やはり俺のパートナーは・・・   作:バネア☆

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第十一話 旅行3日目 ~米沢駅にて~

<八幡視点>

 

バスに乗って米沢駅に戻ってきた。

 

新潟方面に向かう米坂線は約1時間後、

駅員に聞いたところ、発車の20分前に列車に乗れるらしい

村上までの切符を購入して、待合室・売店を見て回ることに

 

待合室にはテレビが設置されており、全国高校サッカー選手権の試合中継が流れていた

確か決勝は埼玉スタジアムだったか?

 

売店には駅弁も売られており、米沢名物「牛肉ど真ん中」が丁度2つあったので

お茶と一緒に購入することに

 

 

「あれ?さっきラーメン食べたばかりですよ?」

 

 

「今日の宿は素泊りだからな。乗り換えの坂町でも結構待つから、そこで食べればよいだろ」

 

 

「名物駅弁ですか、これも旅の醍醐味ですね」

 

 

朝着いた時は気付かなかったが、駅前には「上杉の城下町 米沢へ」と書いてあり、

その下には騎馬の謙信が刀を振りかざす写真があった。

 

 

「んー米沢ってあんまり上杉氏ってイメージが強くないですね」

 

 

「ま、川中島の戦いでの武田信玄vs上杉謙信。

越後の戦国大名であることが授業で習うからだろうな」

 

 

「そうなんですよ!でも関ヶ原の戦いのきっかけになったのは上杉氏が挙兵したから

というのは知ってるんですが、どうして米沢なんでしょうね?」

 

 

「それは豊臣秀吉によって領地移し替え、移封ってやつだ。その戦いの2年前らしい」

 

 

「あ、なるほど。関ヶ原の戦いに間に合わなかったから、そのまま残されたってとこですかね」

 

 

「いや、間に合わなかったというより、最上国の大名や伊達政宗と

戦っていてるうちに終わったという方がいいんだろうな」

 

 

「せんぱい・・・よく知ってますね」

 

 

「単なる知識欲さ。大したことはない。あと米沢市民に尊敬されている存在なら

米沢藩中興の祖とされた上杉鷹山公だな。当時、領地返上寸前の

米沢藩再生のきっかけを作り、江戸時代屈指の名君として知られている人だ」

 

 

「そういえば、以前に大河ドラマでやってたような・・・?」

 

 

「鷹山公による米沢藩の藩政は在命中から日本全国のおおよそ280藩の

中でも模範として幕府からも褒めたたえられたそうだ。

現代でもどこぞの野球監督が尊敬し、アメリカの要人もスピーチで彼に触れることもあったそうだからな。

ま、現代でも影響を及ぼす位から今でも誇りに思い「公」とつけて呼ぶんだろうな」

 

 

「歴史を感じますねぇ」

 

 

「彼が残した言葉で

『為せば成る、為さねば成らぬ何事も、成らぬは人の為さぬなりけり』

が有名だよな」

 

 

「ちょっと古風な言い回しですね」

 

 

「現代風に言えば

『どんなことでも強い意志を持って行えば必ず実現する、

結果が得られないのは成し遂げる意思を持って行動しないからだ』」

 

 

「なんか、ぐっさりくる言葉ですね」

 

 

「ただ、いろはは素直に凄いと思うんだよ」

 

 

「え?わたしですか?」

 

 

「まさか俺からの言葉がそこまで影響するとは思わなかったよ」

 

 

「改めて言われると面映ゆいんですけど・・・

それまでの自分を顧みると本気で生きてきたのかなって

ただ状況を楽しむばかりの人生になっている、突き付けられた

気がしたんです。だからまぁ、葉山先輩に玉砕したのも当然

と言えるんですよね。見抜かれていたのかもしれません」

 

 

「でも、そう行動を起こせたのが賞賛に値するのさ。

普通だったら、ただ立ち止まってしまうだけ、右往左往して

時が流れてもおかしくはない」

 

 

「う~それでもその時のせんぱいと同じように

足掻いて足搔いてでも欲しくなったんです、本物が」

 

 

「その足掻いたその先が、俺の隣という『居場所』だったという事か」

 

 

「本当に『灯台下暗し』ですよ、まさに。こんな近くにあるだなんて」

 

 

「それは俺のセリフなんだがな。まぁ今まで・・・ありがとな」

 

 

「・・・こちらこそです」

 

 

顔を赤らめつつそっと手を握ってくる

 

 

「ああ・・」

 

 

俺は優しく握り返す事で応えた

 

