6日目の朝。
俺たちはいつも通り今日の予定の打ち合わせをしていた。
ちなみに、今この場にクローネとフウの姿はない。
レベルが3になったところで【休眠】と【覚醒】を取得し、自由に指輪の中に出し入れできるようになったから、無理をする必要もなくなったことで指輪の中にいさせてもらうことにしたのだ。また、レベル上げの戦闘のためにそこそこ消耗しており、【休眠】はモンスターの体力を回復することができたから、というのもあるが。
「それで、今日はどうするん?」
「今日のところは、モンスターを狩りながら移動して、できるなら狩場を探そうと思う。一番いいのは、弱めのモンスターが定期的にでてくるようなダンジョンだが・・・まぁ、見つけたらラッキーくらいに考えておこう。最悪、道中のモンスターを俺たちで弱らせてから倒させるっていう手もあるし」
「そっか。それで、どこに向かうん?」
「ぶっちゃけ、俺としても悩みどころだが、できればこっちの山方面に行こうと思う。もしかしたら、いい条件の洞窟なんかがあるかもしれない」
「つまり、行き当たりばったりってことやな?」
「そういうことだ・・・ま、俺たちなら何とかなるだろ。クローネとフウも、消滅する心配はないわけだし」
今日の予定を決めて、俺たちは目的地に向けて歩き出した。
道中は森の中を進む形になったのだが、そのおかげかちょうどいい強さのモンスターに遭遇しやすく、クローネとフウのレベル上げもそれなりに順調に進んでいった。
そして、クローネのレベルが7になったところで、興味深いスキルを取得した。
「ほう?これはこれは・・・」
「クラル、どうしたん?なんか、悪い笑みを浮かべとるけど」
「なに、クローネが面白いスキルを取得したからな。ためしに・・・クローネ、できるだけ高く飛んでくれ」
クローネにそう命じるとクローネは翼を羽ばたかせて上昇し、あっという間に高度が400mくらいのところまでにいった。
そこで俺は今しがた取得したスキルを使った。
「クローネ、【視覚共有】」
スキル名を呟くと、途端に俺の視界の右半分が上空からの映像に切り替わった。
「おぉ、これはいいな」
「クラル、その【視覚共有】ってなんなん?なんか、嫌な予感がするんやけど・・・」
「名前の通り、俺とクローネの視覚を共有するスキルだ。クローネ自身の視力もけっこういいから、この距離でも俺たちがはっきり見えるぞ」
つまり、クローネをこのゲームには存在しない偵察機としての役割を持たせることができた、というわけだ。
今までのスキルは【休眠】と【覚醒】以外は攻撃スキルだったから、これはこれで新鮮だ。
「そういうフウは、なにか面白いスキルはないのか?」
「今取得したのは、【嗅覚強化】っていうパッシブスキルみたいやな。プレイヤーとかモンスターの位置を教えてくれるっちゅー感じや」
「・・・なんか、シオリの【白狼の呼吸】と似た感じだな」
「もしかしたら、あのボスと同じモンスターの子供なのかもしれへんなぁ」
たしかに、白い毛並みの狼ということ自体、シオリの装備と丸被りであり、シオリが戦ったというボスとまったく同じだ。
まぁ、卵っていうくらいだし、親モンスターがいてもおかしくはないか。
「まぁ、今はまだレベル上げだな。クローネ、戻ってこい!」
俺はクローネを呼び戻して、再び歩き出した。
ここからは、定期的にクローネを空に飛ばして周囲の様子を探るようにした。
そのおかげで、プレイヤーやモンスターを発見するのがかなり楽になり、さらにレベルアップのペースが上がった。
あっという間にレベルが10になったところで、再び新たなスキルを取得した。
「おっ、【巨大化】か」
「あ、クローネもそのスキルを取得したんか」
「クローネも、ってことは、フウもか?」
「せや。ここなら広いし・・・フウ、【巨大化】!」
シオリがスキル名を叫ぶとフウが体長が4mほどになり、人が2,3人は乗れそうな感じになった。
「おぉ!おっきいなぁ!毛並みもふさふさのままや!」
「なんか、ちっさい時と比べて顔つきがかっこよくなったな」
【巨大化】を使う前は、サイズや見た目は中型犬くらいな感じだったが、今は顔はシュッと伸びて凛々しくなっており、かっこいいよりの見た目になっていた。
俺としては、こっちの方が好きかもしれない。
「さて、俺の方も・・・クローネ、【巨大化】!」
俺も同じスキルを叫ぶと、クローネの体長が3mほどになり、翼を広げたら7mに届きそうなサイズになった。
「こ、これは・・・!」
「こいつは、思ったよりでかかったな・・・ん、待てよ?まさか・・・」
俺はある可能性に思い当たり、跳躍してクローネの背中に乗った。
「クローネ、飛んでみてくれ」
クローネに命じると、クローネは翼を力強く羽ばたかせて宙に浮かび、振り落とされない程度のスピードで上昇した。
それでもなかなかのスピードがあり、あっという間にシオリが豆粒になる距離まで上昇した。
「これは・・・いい。いいぞ!」
まさか、この世界にきて自由に空を飛べるようになるとは思わなかった。
これなら、相手の攻撃が届かない距離から一方的に狙撃することも可能になった。
とはいえ、さすがにプレイヤーには高度制限がかけられているようで、300mくらいの高さでクローネの上昇が止まった。それでも十分なくらいだが。
「これは、戦略の幅が広がるな」
俺は新たな可能性に興奮しながら、シオリたちのところに戻るようにクローネに命じた。
地面に降り立つと、シオリがポカンとしながら俺とクローネを交互に見ていた。
「・・・これは、ちょっと強力すぎひん?」
「もしかしたら、ギミックを解除しないであのボスを攻略するのが条件で、その分強力になっているんだろうな。NWOの運営も、なかなか遊び心が強いみたいだし」
思い返してみれば、ちょくちょく無茶苦茶な条件でかなり強力なスキルを手に入れているから、こういうことがあってもおかしくないかもしれない。
「さて、さっさと狩りの続きを・・・ん?」
再びレベル上げをしようとしたら、ピロリンとフレンドメッセージの通知がきた。
なんだろうと確認すると、メッセージの主はメイプルで、ちょうどいいレベル上げのスポットを見つけたから、俺たちも来ないか、ということだった。メッセージには、その位置が記されたマップも添付されている。
「これは、ちょうどいいタイミングだな。シオリ、乗ってくれ。クローネで一気に行くぞ」
「うち、そこまで高いところ得意やないんやけどなぁ・・・」
そこそこ高いところが苦手なシオリは、渋々ながらもクローネの背中に乗った。
元のAGIはフウの方が高いとはいえ、陸路と空路なら空路の方が断然速い。
シオリが俺にしがみついたのを確認してから、俺はクローネに指示を出してメイプルのいる場所に向かった。