転移された場所は、イベントが始まる前の広場だ。時計を見れば、時間の流れも元通りになっている。
その後、運営から30分後にメダルとスキル等の交換を行うため、メダルの受け渡しは今のうちにやるようにというアナウンスが流れた。
俺とシオリの場合、すでに受け渡しは行っているから関係ない。
「はてさて、どんなスキルがあることやら」
「なんにしても、さらに強化を見込めるのは間違いあらへんなぁ」
シオリの言う通り、メダルスキルは強力なものが多いだろう。
もしかしたら、今後のアップデートでなにかしら追加される可能性もあるが、今はそんなことは気にせずに選ぶとしよう。
そして30分後、メダルを10枚以上集めたプレイヤーが次々に転送されていった。
転送された先は、ステータス画面と同じような青に埋め尽くされた部屋の中で、中央にパネルが浮かんでいる。
それを確認すると、メダルで交換できるスキルが選べる画面だった。
「ふむふむ・・・スキルの数は100、と。けっこうあるな」
数もそうだが、戦闘系スキル、生産系スキル、ステータスアップ系スキル、そのどれにも属さないスキルと、随分と多様だ。
とりあえず、俺は戦闘系スキルを中心に、弓関連のスキルを取得するか。俺のプレイスタイルなら、ステータス上昇は今のところ重要でない。
スキルの名前をスクロールしていると、いろいろと強そうな名前が見える。
【聖剣術】とか、ペインが使ったらビジュアル的にすごいハマりそうな感じがするし。
「まぁ、それはさておき、俺の方は・・・」
スキルを吟味していったが、1つ目はすぐに決まった。
【パワースナイプ】
通常より強力な矢を放つ。威力は対象が距離が遠いほど上昇する。効果は最低50mで2倍、最大300mで5倍。
30分後、再使用可。
遠距離狙撃がメインの俺にとって、これ以上ないほどに強力なスキルだ。最大威力が、単純計算で300mだとSTR値がおよそ600相当のダメージが出ることになる。
問題は、あと1つをどれにするかだ。
ぶっちゃけ、他の弓のスキルは俺のスタイルに合わなかったり、上位互換になっているものばかりだし、だからといって今さら他の武器のスキルをとる気にもなれない。
どうしたものかと悩んでいたが、ふと思いついた。
「・・・俺の場合、DEXもそこそこあるし、いっそ生産系のスキルも見てみるか?」
【魔弾の射手】の都合上、武器に限りがなくなるのはそれだけでありがたい。
今のところ、生産系のスキルは1つもないが、なにかいいのがあればそれで・・・
「・・・あった」
ちょうど、いいのを見つけた。それも、俺からすればチートレベルのものを。
俺は迷いなくそれを選び、スキルを選び終えた俺は再び光に包まれて転移された。
もとの広場に転移されると、すでにシオリが俺を待っているところだった。
「なんや、随分と長かったなぁ」
「あぁ、1つはすぐに決まったんだが、もう1つに時間をとってな。だが、いいスキルを手に入れたぞ。ちなみに、シオリは?」
「うちは【スピードスター】と【追刃】やな」
【追刃】はたしか、攻撃した際に3分の1の威力の追撃が発動するスキルだったか。
たしかに、シオリは基本的に一撃離脱が多い。その一撃の威力がとんでもないのだが、今回のイベントのボス戦で手数が欲しい場面は何回かあったから、納得できる選択だ。
【スピードスター】はステータスアップ系のスキルで、AGIを1.5倍するスキルらしい。
さらに速くなるのか、シオリよ。このままだと、メイプルのAGI版になるのもそう遠くないかもしれないな。
「それで、クラルは何を選んだん?」
「そうだな・・・フィールドに出て試してみるか。俺もちゃんと確認したいし」
「・・・なんやろ、ちょっと不安になってきたわ」
シオリがぼそりと呟きながらも、フィールドに向かう俺の後ろをついて来た。なんやかんや言って、シオリも気になるのだろう。
* * * * *
俺とシオリが向かったのは、ほど近い荒野だ。
