「いやー、さっきはすごかったね、神崎君!」
さっさと手合わせを終わらせ、オフ会のために俺の部屋に向かっている道中、本条はさっきからずっと興奮冷めやらぬといった感じで俺に話しかけてくる。
「そうか?あんなもんだと思うが」
「それ、透くらいしか言えへんからな?さっき調べたけど、さっきの人、全国出場経験もある人やで?」
「そんなすごい人に、神崎君は完封したのね・・・」
白峰は、むしろ呆れた口調で話してくる。
だが、ふとした様子で尋ねてきた。
「ねぇ、神崎君って、いつから稽古を始めたの?」
「んー、たしか5歳くらいからか?」
「ご,5歳!?」
俺の武術を始めた年齢に、本条が驚きの声を上げる。
まぁ、普通なら遊びたがりの年齢だし、普通と言えば普通か。
「俺の場合、当時から父さんからの稽古を受けるのが楽しくてな。他の子どもと遊ぶこともあったが、どちらかと言えば父さんと稽古していた時間の方が長かったかもしれないな」
「でも、そんなに体を鍛えて大丈夫だったの?ケガとかもしなかったのかしら?」
白峰の疑問も、もっともだと言える。
成長期に過度なトレーニングをすると、体を故障するのは当然の話だ。
今はシオリとゲームをするくらいには熱が冷めているが、父さんも稽古好きだった当時の俺に頭を悩ませていたらしい。
そこで父さんは、あることを思いついた。
「俺が小学5,6年くらいのときに、稽古にVRを取り入れるようになったんだ」
「えっ、武術の稽古でVR!?」
「VRと言っても、あくまでVR空間を稽古に使うだけだけどな。それから、門下生の稽古でもVRを取り入れるようになったんだ」
当時は、武術界隈ではかなり波紋を呼んだらしく、かなり話題になったそうだ。
VR空間の是非に関して様々な議論が交わされたが、結果的に受け入れられるようになっていった。
VR空間では、VR空間だからこそのメリットがある。
それが、怪我のリスクがほとんどないことだ。
武術は肉体を使う都合上、どうしても怪我の可能性がつきまとう。技を失敗した時に、自分か相手のどっちか、あるいはその両方が骨折するというのも、よくある話だ。
だが、VR空間なら、どれだけ強くぶつけたり殴られたりしても、現実の肉体に直接的な影響はない。その時の感覚が体に残ることはあるが、逆に言えばそれくらいだ。
VRでは肉体を鍛えることができないという短所もあるが、それは他の時間で十分カバーできることだし、子供が怪我したり体を故障させるよりははるかにマシだ。
もちろん、VRで上手くいったからといってリアルで上手くいく保証はないが、体の動きを教わるだけでも十分だし、VRで反復すれば慣れない技で怪我をしたりさせたりするリスクも減っていい。
そういうことで、今ではVRを取り入れている道場も増えつつある。
「つまり、神崎君のお父さんは、武術界隈に新しい流れを作った先駆け人、ってことかしら?」
「まぁ、結果的にはそういうことになるな。そして、一番早くその流れに乗ったのが、俺でもある・・・着いたぞ」
話しているうちに、俺の部屋にたどり着いた。
「むふふ、2人もよく見るんやで。VRで武術漬けの暮らしをした透が、どんなことになったか」
「そういうのは大げさだと思うが・・・まぁ、驚くなよ」
そう言いながら、俺は自分の部屋の扉を開けた。
「「うわぁ・・・!」」
扉を開けた先には、ガラスケースの中に保管された、数々のトロフィーや表彰盾、額縁に納められた賞状だ。その数、全部で30を超える。
「すごい、すごいよ、これ!」
「うわぁ、いろんな大会で優勝して・・・あれ?ゲーム大会のトロフィーも混じってる?」
「それは、栞奈に誘われて参加したやつだな。ていうか、ゲーム大会は基本的に栞奈に誘われて参加しているのが多いが」
ガラスケースの中のトロフィーには、ゲーム大会のものも混じっている。そのため、トロフィーだけでなく大会限定の記念品なんかも飾られている。
「ちなみに、うちの部屋も、ゲーム大会のトロフィーとかがあるけど、数は透には敵わんなぁ。透の場合、ゲームと武術両方やってるからやけど」
「それに、俺がでた大会は、基本的にジャンルが偏っているからな」
「言われてみれば、VRのアクションゲームばかりね。他のゲームもやらないの?」
「もともと、鍛錬目的で始めたVRだからな。ボードゲームなんかもやったりするが、そっちはさすがにプロには負けるし」
栞奈から時折性格が悪いと言われることがあるが、その手のゲームには俺よりよっぽど性格の悪いプロがごろごろいる。徒手格闘と比べれば、ボードゲームはそこまで得意とは言えない。
もちろん、平均より強いつもりだが、それくらいだ。
ちなみに、第2回イベントの最終日でメイプルとオセロをしたが、結果は俺の辛勝。その前にメイプルはサリーを、俺はシオリを大差で打ち負かしていたため、だいたいの序列がついたようなものだ。
「その代わり、アクションゲームでは無双しとるけどな。神崎流の技を使ったりして、乱取りなんかもこなしとったし」
「へぇ、そうなんだ!」
「せっかくだし、その時の映像を見るか?たしか、今でも見れるはずだ」
「そうね、私は見たいわ」
「う~ん、私も、見ようかな。動画を見るだけなら、うん、たぶん大丈夫だろうし」
ゲームの一時断絶を心がけている本条は少し迷ったが、興味が勝ったのか白峰に同調した。
確認を取ったところで、俺の部屋に置いてあるパソコンの電源を付けようとすると、扉がノックされた。
扉の向こうから、母さんが声をかけてきた。
「透、開けてくれない?」
「はいはーい」
言われたとおりに扉を開けると、母さんが両手に持つプレートには豪華な食べ物が並んでいた。
もちろん、高価という意味ではないが、揚げ物を中心としたパーティー向けの食べ物が、どれも気合を入れて作ったというのがわかる。
「わわっ、こんなにいいですか!?」
「いいのよ。せっかく透がお友達を連れてきたんだし。それに、透も頑張ってくれたからね。今日のご飯は、お母さんも頑張ったわ!」
「ありがとうございますー、花梨さん!」
料理をふるまってくれた母さんに、栞奈が礼を言う。
ちなみに、なぜ名前呼びなのかというと、単純に見た目的に“おばさん”と呼ぶのは憚られるからだとか。
「それじゃあ、ゆっくりしていってね」
「ありがとうございます!」
「ありがとうございます、神崎君のお母さん」
「あら、花梨でいいわよ?楓ちゃんと理沙ちゃんみたいな美少女なら大歓迎だわ」
「はい、花梨さん!」
「わかりました、花梨さん」
「ありがとね。それじゃ、母さんは退散するわね。あとは、皆で楽しんでね」
それだけ言って、母さんはリビングへと戻っていった。
「それじゃあ、料理もきたことだし、オフ会を始めようか。それでは、第2回イベントの成功を祝して、乾杯!」
「「「乾杯!!」」」
俺の音頭に、3人も元気よく乾杯することで、俺たちのオフ会が始まった。
オフ会が始まってからは、皆で母さんの料理を楽しんだり、俺やシオリ、サリーの大会の動画の鑑賞会をしたりと、いろんなことをして楽しんだ。