「はーっ、疲れたー!!」
「お疲れ様、シオリ」
ようやく、第3回イベントが終了した。
シオリはイベントが終わるまで、ログインしている間はひたすら牛を狩っていた。
結果、個人ランキングでは見事に1位を獲得。
ランキングで報酬が変化するというわけではないが、本人的にはたとえ直接対決でなくてもペインに勝てたというのは重要らしく、ずいぶんと満足そうにしている。
それに、疲れたというわりには叫ぶ余裕はあるらしいし。本当に、大したもんだ。
「はぁー・・・疲れた」
「あぁ・・・私もだ」
それに対し、サリーは椅子の背もたれに全体重を預け、カスミも机に突っ伏している。
ギルドの中ではシオリが1位で、次に俺、サリーとカスミ、クロム、カナデ、モミジと続き、メイプルが最下位だ。
まぁ、クロムもそうだが、今回のイベントはAGIが低いプレイヤーには向かない内容だったから、仕方ないだろう。
それに、シオリのおかげでギルド報酬の中では最高ランクのものをゲットできたから、問題もない。
「ギルドホームに届いてるわよ」
そう言ってイズが取り出したのは、牛の頭部の剥製だ。
壁に飾り付けることで、【楓の木】のメンバー全員にSTRが3%上昇する、という効果だ。
3%というと低く感じるかもしれないが、
「まぁ、こういうのは積み重ねだよな」
「あぁ、その通りだな」
「私には意味ない・・・いや、そうだ、あるんだ!」
メイプルのその言葉で全員の視線がメイプルに集中した。
普通なら、VIT極振りのメイプルにSTR上昇の恩恵があるはずがないし、おかしいことだ。
つまり、今回のイベントの間に、またメイプルに何かが起こった、ということだ。
「メイプル・・・このイベントの間、どこに行ってた?」
「2層にいたよ?・・・多分」
俺たちを代表してサリーが尋ねると、メイプルはなぜか疑問形になりながら答えた。
いや、2層だけど2層じゃないどこかってなんだよ。
これは、あれか。イベントの最中に感じた悪寒は気のせいじゃなかったってことか。
おそらく、俺たちの胃と心臓にダイレクトアタックしてくるような“何か”がある、ってわけだ。
「・・・とりあえず、近々第3層が追加されるから、そこで見させてもらおうか」
もう全員、メイプルが何かしらやらかしたことを察していた。その上で、俺の提案に首を横に振る者はいなかった。
* * * * *
あれから数日後、第3層が追加されて、俺たちは3層に続くダンジョンに訪れていた。
今回は、モミジが時間が合わなかったため、写真あたりを送ってほしいと頼まれた。
というより、パーティーは8人までなため、どのみち誰かが後から報告を聞くことになっていただろうが。
もちろん、このメンバーが集まれば道中は何の問題もなく進み、攻撃においてはメイプルの出番はなかった。
メイプルにイズを守ってもらいながら進んでいき、俺たちはなんなくボス部屋にたどり着いた。
「よし、ボス部屋っと」
「さて、と・・・とりあえず、ここのボスは基本的にメイプルに任せるからな。その、イベントの時に手に入れたってスキルも見せてくれ」
「うん、わかったよ!」
俺の指示に、メイプルは勢いよく頷くが、俺の不安は募る一方だった。
とはいえ、確かめないことには何も始まらない。
覚悟を決めて、俺たちはボス部屋に入った。
今回のボスは、一言で言えばトレントのようなモンスターだった。1層のボスと似ているが、1層のボスと違って果実らしきものは確認できない。
「じゃあ、いくね。【挑発】!」
まず初めに、メイプルがボスのタゲを自分に向けさせ、ボスの真下にまで移動した。
「【捕食者】【毒竜】【滲み出る混沌】!」
メイプルがスキルの名前を叫ぶと、メイプルの周囲から化け物が現れ、毒竜がボスの幹をぐちゃぐちゃに汚染し、最後に化け物が撃ちだされてボスに噛みついた。
ボスのHPがガクンガクンと減少し、なおも化け物は攻撃を続ける。
