ちょうどクラールハイトが拠点に戻った頃、サリーは絶体絶命の状況に陥っていた。
上位入賞のために無理を承知でオーブを10個ほど集めたサリーだったが、長時間集中していたせいで索敵の精度が落ちてしまい、知らないうちに囲まれてしまったのだ。
その数は100を超える。
サリーを包囲したのは、フレデリカを指揮官とした【集う聖剣】のプレイヤー。
サリーは、都合がいいと戦闘を開始した。
なにせ、【集う聖剣】にはダミーの情報を流してある。それなら、上手く戦えるはずだと踏んだのだ。
また、限界状態を超えたからか、感覚は今まで以上に研ぎ澄まされ、重かったはずの体も軽くなっている。ギリギリのカウンターも、遅くなった世界の中で容易に決まっていく。
さらに、ドレッドと戦った際に得た恐怖センサーも、今やドレッドよりも上手く扱えていた。
だが、それでも30人が限界だった。
サリーを追ってきたプレイヤーが第3勢力となって包囲に加わった段階で、急に足の動きが止まって、ガクンと膝から崩れ落ちたのだ。
その時に放たれた追撃はなんとかしのぐことができたが、もはや体は少しも動かず、相手もわずかばかりの油断もない。
「次は負けないから」
それは、サリーなりの負け惜しみだった。
「【多重炎・・・」
フレデリカがとどめを刺そうと詠唱を唱えようとした、その時だった。
「フレデリカさん!上です!」
「【速射】」
「っ、【多重障壁】!」
突如降り注いだのは、矢の雨。
フレデリカは咄嗟に詠唱を切り替えることで防げたが、サリーにとどめを刺すことはできなかった。
そして、サリーを救ったのは、
「よう。ずいぶんとボロボロだな」
漆黒の弓を構える、クラールハイトだった。
* * * * *
ぶっちゃけ、かなりギリギリだった。
サリーからメッセージが届いてから、速攻でクローネに乗ってここまで来たのだが、あと一歩遅かったらやられていた。
「く、クラル?」
「ったく、無茶しやがって。いっちょ叱られてこい!」
「えっ、ちょっ、きゃあ!?」
俺は問答無用でサリーの首根っこを掴み、思い切り上空に放り投げた。
何人かのプレイヤーが無防備になったサリーを狙おうとしたが、その前にクローネがサリーを回収した。
そして、一緒に来た人物がサリーを一喝した。
「もうっ、サリー!無茶しちゃだめだよ!」
「ちょっ、メイプル!?」
そう、今回はメイプルも一緒に連れてきたのだ。
メイプルの【身捧ぐ慈愛】があれば、クローネが落とされる心配はない。
「メイプル!いったんサリーを頼んだぞ!・・・さて」
メイプルに声をかけてから、俺はフレデリカに視線を向けた。
視線を向けられたフレデリカは、ビクンッと体を震わせて杖を構えた。
「ず、ずいぶんと余裕だねー?メイプルが一緒じゃなくてもよかったのかなー?」
「別に?お前ら相手なら、俺1人で十分だ」
俺の挑発に、俺を囲むプレイヤーがにわかに殺気立つ。どうも、俺の言葉が気にくわないようだ。
この挑発は、モミジからの情報を聞いたうえで放ったものだ。
『【集う聖剣】における、クラールハイトさんの認識ですが、やはり弓使いというくくりで見ているようです。クラールハイトさんの第1回イベントの表彰での発言もあって、ペインさんを倒したのは不意打ちによるまぐれ、人数で囲って近づけば倒せると考えているようです。それは、ペインさん以外のほぼ全員に見られます』
モミジの情報通り、向こうは俺を
であれば、その勘違いの代償を払ってもらうことにしよう。
「【
俺は詠唱を呟いて、拳銃に片刃の刃がついたガンブレードを両手に持って構えた。
未知のスキルに、相手は動揺する。
その隙を見逃すほど、俺は優しくない。
「せっかくだ。お前たちで対ペインのウォーミングアップをするとしようか!」
俺は獰猛に笑い、敵陣のど真ん中に突撃した。
* * * * *
「うわっ、始まった・・・」
「うん。どうなるんだろうね・・・」
上空からクラールハイトの様子を見る2人は、ドキドキしながら見守っていた。
最初は 防衛をほっぽり出したメイプルに混乱していたサリーは、クラールハイトの指示だと聞いて「あっ、またなにか悪だくみを思いついたのか」と納得した。
だから後は、クラールハイトの方の心配をするだけなのだが・・・
「まぁ、大丈夫だよね?」
「たぶん、そうね」
2人は大して気にしていなかった。
なにせ、以前のオフ会の時、2人は動画で知ったのだ。
クラールハイトが残した伝説の1つを。
それは、とある剣戟アクションVRの大会で優勝したクラールハイトが行ったエキシビションマッチ。
その内容は、1000人組手。言葉通り、1000体のモブと一斉に戦うというものだ。
さすがの開催者や観客も、「クリアできるか」ではなく「何体倒せるか」とか「いつまで耐えれるか」といったものがほとんどだった。
なにせ、このゲームにNWOのような攻撃スキルはなく、すべて己の腕1つでプレイするゲームなのだから、どうあがいても体力がもつはずがないのだ。
クラールハイトも、その例外の1人であり、あろうことか、ただ1度のダメージも受けずに1000人組手をクリアした。
これには運営や観客も絶句し、その時にクラールハイトが得た称号が、そのゲームにおける二つ名となった。
その名も、【一騎当千】。
クラールハイトは、それこそスキルも使わず、ただの1人で1000人の敵を相手取れるのだ。
そんなクラールハイトにとって、プレイヤーとはいえ百数十人はごく少ない数でしかない。
かかった時間は、およそ30分。
その30分で、フレデリカを除いたすべてのプレイヤーが全滅した。
* * * * *
「ちっ、逃がしちまったか」
最後に残っていたプレイヤーを撃ちぬいたところで、フレデリカがその場にいないことに気が付いた。
一応、逃げる足音がしたプレイヤーも撃ちぬいたから、討ち漏らしはいないと思っていたが、ぎりぎり耐えられたか。
本音としては倒しておきたかったが、仕留め損ねたものはしょうがない。
大人しく帰ることにしよう。
それに、戻ったら