契約魔法少女まどか☆マギカ   作:名前はまだない

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叛逆の物語なんてなかった。ある意味これが原作への反逆かもしれません。


君の願いはエントロピーを凌駕した

「はじめまして。巴マミよ」

「鹿目まどかです」

「美樹さやかです」

「暁美ほむらよ」

 

 キュゥべえに案内され、まどか達は先輩魔法少女であるマミの住むマンションを訪れていた。勿論ほむらはここを知っていたが、未だ自身の秘密を打ち明ける事は出来ないでいた。

 

(このキュゥべえは私が知るインキュベーターの中ではまともだと思う。でも、私の能力などは教えない方がいい、と思う……)

 

 どうしても信じ切れない。打ち明けるとしてもそれはもう少し先だ。そう、ほむらにはどうしても拭いきれぬ心配事があった。それはワルプルギスの夜と呼ばれる魔女の事である。

 

 いくらキュゥべえが魔女を生み出さない契約を続けているとしても、ほむらはワルプルギスの夜は確実に近い確率で存在していると思っていたのだ。

 

――マミ、突然押しかけて悪いね。彼女達は魔法少女になったばかりなんだ。だから当然魔女と遭遇した事もないっと、ほむら、君は違ったね。

「ええ。私は魔女との交戦経験はあるわ」

「そうなの。じゃあ頼もしいわね。私も魔法少女になってそれなりになるけど、魔女と戦った事は数える程しかないの」

 

 さらりと返された言葉にほむらは内心でやはりと納得した。何せ今回はほむらが知る限り魔女の出現が少なすぎるのだ。

 一番顕著なのが上条恭介が入院していた病院に現れるはずだったお菓子の魔女。幾多ものループの中でマミが死んでしまう可能性が極めて高い相手だ。それが存在どころか発生さえしなかった。

 

(やはり今回は特殊か。まどかを救うには、このループで終わりにするぐらいの覚悟と頑張りが必要ね。何せ……)

「で、実は彼氏が出来まして」

「まぁ、それは良かったわね。キュゥべぇ、凄いじゃない」

――僕はただ契約しただけさ。結果を掴んだのはさやかのこれまでの行いがあればこそだよ。

 

 マミに何を願ったのか聞かれ、さやかがその結果恋人が出来た事を告げるのを見ながら、ほむらはこれまでに一度もなかった展開だと強く感じていた。

 これまで何度も繰り返した中でさやかが恭介と想いを通じ合わせる事はなかった訳ではない。ただ、それがこんな早くになる事はなかったのだ。

 

 しかもそれにキュゥべえが一役買っているなど余計に。

 

「それにしても、暁美さんの件は何とかしたいわ。キュゥべぇ、何か解除出来る方法はないの?」

――それについてはまだ検討中さ。何せほむらの契約は違法も違法のものなんだ。僕も実際にここまで酷いのは見た事がないよ。

「どう酷いのよ?」

――簡単にいえば、救いのない契約だね。願いを叶えたが最後、後はどうやっても魔女になるしかない。

「魔女になると元には戻れないの?」

――残念ながらね。昔はそれで良かったのさ。何せ得られるエネルギーは膨大だし、魔女となるまでの時間も短く済んだ。効率がもっとも良かったんだよ。でも、人類が文明を発展させていくにつれてそれは効率が落ちていったんだ。

 

 キュゥべえは語る。太古の頃は娯楽も少なく魔女も皆無に近かったため、放っておいても魔女になるしかなくそのソウルジェムの濁り方も早かった。

 だが、娯楽が生まれるとそれに夢中な内は濁りが遅くなり、魔女もある程度数が増えてしまって浄化も可能となってしまった事で、魔女への変態が迅速ではなくなってしまったのだと。

 

――しまいには極力人と関わらないでも生きていけるようになりつつある。正直これがとどめさ。君達人間のストレス、つまり濁りは対人関係こそ大きく生んでくれるからね。

「よ、ようするに生活形態が変化してきたから……」

「キュゥべえは契約方法を変えた……?」

――そうだよ。時代に合わせて契約内容も変えて行かないと。昔は合法でも今は違法なんて君達の世界でもある話だろ?

「そ、それはそうだけど……」

 

 正直聞かされるとぞっとする話だった。彼女達の前にいるキュゥべえは、本当の本当に効率重視の考えをしていると分かったために。

 だから、少しでも魔女化させた方が効率が良いとなれば契約内容を変えるのだろうと。

 

「それでも、どうしてここまで良心的にしたの?」

 

 やっとそれまで黙っていたほむらが口を開く。その問いかけにキュゥべえは待ってましたとばかりに胸を張った。

 

――さっきも言った通り、娯楽に夢中になると濁る速度は落ちる。つまり、それは正の感情を生むからだ。そして、僕は気付いたんだよ。なら、何もしないでも生まれる感情エネルギーを回収出来たらどうだろうって。

「え? 正の感情ってそんなに簡単に生まれてるの?」

 

 さやかの疑問はその場の全員のものだったらしく、誰もがキュゥべえを見つめていた。それにキュゥべえは不思議そうに小首を傾げる。

 

