「さて、準備はいいか?」
「いつでもえぇで!」
さっさと泳いで例の小島の魔法陣にたどり着いた俺とシオリは、最後の確認をしていた。
「それじゃあ、手はず通りに。行くぞ!」
「了解や!」
最終確認を終えた俺とシオリは、気合十分な掛け声と共に魔法陣の上に乗った。
光が収まると、俺たちが転移された先はカナデの言っていた通り、水の中だった。
そして、
「シオリ!上だ!」
上にいる、巨大なイカを確認。直後、俺は下へ下へと全速力で潜り、シオリも遠回りしてAGIを上昇させながらイカに近づいていく。
下に泳いでいく俺が底につくころには、大半の触手が俺を追っていた。
それを確認した俺は弓を引き絞り、
「【エクスプロージョン】!【拡散】!」
先日のゴーレム戦でも使用した、広範囲攻撃を放つ。
放たれた爆発の矢は【古代の護石】による効果もあって150に分裂。シオリを追っていたのも含むほぼすべての触手を消し飛ばし、何本かは本体に当たった。
HPの削れ具合から察するに、触手は別判定で、ダメージは本体にしか通らない感じだ。それに、触手の再生スピードも速い。
だが、数本だけでのダメージでも、減ったことがわかるくらいにはHPバーが削れた。やはり、メイプルたちが戦ったボスほど硬くはないのかもしれない。
「シオリ!本体を狙え!耐久は高くないから、攻撃に気を付けてガンガン攻めろ!」
「わかった!」
遠巻きに様子を見ていたシオリは、十分な加速を得て縦横無尽に泳ぎ回る。
イカも触手を伸ばしてシオリを迎撃しようとするが、完全に追いついていない。
そして、すれ違いざまに入れた一撃で、いっきに1割ほど削れた。
一撃で削れたダメージとしては大きいと考えるべきか、STRが900相当はあるだろう一撃にしてはあまり削れていないと考えるべきかは微妙なラインだが、あと9回攻撃すれば倒せるなら、それで十分だろう。
「あとは、俺が触手を減らしていけばいいか」
触手を消し飛ばした俺と、一撃で大ダメージを与えたシオリ。イカのタゲは両方に向いているようで、俺だけでも簡単にさばける。
あと心配なのは、ボスの行動パターンの変化か。
そう思っていると、イカのHPが7割を下回ったところで、行動パターンが変化した。
イカの周りに魔法陣が現れ、そこから無数の魚がでてきたのだ。
おそらく、あれも攻撃手段。このフィールドの特徴からして、あれもAGIを下げる効果を持っているのだろう。
まぁ、
「俺たちには意味ないがな」
幸い、魚のHPはそこまで高くなく、俺の矢1発だけで倒せる。
シオリの方は、そもそも魚が追い付けていない。なんとか包囲しようとしているが、包囲網が完成するよりも先にシオリが突破している。
魚の出現は足止めにすらならず、さらにシオリがもう2撃加えてHPが半分をきったところで、再び行動パターンが変化した。
今度はイカがスミを吐き始め、自らの姿を隠したのだ。
もともと見通しがいいとは言えない水中であることも相まって、イカの姿はほとんど認識できない。
だが、俺は別だ。
「そこ!」
【魔弾の射手】で槍を放てば、さらにイカのHPバーが削れる。イカからできるだけ距離をとって移動しながら攻撃しているため、ある程度は【黒竜ノ息吹】も発動している様だ。
そして、一度攻撃を当てることができれば、シオリもだいたいの位置を把握できる。
「【ゲイボルグ】!」
シオリはここで、【大樹の怒り】を使用して槍を投擲した。投げられた槍は30に分裂し、次々とイカに襲い掛かる。
立ち止まって使用したため【疾風】の効果が上乗せされず、HPはまだ2割ほど残っていたが、十分だった。
「ゴブリンキングサーベル!」
俺は【魔弾の射手】でメイプルから交換してもらった武器を取り出して弓につがえ、シオリから受け取ったとっておきを発動した。
「【目覚めの奇跡】!【拡散】!」
【目覚めの奇跡】。1日に1回だけ、クールダウン中のスキルを使用できる装飾品のスキル。
これによってもう一度【拡散】を発動し、放ったゴブリンキングサーベルを150に分裂させた。
分裂したゴブリンキングサーベルは、迎撃のために展開された魚や触手を貫通してなおイカの本体に襲い掛かり、残りのHPをすべて削り取った。
