「では、こちらからいくぞ」
先に仕掛けてきたのは、小次郎の方だった。
一瞬で間合いを潰し、物干し竿を振りかぶる。
「よっ、と!」
俺も刀で攻撃を受け止め、柔らかく受け流し、返す刀で袈裟斬りにする。
俺はもともと体術をメインに習っていたが、剣術も多少かじっている。そこに神崎流の動きを合わせれば、たいていの剣術家なら対等に戦える。
だが、相手は日本でも有名な侍。
この程度で斬られるほど、弱いはずがない。
「良い動きだ」
俺の袈裟斬りは、素早く戻された物干し竿で受け止められていた。
動きが速い。間違いなく、AGIは俺よりも上だ。
それに、刀の冴えも尋常ではない。ここまでの腕は、ペイン以来か、あるいはそれ以上だ。
だが、だからこそ滾る。
おそらくだが、小次郎のHPやVITはそれほど高く設定されていない。数撃で倒せるだろう。
それでも、その数撃が遠い。先ほどのカウンターが完璧に決まったにも関わらず受け止められていたことからも、それが分かる。
剣術だけで見れば、俺よりも数段上か。
ステータス、技術の両方を上回られては、俺としても危ういか。
「まぁ、それでも勝たせてもらうけどな」
これほどの剣客、NWOにも数えるくらいしかいない。
思う存分、楽しむとしよう。
だから、今度は俺から仕掛けた。
「はぁ!」
「ふっ」
俺の乱撃を、小次郎は事もなげに防ぐ。
ただ斬りかかるだけでなく、突きも交えてランダムなモーションで刀を振るっているが、まるで分かりきっているかのように的確にはじいてくる。
はじかれた衝撃を乗せて刀を振っているから反撃はされないが、決定打を入れることができない。
だから、少し姑息な手を使うことにした。
「しっ!」
「なにっ」
剣の間合いからさらに半歩踏み込み、脛に思い切り下段蹴りを叩き込んだ。
この世界のNPCに脛を蹴られていたがる奴がいるのかはわからないが、それでもバランスを崩すことに成功した。
その隙だらけの体に、俺は刀を振り下ろす。
「せぁっ!」
「くっ!」
それでも、小次郎を殺しきることはできなかったようで、半分ほどHPを削られながらも、コマのように体を回転させて俺から離れた。
「なるほど。私に傷をつけた者は、お前が2人目だ」
1人目はおそらく、宮本武蔵のことを指しているのだろう。であれば、ここにもどこかに宮本武蔵がいるのか。
「だからこそ、お前をこの奥義で斬り伏せてみせよう」
そう言うと、小次郎は物干し竿を水平にして構えをとった。
これから放たれるのは、神速の斬り返しである【燕返し】だろう。
その太刀筋は、あまりの鋭さに刀が3本に見えるという。
使わせてしまったら、まずやられかねない。
だが、だからこそ挑みたい、その最強の剣技に。
「来い!」
俺もまた、刀を水平に構える。
緊張の糸が張り詰める中、先に仕掛けたのは小次郎だった。
「【秘剣・燕返し】!」
スキルの名前と共に、俺に向かって
普通なら、為すすべなく斬り伏せられるだろう攻撃を前に、俺は冷静に軌道を見切って対処する。
まず、上段から振り下ろされる一の太刀を体を右にずらして回避する。
続いて、逃げ道の先から振り下ろされる二の太刀を刀で打ち払う。
最後に、横から薙ぎ払われる三の太刀を柄で受け止める。
残るのは、すべての攻撃を捌かれて無防備になった小次郎だけ。
「佐々木小次郎、討ち取ったり!」
その隙を見逃さずに、俺はさらに踏み込んで刀を一閃し、残りのHPを削り切った。
「・・・見事だ」
斬られた小次郎は、血を流すでもなく、だがポリゴンとはまた違う光を傷口から溢れさせている。
「・・・私は、実体を持たない亡霊のような存在だ。だからこそ、この刀と私の技を受け継ぐにふさわしい人物を待っていた」
そう言うと、小次郎は俺に物干し竿を自身の足下に置いた。
「お前は、我が刀と技を受け継ぐにふさわしい人物だ。ぜひ、戦いで役立ててくれ」
その言葉を最後に、小次郎は光となって消え、クエストクリアの画面が出てきた。
「・・・なんつーか、しんみりさせてくるな」
まさか、こんなイベントがあったとは。
とはいえ、戦利品はありがたく貰おう。
先ほどまで小次郎が立っていた場所まで近寄り、しゃがみこんで物干し竿を手に持った。
俺のインベントリに収まったのを確認してから、性能を確認する。
『
【STR+30】【AGI+15】
【秘剣・燕返し】
【破壊不能】
【秘剣・燕返し】
3回同時斬撃を放つ。使用可能回数は1日3回。
「ありゃ?もしかして、ユニークシリーズの類か?」
【破壊不能】があるのを見て、まさかと疑ったが、この武器の説明欄にユニークシリーズの説明はない。
もしかしたら、他にも似たようなイベントがあるのかもしれない。
おそらくだが、強大な敵に勝利することで強力な装備を得られるイベントが用意されているのだろう。
確証はないが、その可能性は高い。
「せっかくだし、シオリにちょうどよさそうなイベントでも探すか・・・」
ぶっちゃけ、シオリには必要なさそうな気もするが、俺が新たな装備を手に入れたと知ったら欲しがるに決まっている。
この街に図書館や情報屋の類があるかは知らないが、探してみるのもいいだろう。
今回は、刀と燕返しだけ授ける形にしました。
やっぱ、そっちの方が佐々木さんっぽかったので。
それと、カスミのやつも初見1発クリアしたら、もっとやばい奴がもらえたんですかね・・・。