第2回イベントが終了してから2日後、俺とシオリは学校の制服姿で、駅前で立っていた。
ここはNWOの世界ではなく、
どうして駅前に立っているのかと言えば、例のシオリとサリーの勝負の賞品である「勝ったら負けた方に何でも1つお願いを叶えてもらう」で、シオリが要求したのが、
「この4人で、リアルで集まってオフ会をせぇへん?」
というものだった。
シオリの本音は「リアルのメイプルちゃんに会いたい!」なんだろうが、それだと勝負に巻き込まれただけのメイプルに迷惑をかけてしまうことになる。
だから、オフ会を建前に使うことでメイプルにも楽しんでもらう、ということになったのだ。
サリーとしても、メイプルが「面白そう!」と賛成すれば渋る理由もなく、この提案を快諾してくれた。
そして、そのオフ会というのが今日なのだ。
なぜ休日にやらなかったのかと聞かれれば、俺たちとメイプルたちの家の距離が思っていたより近かったのが1つ。そして、メイプルがNWOにログインしなくなったというのがもう1つだ。
イベントの翌日、サリーからメイプルが時間加速の影響でリアルの方でもゲームの癖が盛大に出てしまったから、3日間は完全にゲームから離れるということを聞いた。
だったら、リアルの方でも楽しいことをして早く感覚を取り戻してもらった方がいいということで、急遽開催することになったわけだ。
幸い、オフ会の場所もすんなり用意できたから問題ない。
というか、
「ごめんなぁ、透。いきなり、透の家に大人数で押しかけることになってもうて」
シオリの言う通り、俺の実家がオフ会の開催場所になった。
さすがに翌日いきなりなのはどうなんだろうと思ったんだが、
「まぁ、父さんと母さんの許可も得たし気にするな」
父さんも母さんも「透と栞奈ちゃんのお友達なら!」と承諾し、むしろ「連れてこい!」と言わんばかりになった。
たぶん、そのお友達が可愛い女の子2人と聞いて、興味半分下世話半分の思考になっているのだろうが。
特に母さんは、なぜかシオリに似て可愛い女の子が大好きな人間だし。
さすがに、年相応にシオリのようなスキンシップはしないが、ずいぶんと甘くなる。それも、「息子より娘が欲しかったんじゃないか?」と思わせるくらいに。
ちなみに、母さんにそれをぶっちゃけたことがあるんだが、母さんは平然とした表情で「あら、母さんはかっこいい男の子も好きよ?」などと言ってのけたから、この辺りで「あぁ、深く考えたらダメな類なんだな」と察した。
「それにしても、メイプルちゃんもサリーも遅いなぁ」
「いや、まだ集合時間まで時間あるからな?俺たちが早く来ただけで」
さすがに学校が違えば時間割も違う。俺たちはメイプルたちよりも1時限早く授業が終わったため、余計に長い時間待つことになってしまっただけだ。
それに、そろそろ着てもおかしくない時間だ。
「あっ、おーい!」
「ごめん、待たせた?」
噂をすれば、もうすでに聞き慣れた、だがいつもと少し違うように感じる声が聞こえてきた。
駅の方を見れば、メイプルが手を振りながら俺たちに駆け寄ってきて、後ろからサリー、もとい白峰理沙も駆け足で近づいてきた。
「気にするな。俺たちの方は授業が早く終わっただけだし、ちゃんと集合時間の前だ。問題ない」
「おー、リアルのメイプルちゃんもかわええなぁ!」
会って早々、栞奈がメイプルにハグした。
いくら最近のVRゲームがリアルに近づいてきたとはいえ、やはりリアルと比べて差はでてくる。
シオリは、めいいっぱいメイプルを抱きしめる感触を堪能している。
「はいはい、人目もあるし、それぐらいにしておけ」
「はぁい、続きはまた後やな」
「う~ん、こっちのシオリちゃんも、ゲームの時と変わらないね」
「こいつの美少女好きは筋金入りだからな。っと、一応自己紹介しておくか。クラールハイトもとい、神崎透だ」
「シオリこと、九条栞奈や」
「え、えっと、メイプル改め、
「私は知ってると思うけど、一応ね。サリーこと、白峰理沙よ」
「それで、クラルくん、じゃなくて、神崎君のお家に行くんだよね?」
自己紹介を済ませたメイプルもとい本条が、俺に尋ねてきた。
