「うーむ・・・」
ギルド【楓の木】を結成してから2日後、俺はギルドホームで1人悩んでいた。
「あら、どうかしたのかしら?」
思案にふけっていると、後ろから声をかけられた。
振り返ると、そこには水色の長髪の女性プレイヤーが立っていた。
名前をイズといい、昨日新たに【楓の木】の一員となった生産職のプレイヤーだ。
イズは戦闘力はからきしだが、その分生産系のスキルを数多く取得しているため、上位プレイヤーの中ではそれなりに名の知れた生産職プレイヤーだったりする。というか、生産に限れば、メイプルたちなんかと同じ異常枠に片足を突っ込みつつある。
イズもメイプルと交流があったことがあるらしく、その縁で【楓の木】のメンバーとなった。
「いや、ちょっと考え事をな」
「考え事って、どんな?」
「簡単に言えば、視力の問題だな」
「視力って、目が見えなくなったってこと?でも、VRゲームならそいうことはないわよね?」
「あぁ。むしろ、【鷹の目】のおかげでよすぎるくらいなんだが・・・」
「なんだけど、なに?」
「・・・最近、足りなくなってきたんだよ」
「え・・・?えっと、今はどれくらいの距離まで見えるのかしら?」
「300mくらいだな」
「・・・弓を射るなら、それでも十分だと思うけど」
イズの言うことも、もっともだが、俺の場合は事情が違ってくる。
俺には【百発百中】があるため、曲射軌道や縦方向の偏差射撃の必要がない。また、クローネによって最大300m上空まで上昇することが可能になった。
その結果、視野が300mでは足りなくなってきたのだ。
普通なら「300mまで飛ぶ必要はない」とか言われそうだが、俺からすれば敵の攻撃が当たりづらくなったり広範囲を見渡すことができたりといいことづくめなのだ。
一応、クローネは300mより先を見渡すことができ、【視覚共有】で俺も確認することができるが、狙撃するとなるとどうしても肉眼になる。
だから、どうにかしてさらに先を見れるようにしたいのだ。
「一応、そういうアイテムを探そうかと思ったんだが、今のところアイテムだとそういう情報はないし、装備品だと今じゃ空き枠がないから、どうしたものかと思ってな」
「なるほどね・・・だったら、どうにかしてスキルを強化するしかないんじゃない?」
「その通りなんだが、足がかりがまったく掴めなくてな」
だから悩んでいたわけだ、と説明したところで、ちょうど扉が開いて誰かが入ってきた。
「あれ?そんなに悩んだ様子で、どうしたの?」
入ってきたのは、カナデだった。
カナデの両手には、ルービックキューブが収まっており、ガシャガシャと崩しては色を揃えてを繰り返している。
実際は、このルービックキューブは杖であり、【
このスキルは、使用すると戦闘系、生産系、その他のスキルからそれぞれ3つずつ使えるようになり、1日経過したら取得スキルが消えてまた使えるようになる、というなかなかランダム要素の強いスキルだ。スキルレベルは中かⅤで固定で、すでに取得しているスキルは選出されないらしい。
カナデの場合、杖以外のスキルが選出されるとほとんど活躍できないというデメリットがあるが、逆に言えば1日限定でも他のプレイヤーが持っていないような強力なスキルを使うことができる、ということだ。
この説明を、後から入ったイズも含めたギルメン全員にされた。
そんなカナデに、ついさっきイズに言ったことをそのまま伝えると、にやりと笑って提案してきた。
「だったら、図書館に行ってみたら?」
「図書館?」
「うん。各層の街の中にあるんだけど、いろんな本が置いてあるんだ。実用的なものから、一見は必要なくても実は重要な情報がかかれているものまで、いろいろあるから、もしかしたら参考になる情報があるんじゃないかな?」
「なるほどな・・・うん、そうしてみる。ありがとうな」
「これくらいはいいよ」
カナデに礼を言って、俺はさっそく図書館に足を運んだ。
* * * * *
「さてと、なにか面白いものはないかなー、っと」
さっそく図書館に到着した俺は、片っ端から本のタイトルを吟味していく。
とはいえ、まったくの無策で探すわけにもいかないから、何かしら“見る”“狙う”という行動に関連するようなタイトルを探す。
