「う~ん・・・」
うちは今、盛大に悩んどる。
なぜなら、クラルもメイプルちゃんも、いつの間にか強力なスキルを身に付けていたから。
しかも、最近になってクロムもユニーク装備をゲットして、生存能力にさらに磨きがかかるようになった。
それに対して、うちはどうや?
走ることくらいしか、うちには思いつくことがあらへんし、情報サイトにあるAGI関連のスキルもだいたい取得した。
つまり、
「うちだけ、新たな強化に行き詰っとる・・・!」
一応、レベルを上げてAGIにステータスポイントを振っとるけど、それくらいしかできてへん。
ここ連日でいろんなところ(山の中、森の中、果ては水上まで)を走ったけど、これといったスキルは得られへんかった。
一応、【水蜘蛛】っちゅー、液状の上を長距離走れるスキルを取得したけど、AGIが上がるわけやないし、水上で戦う機会なんてほとんどないから、半ば死にスキルみたいになっとる。
今は、クラルが【千里眼】を取得するきっかけをつかんだ図書館で本を読んどるけど、それらしい新たな情報もない。
本当にどうしたもんかなぁ・・・。
「あれー?シオリじゃーん」
思わず突っ伏しとると、後ろから声をかけられた。
振り向いたら、そこにはフレデリカが立っとった。
「なんや、どしたん?」
「いや、こっちからすればシオリがどうかしたの?って感じだけどねー。さっきからうめきながら突っ伏してるし」
「うちには、いろいろと悩み事があるんや」
「悩み事って?」
「言うと思っとるん?」
「だよねー」
うちは、基本的に敵に塩を送ったりせぇへん。送るのは挑戦状だけで十分や。
さて、今日はこれで切り上げて、さっさと帰ろか・・・。
「だったらさー、こっちの相談も話してあげるから、シオリの悩みも聞かせてくれないかなー?それでチャラでしょ?」
「・・・逆に、フレデリカはえぇん?」
「実はね、ちょーっと困った、っていうか、気になることがあってね。シオリが悩みを話してくれたら、私もその情報を渡すよ?」
フレデリカの提案は、興味深いものやけど・・・今は、違うギルドの敵同士みたいなもんや。
ギルドホームが実装された以上、もしギルド対抗イベントが開催されたら、敵に情報を渡すことになるかもしれへんけど・・・。
「・・・まぁ、ええわ。特別に話しといたる」
うちだけの情報なら、まだ許容範囲内や。
メイプルちゃんの情報を余計に話しさえしなければ、そこまで窮地に立たされることもあらへんやろ。
「せやけど、話すのはそっちからや。うちの悩みを言うかは、その後で決める」
「オッケー。それでなんだけどね・・・」
フレデリカの話は、思ったよりおもろいもんやった。
最近になって、森の中であるモブが発生したらしかった。情報が公になっとらんのは、それに遭遇したのは今のところフレデリカが所属しとるギルドのメンバーだけらしいから。
そのモブは光の球みたいな見た目で、大した被害は出さない。せいぜいいたずら程度のデバフをかけるだけらしい。
せやけど、ギルドの中で一番速いプレイヤーが追跡しても、そのモブを捕まえることはおろか、モブの名前を確認することすらできへんかったっちゅーことらしい。
「それでね、いっそのこと誰かに調査を頼もうか、ってことになってね。そこで偶然、シオリを見つけたってわけ」
「なるほどなぁ・・・ってゆーか、フレデリカの所属してるギルドって、絶対にペインのところやろ?第2回イベントでも一緒やったし」
「あはは・・・まぁ、バレるよねー」
フレデリカは苦笑いしながら、うちの言葉を肯定した。
まぁ、所属しているギルドがばれるだけなら、大した問題でもあらへんやろうし、そもそも有名なプレイヤーが設立したギルドは、すでに100人近くのメンバーがいるらしいし。
ペインの【集う聖剣】も、その1つや。
それなら、一番速いプレイヤーっちゅーのも、ドレッドのことやろうな。
「まぁ、それは置いといて、どう?」
「そうやなぁ・・・ちょうど、うちの悩みにも合致しそうや」
うちはそう前置きして、悩み事を話した。
まぁ、ゆーて、最近、新しいスキル探しが打ち止めになってる、っちゅーだけで、クラルやメイプルちゃんのことは話さなかったけど。
「それなら、お願いしてもいい?そのモブの正体がわかったら、私たちに教えるってことで。もちろん、相応の依頼料を出すよ?」
「そうやなぁ、うちは構わへんけど・・・その辺り、ペインとかなんて言うとるん?」
「方法は任せるけど、実行する前に連絡してくれって。だから、さっそくだけどペインに連絡していい?」
「ええで」
そう言って、フレデリカはパパっとメッセージを送った。
数分後、返信がきたようで、フレデリカがメニュー画面を開いて確認した。
「・・・うん。ペインからも了承をもらったよ。それで、報酬はどうする?」
「情報の内容で決めよか。先に決めといて、割に合わなかったら嫌やし」
「わかった。それじゃあ、さっそく行こうか」
フレデリカの先導の元、うちらは臨時でパーティーを組んで例のモブが住まう森に向かった。
* * * * *
うちらが来たのは、街を挟んでクラルが【千里眼】を手に入れたところと逆方向にある森やった。
「この辺りであってるん?」
「そうだよー。ランダムイベントなのか、同じ時間帯でも出る時と出ないときがあるけどね」
「なら、出るまではひたすら粘るしかあらへんか」
「そうだねー・・・依頼料がかさまないといいなー・・・」
フレデリカの呟きには触れないで、うちは【白狼の呼吸】で周りにモンスターやモブがおらへんか索敵した。
せやけど、
「・・・モブはおろか、モンスターすらおらへんやん」
「おっ、だったら運がいいね。そのモブは、モンスターがいないときに限って出現するん、ってあぁ!!」
突然、フレデリカが叫び声を上げた。
フレデリカのHPバーを確認すると、移動速度低下のデバフがかけられとった。
つまり、例のモブが現れたっちゅーことや!
