「うわ・・・近くで見ると大きいなぁ」
「メイプルのDEX、0だよな?」
近くで見ると、思った以上にでかかった。たぶん、3mくらいはある。
ついでに、中からギャーギャーと騒ぎ声も聞こえる。
一瞬、先にシオリが着いていたのかと思ったが、明らかに声が違う。中性的ではあるが、男の声だし。
いったい何をしているんだろうと思って入り口から中を覗くと、メイプルが赤い癖毛の少年とオセロをしているところだった。ちなみに、会話の内容と真っ白の盤面から察するに、黒を選んだメイプルがズタボロに負けたところだったんだろう。
ていうか、城を作ってからオセロやる時間があったのか・・・。
少年の方は、頭に装備しているピアス以外はすべて初期装備だった。だが、武器を装備しているようには見えない。
「あっ、お帰りサリー!と、クラルくんも?」
「あぁ、偶然会ってな。シオリももうすぐ来ると思うんだが・・・っと、噂をすれば」
そう話していると、ちょうど海の方から騒がしい気配と共に全速力で向かってくる気配を捉えた。
振り返ってみれば、シオリが全力のクロールでこちらに向かっているところで、100mを30秒足らずで泳いで上陸してからは今まで以上の猛スピードで走ってきた。
「メイプルちゃん、見つけたでー!」
そして、砂の城に突入するや否や、もはやあいさつ代わりのようにメイプルに抱きついた。
相変わらずのシオリにやれやれと首を振りつつも、初対面の少年の方に視線を向けた。
「んで、誰?」
「僕はカナデ。さっきまではメイプルと一緒に砂の城を作って遊んでたんだ」
「うん。楽しかったよねー」
「ねー」
この時点で、この2人がどこか似ていると思った。たぶん、性格が似ているのだろう。それこそ、初対面で砂の城の建築に協力したり、オセロで遊ぶくらいに。
サリーとしては、そこそこ不安なようだったが。
「大丈夫なの?」
「大丈夫だと思うよ?ねーカナデ?」
「だって僕まだレベル5だよ?自慢じゃないけど弱いよ?」
そう言うと、カナデはステータス画面を開いて俺たちに見せてきた。
画面では、たしかにレベルが5と表示されているが、さすがに俺も少し慌てる。
「お、おいおい。簡単に見せていいのか?」
「いーよいーよ。メイプルのパーティーメンバーのサリーさんに、フレンドのクラールハイトさんとシオリさんでしょ?なら別にいいよ!」
俺やサリーがいない間に何があったのかはわからないが、メイプルは随分と信頼されているらしい。その逆もまたそうなのだろうが。
ついでに、すでにフレンド登録も済ませているとのことだった。
「んー・・・サリーでいいよ。メイプルが大丈夫って言うなら、まあいいや」
「俺もクラルでいいし、こいつのこともシオリでいい。まぁ、向かってくるなら簡単に倒せるしな。べつにいいか」
そう言いながら、俺とサリーはそれぞれ短剣を構えた。
「そ、そんなことはしないと誓うね、うん」
「けっこう。それと、シオリもさっさと離れろ。話すことがある」
そう言って、俺はメイプルからシオリを引きはがし、先ほどのダンジョンの話をした。
「えー・・・あんまり行きたくない・・・」
「それには同感。でも、中がどうなってるかは分からないし・・・入ってみる価値はある」
「その場合、どっちが先に入るかって問題は出てくるけどな」
だがどのみち、先に入った方が潰れ役になる可能性もあれば、先に入った方が攻略する可能性もある。シオリも珍しく、慎重な様子だ。
どうしたものかと悩んでいると、カナデがまさかの提案をしてきた。
「なら、僕が見てきてあげる!スタート地点もここから百メートルくらいしか離れてないし」
つまり、自分が死ぬということを前提にした作戦だ。
たしかに、今回のイベントではモンスターによる死亡のデメリットは少ないが、さすがに初対面の相手にそれは気が引ける。
他の3人もそこまではしなくていいと止めたのだが、カナデは飛び出していってしまった。
「【水泳Ⅰ】は持っているみたいだから、途中でおぼれるようなことはないと思うが・・・」
「だ、大丈夫かな?」
「どうやろなぁ・・・」
「わからないなぁ・・・」
その後、カナデが無事小島にたどり着いたのを見届けた後、ダンジョンに何があるか考え始めた。
「どう思う?」
「すっごいモンスターがいるんじゃないかなぁ・・・」
「俺もそう思う。問題は、どういうやつがいるのかだが・・・」
「海にいるモンスターで強いの言うたら、クラーケンとかか?」
もちろん、これらは予測でしかない。
「あー、死んだ死んだ」
あーだこーだと話していると、森からカナデが現れた。
どう考えても、メイプルたちが戦ったような強力なボスモンスターがいるパターンだ。
「報告します、メイプル殿」
「ほほう、何だね?」
何やら妙なノリから始まったが、報告の方が大事なのでスルーした。
「転移先は水中。さらにその水に浸かっていると動きが鈍り、なす術なく巨大イカに叩き潰されました」
「なるほど・・・無理!」
水中戦に参加できないメイプルなら特にそうだろう。水中となると、動きも地上より鈍くなってしまうが・・・。
「今回は諦めよう」
「僕もそれがいいと思うよ」
「もうしばらく海の探索をしたら終わりにしようかな」
メイプルとサリーは早々に諦める選択をとり、カナデもそれに頷いた。
