「あっ、そうそう。透、ちょっといい?」
気を取り直した、白峰と本条が母さんに自己紹介したのを確認してから、さっそくオフ会のために俺の部屋に向かおうとしたところで、母さんから声をかけられた。
「どうかしたか?」
「悪いのだけど、オフ会を始める前に、1回だけ立ち合いをしてほしいのだけど」
「え?今日はそういう予定はなかったんじゃ?」
「実は、迷惑な話なのだけれど、いきなり道場破りの人が来てね。『神崎透を出せ!』って言ってきかないのよ。まだ帰って来てないって言ったら、それまで待つって言われちゃって、お母さんたちも困ってるのよ・・・」
「それ、むしろ道場荒らしだろ・・・父さんは?」
「お出かけ中よ。今頃、スーパーで買い出しをしてると思うわ」
「はぁ、そうか・・・悪い。そういうわけだから、ちょっと待っててくれないか?」
急にできた面倒ごとに頭を抱えながら、白峰と本条に謝罪する。
2人は気にしなくていいと首を振りつつも、違うことが気になるようだった。
「それよりも、大丈夫なの?けがとかしない?」
「道場破りをするって、相手もそれだけ自信があるってことよね?」
どうやら、せっかくのオフ会の前に俺が怪我をしないか心配してくれているらしい。
その心配はないと言おうとしたが、その前に母さんが手を叩きながら、2人に提案をした。
「そうだわ!せっかくだし、2人も見学しない?もちろん、栞奈ちゃんも一緒に」
「「え?」」
「そうやなぁ、せっかくやし、見させてもらいますわ。ほな、2人もいくで。透、うちらは先に行っとるからな!」
白峰と本条は目が点になり、栞奈はせっかくだからと乗り気になった。
栞奈は困惑する2人を引っ張り、勝手知ったると言わんばかりに母屋と隣接している道場に向かった。
「やれやれ・・・母さん、道着は?」
「道場の更衣室に置いてあるわ」
「わかった」
言われるがままに連れていかれた2人に同情しながら、俺も道場に向かった。
道場の中に入ると、すでに門下生が何人かいたが、その対面に大柄な男が胡坐をかいて座っていた。
だが、俺は相手の男の顔は知らない。
相手の方は、俺の姿を見るとすぐに立ち上がり、俺に近寄ってきた。
「お前が神崎透か?」
「そうだけど、あんたは?」
「俺は
「あ~、聞いた事ある名前だな」
俺も道場の家の長男として、他の道場の情報はそれなりに叩き込まれている。
大山道場は、目立った実績はないものの、堅実に結果を残すことでそれなりに名が知られているところだ。
大山鉄二は、今の大山道場の跡取りだったはず。
「それで、その大山道場の人間が、どうして俺を?」
「俺の弟が、この前の交流試合でお前に惨敗したと聞いて、俺自ら仇を取りにきたのだ!」
「? すまん、身に覚えがないんだが・・・」
たしかに、第2回イベントの前くらいに、武術協会の交流試合があったのは覚えているが、そこで大山道場の人間と試合をした記憶はないんだが・・・
「名前は大山
「あぁ、思い出した!」
そういえば、たしかにそんな名前の人がいたな。あのときの交流試合は第2回イベントのことがあったから、あまり試合の記憶が頭に残ってなかったんだよな。
だが、この反応は相手の感情を逆なでしてしまったようで、
「ふんっ、雑魚など眼中にないとでも言いたげだな?だが、そんな余裕、俺が崩してやる!」
相手はやる気満々のようだが、それって割と逆恨みじゃね?
まぁ、それを言ったところで、相手が納得するかどうかは別だが。
「わかったわかった。とりあえず、俺も道着に着替えるから、少し待ってろ」
早くオフ会を始めたい俺は、さっさと相手を帰らせようと胸に決めて更衣室に向かった。
* * * * *
「あらら、透の悪い癖がでてもうた・・・」
さっきのやり取りを見て、うちは思わず天を仰いだ。
「栞奈ちゃん、神崎君の悪い癖って?」
「透って、同年代の相手ならだいたいは考え事しながらでも勝てるから、今みたいに相手のことを覚えていないなんてことがたまにあるんや。今回は多分、第2回イベントのことで頭がいっぱいになってたときの試合やったんやろなぁ」
透からすれば逆恨みに感じるかもしれないけど、わりとキレてもおかしくないし。
「でも、大丈夫なの?相手の人、神崎君より大柄だよね?」
「それに、年齢も上でしょうし、力では完全に負けているでしょうから、心配だわ・・・」
透の実力を知らない楓ちゃんと理沙は、更衣室の方を心配そうな表情で見る。
「大丈夫や。透ならどうってことないって」
心配する必要はないと2人に声をかけると、ちょうど道着の袴に着替えた透が中からでてきた。
透は大山兄の前に立って、間に審判役の門下生が入った。
「これより、神崎透と大山鉄二の野良試合を始めます。勝敗は、降参するか続行不可能と判断した時点で決めます!
それでは、始め!」
試合開始の合図が出たと同時に、大山兄の方から距離を詰めた。
大山道場は、攻守のバランスを意識しつつも、どちらかといえば攻撃に重点を置いているって話やったはず。
大山兄の踏み込みも、そんじょそこらでは見ないような鋭いものやった。
せやけど、透はさらにその上を行く。
透は大山兄のプレッシャーに微塵も動揺せずに、あくまでも冷静に大山兄の攻撃を捌く。
「す、すごい・・・」
「どういう見切りをしてるのよ・・・ほとんどすれすれじゃない」
初めて透の立ち合いを見る楓ちゃんと理沙は、ハラハラしながら試合を見守っていた。
「心配せんでもええよ。むしろ、今は透の土俵や」
「え?そうなの?」
楓ちゃんの返しに、うちは黙ってうなずく。
神崎道場は、同じ業界からは“水”に例えられとる、らしい。
時にはギリギリの間合いで相手の攻撃をかわし、時には相手の勢いを利用していなし、時には一撃必殺の攻撃を叩き込む。
その変幻自在な型で、代々いろんな賞や大会を総なめにした、って透の親父さんから聞いた事がある。
その中でも、透はゼロ距離の間合いに優れていて、相手に密着して何もさせずに倒すっちゅー戦い方で、いろんな大会で優勝した。
せやから、透の部屋は武術の大会のトロフィーとうちが誘って参加したゲームの大会のトロフィーで大変なことになっとる。
そうしている今も、至近距離で1発も攻撃が当たらないことに焦ってきたのか、大山兄の動きが乱れてきて、その隙を突いて透があっという間に大山兄を組み伏せた。
大山兄もなんとか抜け出そうとしとるけど、大山兄の動きがすべてわかっているみたいに透が対処するから、
「・・・まいった」
最終的に、大山兄が降参して試合は終わった。
オフ会と言いながら、ほとんど透スゲー回という。
ちゃんと次回はオフ会します・・・たぶん。