「終了!結果、1位がクラールハイトさんに、2位がシオリさんに入れ替わり、3位はそのままとなりました。それでは、これから表彰式に移ります!」
「っ、はぁ、はぁっ。や、やっと終わったか」
イベント終了を告げられて、俺は思い切り大の字で寝転がった。
ペインを倒した後、【空蝉】を失って被弾できなくなった俺は、ポイント欲しさに群がってくるプレイヤーたちの尽くを返り討ちにしてきたが、俺はあくまで後衛職だから、接近されないように必死に走りながら射抜いたり、近づいてきたプレイヤーは短剣で対応するなどして、途中あたりから短剣を持ちながら矢を射るという同時作業もやって、精神的にかなり疲れた。
後がなくなっただけでこの消耗、【空蝉】のありがたみが本当にわかるな。
それ以上に、俺を襲ってきたプレイヤーの必死さが異常だった、というのもあるが。中には目が血走ってたやつもいたし。
感慨にふけっていると、俺の視界が白く染まり、最初の広場に転移された。
俺は1位になったわけだから、表彰台に登らなきゃいけないのか。
最後の出番をこなすために、俺は重い体に鞭を打って起き上がった。
ふと横を見ると、そこには俺よりも死にそうな表情をしたシオリがのそのそと歩いていた。
「おい、シオリ。どうしたんだ?死にそうな顔をして」
「・・・あぁ、クラルか。いやな、最後に1位だったペインてやつを探して戦おうと思うたんだけどな、他のプレイヤーに散々邪魔された挙句、結局見つけられんくて途方に暮れとったんや」
「ペインなら、そこにいるぞ」
「今見つけても意味がないねん」
本人はかなり残念そうにしているが、最後に「まぁ、違う機会に決闘を申し込めばええか」と呟いた。俺としても、どっちが勝つか見てみたいな。俺がもう1回戦っても、たぶん負けるだろうし。
そんなことを話しながら、俺とシオリは表彰台の上に乗った。メイプルはすでに3位のところに乗っている。
俺とシオリが表彰台に乗ったところで、NWOのマスコットキャラであるドラぞうが俺にマイクを渡した。
「それでは、優勝したクラールハイトさん!今のお気持ちはどうですか?」
「正直、かなり疲れたので早くログアウトしたいってのが本音ですね。もちろん、優勝したのはすごいうれしいですが」
「なるほど。そういえば、残り1時間のときに暫定1位だったペインさんを、クラールハイトさんだけが倒していましたね?」
「あぁ、あれですか。どちらかと言えば、あれは運がよかっただけです。もう1度やれと言われてもできませんし、次戦ったらたぶん負けますね」
実際、あの時の俺はいろいろと運に恵まれていた。
まず、最初の奇襲でギリギリのタイミングまでペインに気づかれなかったこと。もう少し気づかれるタイミングが早かったら、俺の攻撃が届いたかは微妙なところだ。
次に、ペインが【魔弾の射手】と【空蝉】の存在を知らずに動揺したこと。両方情報掲示板には載っていない情報だったとはいえ、他に所持しているプレイヤーがいないとも限らなかったし、知っていなくても動揺を押し殺されていたら、着地した時点で俺の位置はばれて、懐に潜り込む前に攻撃を受けて、【空蝉】で無効化しても倒しきれなかった。
最後に、俺の技術がこのゲームでも通用したことだ。あの一戦で、俺は自分の持っているPSをフル活用した。相手の意識を逸らすミスディレクションに、極力音を出さないようにする体捌き、さらに戦争系シューティングゲームで培った近接格闘術まで、1回の奇襲に俺の持つあらゆる技術を詰め込んだ。だが、これがNWOというゲームで通用しなかったら、その時もペインが早く俺に気づいて、攻撃を当てることが難しくなっただろう。
このいろいろな偶然があったからこそ、あの時の俺の奇襲は成功したわけで、あの一戦で俺とペインの実力差が決まったわけではない。
もちろん、俺もただで負けるつもりはないが、勝てるかどうかは別だ。
「なるほど、そうでしたか。では続いて、準優勝したシオリさん!今のお気持ちは?」
「疲れた!徒労や!ペイン!後でうちと決闘しいや!」
続いてマイクを受け取ったシオリは、ペインにビシッ!と指を差して宣言した。
ペインも含めた観客たちは「何言ってるんだ、こいつ?」みたいな表情になっているが、シオリは気にせず、というか気づいた様子もなくまくし立てる。
「クラルが倒したっぽかったから、せっかくやしうちも戦おうと思って最後の時間ずっと探したのに、結局会えなかったんや!せやから、さっさとこの鬱憤を晴らすためにも、ペイン、うちと勝負しっうわとっ!?」
だんだんヒートアップしてきたシオリを見かねて、俺は上からシオリの頭を小突いてバランスを崩させ、さっさとマイクを奪い取ってドラぞうに渡した。
「悪いが、このバカがヒートアップする前にさっさと進めてくれ。でないと、本当に突撃しにいっちまう」
「わ、わかりました!では、次にメイプルさん!一言どうぞ!」
「えっあっえっ?えっと、その、一杯耐えれてよかったでしゅ」
最後にマイクを渡されたメイプルは、緊張していたのか盛大に噛んで、その後のコメントもめちゃくちゃだった。
