他プレイヤーを返り討ちにした後、俺たちは山登りを再開した。
とはいえ、ダンジョンらしき洞窟も見つからず、時間だけが過ぎていく状態が続いており、シオリも落ち着きがなくなってきた。
「・・・シオリ。やけになって突っ走るような真似はやめてくれよ」
「それはわかっとる。わかっとるけど・・・何もないっちゅーのは、さすがに落ち着かんし」
「最悪、ダンジョンじゃなくてプレイヤーを狙うという手もあるが・・・まだ早いな。せめて4日目以降にならなきゃ狙えない」
「そうやなぁ・・・あと、雪が降っとるのも地味にうっとうしいんや」
シオリの言う通り、標高が高くなるにつれて雪が降ってくるようになり、周囲もすでに何㎝か積もっている。
「雪が障害物判定になるかはわからんが、【白狼の疾駆】は発動していないのか?」
「しとらん。しとらんから、地味にうっとうしいんや。ちょっと顔にかかったりするし」
「【白狼のコート】にはフードがあるからいいんじゃないか?」
「それはそうやけど、あまり深くかぶると視界が狭まるし、見た目がちょっとあれやし」
シオリの【白狼のコート】には狼の頭のようなフードもあり、被ることで完全にマタギのような見た目になる。
俺としては、なかなか似合っていると思うんだが、シオリはあまりお気に召さないらしい。
だが、俺はいじけ気味のシオリを見て、なんとなくいたずら心がわいた。しいて言うなら、いつも振り回される分の仕返しみたいなものか。
俺は思わずニヤリと笑い、静かにシオリの背後をとった。
そして、
「それっ」
「にゃうっ!?」
両手に雪をすくってシオリの頭に落とし、即座にフードを無理やり被せた。
完全に不意打ちだったシオリは猫みたいな悲鳴をあげ、すぐに俺から距離をとって雪をはらい、フードを深くかぶってから恨めしそうな視線を俺に向けた。
ちなみに、VR空間では雪に温度はなく、冷たく感じることもない。ただただ、雪の感触を頭で感じただけだ。
だが、条件反射で悲鳴を上げてしまったシオリは、顔を真っ赤にしながら俺を睨みつけてくる。
「お前だって、いつも似たようなことをしてるだろ。お互い様だ」
「むぅ~・・・」
俺はその様子をくつくつと笑いながら反論し、シオリもぐうの音が出ないのか、さらに頬を膨らませた。
それを見て俺は笑いをこらえ切れなくなってきて、さらにからかおうかと考えたが、さすがにこれ以上は大人気ない気がしてやめた。それに、今のシオリを見るだけでも十分おもしろい。
「ほら!さっさといくでっ!!」
「はいはい」
子供のように拗ね始めたシオリに思わず苦笑を浮かべながら、早足になったシオリの後をついて行った。
さっさと前に進もうとするシオリについていくために小走りになりながらも、道中で現れたモンスターをさくっと倒しながら進むことさらに数時間、ようやく山頂についた。
山頂には祠と転移の魔法陣があるだけだったが、何かがあるのは間違いない。
「はぁ、はぁ、シオリ。ちょっと休憩・・・」
「知らん。もう背負ってあげんし」
両手で膝に手をつきながら息を切らしながら提案したが、完全に拗ねてしまったシオリは俺の言葉にプイっとそっぽを向いて先に進もうとした。
「シオリ。下からプレイヤー2人だ」
「っ、ここでか!」
その直前、俺は2人分の足音を聞き取り、シオリに警告した。
シオリもさすがに戦闘に関しては妥協するようで、槍を構えて臨戦態勢をとった。
さて、今度は誰が相手か。友好的なプレイヤーならありがたいが、さっきのこともある。なるべく気を抜かないようにしよう。
俺とシオリは武器を構えながら、俺たちが来た方向とは違う道から来る気配に備えて待ち続ける。
そして、下から現れたのは、
「あっ!シオリちゃんにクラルくん!」
「なんだ、メイプルとサリーか」
幸い、俺たちとも特に仲がいい2人だった。
だが、
「サリー!覚悟!」
サリーが視界に入った瞬間、シオリは戦意をMAXにしてサリーに突撃しようとした。
「ちょい待て」
「ふきゃんっ!」
その直前に、俺は素早くシオリに足をかけて転ばせた。幸い、下は雪だからダメージはないようだ。
「クラル!1度ならず2度までも!何するんや!」
「だから、レベル差を考えろレベル差を。お前とサリーじゃ少なくとも20以上は差が開いているだろうが」
すでにレベルが40を超えたシオリと、20を超えたかどうかも怪しいサリー。この2人が戦ったところで、シオリが勝つのは目に見えている。せめて、サリーとシオリのレベルの差が10以下にまでは待って欲しいものだ。
そう考えていると、サリーがコツコツとシオリのもとに近づき、
「シオリ、クラルに出鼻をくじかれて正論で諭されて、今どんな気持ち?」