 

 

 

やがて坂町行きの列車の発車20分前になり、席を確保することにした

電光掲示板には昨日利用した仙台~山形間の仙山線運転見合わせ及び

ダイヤ遅れの情報が流れていた。

 

 

「もし昨日起きてたらやばかったかもですね」

 

 

「最悪、陸羽東線か福島回りの山形新幹線を利用する羽目になってたかもな」

 

 

と苦笑で返した。

ホームには既にディーゼル車が停まっており、乗客もちらほら席に付いていた

 

 

「ディーゼルってあまり乗らないかもしれません」

 

 

「確かに今までの旅行先でもディーゼル乗った事なかったかもな。

電車と違いモーター音がモロに聞こえるからな。新たな楽しみに

目覚めるかもな?」

 

 

 

「期待半分としておきますよ。2時間のんびりさせてもらいます」

 

 

程なくして発車。景色は夕暮れから夜の真っ暗闇へと変わっていた。

いろはも最初のうちは車窓を見ていたが船を漕ぐようになっていた

 

 

そんな中、俺はさっきの会話を思い起こしていた

 

 

 

それでも、ここから後もう一歩踏み出さなければならない。

何よりも、もう8年近くも共にいてくれたコイツに

何よりも、厳しい現状ではあるけどもこれからも共に一緒に幸せにありたいと

思う気持ち。

 

伝えないと、願う未来も叶わない。だからこそ俺は行動した

一色いろはとこれからもこんな風に思い出に残る旅を刻んでいきたいと

実際にそう旅行することで

そしてその思いも伝える。いろはがこの先どうしたいかも聞けることなら聞きたい。

正直怖れもある。だけどだけどまさにこれだ

 

 

『どんなことでも強い意志を持って行えば必ず実現する、

結果が得られないのは成し遂げる意思を持って行動しないからだ』

 

 

国を立て直す為の志も愛おしい人と共にありたいという純粋な思いも大きさは違えど

信念は同じだと俺は思う。そして話すときはー

 

 

<いろは視点>

 

 

わたしは、バスから戻る最中改めて認識していた。

せんぱいの魅力についてだ。

 

 

はじめて出会った時のせんぱいは必要最低限の会話だけする

会話を楽しむというのは皆無だったからだ。

ごく親しい身内を除けばだけども

 

 

でもさっきのように一期一会で酒を酌み交わす程になるなんて

仮に当時の事を知る人がいれば、目を疑うもしくは信じはしないだろう

 

 

むしろわたしの恋人が、ちゃんと世間と交わえるようになったのを喜ぶ

べきなんだろうが、魅力的に見えるようになってきたせんぱいに言い寄る輩が

出てきそうなのが悩みの種となりそうなのだ

 

今までは日常的に関わる人間、もしくはわたしのようにそうならざるを得ない関係性

を作れた。だからこそ知りえた事柄だったのにだ。大学時代はわたしがバリヤーとなり

その芽すら出させない土壌を作ってきたからよかったが

 

今現在では、その兆候が出てきたからこそ、その芽が出る前に手を打たなければならないのかもしれない

嫉妬や独占欲が出てきてるのも自覚しつつも、バスは米沢駅に戻ってきていた。

 

 

次の列車がまだ1時間近いとの事で、待合室のテレビを見たり

夜食用の駅弁を買い置きしたり、駅前を散策したりして時間を潰すことに

 

 

上杉謙信の写真からかつての米沢藩、この地で称えられてる上杉鷹山の逸話に派生したりした

相変わらずの博識ぶりの舌を巻いていたが

 

 

そこから何故かわたしが賞賛される話には驚いた。

わたしが無我夢中で本物を求めた結果、今があるということ

それに改めて感謝されるとは思わなかったから

 

(不意打ちはずるいですよ・・せんぱい)

 

 

わたし自身、結構せんぱいを振り回してしまっている自覚はあったので

照れ隠しに手をそっと握ることで紛らわす事しか出来なかった

人が多い駅前では流石に抱き着くのは憚れますもんね・・・

 

 

 

新潟方面へのディーゼル車の発車時間20分前となり、速やかに席確保。

2時間近いとのこだったが、車窓を眺めている内に暗闇となり、

ぼんやりと思考にふけることに

 

 

(今回の旅の誘いって、今までの感謝もあったのかな?

まぁそれも悪くはないけど、これからどう考えてるんだろ?)

 

 

疑問を考えている内に眠気が襲ってきて、つい居眠りをしてしまうのでした


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