ちょうどクラールハイトとメイプルがサリーの救出に間に合った後、【楓の木】の拠点近くに、闇に紛れて1人のプレイヤーが様子をうかがっていた。
「ったく、フレデリカめ、面倒ごとを押し付けやがって・・・」
それは、【集う聖剣】のメンバーであり、ペインに次ぐ実力を持っているドレッドだ。
元々、【楓の木】の拠点の場所はわれており、偶然そこに近かったドレッドが、フレデリカからのメッセージを受けてオーブを奪いに来たのだ。
ドレッドもぼやいてはいるが、メイプルがいないとなれば襲わない理由も少ない。
「さて、まずは中に入って、本当にメイプルがいないか確認してから・・・」
さっさとオーブを奪うため、入り口に一歩足を踏み出そうとしたドレッドだったが、不意にその動きを止めた。
「お、おったおった。クラルの読み通りやな」
後ろから声をかけられ、振り返ってみれば、そこには槍を肩の上に乗せて両腕をかけているシオリの姿があった。
* * * * *
「てめぇ、オーブを奪いに行ったんじゃなかったのか?」
「いや~、クラルからメッセージがきてな。それで急遽戻ったんよ」
オーブを奪いに外に出て、オーブを3つ集めたところで、クラルからこんなメッセージを受け取ったんや。
『釣りの時間だ。餌は俺たちのオーブ』
これを読んで、うちはクラルが何らかの事情があって、そこであえてメイプルを外に連れ出して、そこを狙いに来たプレイヤーを返り討ちにしろっちゅー指示を察した。
てゆーか、マイちゃんとユイちゃんも危険にさらされることになるんやから、向かわないわけにもいかへん!
まぁ、まさかそのプレイヤーがドレッドやとは思わんかったけど。
「んじゃ、こうして会ったことやし、さっさと死に戻りしてもらうで」
「くそっ、運が悪いな・・・ここは、素直に逃げるとするか。【超加速】!」
自分の不利を悟ったんか、ドレッドは迷わずに逃げの手を打った。念入りに【超加速】まで使って。
でも、
「遅いで!」
「なっ、嘘だろ!?」
今のうちなら、【超加速】を使わんでも余裕で追いつける!
「うちから逃げれるとは思わんことや」
「・・・あぁ、そうらしいな」
ドレッドは、もはやあきらめ気味にため息をついた。
それでも、短剣を構えたままなのは、最後の意地ってやつか。
「だが、覚えていろよ。次は、本気でお前らを、メイプルを狩りに行くからな・・・!」
「はっ、何をぬかしとるん?うちらが負けるわけあらへんやろ!」
ドレッドの最後の宣戦布告を聞いてから、うちは一気にドレッドに詰め寄って・・・躱させる間もなく、ドレッドを光に変えた。
「ふー。さて、もっかいオーブを奪いに行く気にもならへんし、もう戻ろか。それに、後でクラルから詳しいことを聞かんと」
何があったのか気になりつつも、うちはクラルにドレッドを倒したっちゅーメッセージを送って、洞窟の中に入った。
* * * * *
「まったく、サリーは無茶しすぎだよ」
「・・・ごめん」
「クラルくんにもシオリちゃんにも、迷惑をかけることになったんだよ?」
「・・・うん。クラルも、ごめん」
拠点までクローネの背中に乗って戻る最中、サリーはメイプルに頬をぐにぐにと引っ張られながら説教を受け、謝罪の言葉を口にしていた。
基本的には、サリーの方がしっかりをメイプルを引っ張っているイメージがあったから、こういうのも新鮮だな。
「気にすんな。さっき、シオリからのメッセージを確認したが、どうやらドレッドが釣れたみたいだ。だから、結果オーライだ」
予定にない指示だったものの、シオリがきちんと俺の意図を察してくれて助かった。
「まぁ、シオリからは盛大にいじられることになるだろうがな。それくらいは我慢しろよ」
「うん・・・」
サリーにしては本当に珍しく疲れ切っているようで、さっきから短く相槌を打ったり謝るだけだ。
相当、無茶をしたらしい。
「・・・おっ、そろそろ拠点につくぞ」
「おー、やっぱりシロップよりも速いね!」
「むしろ、鷲より速く空を飛ぶ亀とか、恐怖以外の何物でもないんだが・・・」