――そうだよ? 今日も生きてるってだけで人類は正の感情を生み出すのさ。まぁ、君達は自覚がないようだけど、指摘するなら天気がいいだけでもそれは生まれる。逆に天気が悪いだけでも逆の感情エネルギーが生まれる。

「そっか。朝起きてカーテン開けたら青空って気分いいもんね」

「なるほどね~。じゃ、あの時のあたしって」

――うん、とても多いエネルギーを生み出してくれたよ。僕としてはその方が魔法だ。まさかくちび。

「そおおおいえばっ! マミさんはどんな願い事したんですかっ!」

 

 キュゥべえの声を遮るような大声を出すさやかに周囲は目を見開いて驚くも、その表情などから何となく事情を察して苦笑する。

 なのでマミが仕方ないとばかりに息を吐いてさやかへ告げたのだ。

 

「死にたくない、かしら」

 

 ただ、それは軽い口調にそぐわない程重たいものだったが。

 

 マミは家族と車で外出中に事故に遭った。その結果、彼女は瀕死の状態となりこのままでは死ぬしかないと分かる程弱っていたのだ。

 誰か助けて。そう思うものの大声を出せるだけの力もなく、諦めかけたその時にマミはキュゥべえと出会った。

 

――まずは願いを。君の命を守るんだ。契約は後で解除出来るから。

 

 こうしてマミは一命を取り留める事が出来たのだ。そして救助された後、マミはキュゥべえから詳しい説明を受けて再契約をする事にしたのである。

 

「再契約って……」

「し、死んじゃうほどの大怪我だったんですよね?」

「そう。だから、キュゥべえは私へ細かに契約を解除させたの。救助が到着してから、ね」

「まさか……死なないように契約で生命維持を?」

 

 ほむらの言葉にマミは苦い顔をした。何せそれはマミにとっては辛い選択だったからだ。

 解除する度に全身を強い痛みや脱力感が襲う。それを何度も繰り返したのだ。だが、それも次第になくなっていき、病院へ到着する頃にはもう死の危険は去っていた。

 

「病室で目を覚ましたら、キュゥべえが枕元にいたわ。そして言われたの。僕と契約して魔法少女になってよって」

――マミには体験契約をしてもらったのさ。こっちとしてはかなりのエネルギーを回収させてもらったよ。何せ死を免れるんだ。その正の感情は凄いものがあったからね。

「おかげこっちは痛い辛いの繰り返しよ。でも、そのおかげで今があるんだけどね」

 

 苦笑しているマミを見てまどか達は若干呆気に取られていた。だが、そこでさやかがいち早くある事に気付く。

 

「あ、あの、それで結局願いは?」

「ああ、ごめんなさい。といってもこれは叶ったかどうかは私にも分からないの」

「「「え?」」」

 

 理解出来ない答えに三人が疑問符を浮かべた時だった。

 

――マミは、両親が天国へ行けるようにと願ったんだ。さすがにこればっかりは確認のしようがない。僕は契約をし直すべきだと言ったんだけど……。

「よく言うわ。契約が成立したなら、きっとこの願いは叶ったって事だ。そう言って貴方は私へ太鼓判を押してくれたじゃない」

――そうだとしか思えないから言ったまでさ。誰も確証があるとは言ってないよ。

「もうっ、キュゥべえったら。いいのよ、それでも」

 

 そこでマミは遠い目をして微笑んだ。

 

「大事なのは、そう思えるって事だもの」

――……わけがわからないよ。

 

 そんなキュゥべえの答えにまどかとさやかが苦笑し、マミは小さく笑う。ただ一人、ほむらだけがキュゥべえの答えに耳を疑っていた。

 

(違う。このキュゥべえは明らかに他の個体と違う。今の声には、微かな感情らしきものがあった。思い返してみれば私の事を聞いた時も珍しく声を大きくしていた。このインキュベーターは、キュゥべえは、信じてみてもいいかもしれない……)

 

 ほむらがキュゥべえへ自身の事を打ち明けるか否かを考え始めた時だった。キュゥべえが思い出したかのようにある名前を挙げたのだ。

 

――そうだ。マミ、杏子が近々君に会いに来ると言ってたよ。

 

 キュゥべえから出た名前にマミが少しだけ驚き、どこか嬉しそうに笑った。

 

「そう、佐倉さんがね」

「えっと、その人も魔法少女ですか?」

「ええ。キュゥべえに引き合わせてもらったの。そう長い期間じゃないけど一緒に過ごした相手よ。年齢は、たしか鹿目さん達と同じはずね」

「「そうなんだ……」」

 

 思わず声を揃えるまどかとさやかにマミが仲の良さを感じて微笑む。それをみながらほむらは思わず息を呑んだ。

 

(これは、もしかするとワルプルギス相手にまどかまで入れた五人で戦えるかもしれない。それなら、勝ち目は十分ある)

 

 ほむらの考えるループの終点。それはワルプルギスの夜を越える事。これまでのどのループでもそれを納得出来る形で越える事は叶わなかったが、今回はどのループにもなかった要素がある。

 それはキュゥべえの違いによる契約解除という逃げ道だ。更に今のまどか達はソウルジェムの濁りから解放されているため時間経過で魔女になる危険性もない。

 

――ほむら、少しいいかい?

