「ふぅ、集めた集めた」
攻撃を始めてから2,3時間くらい経過したあたりで、俺はいったん襲撃をやめて帰路についた。
この時間で集めたオーブの数は、およそ10個。最初は5個くらいでいいやと思っていたが、思いのほかモミジからこき使われた結果、この数にまで膨れ上がった。
いや、情報を教えてくれるのはいいけどさ、ちょっと張り切り過ぎじゃないかな?7個くらいはモミジの情報で手に入れたやつだし。むしろ、4個目からは全部モミジからの情報だし。
さらに言えば、ついさっき、すべてのギルドの位置を把握したからいったん拠点に戻るというメッセージが届いた。これ、ステータスポイントをAGI多めに振っているな。
さすがにシオリのようにはならないだろうが、諜報員としてはこれ以上にないくらいの人材だろう。
「さて、そろそろ帰ろうか・・・」
クローネを拠点の方向に向けようとすると、微かに爆発音が聞こえた。
爆発音がした方を見ると、局所的に爆炎が上がっているところだった。
俺はまさかと思いながらも【千里眼】で確認すると、思った通りのプレイヤーだった。
「【炎帝】のミィか」
第1回イベントで4位に入り、派手な火魔法とそのスキル名から【炎帝】と名付けられた赤髪の女性プレイヤーだ。
特徴は、今も行っている火魔法による範囲攻撃。NWOでは珍しく一つの属性のみを選択して極めた魔法使いで、【炎帝】というスキルによってさらに威力が上がっているという話だ。
そして、【炎帝ノ国】というNWOの二大ギルドのギルドマスターでもある。
まず間違いなく、NWOで両手の指に入る実力者だ。
どうやら、他ギルドのオーブを奪っている最中らしい。
そして、その近くにサリーの姿を発見した。
「念のため、サポートしておくか。【
俺は【漆黒の弓】を消し、【
普段なら【漆黒の弓】を使うところだが、今の俺とミィの距離は1㎞近くある。弓では弾速が足りない。
俺はクローネの背中の上で膝立ちになって、スナイパーライフルを構えた。
ちなみに、スコープはつけてない。スコープよりも裸眼の方が優れているから、ある意味当然ではある。
そこで、俺が照準越しにミィの姿を確認したのと、サリーがオーブを奪ったのは、ほぼ同時だった。
狙いを定めるよりも早く、ミィは1人でサリーの後を追いかけていった。
一瞬、他のプレイヤーを狙ってオーブを奪おうかと思ったが、すぐに向かうには遠い。諦めてミィに狙いを絞ることにした。
ちょうどサリーが朧のスキルで姿を消して姿をくらまし、ミィの追跡を振り切ったところだった。
とりあえず、ここで戦力を削っておこうと引き金に指をかける・・・が、なにやらミィの様子がおかしくなってきた。
最初は必死にサリーを探していたのが、次第に勢いがなくなっておろおろとし始め、最終的に涙目になってその場にうずくまってしまったのだ。
その姿は、モミジに勝るとも劣らない、気弱な少女そのものだった。
・・・おかしいな?モミジからの情報だと、溢れるカリスマでギルドメンバーからも信仰に近い、高い支持を得ているという話だったが・・・。
「・・・今回は特別だ」
なんだか見てはいけないものを見てしまった気分になり、今回は特別にミィを見逃すことにした。
とりあえず、このことは俺の胸の内にしまって、シオリには絶対に言わないようにしよう。
* * * * *
「戻ったぞー」
「あっ、クラル!おかえり!」
「お疲れさまや、クラル」
拠点に戻ると、メンバー全員が揃っている状態だった。
「クラル、収穫はどんなもんや?」
「中規模ギルドを中心に、ざっと10個ってところか」
「あれ?もうちょっと多いと思ったんやけどなぁ」
「いくつかの大規模ギルドは見逃したからな。ちなみに、シオリの方は?」
「うちは、小規模ギルドを中心に10個や」
「なるほどな。まぁ、最初にしては上々だろう」
スタートダッシュとしては、まず間違いなくいい方だろう。
「クラル、これ。モミジがマッピングしてくれた地図」
「お、ありがとうな」
「えへへ、お役に立ててよかったです」
偶然見てしまった尋問現場には敢えて触れず、モミジを褒める。
ちなみに、すでにサリー、クロム、カスミでオーブを8個奪っており、3個は防衛に成功したということだ。
「さて、基本的に叩き潰してから奪って来たとはいえ、サリーたちが盗んだっていうオーブを取り返しに来る輩も来るころか・・・いや、さっそく来たな」
外につながる通路の奥から、およそ50人ほどの足音が聞こえる。おそらく、複数の小規模ギルドが手を組んだのだろう。
それを説明すると、クロムから呆れの視線を向けられた。
「まったく・・・何をどうすれば、そこまで推測できるんだ?」
「俺は耳がいいからな。足音でだいたいの人数は把握できるし、それだけ分かれば状況も把握できる」
「・・・普通、聞こえたところでそこまでわからないと思うんだが・・・いや、もう今さらか」
途中からメイプルに向けるような態度を向けられて軽く傷ついたが、わりと事実だから否定できない。
だから、話題をすり替える。
「それより、この11人で戦うのは初めてか」
「全員が戦闘に関わるのは、これが初めてかな?イズさんとか」
「そうやな。というか、基本8人パーティーやから、このイベントが終わったら、次はいつになるかわからんで」
「なら、この貴重な機会を楽しむとするか」
俺がそう言ったと同時に、通路からプレイヤーがやってきた。
そして、目の前に存在する26個のオーブに目が釘付けになる。
これらを奪うことができれば、上位入賞も夢ではないだろう。
・・・奪うことができれば、だが。
「メイプル。いつもの」
「りょうかーい、【身捧ぐ慈愛】!」
「はい、【ヒール】」
【身捧ぐ慈愛】によるHP減少をカナデが回復してカバーする。
相手も俺たちに向かってくるが、ここから始まったのは俺たちによる蹂躙だ。
まず最初に、ユイとマイによって轟音とともにはじけ飛び、
それを抜けて直接オーブを狙ってもイズによる爆弾の雨で爆発四散し、
それを無理やり抜けてもカナデとモミジが麻痺させてサリーとシオリがとどめをさし、
逃げようとしたプレイヤーは俺が背中からスナイパーライフルで撃ち抜き、
最後の抵抗にメイプルを狙ったプレイヤーも、最近取得した防御貫通を無効化するスキルによってはじかれ、ユイとマイの大槌によって粉砕された。
これで、むやみに俺たちのところに攻めては来なくなるだろう。
こうして、俺たちは1日目の夜を迎える。