一通りの話を終えたシャマルは霊夢のいた部屋を出ると。またバイタルをチェックする。
五日も寝ていた患者なのだ、今は特に異常はないが、もしかしたらという、可能性程度ではあるが、突然何が起きてもおかしくない
「…それに」
と、もう一方のホログラム画面に目をやる。今までのものと違うそれは、まるで機械の出力を測定するための目盛のように微々たるものだが上下していた。
「…魔力は、日常生活で支障が出ない程度。その程度のはずなのに」
魔力を示すメーターは平均値を示す真ん中よりもやや下の部分を上下に細動していたが、
「純粋なエネルギーの量じゃ、リミットリリースした時のはやてちゃんやなのはちゃん、フェイトちゃんを軽々と上回っているなんて、いったいあの子、何者なのかしら?」
純粋なエネルギー量を示すメーターは、振り切る一歩手前だったのだ。それこそ彼女の主のモノを易々と上回っていたのだ。
管理局でもSSランクを誇る、自身の主を超えるかもしれない存在。
そんな考えが頭を通り過ぎると一瞬、背筋が凍るような寒気がシャマルを襲った。
まるで、生物学的本能が警鐘を鳴らしているかのように…
「…でも、悪い子じゃなさそうだし。大丈夫、かしらね?」
そう言い聞かせるように霊夢は決してそこまでの危険性を持っていないと言い聞かせるかのように呟く、が…
「でも、あの筋肉のつき方といい、回復スピードといい…でもっ、うーん」
と、悩み、むしゃくしゃしていると…。
「どうかしたんですか?」
「ひゅいっ!?」
と、急にかけられた声に驚きビクッ!と小さくだがシャマルの身体が跳ね上がる。
「あ、えっと…ごめんなさい。驚かせちゃいましたか?」
てへっ、とでも言いそうな朗らかな笑みを浮かべる橙色に近い茶髪をサイドポニーに纏めた、自らの主の信頼する部下であり、同時に主にとっても自身にとっても恩人である人物。高町なのはだった。
「い、いえ、だ、大丈夫よ?ほら、前の急患の子、目が覚めたから少し色んなデータ見てただけだから」
「ああ、あの巫女の様な服着てた子ですか?」
「ええ、五日間も寝てたから、どうなることやらって思ってたけど。回復スピード、だいぶ速いのよ…。普通だったら筋肉が全く動いてなかったらちょこっとリハビリとか要るかな?って思ってたんだけど…全く問題なしで…。それに…」
「…レリック、ですよね」
「ええ…」
レリック。それはロストロギアと呼ばれる異世界で高度に発達した魔法技術の一つ。一見するとただの赤く輝く宝石のようにも見えるが、その実態は超高密度の魔法エネルギーの結晶体。もし封印せずに、刺激を与えてしまえば大爆発しかねないとても危険な代物である。
「…爆発した直後の爆心地に、居たのよね。あそこまで頑丈な子なんて、高ランクの魔術師だってなかなかいないのに」
「気絶はしてたけど、傷は受けていなかったんですよね。それも、爆発に対抗してのガードじゃなくて、慢性的な。その上、レリックの爆発時の瞬間に生まれた次元のゆがみから出てきて」
「その上、その衝撃も受けきる。なんて、昔や今のなのはちゃんでもそんな芸当無理、よね?」
「…限定解除したとしても、無理、ですね」
はぁー…、と霊夢の頑丈さに半ば呆れるように、確認する二人。
そう、五日前。霊夢は居たのだ、いや、来させられたのだ。爆心地に。周囲は工場が隣接する地域だったため。爆発が一つ起きればたちまち連鎖爆発、大火災が発生。周囲はさながら阿鼻叫喚の地獄ともいえる状態だった。
…そんな生存確率がゼロに等しい環境で爆発をもろに受けていたのが霊夢だったのだ。
「…まぁ、でも生きているならそれに越したことは、無いですしね」
「ええ、おまけに五体満足、内臓はともかく外傷も皆無。多少筋肉のコリをほぐさないといけないけど、それもすぐに終わるはずよ」
これ以上踏み込んでしまうとこの場の空気が重くなってしまうことを察したのか、慌ててなのはが前向きに話を転換させる。
シャマルも無意識のうちに俯き気味だった顔を前に向けて、声音も心なしか明るいものになっていく。
「そうですか、良かった。ところで、あの子、どこの世界の子かわかりました?」
とりあえず、シャマルから身体に異常がないことを聞くと安心したのか、ほっと胸を撫で下ろす。
