モミジと【酒呑童子】の確認をしていると、シオリからメッセージが届いた。
『今、どこにおるん?』
「モミジと訓練場にいるぞ、っと」
「誰からですか?」
「シオリからだ。あいつの方から用事があるときは、たいてい碌でもないことばかりなんだが・・・」
とはいえ、極端な無茶ぶりをしてくることもないが。
返信してから少し待つと、再びシオリからメッセージが送られた。
『せっかくやし、<拾>の鳥居のアイテムを集めへん?』
「あぁ、そういえば、シオリはまだ集めてなかったか」
シオリの通行許可証のレベル上げは、<玖>の鳥居を開放したあたりで止まっていた。
その後は、ひたすら4層の街を楽しんでいたわけだが、そろそろ再開する気になったらしい。
それなら、ちょうどいい機会か。
「シオリから<拾>の鳥居解放の素材集めに誘われたんだが、せっかくだし行くか?【酒呑童子】を実戦で試すいい機会になるし」
幸い、再使用可能時間の関係でまだ2回しか使っていないから、ボス戦で使う分とシオリに紹介する分でちょうどだし、明日は休みだから多少遅くまでやっても問題ない。
モミジも、せっかくだからと一緒に行くことになった。
本当は、メイプルたちも誘いたいところだが、他の面々はそれぞれで忙しそうだし、クリア自体は俺とシオリだけでもどうにでもなる。
そうと決めた俺は、シオリに参加する旨と集合場所のメッセージを送り、モミジと共に向かった。
* * * * *
シオリとは街の出入り口付近で合流した。
そこで軽くモミジの【酒呑童子の瓢箪】について説明し、人気のないところで鬼娘姿のモミジを紹介してから出発した。
先に見せたのは、本番でいきなり見せてそっちに気をとられるのを防ぐためだ。シオリの速度だと、少しの余所見が大事故につながりかねないから、必要な措置でもある。
まず最初に向かったのは、竜の逆鱗を落とすボスがいる高山だ。
なぜこっちが先なのかと言えば、モミジの【酒呑童子】のお披露目は地上戦でやりやすい赤鬼相手にしようと決めたのだが、シオリに見せたことで1時間のインターバルができてしまった。それを消化するために、まずは竜から討伐することにしたのだ。
まぁ、どのみち俺の独壇場になるのは変わりないが。
「んじゃ、さっさと終わらすか。【クイックチェンジ】」
転移用の魔法陣を前に、俺は気だるげにつぶやきながら装備を【漆黒の弓】に切り替えた。
「早よ終わらせてなぁ~。うちは早くモミジちゃんが活躍する場面を見たいんや」
「えっと、頑張ってください!」
ちなみに、シオリにはモミジの年齢のことは伝えていない。
瓢箪の中身が酒だということも、「VRだから大丈夫だろ」で済ませた。
実際、NWOでは飲酒に関しては年齢で強制的に設定がわけられており、未成年でも問題なく飲める仕様になっている。
とはいうものの、酔えないと分かっていて購入するようなもの好きは、俺は見たことはないが。
そんなどうでもいいことを考えながら、俺たちは魔法陣の上に乗った。
転移された先は、色彩に乏しい荒野のど真ん中。
その遥か上空に、目標である真っ白い竜が飛んでいた。
通常であれば、低空飛行状態でない限り攻撃が届かないため、攻撃が届くところまで降下してきたら攻撃を叩き込むのがセオリーになっているが、俺にかかれば関係ない。
「【速射】」
俺は矢をつがえ、【黒竜ノ眼】によって未来位置を確認してから、そこに向かって矢を放つ。
そうすれば、矢は吸い込まれるように白竜へと飛翔し、全弾命中してHPを2割ほど削った。
「う~ん、最大威力でもこんなもんか」
「普通に考えて、この距離であのダメージはおかしいんやけどな」
シオリの呆れたような声を聞き流しながら、次の矢をつがえる。
今度は3本だ。
「【速射】、【拡散】」
さらに【拡散】も添えれば、たとえ全弾命中しなくてもかなりのHPを削れる。
矢の嵐が収まれば、白竜のHPはあと3割ほどしか残っていない。
「んじゃ、これで終わりだな。【速射】」
最後に、俺は矢を2本つがえ、白竜がこっちに近づいてくる前に放った。
