ようやくすべてのギルドの撤退が終わったころには、残っていたのは俺たちと【炎帝ノ国】のトップ4人だけだった。
メイプルの【暴虐】は解除されているのとクロムがボロボロ気味ではあるものの、それだけで脱落者もいないし、他は割と余裕があった。
それに対し、ミィたちの方はすでに満身創痍で、さらにギルドメンバーもほとんどリタイアしているようだった。
そんな状態では当然、俺たちと戦うことはできない。
それは向こうも分かっていたようで、俺たちとミィたちの中央にあるオーブを回収することもなく、爆炎に包まれてどこかへと消えていった。これは俺たちを巻き込むためのものではなく、ここから緊急離脱するためのものだったようで、遠目だが回復されながらも宙を飛んでいる4人が見えた。
【炎帝ノ国】のトップ陣の1人であるミザリーは、【聖女】の二つ名で呼ばれている
それを見届けてから、俺たちはオーブを回収して、クローネとシロップの背中に乗って拠点へと戻った。
* * * * *
拠点に戻ってオーブを台座に置いてから1時間ほど。
襲撃もまったくなく、比較的平和に休憩していたが、ふとランキングを見るとすごいことになっていた。
「おぉ、これはこれは・・・」
「クラル、どうかしたん?」
俺の反応が気になったのか、シオリが俺に近づいて尋ねてきた。
「あぁ、これを見てくれ」
俺は開いている画面をシオリに見せる。シオリの後ろには、いつの間にかメイプルとサリーもいたから、見やすいように画面を少し大きめにした。
そこには、すでにいくつかの大規模ギルドが壊滅していることが示されていた。
見せている間にも、また1つのギルドが消えた。
「たぶん、【炎帝ノ国】が暴れているんだろうな」
「そうなん?」
「あの状態じゃ、いくらなんでも2日以上戦い続けるのは無理だ。だから、できるだけライバルを減らして、後は運頼みってところだろう」
すでに上位10位以内で、かつそれを実行できる殲滅力があるなら、悪くない手だ。
とはいえ、少数で大規模ギルドを襲うのはそれなりに負担がかかるし、やられるたびにステータスも下がっていく。そう長くは続かないだろう。
「それでも、ここまで暴れるのは、さすがの一言だけどな。殲滅力に関しては、まず間違いなくメイプルよりも上だな」
「そうだね。私は【暴虐】だと、上手く轢かないといけないし・・・」
実際、メイプルの【暴虐】によってひき殺されたプレイヤーは、そこまで多くない。せいぜい、偶然連続で轢かれた不運なプレイヤーくらいだろう。
それに、メイプルのスキルの強みは初見殺しにあるため、今ある分はあらかた知れ渡ってしまったから、不意を突くような戦法はもう使えない。
それに対し、ミィはただ火力を押し付ければいいから、効率で言えばメイプルよりも数段上だし、今回の対メイプルで覚えたらしき自爆飛行も合わされば、短時間で複数の大規模ギルドを壊滅させることも不可能ではない。
そして、その展開は俺たちにとってもありがたい。
「たぶん、【炎帝ノ国】が全滅する頃には残りは10個以下になっているだろう。そうなれば、順位がほぼ確定して無理に攻める必要もなくなる」
「ってことは、うちらもこれで打ち止めっちゅーことか?」
「今あるオーブを守りぬけば、まず上位10位以内は確実だし、この点差ならよほどじゃない限り【集う聖剣】にも抜かれない。とりあえず、もう外に出る必要はないな」
「そっか~、ようやっと終わりか~・・・」
俺がそう言うと、シオリは地面に大の字になって寝転がった。
フウに乗っていたとはいえ、今回で一番走ったのはシオリだ。スキルのおかげで肉体的な疲労は少ないだろうが、それでも精神的な疲れはあるのだろう。
他のメンバーにも終了ムードが流れ始めたが、ここでだらけ切ってしまうのも良くはない。
「メイプル。念のために、道を【水晶壁】で塞いでおいてくれ。俺も機械兵をだしておく」
「うん、わかった」
メイプルに最後の指示を出し、俺も久しぶりにしっかりと睡眠をとった。
4日目の早朝。
ランキングを確認すると、すでに残りのギルドは6つで、そのすべてが上位10チームだった。
つまり、これで実質的に第4回イベントは終了したということだ。
「まだ時間は余っているが、これならもうお疲れ様でいいか」
「そうやなぁ。報酬が変わらん以上、また頑張ることもあらへんやろ」
シオリの言う通り、もうどこかのギルドがオーブを奪いに行くようなことはないだろう。
平和なのはいいのだが・・・ちょっとした問題がある。
「そうなると、だいぶ暇になるな・・・」
「そうやな・・・」
こうなると、丸2日暇になってしまう。
もともと、こんなに早く終わることを想定していなかったため、今回ばかりはメイプルも暇つぶしセットを持っていない。
そうなると、どうやって時間を潰そうか・・・。
いっそ、もう一回ペインのところにタイマンを挑みに行こうか?どうせやることもないし。でも、あまり手の内を見せすぎるのもな・・・。
とりあえず、なんとなくでクローネを呼び出したが、肩に乗せるだけで、特に何かをするわけでもない。
マジでやることがない・・・。
「あっ、そうだ!」
どうしたものかと悩んでいると、何やらメイプルが「閃いた!」と言わんばかりに立ち上がった。
「どうしたんだ?」
「ちょっと待ってて。【発毛】!」
すると、いきなりメイプルは羊毛の塊になった。
「【武装展開】!」
いったい何をしでかそうとしているんだ?と疑問に思っていると、今度は羊毛の中からにゅっとレーザー砲なんかの武装が飛び出してきた。なぜか、前後に2本ずつ。
「マイちゃん!ユイちゃん!これ持って!」
今度は、マイとユイを呼び出した。
すると、マイとユイはなんとなくやりたいことがわかったのか、頷きあってメイプルの元に近づいた。
それぞれメイプルを挟むように並ぶと、ガシッとレーザー砲を掴んで、神輿よろしくと言わんばかりに持ち上げて、拠点の中を歩き回り始めた。
「・・・まぁ、うん。本人が楽しいならいいや・・・」
その光景を、俺は極力何も考えないようにしながら眺めた。
だって、考えたら負けだと思うし。
* * * * *
第4回イベントも終わりの兆しを見せると、観客席のエリアでは今回のイベントについて話し合っていた。
話題に上がるのは、やはり活躍したトッププレイヤーたちだが、その中でも特にクラールハイトとシオリについての話題が熱くなっていた。
なにせ、【楓の木】の中ではメイプルと違って、イベント中はずっと他のギルドを攻めていた分、キル数もメイプルより多かった。
この2人について話し合う中で、自然と2人の二つ名が浸透するようになった。
クラールハイトは、あらゆる武器・アイテムを駆使し、優れた知恵と戦略でメンバーを動かし、勝利へと導いた。
すなわち、【賢者】と。
シオリは、白い狼の毛皮を身に纏い、白い狼と共に戦場を駆け巡り、数多のプレイヤーを蹂躙し、狩っていった。
すなわち、【白狼】と。
この二つ名は、【聖剣】や【炎帝】に負けず劣らずの知名度を誇り、すでに【魔境】と呼ばれ始めている【楓の木】の中で初めての二つ名持ちということで、あらゆる意味で警戒されるようになり、他のメンバーの二つ名についての議論の種火にもなった。
まずはクラルとシオリに。
気が向いたら、他のメンバーも考えようかなと。