ここなら、新しいスキルを試すのにもってこいだ。
「さてと、まずは【パワースナイプ】からだな。クローネ、【覚醒】、【巨大化】」
荒野に着いた俺は、さっそくクローネを呼び出して巨大化させ、背中に乗って300m上空まで上昇した。
上空から【視覚共有】も使って索敵し、目的のモンスターを見つけた。
この荒野には、かなり硬い黒い岩でできたゴーレムのようなモンスターがいる。
このゴーレムは通常のゴーレムよりも格段に物理耐性が高く、逆に魔法には極端に弱いという特徴を持つ。その性質上、俺でも【エクスプロージョン】を使わなければ倒せないモンスターだ。
今のシオリならごり押すこともできるだろうが、俺だと物理では手も足も出ないモンスターだ。
シオリにメッセージで近くに待機するように伝え、シオリが近くに待機したのを確認してから、矢をつがえ、スキルを発動した。
「【パワースナイプ】」
図体が大きく動きも遅いゴーレムが知覚外からの攻撃に対応できるはずもなく、放った矢は狙いたがわずゴーレムに直撃し、1発で瓦礫となり、光となって消えてアイテムをドロップした。
ゴーレムがいた場所の近くにクローネを下ろすと、呆れ100%のシオリが出迎えた。
「・・・なんや、今の?」
「【パワースナイプ】っていう、距離に応じて威力が上がる弓のスキルだ。最大300mで5倍だから、実質STR600相当になるのか」
「もう完全に、超遠距離砲台やなぁ」
ついでに言えば、広範囲爆撃も可能なわけだが。
さらに、今の俺にはさらなる爆撃手段がある。
「ついでに、ちょうどいいアイテムをドロップしたから、もう1つのスキルを使うとするか。【奔放な錬金術師】」
俺がもう一つのスキルを発動すると、魔法陣が俺の足下に、パネルが俺の前に現れた。
【奔放な錬金術師】は、工房がなくても手持ちのアイテムから消耗アイテムを生産できるスキルだ。
パッと見は強力そうだが、数々の短所もある。
まず、生産できるのは消耗アイテムのみであって、投擲アイテムやポーションを生産することはできても、武器や防具、装飾品なんかは生産できない。
また、効力も生産職プレイヤーが工房で作成したものより落ちる。素材となるアイテムを多く使うことで低い効果を補うことはできるらしいが、決して効率がいいとは言えないだろう。
だが、俺にはそれでも十分だった。
なにせ、特殊効果を持った矢も立派な消耗アイテムだから、【奔放な錬金術師】で生産できる。
必要DEXが足りなくて生産できないアイテムも多いが、このスキル限定のアイテムもある。十分、俺の力になるだろう。
試しに、今のゴーレムがドロップした鉱石系のアイテムから、着弾すると爆発する【ボムアロー】を生産した。
試しに近くのゴーレムに放ってみると、ちゃんと着弾した時に爆発した。
素材にしたアイテムが少なかったからか、1発で倒すことはできなかったが、効果はちゃんと確認できた。
標的にしたゴーレムを倒してから、俺はシオリに向き直った。
シオリは、ポカンと口を開けて俺を見ていた。
「とまぁ、これが俺の選んだスキルだ」
「・・・今頃運営は、このスキルを突っ込んだのを後悔しとるやろなぁ」
やばい奴にやばいスキルが渡ったのだから、たしかにシオリの言う通りだろう。
だが、
「いや、シオリ。たぶん、俺なんかより・・・」
続けようとして、ふと砂漠の方向を見た。
いや、見てしまった。
そこでは、巨大なカメが空を飛んで毒の雨を降らせていた。
毒とカメで、誰がやっているのかはなんとなくわかる。
わかるが、それでも俺が思っていたのと違い過ぎる。
「・・・メイプルの方がやばそう、って言おうと思ったが、すでにやばいことになっていたな」
「・・・せやな。メイプルちゃんに比べれば、クラルなんてまだ普通や」
シロップが浮いているのはどういうスキルによるものかはわからない。
だが、あとで説明を聞いておく必要があると、俺とシオリは頷きあって荒野を後にした。