弓兵と槍兵を人外にして魔境に放り込んだ結果   作:リョウ77

14 / 134
第1回イベント・シオリ編2

「おっ、おったおった」

 

マップと【白狼の呼吸】を頼りに、うちは目的のプレイヤーがいる場所に向かった。マップに表示されていた場所は、高台みたいな岩がいくつも生えている地帯。

そこに、現在2位のプレイヤーがおる。

元いた場所から5分くらい走って、ようやく見つけた。

 

「そこの人、ちょっと相手してもらうで」

 

周りに誰もいないことを確認してから声をかけると、迷彩色のマフラーを首に巻いた男、ドレッドはうちの方を振り向いて、

 

「ちっ」

 

舌打ちして走ろうとした。

もちろん、みすみす逃がしたりせぇへん!

 

「【大自然】!」

 

うちは【大樹の牙】を地面に突き立てて、【大樹の怒り】の内包スキルの1つ、【大自然】を発動した。

このスキルは、地面を隆起させたり樹や蔓を生やして攻撃や防御に使うものやけど、使いようによっては即席の決戦場を作ることもできる。

今もうちとドレッドを囲むようにドームを生成することで、ドレッドの逃げ場をなくした。

それに葉っぱの消費が規模に限らず一定なのと、今まで【大樹の怒り】を使わずに温存したおかげで、直径50mの多重ドームを作ることができた。戦うには十分な広さや。

 

「蔓を切って逃げようとしても無駄やで。このドームは蔓の多重構造でできとるし、そもそもうちが逃がさんからな」

「・・・ちっ、やばい奴の相手はしたくなかったんだがな」

 

うちが律義に説明すると、ドレッドが意味深なことを言った。

やばい奴って、うちとは初対面のはずなんやけどな?このゲーム自体も、初めてまだ数日のニュービーやし。

となると、一目でうちの実力を理解した、ってことか?

 

「ふ~ん、勘がえぇんやな」

「こいつが、俺の生命線なんでな」

 

冗談半分で言うたうちの言葉に、ドレッドは頷きを返した。

なるほど、そういうことか。

 

「奇遇やな。うちも直感はけっこう当たる方なんや」

 

むしろ、頭で考える方が苦手やし。いっつも何かしらたくらんでいるクラルを見てると、その頭の良さがちょっとうらやましくもなったりするけど、うちはやっぱこっちの方がしっくりくるんやな。

 

「せやったら、似たもん同士、仲良くやり合おうや」

「言ったろう。俺は、俺の直感を疑わないと・・・正直、あまり戦いたくないんだが、背に腹は代えられんか」

 

そう言って、ドレッドはアーミーナイフみたいな短剣を2本構えた。

うちも、両手で槍を持って構える。

互いに、にらみ合って、踏み込めない状態が続く。

その中で先に仕掛けたのは、うちや。

 

「いくで!!」

 

駆け引きとか小難しいことは一切考えずに、一直線に突進した。

もちろん、ドレッドもうちの攻撃に反応して、短剣で器用にうちの突きをいなして、払いを後ろに下がることで躱す。

攻撃の隙にドレッドが攻撃を挟んでくるけど、そこはうちもすぐに槍を引き戻して柄で防御する。

お互いにAGI重視やし、うちもHPはまったく強化しとらんから、1つ手順を間違えたら1撃でHPが吹っ飛ぶ。

せやけど、うちにとってはそのスリルがおもろいし、集中できる。

お互いに攻撃しては引いて攻撃しては引いてを高速で繰り返して、なかなか勝負が決まりそうにない。

うちが【大樹の怒り】で決めようと思っても、ドレッドはご自慢の直感で察知してすぐに下がってしまう。

これほどの相手とやる機会も、なかなかない。

せやけど、いい加減にせんと時間切れになってまう。

やから、うちは()()()つぶすことにした。

 

「そろそろお遊びはしまいや。一気に終わらせる!」

 

そう言って、うちはドームの外周を走り始めた。

できれば【速度中毒】と【疾風】は隠しときたかったけど、そうも言えんくなってきた。

うちのAGIはだんだん上がっていって、【大物喰らい】の効果も合わさってあっという間に600を超えていって、壁や天井も走り始めた。

ドレッドは、完全に目で追えなくなっとる。

 

「これで終いや!」

 

うちはドレッドの後ろに向かって、完全に不意を突いた状態で突撃した。

それでも、ドレッドは反応してみせて、体を傾けてギリギリのところで躱し、短剣を逆手に持ってうちに突き刺そうとした。

せやから、うちはもう1つ切り札を切ることにした。

 

「【ゲイボルグ】!」

 

うちが叫ぶと、【大樹の牙】の一部分が膨らんで、30の棘になって破裂した。

 

「しまっ・・・!」

 

ドレッドが気づいた時には、射出された棘が多段ヒットでドレッドのHPを削って、さらに強力な毒によってHPが0になった。

 

「はぁ~・・・あまり使いたくなかったんやけどなぁ」

 

うちは地面に大の字で寝転がりながら、思わずぼやく。

【大樹の怒り】の特殊攻撃の1つ、【ゲイボルグ】。神話にある通り、突けば30の棘が飛び出し、投げれば30に分裂して襲い掛かる。さらに、攻撃が当たればトップクラスのダメージの毒によってさらにHPを削る、まさに必殺の槍や。

せやけど、これを一度見せると、相手が警戒してなかなか近づかんくなるから、できれば使いたくなかったんやけど、あのままやったらやられとったし、しゃーないか。

あと、今さらやけど【大物喰らい】はいらんかもしれへん。相手によって発動したり発動しなかったりは、リズムが崩れるってゆー点ではマイナスや。

正直、ステータス2倍は惜しいけど、このイベントが終わったら廃棄しよか。最悪、また必要になったらゴールドを払って戻せばえぇし。

今回は、ちゃんと発動したから、運がよかったんやろうけど・・・。

 

「そや、順位はどうなっとるんや!」

 

さっきの戦闘で、うちにドレッドのポイントの3割が譲渡されたんや。これなら1位になっとるはず・・・

 

「あれ?クラルが1位やん!」

 

気付けば、いつの間にかクラルが1位になっとった。

とすると、クラルは1位のペインに勝ったっちゅーことか!?

 

「くっそー!せっかくや、今からでもペインを探しにいくで!」

 

クラルが勝ったんなら、うちやって勝てるはずや!

さっそく起き上がりつつ【大自然】を解除して、ペインを探すために走り始めた。

結果、結局ペインを見つけることはできんくて、2位になったうちに近づいてきたモブプレイヤーを全部返り討ちにして終わってもうた。

他の雑魚プレイヤーに邪魔されんかったら、絶対に見つけとったのに!


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。