「ムキィーーーーー!!!!」
まさかの煽りにシオリの沸点が限界突破し、顔を真っ赤にしながら両腕をぶんぶんと俺に振り回してきた。
俺はシオリの猛攻(?)を軽く躱しながら、サリーとメイプルに話しかけた。
「2人もこっちに来たんだな」
「うん。最初は草原のど真ん中に飛ばされて大変だったよ~」
「メイプルのAGIだったらそうだろうな。俺たちは森の方に飛ばされたが、特に何事もない・・・いや、メダルは見つけたか」
「あっ、私たちも見つけたよ!」
「へぇ、そうなのか」
元気いっぱいなメイプルに、俺はなんとなく心が洗われるような感じがした。
それはシオリも同じなようで、すぐに俺への攻撃をやめてメイプルにガバっと抱きついた。
もう何度も見た光景に肩を竦めていると、また違う道から再びプレイヤーが近づいてくる気配を感じた。
「シオリ、さらに来たぞ」
「え?また?」
さすがに敵を無視できないシオリは、しぶしぶメイプルから離れて再び槍を構えた。
メイプルは「え?え?」と困惑するが、サリーもさすがの対応で、俺の言葉に疑問を覚えながらも、すぐに短剣を取り出して構えた。
そして、下の方から4人組のプレイヤーが現れた。
だが、今度は知ったプレイヤーが1人混じっていた。
第1回イベントで9位だったクロムという大盾プレイヤーだ。
さすがに、ここで相手するのは面倒か・・・
「あっ!クロムさん!」
「おっ?メイプルか」
だが、メイプルは親し気な様子でクロムに話しかけた。
向こうから戦闘の意志はないという嘘のない言葉に武器を下ろしながらも、メイプルとはどういう関係なのか聞いてみた。
どうやら、メイプルがログインしたばかりのときに装備をどこで手に入れられるか尋ねたことがあるらしく、その縁もあってフレンド登録しているとのことだった。
とりあえず、ここで戦闘にならなかったのはよかったが、1つ問題があった。
「んで、この祠はどうする?俺たちのうちの1つのパーティーしかゲットできないだろ?」
「「「うーん・・・」」」
俺の言葉に、シオリ、サリー、クロムは思わずうなり声をあげた。
ここに報酬があった場合、後に入ったパーティーはそれを獲得できない可能性の方が高い。
だが、ここで実力勝負で決めるわけにもいかないだろう。
俺たちが悩んでいると、メイプルが申し訳なさそうに口を開いた。
「んー・・・・・・サリー、クラルくん。クロムさん達に譲ってもいい?」
この提案に、俺は内心で少なからず驚いた。
だが、メイプルはクロムに世話になったわけだし、ささやかな恩返しといったところか。
「メイプルがいいなら、私はいいけど・・・」
「・・・俺も、特に異論はない」
「うちも、メイプルちゃんが言うなら・・・」
俺たちの中では一番がめついシオリも、メイプルの言うことだからと先を譲った。
だが、もちろんこのままというわけではなく、サリーが口を開く。
「ただし、後悔しないこと!これは約束しておいてね」
「うん、わかった!・・・じゃあ、どうぞ先に行って下さい!」
「い、いいのか?こういうのは普通早い者勝ちだと思うが・・・」
「いいんです!私たちの気が変わらないうちに行った方がいいですよ?」
クロムはさすがに申し訳なさそうだったが、メイプルの言葉に礼を言ってから、魔法陣に載って消えていった。
「よかったんだよね?」
「うん。ここで戦闘になってスキルを使ったら結局転移先で戦闘になった時にまずいし、何よりフレンドの人と戦いたくなかったし。でも、2人もよかったの?」
「俺は別に、メダルにそこまでこだわりはないし、基本的にシオリとサリーの勝負については知らんし」
「うちは、サリーは別やけど、メイプルちゃんのお願いなら聞いてもええかなって。それに、あそこで襲って恨みを買うのも嫌やし・・・」
とはいえ、この選択は苦渋の決断だったんだろう。「うち、不機嫌ですぅ」という内心を隠そうともしない表情に、俺は苦笑を浮かべながら、先に行ったクロムたちの乗った魔法陣を見ながらつぶやく。
「はてさて、この先はどうなっているのか・・・ボスがいるなら、すでに戦闘が起こっているか」
「かもしれないね」
「どうする?降りる?」
「戦闘なら向こうが負ける可能性もあるし、結果を待ってからでもええんとちゃう?」
シオリがそう言った直後、魔法陣が再び輝きだした。
つまり、再侵入が可能になったということだ。
「「「えっ!?」」」「これは・・・」
これにシオリとメイプルとサリーは驚きの声をあげ、俺も絶句した。
なぜなら、クロムたちが入ってからまだ1分も経っていない。ボスがいなかったにしても、これは早すぎる。