そして彼女の出身地を聞き出せたのか聞いた。数多に渡る世界を管理する管理局。今回の霊夢のような突発的な事故などで世界間を本人の意思とは関係なく渡ってしまった場合は、次元漂流者という、ありきたりな言葉を言うなら、世界を又にかけた迷子の様な処遇を受ける事になる。処遇と言っても、寒いコンクリ―トの床で塀の中で過ごすようなモノではなく。一時的な保護、といったほうが良いだろうか。そして本人のいる次元世界に送り届けるのも管理局の仕事なのである。その為、霊夢の生まれ故郷を聞き出さなければならなかったのだが、シャマルは少し困ったような様子を浮かべて…
「それが、故郷についての記憶だけが。すっぽり抜けているようなの…」
と言った。
「ん~~~っっぅ」
と、声を出しながら腕を上に伸ばした青紙の少女。スバル・ナカジマは医務室の近くを歩いていた。5日前に保護した、自分の戦技教導を行ってもらっている上司の、歴史的意味合いを持つ衣類によく似たものを着た少女が目を覚ました、という事で慌てて駆け出そうとしたが、同僚でパートナーでもあるオレンジ髪の少女に半ば引っ張られるように止められたため、落ち着きを持った様子を作り、歩いてきた。
…心の中では『相棒』を使ってでも駆け付けたい気持ちだったのだが。
……部屋の前にたどり着く、今は起きているとのことだったので眠っているから静かに…と考える必要はないと判断し『ノック』をせずに勢いよく…
「失礼しますっ!」
と、笑みを浮かべながらよく言えば元気な声、悪く言えば五月蠅い声で病室へと入った。
そこで見たものは…
ベッドや、サイドカーテンで大事な部分は隠れていたが…
生まれたままの姿になり今ちょうど下の恥部を隠すための衣類を穿こうとしていた自身が救助した少女が居た。
「…!?」
勿論少女はまさか来客が突然やって来るとは思っていたのか一瞬呆けた様子になり。
「はへ…?」
勿論まさか着替えをしているなどと思っていなかったのかスバルも固まり呆けた様子になる。
…一瞬だが二人にしては長すぎる間、その静寂を打ち破ったのは
「…っっ!!きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
という、恥ずかしさ故に息を詰まらせた直後、甲高い叫び声をあげた目の前の少女。
その瞬間に、自衛するかのように現れた、黒々とした紫電を放つ、まるで自身の直属の憧れの上司の友人の執務官の放つ魔法によく酷似した黒い三発のエネルギー弾が、まるで…
『死ぬがよい』
と、語るが如く、スバルの、額、顎、脳天を鋭く、さながら一閃、と言えるような勢いで直撃
「ぐほぁっ!?」
勢いよく吹き飛ぶスバルの体。壁にめり込むことはなかったが、 床に重力によって叩きつけられた…。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「「!?」」
先ほどまで話題に上がっていた少女のものと思われる叫び声を聞きシャマルは血相を変えて霊夢のいる医務室へと走り出す。
次いでなのはも、何かしらの敵が来たのかと思い相棒である赤い宝石のような丸い小さな球をポケットから取り出すと
「レイジングハート、いつでも変身できる様に準備して」
と、告げる。直後球がピンク色の光を放ちながら
『ALL RIGHT』
と、告げる。
そしてシャマルを追い抜き
「私が先導します、何があったのかわからないので、シャマルさんはクラールヴィントの準備を!」
と、告げてさらに足は速く動かして、加速する
シャマルも置いて行かれるまいと、慌てて加速する。
「大丈夫ですか!?」
と、言いながら先になのはが霊夢の病室にたどり着く。少し焦げ臭いにおいが立ち込める。何かしらの衝撃故か、砂埃も立ち込めていた。
(…もし、『アレ』がいるなら)
と、気を引き締めて警戒し、奥へと入ろうとした時だった。
足元に人影が、煙はそこまでのものでは無かったのかすぐに晴れ倒れているであろう人物の姿を見せる。
……そこに居たのは
「きゅ~…」
と見事に気絶し大の字になり目を回しているスバル。
そして部屋の奥には、顔を真っ赤にさせ蹲り、目に涙を溜め、身を隠すように蹲らせた体に両手で恥部と胸部を隠した、霊夢の姿があった。
「え、え~っと…」
「こ、これは…どういうこと、なのかしらね」
…エース・オブ・エースも夜天の書の守護騎士も、こればかりはさすがに思考停止せざるを得なかった……。
次の話は一週間前後でまた…