「あっはっはー!たーのしー!!」
「あまりエキサイトしすぎるなよ~」
初心者御用達の森の中に入った俺たちは、さっそくモンスターを狩っていたのだが、しょっぱなからシオリがテンションを爆上げにしながら突撃していった。
高笑いしながら槍を振り回し、モンスターを屠っていく姿は、完全に
だが、ただ槍を振り回しているわけではない。
シオリの槍は常人なら目で追うのも難しいほど鋭く、突きは狙いたがわずモンスターの心臓部(心臓があるかどうかは別にして)を貫き、払いは遠心力も加わって複数のモンスターを薙ぎ払い、至近距離に近づかれた時は槍を地面に突き刺し、棒高跳びのように飛び上がりながら蹴りを加え、空中でも槍を振り回してモンスターを屠っていく。
シオリのすごいところは、VR空間であれば、1度見た動きや技を完全に再現することができるということだ。それはアニメや漫画に限らず、武術の説明や試合の動画、果ては相手プレイヤーのスタイルやスキルにまで及ぶ。
今の動きもアニメのものなのだろうが、集団で襲い掛かってくる虫系モンスターをほぼ1人で迎撃していた。
俺も後ろから仕留め損ねたモンスターを弓矢で倒しているが、多くても10体に1体くらいだ。
こういうのを才能と言うんだろうが、果たしてすごいと言うべきか無駄と言うべきか、悩むところだ。
少なくとも、そのセンスに任せたプレイスタイルは、ひたすら技術を磨いて極めていく俺とは対照的だ。
味方だと頼もしいかぎりだが、そろそろ引いた方がいいかもしれない。
「シオリ、その調子だとそろそろ武器が限界だろう。素材もゴールドも十分集まったし、いったん街に戻るぞ」
「ありゃ、もうそんなに経っとんのか。しゃーないなぁ。今回はこんぐらいにしとこか」
シオリは完全に時間を忘れていたようで、我に返ったように槍を下ろした。
俺もほっと一息つきながら、矢を持って後ろから感じる気配に突き刺した。
何かを貫く感触を感じて後ろを振り返ると、ハチ型のモンスターがちょうど俺を後ろから刺そうとしていたところだったようで、腹から出た針があと数cmのところで俺に刺さるところだった。
「相変わらず、ハラハラするプレイングやなぁ。危なくないん?」
「危なくないボーダーはちゃんとわきまえているからな。大丈夫だ、問題ない」
「それ、死ぬときの常套句やで」
軽い会話を交わしながら、俺とシオリはいったん街に戻ってドロップアイテムやステータスを確認した。
レベルはすでに10になっており、武器の基本スキルである“心得”系統もいつのまにかⅡまで解放されていた。
さらに、装備に関しても、売却分の素材も含めて、2人分用意するのに問題ないくらい集まっていた。よく武器が持ちこたえてくれたものだ。
「とりあえず、あとでステータスポイントを割り振るとして、先に装備を整えておくか?」
「そうやなぁ・・・でも、今日は時間的にこれで終わりやし、先にステータスポイントを割り振って、装備は何ができるかだけ確認すればええんとちゃう?」
「そういえば、もうそんなに時間が経ってたんだったな」
時間を見れば、すでに就寝時間の30分前になっている。装備を作っても、今日はこれで打ち切りということになるだろうし、見繕う時間もあまりない。
シオリの言う通り、装備の方は今日は下調べだけ済ませて、明日何にするか決めておこう。
そう決めて、俺とシオリはステータスポイントを割り振った。ちなみに、俺はVITとHP以外にまばらに、シオリはAGI多めと残りはSTRに、と言う感じになった。
この時点での方針は、俺は回避中心で魔法もある程度使える後衛で、立ち回りとしては“回避盾”に近い。シオリはAGIを重点的に上げつつ火力もだせる前衛で、INTやMPは低いままのつもりらしい。
「にしても、後衛の“回避盾”ってなんか矛盾してへん?」
