第2回イベントも今日で4日目、折り返しだ。
「それじゃあ、クラル。今日の予定を!」
「はいはい」
もう恒例となった朝の予定発表に、俺は慣れたテンポで今日の予定をつたえる。
「今日1日は、ゆっくり移動に費やす」
「え?移動だけなん?」
「厳密には、ゆっくりプレイヤーを探しながら目的地に向かう、ってところだな。昨日の時点で、プレイヤーからメダルを奪えなかったし」
メダルをゲットできたとはいえ、それはあくまでダンジョンの攻略報酬だけであり、当初の予定だったプレイヤーからの奪取は相手が悪くてできなかった。
今日こそは、プレイヤーからせめて2,3枚は奪いたいところだ。
「なるほどなぁ。それで、目的地はどこなんや?」
「ここの浜辺、ってより海の方だ。明日はここをじっくり探索する。今日のところは、ここの森とか川沿いをうろうろしながら進んで、プレイヤーは見つけ次第、積極的に狩る」
「おぉ!そういうの、たぎってくるで!」
昨日おあずけをくらったからか、いつになくシオリがやる気を出している。
だが、
「・・・悪いが、シオリ。多分、シオリの出番はそこまで多くない」
「え?なんでや!?」
「言っただろ、積極的に狩るって。俺も全力で索敵して、遠慮なく遠距離狙撃をしてくからな。ぶっちゃけ、近づく前にだいたい終わると思うぞ」
「おうまいがっ」
俺のぶっちゃけに、シオリが盛大に崩れ落ちた。
そんなに楽しみにしてたのかよ。
「・・・まぁ、近づいてきた分はシオリに頼むから。そんなに落ち込むな」
「・・・そんなの、絶対にないやろ。クラルの索敵、全方位対応しとるし、バカみたいに範囲広いし」
俺の精一杯の慰めも、肝心のシオリに否定されてしまった。これには、俺も何も言えなくなる。
シオリのこの言葉には、ちゃんとした理由がある。
シオリがVR空間でゾーンに入れるように、俺にも他にはないVR空間限定の特殊な能力、というより体質がある。
それが“超感覚”。VR空間における五感が、他の人よりも鋭敏になる体質だ。
この体質による影響は、個人差はあるものの、最低でも常人の10倍は鋭くなるとのことだった。
もちろん、必ずしも五感全部が鋭敏になるわけではなく、どれか1つの感覚だけが鋭くなることもある。
俺の場合、“聴覚”が鋭敏になっており、病院で行った計測では50m先のコインが落ちた音もはっきりと聞きとることができた。
だが、この“超感覚”はいいことばかりというわけではなく、むしろ病院で検査されるレベルの病気と言ってもいいものだ。
人によっては、触覚が鋭くなった影響で痛覚も通常よりも痛く感じてしまい、VRゲームを禁止することになる例もあるくらいだ。
俺の超感覚による聴覚、しいて言うなら“超聴覚”と呼ぶが、下手をすれば“聴覚過敏症”と同じ症状が現れるものであり、VRゲーム禁止の一歩手前までいったこともあるが、その時の担当医が治療法としてVR空間での様々な訓練を勧め、それによって聴覚過敏症のような症状になることなく克服できたのだ。
それ以降、俺の超聴覚は最大の武器になり、これのおかげでシオリとも対等に渡り合えるくらいの実力を身に付けたのだ。
ちなみに、今では目を閉じても自分で音を出せば、ソナーみたいにそれなりに地形把握できるくらいにまで発達している。自分でも、俺はいったいどこに向かっているんだろうと思う。
「それじゃあ、行くぞ。ほら、シオリも立て」
「はぁい・・・」
あからさまにテンションが落ちたシオリに思わずため息を吐きながら、俺たちは森の中へと足を踏み入れた。
* * * * *
「・・・思ったよりいないな」
「・・・そうやなぁ」
森の中に入ってから2時間ほど。俺たちはあまりない収穫に肩を落としていた。
別に、昨日みたくプレイヤーを全く見かけないというわけではない。むしろ、それなりにエンカウントしている。
