イベント2日目も昼過ぎに差し掛かった辺りで、サリーは洞窟の奥でむくりと起き上がった。
起き上がって、自分が眠る前のことを思い出し、
「ぅぁぁぁぁ・・・・・・!」
顔を赤くして羞恥に悶えた。
(ちょっと待ってちょっと待って。私、クラルにおぶってもらった挙句、しがみついたりしなかった?思い切り体重預けてなかった?ていうか結果的に胸を押し付けるような感じになってなかった!?)
基本的に、一時期テストの成績が危ぶまれたくらいにはゲームに生活を割いているサリーであるから、色恋なんかも特に意識することはなかったし、親しい異性というのもいなかった。
そのため、無茶が祟って疲れ切っていたとはいえ、あのように異性に体を預けるなんていう経験は皆無なのだ。
(なんか、私がクラルに背負われた時、メイプルがやけにニコニコしてた気がするけど、べつにそういうわけじゃないよね?)
サリーはクラールハイトも昨日のことを意識しているのではないかと思っているが、当人はまったく気にしていない。
というのも、サリーがゲームに青春をささげていたように、クラールハイトも武術とゲームに青春をささげていたようなものなので、サリー以上に色恋沙汰について意識することがなかった。おそらく、シオリという異性に慣れてしまっているから、というのもあるだろうが。
サリーはこのまましばらくの間はのたうち回っていたい気分だったが、マップを確認すると、オーブを奪いに出たクラールハイトとシオリはすでに戻っており、メイプルとモミジも拠点に向かっている最中だとわかったので、いつまでもここにいるわけにはいかないと、なるべく自分を落ち着かせてから広間へと向かった。
* * * * *
「おっ、起きたか」
オーブの防衛がてら待っていると、奥からサリーがやってきた。
「どうだ、疲れはとれたか?」
「え、えぇ、大丈夫よ」
サリーは問題ないと頷いてが、視線が若干俺からずれている。
俺、なんかやったっけ?
まぁ、それよりも、今は現状の報告からか。
「一応、俺とシオリで10個ずつ奪って、今防衛しているところだ。まぁ、取り返しに来るところはほとんどいないが」
「むしろ『どうぞ持って行って下さい。だから殺さないで!』みたいなところもあったな。まったく、張り合いがあらへんわ。どのみち全滅させるのには変わりないっちゅーに」
ずいぶんと容赦ないな。俺も同じだけど。
ペインからの宣戦布告を受けてから、体のうずきが治まらないんだよな。
サリーは俺とシオリの発言に軽く引きながらも、今度は鞘や刃を眺め続けているカスミの方に視線を向けた。
「それで、カスミは・・・」
「あぁ、【崩剣】とやりあって、勝ったものの装備を全部ぶっ壊したようでな。イズに新しい装備を作ってもらってからは、ずっとあんな感じだ」
【崩剣】は【炎帝ノ国】所属のトッププレイヤーで、第1回イベントでは7位だった実力者だ。
そんな相手との戦闘だったのだから、それなり以上に熾烈なものだったのだろう。
そんなことを話していると、メイプルとモミジが戻ってきた。
「ただいまー!オーブ9個手に入れてきたよ!」
「おう、さすがだな」
サリーがボロボロになりながら持ってきたのと近い数を奪いながらも、メイプルはピンピンしている。
まぁ、そうなるように予定を組んだわけだが。
問題なくオーブを奪って来たメイプルに感心していると、モミジの方から声をかけられた。
「あっ、すみません。実は新しいスキルを取得したんですが、よくわからなくて・・・なので、ちょっと確認してもらってもいいですか?」
「よくわからないスキルって・・・いや、わかった」
こういうときは、たいていろくなことにならないのだが、もしかしたらイベントでの勝敗を分けるかもしれないから、意を決してステータス画面をのぞき込む。
【ジャック・ザ・リッパー】
【ジャック・ザ・リッパー】に属するスキルを使用できるようになる。
【情報遮断】
使用中、プレイヤーに姿を認識されても正常に知覚できなくなるようになる。1分ごとにMPを5消費する。
(例・たとえ自身の姿を見ても、黒い靄に覆われた物体にしか映らない)
【簡易治療】
対象のHPを自身のDEX分だけ回復させる。
【霧の都Ⅹ】
自分の周囲に霧を発生させる。霧の発生範囲は自身を中心に半径レベル×50m。
霧に状態異常を付与できる。対象は使用者によって選別可能。
【
通常より強力な短剣の攻撃を放つ。
以下の条件を1つ満たすごとに威力は2倍され、すべて満たすと確定で即死効果を付与する。
・時間帯が夜、あるいは洞窟などの暗闇の中である。
・対象が女性あるいは雌(プレイヤー、モブ問わず)である。
・霧が発生している。
「「「「うわぁ・・・」」」」
説明文を読み終えた辺りで、全員がドン引きの声をあげていた。
いったい、どんなことをすればこんな凶悪なスキルを取得できるんだ?
いろいろと問い詰めたいことはあったが、ふとあることに気づいた。
「ん?【霧の都】ってすでに取得してたよな?」
「あれ?そういえば、スキル一覧から【霧の都】が消えています」
「たぶん、【ジャック・ザ・リッパー】の方に統合されたんとちゃう?ほら、カナデの杖みたいな」
「あぁ、それはたしかに、あるかもね」
カナデの【魔導書庫】は、【
ただ、様々な条件が必要とはいえ、確定で即死はやばくないか?
対プレイヤーなら、無類の強さを発揮するな。
「・・・まぁ、強化されたことに変わりないから、これからも活躍を期待しているぞ」
「はい!」
「さて、それじゃあ今後の方針だが・・・上から見た限り、ギルド同士のつぶし合いが激しくなっている。そろそろ脱落するプレイヤーも増えてくるだろう。そこでだ、今度はユイとマイも外に出てもらう」
「え?」
「私たちも、ですか?」
「あぁ。ここを攻めるプレイヤーもかなり減ってきたし、メイプルもそろそろ攻撃が厳しくなってきただろ?」
「うーん、たしかにそうだね・・・あっ、そっか!」
俺の確認にメイプルは頷き、さらに俺の意図も察したようだ。
「ユイとマイなら、十分メイプルの負担を減らせる。もちろん、モミジの同行も変わらず同じだ。出撃はこのオーブを防衛してから。場所は・・・」
俺が指示した場所に4人は驚いていたが、それでもやる気をみなぎらせた。
こんな感じで大丈夫でしたかね?
正直、ちょっと強すぎる気がしなくもないですが、ジャックならやっぱりこれくらいなきゃダメな気もしましたので。
霧のやつも、被り解消のために、ちょっと無理やり感は否めませんが、できるだけ違和感が生じないような設定にしました。
まぁ、どうせさらに強くなっていく予定なので、これくらいなら大丈夫ですよね、やっぱり。