その姿を見て、観客もシオリも「メイプル可愛い!」みたいな感じになっていた。
とりあえず、メイプルの精神と引き換えに、シオリの機嫌がよくなったのは、不幸中の幸いか。
その後、記念品が渡され、第1回イベントは閉幕、解散ということになった。
メイプルは、さっきのがよほど恥ずかしかったのか、さっさと宿屋に戻っていき、
「よっしゃ!まずはペインを・・・」
「ちょっと待て」
シオリは再びペインに突撃しようとしたため、俺が首根っこを掴んで引き止めた。
「ちょっと、クラル!何するんや!」
「少しは落ち着け。お前、もうだいぶへとへとだろうが。そんな状態でペインに勝てると思ってるのか?」
「うっ・・・」
「決闘するなら、また時間があるときにしとけ。それにどうせ、いつかまたPvPのイベントが開催される。その時まで待っててもいいだろう」
「そ、そうやね・・・はぁ、ちょっと頭に血が上りすぎとった」
ようやく頭が冷えたシオリは、腕を下ろして体を脱力させた。やはり、走り続けただけあって、かなり疲労がたまっている様だ。
「せやったら、今度はメイプルちゃんを愛でに行くで!」
「だから落ち着けって言ってるだろう」
ようやく落ち着いたと思ったら、さっきのメイプルの思い出して再びハイになったシオリを、また首根っこを掴んで引き止めた。
「どうせ、もうログアウトしているだろうし、今は放っておけ。それこそ、愛でるのは次会ったときでいいだろ」
「う~ん、うちは今すぐ愛でたいんやけど・・・まぁ、楽しみは次にとっとくか」
メイプルがかいぐりかいぐりされる未来が脳裏に浮かんだが、あえて無視した。最悪、俺が止めればいいし。
そんな漫才をやっていると、俺たちのもとにペインと迷彩色のマフラーを纏った男がやってきた。
「お望み通り、会いに来たよ」
「・・・専用フィールドで会ったときとは、だいぶ印象が違うな」
どうやら、迷彩色の男が暫定2位だったドレッドらしい。
「どっちかと言えば、今のこいつが素だ。まぁ、一応、自己紹介しとくか。俺はクラールハイトで」
「うちがシオリや」
「ペインだ。よろしく」
「・・・ドレッドだ」
さっきまで戦っていた時とは違って、お互い緩い雰囲気で挨拶を交わす。
「それにしても、まさか俺たちが負けるとは思っていなかったよ。これでも、周りからトッププレイヤーって呼ばれていたからな」
「相手が悪かった、ただそれだけのことだろう。まぁ、俺の方はさっき言った通り、次やっても勝てる保証はないが」
「それは、武器を変えたら、また話は別だろう?」
「・・・よくお分かりで」
ペインの言う通り、同じ土俵なら、まだ俺にも勝てる見積もりはある。まぁ、今さらの話だが。
「まぁ、勝負は時の運だ。どのみち、勝つか負けるかなんてその時にしかわからない」
「そうだな。でも、君たちはまた違うとおもうよ?数々の大会を総なめにした、君たちなら」
「・・・もしかして、もう知ってるのか?」
「まぁね。もちろん、本名はここでは言わないけど」
どうやら、俺とシオリの名前をさっきの短時間で調べたか、思い出したらしい。
たしかに、俺とシオリは数々のゲーム大会で暴れてきたし、世界大会にも出場したことがある。そのときのデータと合わせれば、俺たちに行きつくのに時間はかからないか。
「せっかくなら、得意武器でやり合ってみたかったな。多分だけど、2人とも初めての武器だろう?」
「そうだな。まぁ、こいつがもう少し頭を使ってくれたら、俺も素直に片手剣を選んだんだが」
「だって、うちは前線で暴れる方が好きなんや。それくらいええやろ?」
「それにしても、アニメを見た思いつきで初めての武器を選択するバカだとわかってたから、俺は後衛にしたんだろうが」
別に俺も近接武器にしてゴリゴリ敵を倒すのも悪くないと思うが、フォローに入りやすいのはやはり後衛だ。この選択を間違っているとは思っていない。
「ずいぶんと仲がいいんだな」
「まぁ、腐れ縁だからな。元々知り合ったのも、こいつのゲームの相手をするためだし」
俺と出会った小学生のときから、シオリは周囲と比べてダントツにゲームが上手く、相手になる人物も少なかった。
それで、どこからか同じくゲームが上手い俺に相手をやらせようと持ち掛けられ、それがきっかけで今もズルズルと一緒にいるのだから、人生どうなるかわからないものだ。
「っと、さすがに俺たちはそろそろログアウトする。けっこう疲れたし、さっさと休みたい」
「あぁ。じゃあ、また縁があったら会おう」
「その時は、また敵同士として、かもな」
そう言って、俺たちはペインたちと別れてログアウトした。
・・・それはそうと、ドレッド。空気にして悪かったな。
昨日の「第1回イベント・クラル編2」で「ペインはそんなに弱くない」という意見があったので、展開を少し変更し、それに伴ってステータスも少し変更しました。詳しいことは本話をご覧ください。
ドラぞうの語尾に「ドラ」をつけようか迷いましたが、原作にのっとって普通に敬語で通すことにしました。話し方もちょっとややこしくなって、少し面倒なので。
それを言ったら、原作の中ではドラぞうという名前すら出ていなかったわけですが。