「盾っていうよりは、“回避砲台”って感じだよな」
「うわぁ・・・それはそれで嫌やなぁ・・・」
「まぁ、普通に狙撃手って考えればいいだろ。とりあえず、目標は200m狙撃くらいか・・・」
「数字からしておかしいやろ。それって、三十三間堂よりも長いんとちゃう?」
「たしか120mくらいって聞いたから、だいたい2倍だな」
「遠すぎる!たとえゲームでもできへんて!」
「大丈夫だ。FPSで2000m狙撃を成功させた俺ならできる」
「・・・あれ?そう聞くと、案外余裕かも?」
いやまぁ、弓自体の射程や、システムに設定されている有効射程もあるから、一概に楽勝と言うわけでもないが。
でも、できないことはないだろう。
敵に気づかれない距離から一方的に狙撃するというのも、それはそれで気持ちいいし。
ステータスポイントをすべて割り振り、武具店に行こうと腰を上げると、不意にシオリがある一点を凝視し始めた。
「ん?どうした、シオリ?」
「向こうに美少女がおった!」
そう言うなり、シオリは今日だけでも爆上がりしたAGIに物言わせて瞬く間に距離をつめ、黒髪ショートの女の子にいきなり抱きついた。
「うわぷっ!な、なんですか!?」
「うわぁ~!かわえぇな~!しかも、それ初心者装備やろ?うちとお揃いや~!」
「え、えっと・・・」
「ん~、さらさらの髪と言い、えぇ抱き心地やぁ~。よし、このままお持ち帰りして・・・」
「それくらいにしろ、シオリ」
女の子は完全に何が起こっているのかわからないといった様子だったから、俺が後ろからシオリの首根っこを掴んで持ち上げ、むりやり引きはがした。
「ちょっ、クラル!離してや!うちはこの美少女を愛でなあかんねん!」
「初対面の人にいきなり抱きつくんじゃない。たとえゲームでも、ハラスメントコードは存在するからな」
「うちは通報されてもかまわん!」
「開き直るんじゃない。まったく・・・あーっと、すまないな。このバカが変なことをして」
「え、えっと、大丈夫です・・・?」
女の子の方は疑問符を浮かべながらも、とりあえず問題ないと言ってくれた。
シオリは見た目は茶髪のボブカットで整った顔立ちをしており、客観的に見ても美少女だと断言できるが、当人は可愛い女の子が大好きというオヤジっぽい内面を持っており、教室でも可愛い女の子には抱きつくと言ったスキンシップも多い。一応、問題になったことはないが、それは俺が問題を起こす前に無理やり止めているからであり、セクハラ未遂になったことは何度もある。
「う~、う~、別にええやん。減るもんでもないし」
「お前の信頼とこの子の貞操その他諸々が減るんだよ」
「そんなぁ・・・せや!それやったら、うちらとフレンド登録せぇへん?こうして会ったのも何かの縁やし!」
「会ったっていうか、お前が一方的に突撃しただけだけどな」
「な?ええやろ?」
俺のツッコミはスルーされ、俺のアイアンクローを振りほどいたシオリがキラキラした眼差しで問いかける。
女の子の方は、最初は悩んでいたが、すぐに答えは決まったようで、
「そうですね!せっかくですし、お願いします!」
「よっしゃ!それでこそや!」
「ったく・・・」
あからさまに歓喜するシオリに頭痛を堪えながらも、フレンド登録を済ませた。
名前は“メイプル”と言うらしく、俺たちと同じく今日が初ログインだったらしい。
「メイプルちゃんか~、よろしくな!」
「このゲームは初めてだが、他にもいろいろとプレイしてきたから、わからないことがあればサポートする」
「はい、よろしくお願いします!シオリさん!クラルさん!」
こうして、俺たちはログイン初日で快活な黒髪ショートの美少女、メイプルとフレンドになったのだが、まさか今後、あのような成長の仕方をするとは思ってもみなかった。