契約魔法少女まどか☆マギカ   作:名前はまだない

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やっと彼女の出番です。


君の叶えたい願いはなんだい?

「ほむらちゃん、これからよろしくね」

「ええ」

 

 キュゥべえと契約した翌日の昼休み、屋上でまどかはほむらとさやかへ自分が魔法少女となった事を報告していた。

 そこでそう至る流れを聞いて、さやかが自分もなろうかどうかと悩み始めたのは当然だった。ただ、彼女には自衛の他にも目的があったのだが。

 

 その事を知るほむらはさやかへ端的に告げる。

 

「悩みがあるならキュゥべえに相談したら?」

「おおっ、そっか。ありがとほむら」

「ほむら……?」

「ん? あれ? もしかして名前呼びは嫌とか?」

「そうじゃないけど、いきなりだったから……」

「いいじゃん。こうして秘密を知る仲になったんだしさ。そっちもあたしをさやかって呼んでいいから」

 

 あっけらかんと言い放つさやかにほむらは面食らうものの、何かを思い出して顔を伏せた。

 

「ほむらちゃん?」

「どうしたのよ?」

「な、何でもないわ。ええ、別に何でもないから。気にしないでくれていいわ、さ、さやか」

 

 その最後の呼びかけに緊張の色が見え、さやかとまどかは揃って顔を見合わせて笑みを浮かべた。

 彼女達は知らない。それは、本当に久しぶりに暁美ほむらが本来の顔を出した瞬間だったと。

 

 その頃、キュゥべえは見滝原市ではない場所にいた。そこを縄張りとする魔法少女と会うために。

 

「悪質な契約、ねぇ」

――そうなんだ。まぁ今頃自分達のやり方が出来なくなって困っているだろうけど、もしどこかで営業をかけているのを見かけたら教えて欲しい。

「お安い御用さ。あんたには世話になったしな」

――そんな事はないよ。僕はただ顧客の利益になって自分の利益にもなる方法を提示しただけさ。

 

 どこまでもビジネスマンのような口調に少女――佐倉杏子は苦笑しながら手にしたリンゴを齧った。

 

 キュゥべえと杏子の出会いは偶然だった。杏子の父は教会の神父だった。ただ、色々な事情からその布教が上手くいかず生活が困窮していたのだ。

 それをどうにかしたいと思っていた杏子がキュゥべえと出会い、契約する事で父の願いを叶えてやれ、尚且つ自分も人の役に立てると知り、魔法少女となったのである。

 

 そんなある日の事、杏子が願った事で自分の仕事が上手くいくようになった事が父親に発覚してしまい、それを発端として杏子の家庭は崩壊しかけた。困った杏子にキュゥべえはこう助言して佐倉家を救ってみせたのだ。

 

――契約を解除するんだ。そして、一旦家族の様子を確認した後で何とかなりそうなら再契約して欲しい。

 

 その結果杏子が契約した事自体がなかった事になり、その願い自体もなかった事になったため、杏子の父親は何で自分が苛立ちふさぎ込む寸前だったのかを忘れてしまった。

 それを見届け、杏子は再度キュゥべえと契約。今度の願いは家族みんなが不幸にならないようにというものへ切り替え、今も佐倉家は貧しいながらも明るく生活しているのだ。

 

「相変わらずだな、あんたは。ま、いいさ。ここの事は任せておきな。相変わらず魔女はお目にかかる事がないしね。あんた以外のキュゥべえがいたら追い払っておく」

――くれぐれも丁重に願うよ。彼らも彼らなりに与えられた仕事を果たそうとしてるんだ。

「あたしには関係ないね。魔法少女の役目は、誰かを困らせたり苦しめる奴を懲らしめる事、だろ?」

――それは君が勝手に……はぁ~、まぁいいよ。また様子を見に来る。その時はマミも連れてくるから。

「おう、マミさんにもよろしくな。近い内にあたしの方からも顔出しに行くからってよ」

――伝えておくよ。

 

 去っていくキュゥべえを見送りながら杏子は小さく笑みを浮かべる。

 

「ホント、相変わらずだよなあいつは。マミさん、かぁ。またケーキでも御馳走になるかな?」

 

 

 

 キュゥべえが見滝原市へ戻ると同時に、さやかから相談したい事があるとテレパシーを受ける。

 契約に関する相談と言われ、ならばとキュゥべえは急いでさやかの下へと向かう。そこはちょっとした公園であった。そこにあるベンチの一つに座ってさやかは空を眺めていた。

 

――お待たせ。

「おっ、きたきた。早速だけどさ、願いって誰かを助けるとかでもいい?」

 

 その切り出しにキュゥべえはつい先程まで会っていた少女の顔を思い出した。

 

――構わないよ。ただ、一つだけ過去の経験から助言をいいかな?

