第4回イベントが終わってから1ヵ月と少し。ようやく第4層追加の日がやってきた。
「ふぅ。これで、この機械ともさよならか」
「結局、クラルが一番楽しんどったもんなぁ」
シオリの言う通り、この1ヵ月の間だけで見れば、【楓の木】の中では断トツで空飛ぶ機械を使っていた。
そして、いつの間にか動画が取られていて、NWO内で少し話題になったりした。
あまり周囲を見ていなかったからわからんけど、もはや一種の見世物みたいになっていたらしい。
当然、投稿者には許可を出していたのだが、まさかここまで話題になるとは思っていなかった。
だが、それも今日で終わりだ。
・・・・・・。
「・・・やっぱ、たまには3層に戻ろうか・・・」
「いや、どんだけハマっとんねん」
シオリの呆れた声もなんのそのだ。それだけ気に入ったのだから、別にいいだろう。
まぁ、冗談だけど。
さすがに、この立体機動に慣れて地上戦で感覚が抜けきらずにミスを犯すくらいなら、ここでスッパリ諦める。
「それよりも、さっさと3層のボスに向かうか。今日は、誰かいるかな?」
「どうやろな」
そんなことを話しながら拠点の扉を開けると、そこにはメイプルとサリーがいた。
「あっ、クラルくん!シオリちゃん!」
「おう。2人は、これからボスか?」
「うん、ちょうど行こうとしたところ。2人も?」
「ついさっき、そのことを話しとったところや。なら、この4人で行こか?」
普段はサリーにライバル心を向けがちなシオリだが、まったく協力しないわけではない。
一緒にボス攻略をするくらいなら、どっちかが誘ったりする。
「うーん、正直、メイプルだけでも十分な気はするけど・・・まぁ、人手が多いに越したことはないか」
「よし。それじゃ、この4人で行くとするか。あ、メイプル。移動は頼んだぞ」
「うん、任せて!」
こうして、俺たち4人で3層のボスを攻略しに行くことになった。
道中、他のプレイヤーの注目の的になったのは言うまでもない。
* * * * *
【暴虐】状態のメイプルの背中に乗って、戦闘もメイプルに任せきりにして進むことしばし、ボス部屋に到着した。
だが、俺は、どうにもに気になることがあった。
「うーむ・・・」
「? どっかしたん、クラル?」
「いや、ふとな、運営は何かメイプル対策をとってたりしないのか、と思ってな」
メイプルを注目しているのは、プレイヤーは当然のことだが、それは運営も同じはずだ。
そして、運営がメイプルに対して何も対策をとっていないのは、果たしてあり得るのだろうか。
だが、今さらメイプルの天敵らしい天敵というのも、あまり思い浮かばないわけで・・・。
「まぁ、その時は俺たちでなんとかすればいいか」
「それもそうやな。細かいことは後でええやろ」
幸い、メイプルの弱点は俺たちで十分補える。
気を取り直して、俺たちはボス部屋の中に入った。
現れたのは、高さが4,5mほどの鋼でできたゴーレムだ。なんとなく、第2回イベントでやり合ったやつを思い浮かべる。中身のやつな。
「朧!【
サリーは、第4回イベントでも使った魔法でメイプルを4体に増やした。
カナデがいない分、数は少なくなるが、それでも十分だ。
そして、ゴーレムの攻撃はメイプルにダメージを与えられない。
もう安心だと判断したのか、サリーとシオリは地面に座り、朧とフウの頭を撫で始めた。
そこで俺は、俺の勘が間違っていなかったことに気が付いた。
「おい、2人とも。早く立て」
「え?」
「どうしてなん?」
「ゴーレムのHP、まったく減っていない」
「「えっ!?」」
「サリー!シオリちゃん!クラルくん!どうしよう!?」
そう、これこそが運営のメイプル対策だった。
メイプルのSTRは基本的に0だし、【暴虐】を使用しても50しか上がらない。
そして、STR50という数字は、ある程度のVITがあれば十分耐えられてしまう。
それが、金属でできたゴーレムならなおさらだ。
もちろん、ゴーレムがメイプルを倒すことはできないが、逆もまた然りだ。
つまり、メイプルの天敵というのは、超高火力の攻撃ではなく、高耐久高体力を持つ同じ個性だったのだ。
これは、俺も盲点だった。
この作戦を思いついた運営も、だいぶ意地が悪い。
ただ、幸いと言うべきか、ゴーレムの動きは遅いし、図体もでかい。
「というわけだ。シオリ、やれ」
「まったく、仕方あらへんなぁ!【超加速】!!」
気合一拍の後、シオリの姿が掻き消えた。
この時点で、シオリのAGIは2000近い。もはや、俺やサリーでも目で追うのはほぼ不可能だ。
当然、鈍間なゴーレムではシオリの動きについて行けるはずもなく、槍を数閃しただけで、ゴーレムはHPを全損して光となって消えた。
「やっぱ、シオリはメイプルとは違った意味でチート臭いな」
「言ってみれば、移動中に限ればマイとユイの上位互換なわけだしね」
NWOの中で最も速く、なおかつ高速移動中はマイとユイのSTRを軽く上回る。
これは、メイプルとはまた違った理不尽さでもある。
「よし、これで終わりや。メイプルちゃん、もう出ていてもええで」
「ありがとう、シオリちゃん!」
戦闘が終わったタイミングで、化け物の腹の中からメイプルが現れた。
なんとか慣れてきたが、メイプルに染まりつつあるとも言える。
そもそも、他のプレイヤーからすれば、俺たちも似たように映っているんだろうが。
「んじゃ、早く行こうぜ。どんなところか、気になってしょうがない」
「そうだね、早く行こう!」
「よっしゃ、メイプルちゃんはうちが背負ってあげるで!」
「ちょっと、私たちを置いていかないでよ」
少しはしゃぎながら第4層に向かうと、まず最初に見えたのは夜空と、赤と青に輝く
さらに進むと、そこにあったのは建物の全てが木造で、いたるところに水路が張り巡らされ、提灯のようや明かりが淡く光を灯す和風の街並みだった。
よく見ると、街の中心にはひときわ大きい木製の塔がある。
「おぉ、すごいなぁ!めっちゃ綺麗やん!」
「へぇ、和風の街か。3層の機械の街も好みだったが、やっぱこっちの方が落ち着くな」
俺の実家も、中はそれなりにリフォームされているものの、基礎的な部分はやはり和風建築だ。だからか、この街並みも思ったよりしっくりきた。
「んじゃ、さっそく探索に行くとするか。まずはギルドホームからだな」
逸る気持ちを押さえながら、俺たちはギルドホームへと向かった。
自分は、傍から見る分には純和風は好きな人間です。
実際に住むとなると不便なところもあるでしょうが、旅行で泊まるなら旅館とかが好きですかね。