「【身捧ぐ慈愛】!」
さらに、メイプルが【身捧ぐ慈愛】を発動し、化け物が受けるダメージを引き受け無力化した。その間に、メイプルはポーションを取り出してHPを回復させる。
その様子を、俺たちはボス部屋の端で見守っていた。
「あれは何だ?どう取り繕ってももうモンスターよりだろ・・・俺はそう思う」
「そうかー・・・そんな感じかぁ・・・」
「見る度に付属品が増えているのは何でだろうか・・・」
「平常運転で安心したよ」
「もう味方ならいいわ・・・味方なら」
「はぁ・・・何をどうすればこうなるのか・・・」
「う、うちも、化け物を従えとるのはちょっと・・・」
あのシオリですら、完全に引いている様子だった。
だが、これでもまだ序の口だった。
「よし・・・【暴虐】」
メイプルが新たにスキルを呟くと、メイプルが黒い輝きに包まれた。
従えていた化け物は姿を消し、黒い光の中から新たに化け物がでてきた。
違うのは、従えていた化け物が口しかなかったのに対し、こちらは逆に手足が何本も生えており、サイズも数mはあるということだ。。
「「「「「「「・・・・・・」」」」」」」
この辺りで、俺たち全員の思考が完全に停止した。
その間にも、新たに現れた化け物は口から炎を吐き、腕の爪で幹を破壊し、蹴りで陥没させ、口で噛み千切る。
もはや、どっちがボスなのかわからないありさまだった。
しばらくそうして戦っていたが、結局トレントモドキが先に倒された。
化け物が俺たちに近づいてきて、思わずそれぞれ武器を構えてしまったが、口を近づけた化け物から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「いやー、これ、操作難しいよ!」
ノイズが混じっているが、明らかにメイプルの声だ。
「えっと・・・メイプル・・・だよな?」
「んー、ちょっと待ってね」
俺が困惑交じりに尋ねると、メイプルがそう言ってから数秒後、化け物のお腹が裂けて中からメイプルが現れた。
メイプルが現れると、化け物は崩れて消え去っていった。
「・・・とりあえず、さっきのスキルの説明をできる範囲で頼む」
「えっとね・・・」
メイプルの説明曰く、あの化け物形態だとHPが1000になり、STRとAGIが50ずつプラスされ、HPがなくなっても元に戻るだけというものとのこと。
デメリットは、装備の能力上昇値やスキルが反映されないことと、1日1回しか使えないことだが・・・デメリットがデメリットとして機能しているのか、かなり怪しいところだ。
「ああ・・・遂に本当に人間を辞めたのか」
「ああ、 辞めたな。これはもう間違いない」
クロムとカスミの言う通り、メイプルはついに化け物形態を手に入れてしまった。
もうさ、メイプルがラスボスでいいじゃん。俺はそう思う。
ちなみに、あの化け物形態は、大きな着ぐるみの中にいるようなイメージらしい。
いや、腕とか脚とか、どうやって動かしてるんだよ。
そもそも、周囲に化け物を生やしている時点で、十分おかしかったわけだけど・・・。
とりあえず、シロップに乗るより速く移動できるとしても、フィールドでそのスキルを使わないこと、練習するときは山奥などの人目のつかないところですることを約束した。
それでも、偶然見かけてしまったプレイヤーは誤解しそうだが・・・。
とりあえず、気を取り直してさっさと第3層に向かうことにした。
第3層は、雲に覆われた機械と道具の世界だった。
そして、第3層の街には、
「皆、空飛んでるね」
「あそこで買えるのか?」
メイプルの言う通り、プレイヤーが空を飛んでいた。
キョロキョロとあたりを見回すと、それらしき店もあった。
おそらく、俺とメイプルを意識してのシステムだろう。
そして、皆が空を飛んで探索するのだろうとか推測して話し合っていたが、俺はある別の可能性に思い至り、内心でやる気をみなぎらせた。