「あぁ。それじゃあ、さっさと行こうか。俺の家は、歩きでもそう遠くない」
本条の問いに簡単に答え、栞奈たちを連れて実家に向かった。
その道中、やはり男女比が1:3だと否応に周囲から視線が向けられ、中には怨嗟の眼差しを向ける者もいた。
それに気づいているのかいないのか、本条は無邪気に俺に話しかけてくる。
「そういえば、神崎君のお家ってどんなところなの?」
「どんな、って言われてもなぁ・・・ぶっちゃけ、見た方が早い」
「そうやなぁ。透の言う通りやな」
意味深な俺と栞奈の言葉に、本条と白峰は顔を見合わせる。
その後も、雑談を交わしながら歩いていると、俺の家に着いた。
「着いたぞ。ここが俺の実家だ」
「こ、これって・・・」
「す、すごいわね・・・」
「まぁ、最初はそうなるなぁ」
俺の実家を見た本条と白峰は、言葉をなくして
なにせ、
「こんな立派なお屋敷、初めて見たよ」
「『神崎流道場』って・・・神崎君の実家って道場だったの?」
そう、俺の実家は立派な和式の屋敷で、立派な門には『神崎流道場』と達筆な字で書かれた木製の看板が立てかけられている。
2人の言う通り、俺の実家は武術の道場で、近所ではそこそこ有名なお屋敷なのだ。
「あぁ。ちなみに、うちの道場の門下生もそれなりにいるぞ」
「まぁ、門下生っていうよりは、子供の習い事って感じやけどな。決まりもあるけど、基本的に緩めやし」
呆然としている本条と白峰に解説を入れてから、門の脇にあるインターホンを鳴らすと、2人はハッ!と意識を取り戻した。
インターホンから出たのは、母さんの声だった。
『はーい?』
「母さん、俺だ」
『あら、透?ってことは、栞奈ちゃんとお友達も一緒かしら?』
「あぁ、そうだ。さっさと上がっていいか?」
『えぇ、大丈夫よ』
母さんの確認もとったところで、おっかなびっくりの2人を連れて門をくぐった。
門をくぐって最初にあるのは、石畳の通路と砂だけの簡素な庭だ。そこでは、すでに何人かの子供が簡単なトレーニングをしていた。
「あっ、先生!こんにちは!」
「透先生!こんにちは!」
「おう。お前たちも、基礎トレ頑張れよ!」
「「「はい!」」」
俺が微笑みながら励ますと、子供たちは元気よく返事をして、再びトレーニングに戻った。
「先生って、神崎君、子供たちに教えているの?」
「あぁ。つっても、俺が教えるのは、あぁいう基礎トレの指導の手伝いをするくらいだな」
「へぇ、そうなんだ。偉いね、家の手伝いをするなんて」
「べつに、これくらいはな」
「こんなこと言うとるけど、実際はお小遣いありきやからな」
シオリの暴露を、俺は否定しなかった。
実際、道場での指導を手伝うことでしか、俺の小遣いが溜まらない。まさに、働かざる者食うべからず、というわけだ。
「それに、クラルの場合、本格的なことは教えてもらうより見た方がえぇしな」
シオリのボソッとした呟きは、初めての豪邸でテンションが上がっている本条と白峰には届かなかった。
そうこうしているうちに、俺たちは普段生活している母屋の玄関についた。
「ただいまー」
「おかえりなさい、透。皆さんも、よくいらっしゃいました。透の母の
玄関を開けると、すでに母さんが待っていて、本条と白峰にお辞儀した。
2人もお辞儀を返そうとしたが、その動きがビタッ!と止まった。
「えっ、お、お母さん、ですか?神崎君の?」
「えぇ、そうですよ」
「えっと、お姉さんではなくて?」
「あら、うれしいわね」
母さんは「あらやだ」と頬に手を当てながら喜ぶが、2人の気持ちはわからないわけではない。
なにせ、母さんはすでに30代のはずなのに、20歳前後と言われても納得できるほど若々しいのだ。身長も、俺より低くて栞奈より高いくらいだ。
俺の家でオフ会をするのは早まったかとも思ったが、決めてしまったことはしょうがない。
2人には驚きの連続になるかもしれないが、できるだけせっかくのオフ会を楽しんでもらおう。
少しクラルくん、というかリアルの神崎君に要素を付け加えてみました。
まぁ、これくらいならね?まだ許容範囲内かなと。