ただでさえ浮遊要塞と化しているのに、それが高速飛行浮遊要塞に進化するとか、俺でも失神する自信があるぞ。
ちょっと怖い未来を想像しながらも、クローネを地面に下ろして指輪に戻す。
「さて、と。サリー、立てるか?」
「うーん、ちょっときついけど、大丈夫・・・」
サリーはそう言うものの、足取りはフラフラとしていて危なっかしい。
ったく、しょうがないな。
「よっと」
「ちょ、ちょっと!クラル?」
見かねた俺は、サリーをおんぶして背中に背負った。
サリーは目を白黒させて、なんとか降りようとするが、STRは俺の方が上なのと、すでに疲れ切っていることもあって、ずいぶんと弱々しい。
「お前は、もうちょっと休め。その様子だと、かなり無茶してオーブを集めたんだろう?」
「うっ・・・」
「ここは大人しく背負われとけ。あぁ、寝る前にオーブは出しておいてくれよ」
「うん。じゃあ、これ・・・」
そう言って、サリーはインベントリを操作して、オーブを取り出した。
地面にころころと落ちたオーブは、およそ10個だ。モミジの地図があったとはいえ、かなりの数だ。
「お前、そこまで無理することもなかっただろうに・・・」
「でも、これで上位は、確実、だから、余裕を持てるし・・・」
よほど疲れているのか、すでに言葉が途切れ途切れだ。
「ったく、オーブも受け取ったし、眠いならさっさと寝ろ」
「うん、あとは、よろしく・・・」
それだけ言って、サリーは寝息を立てながら眠りについた。
「サリー、ぐっすりだね」
「やれやれ・・・」
そもそも、サリーに変に無理をさせないために俺とシオリで奔走したわけだが、これじゃあ本末転倒だ。
肩を竦めながら歩いていると、オーブのある広間についた。
中には、シオリにユイとマイが談笑していたが、すぐに俺たちに気づいた。
「おっ、クラル!おかえり・・・って、なんでサリーを背負っとるん?」
「あぁ、実はな・・・」
疑問符を浮かべるシオリに、さっきまでのことを説明すると、シオリはあきれ顔になった。
「なんや、そんなボロボロになるまで頑張るて・・・ちょっと張り切りすぎとちゃうん?」
「次からは無茶をしないように、ってメイプルが言い聞かせたからな。たぶん大丈夫だろう。それでなんだが・・・」
俺はオーブを台座に設置してから、メイプルの方に向き直った。
「帰りがけに空から観察していたんだが、思った以上にギルドのつぶし合いが激しい。だから、朝から次のプランに移行するぞ」
「っ、いよいよ、だね!」
俺の指示に、メイプルがやる気をみなぎらせる。
そのプランの名を、メイプル解放策。メイプルを防衛という枷から解き放って、オーブを奪わせに行くというものだ。
実際にイベントをやってみて、オーブは盗むよりも正面から徹底的に叩き潰して奪った方が、追手が少なくなりやすい。今のところ、それができていたのは俺とシオリだけだったが、防衛役に回っていたメイプルにもそれができる。
今日のところで、俺たちのところが危険だと十分にわからせることができただろうから、メイプルがいなくても防衛には問題ないはずだ。
「それにあたって、メイプルのスキルを1つ解禁する。基本的には、【捕食者】で対応してくれ」
「わかったよ!」
「それじゃあ、出撃のタイミングはこのオーブを防衛してからだな。俺は、サリーを奥に寝かせてくる」
そう言って、俺は水場がある方の行き止まりに向かって、サリーを横にさせた。こっちなら、今はサリーだけだから、ゆっくり休めるだろう。
さて、また朝から働きづめになるな。
今までモミジのことをジャック呼ばわりしましたが、これだとクラルはケイローン、シオリはアキレウスとクーフーリンのハーフって感じですね。
さて、ちょっとラブコメさせましたが、本格的にラブコメさせるかはまだ未定です。
ていうか、防振り自体、そういう作品じゃないですし、ちょっと気が引けると言うか・・・。
まぁ、今後の展開次第では、ラブコメさせることになるかもしれません。
ちなみに、防振りの文庫9巻でサリーのちょっと頬を染めながらの笑顔の挿絵を見てきゅんとなったのは、自分だけではないはず。