第2回イベントも、今日で3日目。もちろん、ゲーム内時間でだが。
交代しながらの休憩も切り上げ、さっそく探索に向かおうと思ったんだが、
「・・・シオリ。そろそろ機嫌を治せ」
「・・・べつに。うちはふてくされとらんよ」
昨日のメイプルたちがメダル5枚を手に入れたことで、自分が焚きつけてしまったこともあって大きくリードされたことが、よっぽど悔しかったらしい。
幸いと言うべきか、「あの時譲らなければ~」みたいなことは言っていないから、単純にふてくされているだけだろう。
いつもなら俺も苦笑くらい浮かべるが、休憩している間ずっとこの調子だと、さすがに鬱陶しくなってくる。
「ったく・・・とりあえず、今日の方針だが、ここに向かうぞ」
「これって・・・遺跡、か?」
俺がマップで指さしたのは、神殿のような建物がある荒野だ。
「もう3日目だし、何もないかもしれないが、ここからそれなりに近いし、何より他のプレイヤーも多そうだ。今日は探索しつつ、プレイヤーを襲っていくぞ」
「わかったで。そういうことなら、うちに任せとき!」
今回の方針に、シオリは鼻息荒くうなずいた。
実際、遺跡という閉ざされた場所だと、俺の【竜ノ息吹】と相性が悪いが、シオリならAGIを生かして敵を翻弄できる。
それに、俺も【魔弾の射手】の上方修正によって近接戦闘もこなせるようになった。あまり手の内をさらけ出したくないが、必要なら近接戦闘も視野に入れていいだろう。【魔弾の射手】を使わなくとも、右手に装備しているサブの短剣で十分だろうし、遮蔽物が多いなら奇襲もできる。
そういう意味では、この遺跡はかっこうの狩場だ。
「でも、昨日は『せめて4日目』って言うとらんかったか?」
「予定が変わった。別に俺は勝負に関わるつもりはないが、メイプルたちが300枚のうち5枚を手に入れたっていうのはかなりでかい。さっさとしないと、メダル集めがさらに難しくなるからな。メダルを集める手段は多ければ多いほどいい」
「なるほどな」
「それじゃ、目標はこの遺跡だ。さっさと向かうぞ」
「了解や!」
幾分か機嫌がよくなったようで、軽い足取りで走り出した。
ただ、ここで俺を置いていくのは勘弁してほしかった。
目的地がわかっていただけよかったものの、シオリの姿が見えなくなってから限界を超える勢いで走っても尚、シオリに追いつくことはできなかった。
割とマジで、シオリが本当にこのゲームで最速になりつつあると実感しながら、恥も外聞も殴り捨ててどうせなら背負ってもらいたかったと本気で思った。
* * * * *
「ぜぇ・・・はぁ・・・」
「く、クラル?大丈夫か?」
「ダメに・・・決まってる、ゴホッ、だろうが・・・」
走り続けること2時間、俺はようやく目的地の遺跡にたどり着いたが、すでに俺の体力は限りなく0になっていた。
俺は危機意識とかそういうのを丸投げにして、もう30分くらい地面に大の字になって寝っ転がって息を整えつつ体力の回復に努めていた。
「にしても、クラルってそんなに体力ないわけやないやろ?なんでそんなに疲れとるん?」
「全力疾走を1,2時間も続ければ、普通は誰だって力尽きるだろ・・・」
たしかに俺は、戦争系シューティングゲームで1時間くらいいぶっ通しで戦場を駆け回ったことはあるが、あくまでペースを考えた上だし、ちょいちょい立ち止まったりもしたから長く走ることができただけだ。
シオリみたいに、全力疾走をいつまでも続けられるわけではない。
「そ、それなら別に、歩いて向かっても・・・」
「歩いたら探索の時間が余計に削れるし、第一、お前を長時間1人にできるかよ・・・何をするかわからないってのに・・・」
俺の全力疾走で2時間、シオリは1時間で到着したというなら、歩きだと果たしてどれだけ時間がかかることか。
もっと言えば、トラブルメイカーであるシオリを1人にしたら、いったいどんな惨状が生まれるか。考えたくもない。
シオリも自覚があるのか、「うっ・・・」と口ごもって露骨に視線を逸らした。
だが、30分寝転がっただけあって、体力も十分回復して息も整ってきた。
「さて、どこかのバカのせいで無駄に浪費した体力も戻ってきたし、遺跡攻略といくか」
「は、はい、わかりました・・・」
余計なことをしてしまった自覚があるようで、珍しくシオリが敬語になりながらも後をついてきた。
遺跡に入るその直前、背後から足音が聞こえた。
咄嗟にバッと弓を構えて振り返ると、
「おっと、別に手を出したりしないよ」
「・・・右に同じく」
「おいおい。そんなにやばい奴らなのか?」
「いや、実際にやばいでしょ?クラールハイトは不意打ちとはいえ、ペインを完封したわけなんだし、シオリもドレッドに勝ったんでしょ?」
見知った顔が2つに、知らない顔がさらに2つ追加されていた。
「ペインとドレッドか・・・他の2人は、たしか第1回イベント5位のドラグと・・・」
「あ~、私は初対面か。私はフレデリカ、よろしくね~」
ペインとドレッドとともにいたのは、大柄な体格に大斧を担いだプレイヤーのドラグと、小柄の女性の魔法使いであるフレデリカというらしいプレイヤーだった。
まさか、昨日に続いて知った顔のパーティーと鉢合わせるとは。
内心複雑になりながら、ふとシオリの方を見てみると、何やら顎に手を当てて考え込み、
「う~ん・・・フレデリカちゃんは、ちょっとうちの好みと違うなぁ。なんか、腹黒そう感じがするし」
「誰が腹黒いだとう!」
初対面の相手に割と失礼なことをのたまわった。
ていうか、正面から初対面の相手の女性に向かって「腹黒そう」とは、いささかどうなのだろうか。
シオリに腹黒そうと評価されたフレデリカは、顔を真っ赤にしながら講義するが、パーティーメンバーが訂正しようとしない時点でお察しということだろう。
ギャーギャー騒ぐ女性2人は置いておいて、男は男同士で話すことにした。
「それにしても、まさかまた知った顔と会うとはな・・・」
「また?」
「あぁ、昨日はメイプルたちと会ったんだ」
「へぇ。戦わなかったのかい?」
「シオリがメイプルを気に入っているからな。メイプルのフレンドの子とは犬猿の仲だが、なんか今回のイベントで勝手に勝負で盛り上がっているし」
「勝負っていうと、メダルの数とか装備の良さで競う感じか?」
「そうだ。だから、装備が落ちていそうで、なおかつ他のプレイヤーを狙えそうなここに来たんだが・・・」
そう言ってちらりとシオリとフレデリカの方を見ると、フレデリカは杖をブンブンと振り回しており、シオリはそれを軽く避けていた。
「・・・どうする?」
「しばらく放っておけばいいんじゃないか?」
「触らぬ神に祟りなし、とも言うしな」
「女の感性は、よくわかんねぇしな」
結局、フレデリカがスタミナ切れになるまで、俺たちは俺たちで雑談を交わしながら時間をつぶした。