そうすれば、白竜はこちらに一切近づくことなくHPが全損し、光となって消えていった。
「お疲れ様やな、クラル」
「ぶっちゃけ、ほとんど疲れてないけどな。俺、3回しか撃ってないないんだが」
最大効果の【黒竜ノ息吹】なら、俺の攻撃は実質【STR 220】相当になる。
マイユイやシオリの【疾風】に比べれば見劣りするが、3人と違って連撃や絨毯爆撃になると考えればそれなりに強い。
そんなこんなで、俺たち3人分の【竜の逆鱗】を手に入れ、元の山の山頂に転移された。
「さて、あとは赤鬼の方だが・・・【酒呑童子】、使えるようになってるか?」
「えっと・・・移動時間も考えれば、ちょうどだと思います」
「なら、ちょっとゆっくり向かってもええかもなぁ」
予想よりはるかに早く討伐してしまったことから、今度はクローネに乗らずに歩きながら向かうことになった。
最近はフィールドではクローネに乗って移動することがほとんどだったから、逆に新鮮に感じたな。
* * * * *
歩きながら移動したことで、目的地である木造の社につくころには再び【酒呑童子】が使えるようになっていた。
「それじゃあ、ここではモミジがメインになってやってみるか?」
「はい。1人でどれだけ戦えるか、自分でも確認してみます!」
「ムリはせんでえぇからな?ダメやったらすぐにうちらに言うんやで?」
シオリの心配の仕方が完全におばちゃんのそれだが、俺としても同じだったからツッコまないでおく。
必要なことを確認してから、俺たちは魔法陣の上に乗った。
転移されたのは、洞窟の中の広間で、それなりに大きい造りになっている。
奥には、最後の目的である赤鬼が立っていた。
その姿を見て、モミジは意を決して瓢箪の酒を飲んだ。
そうすると、モミジの額から2本の角が生えて瞳孔が盾に割れ、紫炎と赤い隈も現れた。
「では、いきます!」
掛け声をひとつ、モミジは赤鬼に突っ込んだ。
赤鬼は金棒を振り上げるが、振り下ろすよりも先にモミジが瓢箪から酒をぶちまけた。
酒をもろに浴びた赤鬼は、体をよろめかせながら膝をつき、金棒も地面に下ろしてしまった。
「ふ~ん?単純に酔ってるってわけじゃなさそうだな?」
「たぶん、酒呑童子のお酒やから、鬼には効果が増すんとちゃう?」
「その可能性はあるか」
あるいは、モミジがあらゆる妖が酒呑童子のお酒に群がっていたと言っていたことから、この階層の妖系のモンスターにはさらに強力になるのかもしれない。
そうこうしているうちに、モミジは【霧の都】で毒を付与した霧を発生させて、赤鬼に継続ダメージを与えながら、自らも【
鬼の方からも拳が放たれるが、ただでさえ動きが緩慢になっているのにモミジに当たるはずがなく、赤鬼の拳は虚空を空ぶる。
とはいえ、たとえ赤鬼のステータスが下がって、モミジのステータスが上昇しているとは言っても、もともと諜報向きのスキルやステータス構成だったことから、モミジだけで【酒呑童子】の効果時間内に倒しきることはできなかったが、それでもモミジ1人でHPを4割近く削ったのは大したものだろう。
「モミジ、よくやった!後は戻ってシオリに任せろ!」
「モミジちゃん!お疲れさまや!あとはうちに任せとき!」
シオリはそう言うと、モミジが戻ってくるよりも先に赤鬼に突撃し、あっという間に残りのHPを削り切った。
「す、すみません。倒しきれませんでした・・・」
「いやいや、1人で4割削っただけでも大したもんだ。これで、モミジも本格的に戦力として数えられるようになったな」
【ジャック・ザ・リッパー】だけでも十分な殺傷性を手に入れたモミジだったが、直接戦闘でもある程度戦えるようになったのは大きい。
また明日、他のメンバーにもこのことを教えておこうと心に決めながら、赤鬼の角を手に入れた俺たちは今日のところはこれで解散した。
近接ばかりが目立ってきたクラルに、長距離狙撃の機会を与えました。
こうも多才だと、出番をつくるのも大変ですね。
なんでもできるということは、それだけ必要な出番の種類も多くなってきますから。