俺が【天の雫】の情報をシオリに伝え、さらに数日経って<玖>の鳥居を開放したプレイヤーが増えてくると、他の必要素材の情報も出回るようになっていった。
ちなみに、【天の雫】の取得について俺たち【楓の木】と【炎帝ノ国】は過程をすっ飛ばして入手方法が判明したのだが、メイプルのいない【炎帝ノ国】では当然のように流星地帯を抜けることが困難だったのだが、【楓の木】はメイプルのおかげで全員が簡単に取得できた。サリーとシオリに関しては、メイプルの守護がなくても、自力で避けていたが。
他の2つのアイテムも、ソロでは取得が難しいことから、まず先に通行許可証のレベルを上げることに専念してもらうことにした。
その間、他のメンバーよりも早く<玖>の鳥居まで解放した俺、シオリ、カスミは、暇な時間を街の探索に充てていた。
そして、俺はある装備店を訪れていた。
というのも、店員の後ろにあるポスターに、大きくこう書かれていた。
【装備を5点以上ご購入の方に特典】
その特典がなんなのかは、すでに知っている。情報掲示板で確認して、ここに来たのだ。
俺はそこで装飾に仕えそうな刀なんかを中心に5つ購入すると、1つの巻物を渡された。
【クイックチェンジ】
セットしておいた装備に装備を変更する。もう一度使うことで元の装備に戻る。
「よしよし、これで問題なく使えるぞ」
このスキルの巻物こそが、俺が求めていたものだ。
このスキルさえあれば、【漆黒の弓】と【備前長船長光】をすぐに変えることができるから、戦略の幅が大きく広がる。
さっそく、フィールドに出て試してみようか。
そう思って街の外に向かおうとしたのだが、ふと足を止めた。
「ん・・・?」
俺が足を止めたのは、何の変哲もない小道の前。
その奥から、僅かにだが声が聞こえる。
会話などではなく、なにやら騒いでいるような感じだ。
もしかして、なにかしらのイベントなのか。
そう思い、小道を進んだ。
すると、
「・・・音が止んだ?」
小道に入ってから数メートル進んだところで、音は止んでしまった。
念のために先に進むが、たどり着いたのは何の変哲もない空き地だ。
もしかしたら、俺の気の性だったのかもしれないが、俺の耳に狂いも間違いもない。
おそらく、何かがあるはずだ。
その何かはわからないが、なんとしてでも確かめたい。
だが、俺では無理となると・・・。
* * * * *
翌日、
「うぅ、来てしまいました・・・」
クラールハイトが見つけた小道の前に、モミジが身を小さく縮こませながら立っていた。
なぜここにモミジがいるのかといえば、クラールハイトの指示だ。
なにせ、モミジはNWO内でも数少ない【気配遮断Ⅹ】の持ち主で、隠密系のスキルも多い。
そんな隠密特化のモミジなら、そのいるかもわからないNPCの眼を欺けるかもしれない、ということだ。
もちろん、他にイベントのフラグが必要な可能性もあるから、行ってダメだったら他の手段も試してほしいとも言われた。
万が一に戦闘になった場合も考慮し、アイテムも万全の状態で、モミジは例の小道の前に立っていた。
【聞き耳】も使って耳を澄ますと、本当にわずかにだが、たしかにどんちゃん騒ぎの音が聞こえる。
そんなモミジの内心は、すでに帰りたい気持ちでいっぱいだった。
なにせ、もともと戦闘が苦手なモミジは、ホラーの耐性もそこまで高くない。
ホラーに対する免疫が皆無なサリーほどではないにしても、基本的に自分からお化け屋敷ようなところに首を突っ込むことはないくらいには苦手だ。
とはいえ、この階層のモチーフはあくまで妖怪と呪術がメインなため、極端に怖いイベントはないだろうと考えているが、それでも怖いものは怖い。
最悪、最低限の情報を得たらすぐに戻ればいい。
そう言い聞かせて、モミジは小道へと足を踏み入れた。
クラールハイトが小道に入ったときは数メートルで音が止んだという話だったが、モミジは10mほど進んでも音は止まない。それどころか、近づいた分、音が大きくなってきた。
クラールハイトの予想通り、モミジの【気配遮断Ⅹ】は有効だったらしい。
それでも、モミジの足が小刻みに震えるのは止められないが。
慎重に先へと進んでいくと、奥から聞こえる声もはっきりとしてきた。
「ほらほら!もっと飲め飲め!」
「ぎゃはははは!!」
(これは・・・宴会?)
あまり品のあるような声ではないが、内容から察するに酒の席であるのは間違いないだろう。
いったい、奥で何が行われているのか。
恐怖心の中に好奇心が芽生え始めたモミジは、その正体を探るためにさらに進んでいく。
そして、奥の空き地にたどり着くと、そこでは、
「今宵は特別じゃ!もっと飲むがよいぞ!」
額から2本の角を生やした少女が、巨大な杯を片手に酒をふるまい、それを中心としてあらゆる妖が宴をしているところだった。
今回はモミジちゃんの強化案です。
鬼っ子でアサシンとなれば、誰なのかは予想できるでしょうね。
実は、もともとは考えていなかったんですが、“宵の月夜”様の『現実の分まで』の9話を読んで「鬼っ子・・・FGO・・・アサシン・・・閃いた!」となりました。
こう言ってはなんですが、思いつくきっかけになった“宵の月夜”様に感謝を。
どのような強化をされるかは、次回、次々回をお楽しみに。