「ふぅ、なんとかなったか」
「よっしゃあ!やったで!」
ボス戦を終わらせた俺たちは、いったん合流した。
今回の作戦は、いたってシンプル。火力によるごり押しで短期決戦を仕掛けることだった。
そして、すべて俺の読み通りに事を終えることができて、一安心だ。
それよりも、
「そういえば、シオリ。『大樹の牙』はどうした?」
「あぁ、それなんやけど」
そう言ってシオリが手をかざすと、『大樹の牙』の方からすっ飛んできてシオリの手に収まった。
「・・・なんだそりゃ」
「うちも、この機能を使うのは初めてや」
どうやら、【ゲイボルグ】を使用して投擲した場合、槍は勝手に持ち主に戻る仕様らしい。基本的に前線で槍を振り回すことが多かったから、そんな機能があるなんて知らなかった。
「そういうクラルも、あのサーベルはどうしたん?」
「あぁ、1回使っただけでぶっ壊れた。おそらく、分裂した場合、武器の耐久値はすべて共有されるんだろう」
つまり、耐久値の減少が最大で300倍になる、ということだ。
さらにもとから【損傷倍加】があったゴブリンキングサーベルは、この1回の使用でインベントリから消えていた。
少し残念な気もするが、必要経費だったと割り切るしかないだろう。
「ともかく、探索を済ませてさっさと魔法陣に乗るぞ」
「あ、そや!」
あのイカを倒したことで水が抜けていき、転移の魔法陣が現れたが、まだ報酬らしきものはもらっていない。さっさと確認しなければ。
水中とサンゴ礁にわかれて俺とシオリでくまなく探したものの、水中にイカの触手が1本あったくらいで、メダルとかはなかった。
「おかしーなぁ、なんでないんや?」
「たぶん、転移先でもらえるんだろう。さすがに、報酬をわかりづらいところに置くようなことはないはずだし」
「それもそうやな!」
果たしてどのような報酬がもらえるのだろうとわくわくしながら、俺とシオリは魔法陣の上に乗った。
転移された先はまた水中だったが、不思議と呼吸はできるようだ。
転移された場所はきれいで静かな海底で、サンゴ礁に囲まれるようにして宝箱が置いてあった。
「開けるぞ」
「よっしゃこい!」
シオリに目配せしてから宝箱を開けると、中から出てきたのはメダルが2枚にスキルの秘伝書が2つ、そして2つの卵だった。
「・・・なんだこれ?」
「・・・卵、やんなぁ」
とりあえずわからないものは後回しにして、まずはメダルを回収してからスキルの巻物を確認した。
スキル名は【古代ノ海】。さっきのイカが使った魚を召喚するスキルで、魚にはAGI減少10%がついているらしい。
だが、水系のスキルを持っていないと取得できないため、シオリには宝の持ち腐れとなってしまった。
とりあえず、俺が預かって後でサリーに渡すことにした。もちろん、これはシオリには秘密だが。
そして、問題の卵は黒い翼の模様と白の毛並みの模様で分かれている。
「・・・どうする?」
「とりあえず、うちはこの白い卵をもらうで」
「じゃあ、俺は黒い方だな」
それぞれの装備と同じ色の卵をとり、説明欄を確認した。
【モンスターの卵】
温めると孵化する。
「「じょ、情報が少ない・・・」」
思わず、俺とシオリでハモってしまった。
もう少し、他の説明とかないのか?
「・・・それで、この後はどうするん?」
「とりあえず、メダル集めはこれで終わりにしよう。20枚もあれば十分だろうし。これからは、全部の時間をこの卵に費やす。一応、メイプルとサリーにも聞いてみよう」
アイテムの正体がわからない以上、説明の通りに従うしかない。
それに、同じ祠のダンジョンをクリアしたメイプルとサリーなら、同じアイテムを手に入れたかもしれない。
メダルが20枚集まったことは素直にうれしいが、他に気になることができてしまったな。
実質STRが4桁突入するシオリさんがいるなら、これくらいのあっさりした展開でも大丈夫かなと思いました。
事実、現段階ではあの双子姉妹よりもダメージを出しうるわけですし。
こうなると、運営は阿鼻叫喚の地獄絵図でしょうね。
卵を全部持っていかれたわけですし。