「いない」というのは、メダルを持っているプレイヤーの話だ。
この2時間で遭遇したパーティーは中規模のギルドだろう団体も含めてちょうど10、倒したプレイヤーは100人を超えているが、それでも奪ったメダルはたった今ゲットした1枚だけだ。
俺たちが倒したパーティーが少なかったのか、単純にメダルを持っているプレイヤーがかなり限られているのかはわからないが、思った以上に旨味が少ない。
「う~ん。もしかして、プレイヤーを狙うのって、実は非効率的だったりするんかな?」
「いや、そんなことはないと思うが・・・まぁ、そもそもメダルが300枚しかないしな。プレイヤーの数に対して、決してメダルが多いとは言えない。スキルを取得できるのも、最大で30人ぼっちだしな。もちろん、メダルを入手できる機会が今回だけってことはないだろうが・・・」
とはいえ、おそらく数千のプレイヤーがいるだろうフィールドの中で、メダルが300枚というのはけっこう少ない。
そう考えると、メダルを10枚集めることができたというプレイヤーは、かなり幸運だと考えられる。
それなら、もう少し作戦を練り直してみるか・・・いや、今の時点で急遽変更しても効果は薄いだろうし・・・。
「クラル、ちょっとええか」
「ん?どうした?」
思案にふけっているとシオリから声をかけられ、そこで俺も気が付いた。
森の中をけっこう進んだが、だんだん霧が現れ始めている。
まだ視界を遮られるほどではないが、ただの霧だと考えるのは早計だろう。
「・・・どうする?」
「・・・なにかしらのイベントの可能性もある。霧が出ている場所に向かうぞ」
シオリも俺の提案に頷き、霧が濃くなっている方向に向かって歩みを進めた。
数十分歩くと、霧の発生源らしき洞窟を発見した。というより、どう見ても洞窟から霧があふれている。
「あの洞窟の中か・・・入るか?」
「当然やろ。ワンチャン、メダルゲットや」
俺の問い掛けにシオリも頷き、それぞれ武器を構えて洞窟の中へと突入した。
思った通り、洞窟の中は濃霧で満たされており、1m先はおろか、隣のシオリすら視認するのが難しい状態だ。
「シオリ、いるか?」
「大丈夫や!」
時折声をかけ合いながら確認しているが、この霧の中でモンスターに襲われたらひとたまりもないため、索敵に集中するために言葉数も少ない。
だが、何事もなく奥まで進み、霧のない広大な空間に出た。
昨日の遺跡のボス部屋ほどではないが、何かしらでてくるのは確実だ。
「ボス戦か・・・シオリ、気を付け・・・」
来るだろうボスに備えて俺は弓矢を構えようとするが、シオリが黙ったままなのに違和感を感じた。
その刹那、
「っ!?」
間一髪、首をひねることでなんとか躱し、すぐにシオリの姿をした何かに相対した。
「クスクス、避けたね」
「・・・なるほど、そういうことかぁ」
要するに、ドッペルゲンガーと戦うダンジョンということだろう。
ということは、今頃シオリも俺の偽物と戦っているってことか。
それに、先ほどの突き。止まった状態から突き出したにしては速い。
つまり、目の前の偽シオリは、ステータス上ではシオリよりも速い、ということだ。
この事実に俺は、口元に獰猛な笑みを浮かべた。
「・・・いいねぇ。面白くなってきたじゃねぇか」
こういうイベントを用意してくれるとは、運営も粋なことをする。
運営からすれば鬼畜イベントのつもりかもしれないが、せいぜい楽しませてもらおう。
クラルの設定を追加、というか索敵の裏付けを書いてみました。
それと余談ですが、現実にフルダイブのVRゲームが出た場合、こういう障害って実際にでるんですかね?
SAOプログレッシブにはそういうのがあったので、こっちでも取り入れてみていますが。