だが、ボスがいたとすれば、それは、
「ど、どういうこと?」
「あり得る可能性は2つ。1つは、宝箱だけ開けてさっさと先に行った、ということ。だが、それだと再侵入できる理由が証明できないし、なにより早すぎる。となれば、もう一つの可能性、超強力なボスモンスターになすすべもなくやられた可能性の方が高い」
戸惑うメイプルに俺が努めて冷静に推測を述べたが、むしろこの先にはそれだけやばい相手がいるということになる。
「とりあえず、俺たちが取れる行動は2つ。1つは、どっちかが先に入って情報を得てから、フレンドメッセージでそれをできる限り伝えて後続のパーティーが討伐する。もう1つは、俺たちで手を組んで協力してボスを倒す。だが、前者の場合は戦力とか数えきれない問題を抱えているし、後者も報酬のとりわけの問題がある。一応、俺としては手を組んだ方がいいと思うが・・・」
そう言って、俺はシオリとサリーの方を見る。
2人は相当悩んでいるようだったが、先に返答したのはサリーだった。
「私は、別々で攻略した方がいいと思う」
「ほう?」
俺としては、サリーは慎重な意見を言うと思ったが、まさかの回答に俺は意外に思った。
「その心は?」
「まず、即席のパーティーだと連携を取れる確信がない。戦闘スタイルはわかっていても、実際に合わせるのとじゃ違うだろうし。それと、中にいるモンスターがわからないなら、ある程度情報をそろえた上で攻略した方がいいと思う」
「なるほどな・・・」
たしかに、メイプルとは街で何度か顔を合わせたくらいだし、サリーにいたってはほとんど戦っているところをみたことがない。
それは、向こうも似たようなものだ。
だったら、万全の連携が取れるパーティーで行った方がいいか。
それなら、
「どっちが先に行く?」
「そうね・・・私たちから行くわ」
「理由は?」
「悔しいけど、レベルはそっちの方が上だから、私たちよりは勝てる見込みがあると思う」
それはつまり、自分たちは捨て駒になると、そう言っているのだ。
さすがに、その提案を受け入れるのは憚られるのだが・・・。
「なんや、情けないなぁ」
すると、ずっと俯いて口を閉じていたシオリが、煽るような口調で口を開いた。
その矛先は、サリーだ。
「サリー。あんた、そんな性格やったか?自分より強い相手でも勝ってみせる!って大会の時の気概はどうしたんや?」
「シオリ・・・」
「そんな弱気になっとるんやったら、うちらが先に行く。そんで、報酬もうちらがもらう。そしたら、今回の勝負、うちらの勝ちがグッと近づくってもんや」
出てくる言葉は完全に挑発だが、俺にはそれが違うということがわかった。
これは、シオリなりのエールだ。
たぶん、レベル差を気にしているサリーを思ってのことなんだろう。
そして、それはサリーにもなんとなく伝わったようで、先ほどまでの弱気な姿勢はどこへやら、口元に笑みを浮かべ、真っ向から返した。
「いいわ、わかったわよ。だったら、私たちだけで勝ってやろうじゃない!でも、私たちが勝っても文句言わないでよ?」
「上等や。やったら、さっさと準備して行ってくるんや!」
「言われなくとも!ほら、メイプル!行くわよ!」
「わわっ!?押さないでよサリー!」
背中をグイグイと押されて慌てるメイプルに構わず、サリーたちはそのまま魔法陣の上に乗り、ボス部屋まで転送されていった。
「どういう心境の変化だ?」
静まり返った空気を振り払うためにも、俺はいたずらっぽくシオリに問いかけた。
「・・・べつに。うちが勝とうと思っとるのは、あんな弱気なサリーやないってだけやし。あんな、大会で見たこともないような表情見せつけられて、腹が立っただけやし」
対するシオリは、口をとがらせ、ちょっと頬を赤くしながら答えた。
これは、シオリなりの照れ隠しなのだろう。
そんなシオリが微笑ましくて、俺はシオリの頭をわしゃわしゃと撫でた。
「うぅ~、やめるんや!」
これにシオリはウガァーと両腕を上げて振り払い、さっさとフードをかぶって表情を隠した。
そんなシオリの様子に、俺はさらにからかってやろうかと思ったが、さすがにやめておくことにした。
それからしばらくした後、魔法陣が消えたことと、サリーからのフレンドメッセージでメダルを5枚も獲得したという内容が送られたことでシオリのやる気レベルがさらに上がり、下山途中で遭遇したモンスターやらプレイヤーを片っ端から狩っていった。
その甲斐あって、夜営地を見つけたころにはメダルがさらに3枚追加されたのは、結果オーライと言うべきだろう。
今回はちょっと長めです。
途中で切ろうにも、どこでやっても中途半端になりそうだったので。