ひとまず、それっぽい本を10冊ほど取り出し、図書館に備え付けられているテーブルに座って読み始めた。
とはいえ、それっぽい文章はいくつかあったものの、今のところは俺の持っているスキルの下位互換だ。
ていうか、メダルスキルを選んだ時もそうだったが、俺のスキル、どれだけやばいのが揃ってるんだよ。ここまで探して下位互換しかないとか、メイプルでもあるまいし。
やっぱり、そう簡単には見つからないか・・・。
「・・・ん?」
半ばあきらめムードだったが、最後の1冊が目に留まった。
タイトルは『星見の丘』。この第2層に存在し、夜に訪れると、他のどこで見るよりもきれいな星空を見ることができるらしい。
マップで場所を確認してみると、おそらく偶然迷い込むことはないだろうと思うくらいには辺鄙な場所にあるようだ。
普通なら、ただの穴場スポット紹介のようなものなのだろう。
だが、
「・・・基本的に、メイプルは楽しむを前提にした結果、あぁなったんだよな」
この前のシロップを浮かばせていたスキルも、特徴的な例の1つだろう。
だったら、たまには俺もメイプルの考えにあやかるとしよう。
実際、いつもは街の外に出て素材やゴールドを集めることがほとんどだったし、1層ではこういう穴場スポットは行ったことも調べたこともなかった。
それに、星空を見るのは俺も嫌いではない。
せっかくだし、今夜にでも向かうとするか。
* * * * *
ゲーム内ですっかり真っ暗になったころ、俺は1人で森の中を歩いていた。
目的は、例の『星見の丘』だ。
誰かを誘ってもよかったが、忙しい者がほとんどだったのと、星くらいゆっくり見たいということもあって、今回は俺だけだ。
「えっと、次はここを右で・・・」
行き先をメモした紙を片手に、道を確認しながら進んでいくこと数十分、ようやく森を抜けてひらけた場所にでた。
そこは小高い丘になっており、芝生が生えている以外は何もない。
だが、上空を見上げてみると、
「おぉ・・・」
そこには、そこら中に輝く星の絨毯が広がっていた。
実際の星座なんかも再現しているようで、いくつか見覚えのあるものもある。
俺は丘の頂上まで登って、芝生に寝転がって星を観察し始めた。
最近は、主にシオリと一緒にいることが多かったこともあって、こうしてゆったりするのも久しぶりな感じがする。
「おっ、さそり座見っけ。んで、近くにいて座があるんだったな」
こうして知っている星座を発見すると、無性に興奮してくる。
そこでふと、いて座はその矢をさそり座の心臓部に向けているという特徴があることを思い出した。
そして、無性に自分がそのさそり座の心臓を撃ちぬきたくなってしまった。
だって、【百発百中】なら実際にできそうだし。
思い立った俺は、さっそく立ち上がって矢をさそり座の心臓部に向ける。
「【パワースナイプ】!」
念のため、スキルも発動してから矢を放つ。
放たれた矢は、スキルの光の尾を引きながら、真っすぐにさそり座の心臓部に向かっていき、とうとう見えなくなってしまった。
その直後、いきなりいて座が強く輝き始め、いて座の星座線と矢を構えたケンタウロスの輪郭が現れた。
すると、いて座の矢の部分がひと際強く光ったと思ったら、その光が俺に降り注いだ。
反応が間に合わなくて直撃してしまったが、どうやらダメージはなかったようでホッとした。
光が止むと、いて座も元の輝きに戻り、同時にスキル取得のメッセージが出てきた。
【千里眼】
視力を超強化する。
取得条件
『星見の丘』でケイローン(いて座)の代わりに天の蠍の心臓を射抜く。
スキル説明はかなり簡潔だが、まさに俺の欲していたスキルだった。
もっと言えば、このスキルは視認できる距離がさらに上昇するだけでなく、その他の機能も強化されるようで、今の俺の目には暗闇の中でもはっきりと森の中が確認できた。
早く効果を試してみたいが、場所が悪い。
本格的に試すのは、明日以降にしよう。
自分は、何回かきれいな星空を見たことがありますが、しらびそ高原がもっともきれいでした。
そのときは家族と行ったのですが、流れ星も見えていたようで。
自分はその時は見つけられなかったのですが、またいつか行ってみたいですね。