だが、
「それやったら、クラル!うちらでやったるで!」
「「「え?」」」
シオリのやる気宣言に、メイプルたちは驚いた様子でシオリの方を見た。
「いやいや、シオリ。カナデの話、聞いてたでしょ?」
「そ、そうだよ、シオリちゃん。さすがに無謀だと思うな・・・」
「たぶん、弱体化する方法がどこかにあると思うから、それを探してからの方がいいと思うけど・・・」
「いや、うちらならやれるはずや!なぁ、クラル!」
シオリが俺に話を振り、メイプルたちから「説得したら?」みたいな視線を向けられたが、俺は顎に手を当てて思案していた。
「えっと、クラルくん?」
「・・・カナデ、動きが鈍くなるっていうの、体感的にどれくらいだ?」
疑問符を浮かべて話しかけてくるメイプルには答えず、代わりにカナデに問いかけた。
カナデは、疑問に思いながらも答えてくれた。
「えっと、僕のステータスもあまり高くないから、なんとも言えないけど・・・たぶん、ステータスで言うと20%くらいかな?」
「なるほど、20%か・・・」
カナデの言葉に再び思案を始め、今度はシオリに問いかけた。
「シオリ。さっきの探索で何か収穫はあったか?」
「あったで!ふふん、これや!」
そう言うと、シオリは2枚のメダルと1つの指輪を取り出した。
これでメダルは18枚として、
「この指輪は?」
「海底洞窟の奥で見つけたんやけど、1日に1回だけ、スキルのクールダウンを無視してスキルを使えるっちゅー代物や!」
つまり、この指輪を使えば、1日1回に限り、クールダウンが必要な強力なスキルを連続で発動できる、ということか。これまたぶっ壊れだな。
だが、これはでかいぞ。
最後に、俺はメイプルに問いかけた。
「メイプル。なにか強力な武器を手に入れてないか?例えば、剣とか槍みたいな」
「あっ、えっと、持ってるよ!」
そう言って、メイプルはインベントリから1本のサーベルを取り出した。
名前を【ゴブリンキングサーベル】。耐久値の消耗が早い代わりにSTRが75も追加されるという、かなりの脳筋武器だ。
だが、たしか【魔弾の射手】にはステータス関係の装備制限はなかったはずだ。
「俺の方からも装備品を出すから、交換してくれないか?」
「え?う、うん、いいよ」
そう言って、俺はインベントリから先ほど見つけた指輪をメイプルに渡し、【ゴブリンキングサーベル】を受け取った。
試しに【魔弾の射手】に登録して取り出してみると、問題なく持てることを確認した。
「シオリ。その指輪、俺がもらってもいいか?」
「ええよ」
シオリも快く指輪を渡してくれて、俺はさっそく装備した。
「ね、ねぇ、クラルくん。まさか、本当に戦うつもりなの?」
「あぁ」
「どっ、どうして!?さっき、無理だって話したところだよね!?」
メイプルは盛大に驚いていたが、俺も勝算がないわけではなかった。
「一応、勝ち筋がないわけではない」
「そ、そうなの?」
「あぁ。シオリのAGIなら20%くらいは許容範囲内だし、俺はそもそもデバフや状態異常は効かない。泳ぎに関しても、水中戦なら3人よりはこなしているつもりだ。リアルでもそこそこ泳いでるしな」
俺だって、なにも考えなしに突っ込むわけではない。
俺とシオリはサリーよりも長く潜れて上手く泳げるし、デバフもそこまで枷にはならない。
ていうか、今のシオリのAGIってたしか装備含めて300近くあったはずだ。20%減しても240あるし、【速度中毒】によって結局は500近い値を出せる。
「あっ、そうそう。クラル、新しいスキルもゲットしたで」
「それを先に言ってくれ」
何を今さらって感じはするが、とりあえず確認することにした。
【疾風迅雷】
このスキルの所有者のAGIを2倍する。【STR】【VIT】【INT】のステータスを上げるために必要なポイントが通常の3倍になる。
取得条件
1時間以内に20㎞移動する。
「・・・あれ?水中探索してたんだよな?」
「洞窟の中は水がなくてな、カニのボスがいたんよ。それで、1発で仕留めるためにぐるぐるしとったら、いつの間にか取得してたんや。倒した後も、ずっとステップ刻んどったしな」
どうりで、さっき合流した時、やたらと速いなと思ったんだよ。
この様子だと、1時間どころか30分くらいで完走していそうだな、こいつ。
まぁ、それはさておき、それなら都合がいい。なにせ、シオリのAGIが素で500近くになったということなのだから。装備と【速度中毒】込みで1000も狙えるぞ。
これなら、問題ないな。
「とまぁ、そういうわけだ。俺たちは、これからそこのボス討伐に向かう」
「う、うん、わかった!気を付けてね!」
メイプルたちの見送りを受け、俺たちはボスモンスターが待つ小島へと泳いでいった。
ちなみにこの時、今までよりもシオリに追いつけなくなってしまったことに強い敗北感を覚えたのは、ここだけの話だ。
シオリなら、いつかは音よりも速く動けるかもしれない。
後付け感が半端ないシオリのスキルですが、速度重視ならやっぱりあった方がいいかなと思って、つけちゃいました。
さすがに無理があるようなら、別の話に入れるつもりです。
ちなみに、取得条件は現実のマラソンの世界記録を参考にしてみました。
非公認では、フルマラソンで2時間を切った記録があるそうな。