「助言?」

――僕の契約先の一人に君と同じような願いをした少女がいた。その少女は父親の願いを叶えたようなものでね。過程を話すと長くなるから要約すると、最初は上手くいった。途中で怪しくなった。最後は家庭が崩壊する寸前までいった。

 

 淡々とした口調だが、さやかにはかえってそれが恐ろしく聞こえた。キュゥべえは基本的に事務的だ。だからこそそんな出来事が珍しくないとさやかには聞こえたのだ。

 

「そ、それで?」

――辛うじて最悪一歩手前で彼女は契約を解除。その影響で父親は自分がどうして自殺しようとしていたか忘れ、また心を病んでいた原因も取り除かれた。そこで彼女は再度僕と契約。今度は自分も含めた家族全体の事を願った。今はそこで魔法少女として生活を続けているよ。

 

 キュゥべえの中ではリンゴを片手に歯を見せて笑う杏子の姿が浮かんでいた。

 

「……どうしてそれをあたしに?」

――他者のために願いを使うのは否定しない。ただ、それは僕の経験上いい結末になった事が極めて少ないんだ。さっきの彼女も最後は自分も含めた願いへ切り替えている。

「でも、それぐらいじゃないと恭介の腕は治らないかもしれないし……」

――腕?

「うん。実は……」

 

 さやかの口から語られた内容にキュゥべえは思考を巡らせる。ただ、それはいかに契約させるかではない。

 どうすればさやかの願いを叶えて、後に起こり得るだろう悲劇の可能性を取り除けるか、だ。

 

――分かった。じゃあ、まずはその彼の下へ行こう。そしてその場で契約するんだ。

「えっ!? い、いいの?」

――別に契約時に事情を知らない人間がいちゃいけないなんて決まりはないよ。それに、きっとその彼には僕の姿は見えない。なら、精々演出しようじゃないか。

「演出? 何を?」

 

 さやかの疑問へキュゥべえはなんてことないようにこう返した。

 

――魔法、だよ。

 

 

 

「恭介、入ってもいい?」

「さやか? うん、どうぞ」

 

 夕暮れの病室。その広めの個室に一人の少年がいた。彼はさやかの幼馴染であり初恋の相手である上条恭介である。

 その彼の傍へさやかは緊張の面持ちで近付いていく。キュゥべえもそんな彼女へ付き添う形で室内へ入り込んだ。

 

「それで、今日はどうしたの?」

「えっと、ね? 実は恭介へ伝えたい事があって」

「僕に?」

 

 そこでさやかは顔を真っ赤にする。

 

――無理だってやっぱり! あたしには出来ないっ!

――何を言ってるんだ。君達人間の世界じゃよくある話じゃないか。

――で、でもでもっ! やっぱり恥ずかしいって!

――じゃ、諦めるかい?

――っ?!

「さやか?」

 

 顔を真っ赤にしたまま、俯いたさやかに恭介が不思議そうな顔を向けた。柔らかい夕日がさやかを包む。

 そこで遂にさやかが顔を上げた。その目をきつく閉じたままで。

 

「あ、あたし恭介が好きなのっ!」

「……え?」

――そこだ。まず願いを言って。

「っ! 恭介の体が治ってまたバイオリンが弾けるようになって欲しいっ! だからっ!」

「へっ? っ?!」

 

 さやかが目を閉じたまま恭介へ抱き着く。それを片手しか動かせない恭介では受け止められない。だが、このままでは二人して倒れ込んでしまう。そう思った瞬間、恭介は無意識で両腕を動かしさやかの体を抱き止めたのだ。

 

 だが、さやかの狙いは抱き着く事ではなかった。重なり合う二人の唇と唇。感じる温もりと感触がさやかにも、そして恭介にも相手と繋がったという感覚を与えた。

 

――もう離れてもいいよ。

「っ!?」

「さ、さやか……」

 

 慌てて顔を離すさやかだが、そこで彼女は気付く。

 

「きょ、恭介、腕が……」

「え? ……う、動いてる?」

 

 しっかりとさやかを抱き止めている自分に恭介もそこで気付いて目を見開く。そこへキュゥべえが満を持して最後の指示を出した。

 

――愛の魔法。そう告げて誤魔化しておくんだ。僕は先に外で待ってるから。

――わ、分かった。

 

 素早く病室を後にするキュゥべえ。それを確認し、さやかは恭介へ顔を向け直す。

 

「これもあたしのあ、愛の魔法のなせるわざ、なぁ~んちゃって。あはは」

 

 おちゃらけて告げるさやかだったが、それに対する恭介の反応は言葉ではなかった。

 

「へっ?」

 

 更に力強く抱き締められたのである。思わず面食らうさやかへ、恭介は照れくさそうに笑みを浮かべた。

 

「ありがとうさやか。僕は、てっきり君に異性として見られてないと思ってた。僕も、あまりさやかを異性として見ないようにしてた。だけど、違ったんだね。こんなにも君は僕を想ってくれていた」

「恭介……」

「愛の魔法、か。そうかもしれない。これじゃ役割が逆だけどさ」

「……そんな事、ないよ。あたしには恭介が王子様なんだから」

「ありがとう。でも、このままじゃさすがに格好がつかないから。さやか、僕は君が好きだ。付き合って欲しい」

「っ!? ……うん」

「目を、閉じてくれる?」

 

 こうしてこの日一組のカップルが誕生した。奇跡も魔法もあるんだと、後年上条さやかは語る。その真相を知るのは彼女と、たった一匹の異星人営業マンだけ。




人知れず誰かを助ける。カッコイイけどそれはヒーローがやる事でありヒロインがやる事ではありません。
ヒロインはやはりその想いをはっきりと見せる方が幸せになり易いと、私は思います。
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