ブラックワイバーンの攻略を始めてから、おそらく数十分は経過した。
厳密な時間がわからないのは、気にしている余裕がないからだ。
ブラックワイバーンを倒すには、ひたすら撃ち込むことしかできないが、相手の攻撃はHPとVITを一切強化していない俺にとってはすべてが即死級のダメージ、いや、実際に即死するだろう。
だから、俺はブラックワイバーンの戦闘に関係する情報以外をすべてシャットダウンした。
そうすれば、俺の目に映るのはブラックワイバーンと周りの地形だけ。あとは白い背景に移り変わっていく。
その後は、ギリギリの綱渡りの連続だ。
ブレスの範囲ギリギリを見極めて回避し、横っ飛びの状態で矢を放ったら片手で体勢を整えて駆ける。
空中から急襲を仕掛けてきたら、飛び上がって回避しながら背中に矢を3,4本射るか、【魔弾の射手】で片手剣を放ち、遅れざまに来る尻尾も体をひねることで躱す。
それでも、弱点を狙わない攻撃は、【魔弾の射手】でもせいぜい5%削れるかどうか。
矢の残弾を気にする必要がないとはいえ、長い戦いになる。
最初はそんな不安もあったが、時間が経つにつれてその考えも彼方に置き去っていった。
ひたすら相手のパターンを探り、攻撃を誘発させ、避けざまに攻撃を加えていく。
ブラックワイバーンのHPが半分を切るころには、すでに俺の動きは一切の思考を排しており、余計な考え事はせずに機械のように精密な動作を継続させる。
そして、ブラックワイバーンのHPが残り数mmになったところで、流れが変わった。
「・・・っ」
ブラックワイバーンの急襲を躱して攻撃を加えた後に、着地の際に足を滑らせて体勢を崩してしまった。
さらに、ブラックワイバーンはそこで飛び上がるのではなく、地面に着地して俺に向かって口を開けながら突進してきた。
体勢を崩して膝をついた俺に、この攻撃をかわすことはできない。だが、この突進が直撃したら、今までの苦労が水の泡になってしまう。
ここをしのぐには、どうすればいいか。
引き延ばされた時間の中で、覚悟を決めたのは一瞬のことだった。
「ホワイトランス!」
【魔弾の射手】のために用意した武器の中で最もSTR値が高い槍を、弓で構えるのではなく直接握ってブラックワイバーンの口の中に突き刺した。
ブラックワイバーンは、俺まであと数cmというところまで近づいたが、当たる直前に動きを止めた。
ちらりとブラックワイバーンのHPバーを確認すると、ブラックワイバーンのHPは0になっており、直後に光となって消滅した。
「・・・弓で射なくても、敵に当たった時点で消滅するんだな」
最初に感じたのは、勝利の余韻ではなく、【魔弾の射手】の仕様だった。
握っていたはずのホワイトランスはすでに消えており、専用欄を確認しても、1本しか用意しなかったホワイトランスの名前はどこにもない。
どうやら、スキルで取り出して使用した時点で、「使用すると壊れる」という効果が適用されるらしい。
これは、スキルで取り出したら基本的には弓で射る方がいいな。どのみち、右手には接近されたとき用の短剣を装備しているし。
そこまで考えて、俺はようやく勝利の余韻に浸ることができた。
今回の戦闘は、今まででも1,2を争うレベルできつかったな。ここまで消耗したことは滅多にないし。
しばらくしてようやく息を整えて立ち上がると、攻略情報には載っていなかった宝箱が出現していた。
「なんだ、これは・・・?」
訝しみながらも宝箱を開けると、中から黒一色の装備一式が入っていた。武器は弓矢で、同じく黒い矢筒に黒い外套らしき鎧と、竜のようなマークがある眼帯だった。
どれも見たことも聞いたこともないものばかりで、説明欄をガン見して確かめた。
【ユニークシリーズ】
単独でかつボスを初回戦闘で撃破しダンジョンを攻略した者に贈られる攻略者だけの為の唯一無二の装備。
一ダンジョンに一つきり。
取得した者はこの装備を譲渡出来ない。
『黒竜の眼帯』
【DEX+20】
【黒竜ノ眼】
【破壊不能】
『黒竜の外套』
【STR+35】
【黒竜ノ加護】
【破壊不能】
『漆黒の弓』
【STR+40】
【黒竜ノ息吹】
【破壊不能】
『漆黒の矢筒』
【DEX+25】
【黒竜ノ威厳】
【破壊不能】
「うっそやん・・・」
パッと見ただけでも、思わずシオリの関西弁が移ってしまうくらいにぶっ壊れなのが分かる。
ステータスの上昇値もそうだが、すべてに【破壊不能】の効果がついているというのがぶっ飛んでいる。
しかも、全ての装備に見たことのないスキルがついている。
確認するのが怖くなってきたが、確認しないわけにもいかず、恐る恐るスキルの説明欄を見た。
【黒竜ノ眼】
相手の動きの一瞬先が見えるようになる。
【黒竜ノ加護】
50%の確率で相手の遠距離攻撃を無効化する。
すべての状態異常とデバフを無効化する。
【黒竜ノ息吹】
距離が遠ければ遠いほど自分の遠距離攻撃の威力が上昇する。
効果は50mから適用され、最大値は100mで【STR+50】。
【黒竜ノ威厳】
遠距離攻撃があらゆる条件下で威力の減衰を受けなくなる。
「・・・・・・・・・・・・えぇ」
チート過ぎる効果に、思わずドン引きしてしまった。
特にやばいのが【黒竜ノ加護】だ。これだけで一部のプレイヤーを完全に無効化できるんだが。
たしかに、攻略サイトや掲示板にも、他よりも高い攻撃力から1層で最強クラスのボスだってあったし、ユニークシリーズの取得難易度も破格に設定されているから強力なスキルが設定されていてもおかしくないが、それにしてもおかしすぎないか。
【黒竜ノ威厳】も、「あらゆる条件下」がどれくらいなのかはわからないが、少なくとも水中や風の影響を受けなくなる可能性は高い。そうなると、【百発百中】と合わせて、俺の弓はほぼすべての威力減衰を受けなくなることになった。
【黒竜ノ眼】と【黒竜ノ息吹】も、他の二つと比べると地味に見えなくもないが、俺のプレイスタイルならこれ以上にないくらい強力なものだ。
・・・武器のスキルが適用されるかはわからないが、この勝負、俺の勝ちかもな。
前回の【魔弾の射手】の説明に、今回で書いた設定を付け加えました。
ご都合主義なところはありますが、防振り自体それが特徴ですし、これくらいはいいですよね?
シオリの方も、似たような感じに仕上げるつもりです。