「どこや!」
「いた!あそこ!」
フレデリカが指を差した方を見ると、たしかに光の球が浮いとった。モブの名前もHPバーも確認できへん。
姿が見えたなら、先手必勝!
「【超加速】!」
うちは問答無用で【超加速】を使って、光の球に接近した。
すると光の球は、直線的に動きながらジグザグと木の間を縫って高速で移動し始めた。
たしかに、これならドレッドでも追いつけへんかもしれない。ただ速いだけやなくて、木が邪魔をするわけやし。
でも、うちは別や!
「舐めんな!」
うちはさらに加速しながら、木の方から避けていくように細かくステップを刻みながら光の球に近づいていく。
うちには【白狼の疾駆】があるから、障害物はAGI上昇の糧にしかならへん。
これには光の球もどうしようもできなくて、割とすぐに捕まえることができた。
どうして攻撃しなかったのかと言えば、接近してもHPバーが見えなかったから。
たぶん、中立モブなんやろうな。
なにせ、
『は、放しなさいよー!!』
うちが掴んどるのは、なんとも可愛らしいフェアリーやったから。
なんというか、なごむわー。
でも、この子がいたずらの犯人なんやろ?タダで放すのはなぁ・・・。
『ここにいたのですか』
すると、どこからともなく声が聞こえてきた。
ふと前を見ると、エルフみたいな見た目の女性が現れた。
いや、木の妖精っていうなら、ドライアドって言うのが正しいんか。
そして、うちが掴んどる妖精さんがうろたえ始めた。たぶん、上司的な存在なんやろな。
『あっ!え、えっと、これはですね!』
『いいわけは無用です。あとでたっぷり説教してあげましょう・・・さて』
そう言って、ドライアドはうちの方に視線を向けた。
『私の子が迷惑をおかけしたようで、本当に申し訳ありません』
「い、いや、うちはべつに・・・」
正確には、迷惑被ったのはフレデリカだけやし。
うちはそう思ったけど、ドライアドは構わず言葉をつづけた。
『む?その槍は・・・なるほど。あなたが、森の主に認められた者ですか』
「森の主って・・・あの白狼のことなんかな?」
たしかに、そんな感じがしたなぁ。
なんちゅーか、まるっきりも〇のけ姫やな。
『なら、この子が迷惑をかけたお詫びに、その槍を強化して上げましょう』
「えっ、マジでか?」
『それでは、その槍を私に差し出してください』
そう言われて、うちはちょっと警戒しながらも【大樹の牙】を手渡した。
ドライアドが【大樹の牙】を手に持つと、周囲の木から枝が伸び始めて来て、【大樹の牙】に絡みついていった。
少し経つと、見た目にはあまり変化がない【大樹の牙】が返ってきた。
『私の加護によって、その槍はさらなる力を得ました。くれぐれも、正しいことに使ってください。では、さらばです』
そう言って、ドライアドは妖精を連れて消えていった。
「・・・まさか、この装備があると、本来取得するスキルよりも強力になるパターンか?」
考えてみれば、あの白狼のダンジョンも、森が関係しとった。
もしかしたら、あの白狼の素材から作った装備を持っているかどうかで内容が少し変わる、ってことか。
とりあえず、強化の内容を確認しとこ。
【大樹の牙】
【STR+25】【AGI+30】
【大樹の怒り】
【木の女神の加護】
【破壊不可】
【木の女神の加護】
【大樹の怒り】の発動中、あるいは森の中だと、全てのステータスが1.5倍される。
また、投擲しても勝手に持ち主の手に戻る。
「なるほどなぁ。限定的なステータスアップか」
まぁ、うれしいスキルではあるけど、使いどころが限られてくるあたり、なんでうちのスキルは基本的にピーキーになってしまうんや。
でも、投擲しても勝手に手元に戻ってくるのはロマンや、うん。
結局、フレデリカには依頼料を請求しない代わりに、詳細な内容は教えないということで合意を得た。
そもそも、今回のイベント自体、うちしか出てこないわけやったから、これくらいはええやろ、うん。
*スキルの取得条件の解説を変更しました。