つだけで暇なのかもしれない。だからといってここに居座られてもしたら非常にたまったものではない。
「束、もしかして暇だったりします?」
「えーそんなわけないじゃん。束さんの頭はいつでも二十四時フル活動ですよ!そういえばむかーし『24時間戦えますか?』っていうCMあったよね?」
「話そらしましたね。束にも関係ある話です。もしかしたらここ差し押さえされるかもしれません」
あの生徒会長の手によって。
「なにー!?千早ちゃんと束さんの聖域を侵す者が!?」
「そうです。なんとか手を貸してもらえないですか?」
「ふっふっふ。この束さんにお任せ!」
「というかいつもの束ならこれくらい把握してますよね?何かあったんですか?」
この変態にはこの程度筒抜けになっていてもおかしくはない。今の怒り具合といい本気で知らなかったようだ。なにか特別な事情でもあったのだろうか。
「もちろん千早ちゃんベストショットを撮るために端末を総動員してたからね!ほらほら見てみて、この目をつむって恥ずかしそうに赤面してる千早ちゃんなんて束さんもうこれで御飯炊飯器ごと食べれそう!」
複数枚の写真、様々な角度から取られたそれらを見た瞬間、僕の中の何かが弾けた。差し出された写真を無言で破り捨てる。そしてその手に持っていたデータチップを奪い足で踏みつけ粉々に砕く。
「し、しどい!」
「どっちがひどいんですか!ローアングルは、ローアングルは流石に許せない」
「ええ!?千早ちゃんの真っ白な太ももが最高なのにっ!」
この日、僕の尊厳をかけた戦いが始まった。
次回、ついに襲撃編(仮)