 

 と、ほむらが打倒ワルプルギスのために考えを巡らせようとした時、彼女だけにキュゥべえの声が聞こえてきたのだ。ほむらが視線をそれとなくまどか達に向けても、彼女達はマミの話す杏子絡みの過去話に夢中でほむらをまったく見ていない。

 

――何?

――どうして君は杏子を知っているんだい?

 

 思わずほむらは息を呑んだ。キュゥべえの声は普段と同じ淡々としたもの。だが、その指摘は確固たる自信があるようにほむらには聞こえたのだ。

 

――どうしてそう思うの?

――簡単さ。まどかとさやかは杏子の事を聞いて反応を見せた。君だけが何も反応をしなかった。まるで杏子の事をある程度知っているかのように。

 

 失態を犯した。そうほむらは痛感した。ただ、いい機会だとも思ってはいた。これで自分の事を話す踏ん切りがついたと。

 

――……聞いて欲しい事があるの。

――何だい?

――実は……

 

 楽しげに話すまどか達を他所に、ほむらとキュゥべえの密談は始まる。キュゥべえはほむらの荒唐無稽にも近い話を遮る事なく聞き終え、たった一言でこう感想を述べた。

 

――君は、強いね。

――……信じてくれるの?

――信じるしかないじゃないか。もしこれが作り話だとすれば君は物書きになった方が良い。僕にも分かる程の才能だ。でも、これが君にとって事実だとすればそんな苦しく辛い事はないさ。やっと分かったよ。まどか達と一緒にいる君から、どうして多くの正のエネルギーが感じられるか。君にとって、今の状況がとても有り得ない程の幸せだからだ。

 

 そう言うとキュゥべえは一旦言葉を切ってほむらへ向き直る。

 

――君のその違法契約、何とか出来るかもしれない方法がある。

――本当に?

――ああ。そのためにはまどかの力を借りないといけない。

――まどかの……? もしかして……。

――そうだ。一度まどかに契約を解除してもらって、君の契約が解除されるように願ってもらう。そこでほむら、君と僕が再契約すればいいんだ。本来ならこれは出来ない事なんだけど、君の契約が別の時間軸、つまり僕らとは異なるインキュベーターと契約したのなら何とかなる。考え方で言えば他社の契約だ。同じ会社内での契約無効化は不可能でも他社からの乗り換え契約なら可能さ。

 

 その説明にほむらは思わず苦笑してしまった。何とも人間臭い説明だと思ったからだろう。だけど、今のほむらはキュゥべえの事を信じる事にした。

 何せこれまでのループで誰も最初から彼女の話を信じなかったのだ。それをキュゥべえだけは信じた。それもキュゥべえなりの根拠をもって。

 

 この後、キュゥべえからほむらの事を相談されたまどかは、ならばと契約を解除し再度願いを変えて契約。その願いはほむらの契約内容が解除可能になるようにというもの。

 それを受け、ほむらがソウルジェムを握り締めて強く解除を願うやソウルジェムが輝き出した。結果、ほむらは見事契約を解除する事に成功する。

 

――さてほむら、君は何を願うんだい?

「私は……全ての魔法少女の契約が目の前にいるキュゥべえと同じ条件になって欲しい」

――……それでいいんだね?

「ええ。出来ない?」

――…………大丈夫。君もまどか程じゃないけれど凄まじいエネルギーを秘めている。

 

 こうしてほむらは再度魔法少女となった。ちなみにその契約時に得られたエネルギーは、普通の魔法少女が魔女化した際の数倍に匹敵したとキュゥべえは語った。

 

――さて、僕としては思わぬ収穫で嬉しいところだけど、出来ればもう一人か二人契約相手を増やしたいんだ。

「なになに? キュゥべえにもノルマとかあるの?」

――うん、あるよ。そのためにも協力してくれないかな。君達の回りで契約してくれそうな相手に心当たりはないかい?

 

 その問いかけに真っ先に手を上げたのはさやか。友人の仁美の名を上げたのである。これにはほむらが驚きを浮かべた。もし彼女が魔法少女となればもうそれはほむらでさえ知らない展開の最たるものだったからだ。

 

「どう?」

――分かった。じゃあ、営業をかけてみるよ。もし他にも心当たりがあったら教えてくれるかい? どこまで願いが効果を及ぼしているか分からないから、念のため悪質契約をさせられる前に確保しておきたいんだ。

「分かったわ、私もそれとなく探ってみる」

「わ、私も頑張るよ」

――うん、頼んだよ。じゃ、僕はここで失礼するね。他の契約者の様子を見て回らないと。

「真面目ですなぁ」

「そう言う貴方はいいの? 彼氏、明日から登校でしょ」

「そ、それが?」

「早く帰って翌朝の待ち合わせをした方が良いわ。まどか、明日からは私が一緒に登校するから。さやかは彼と二人にさせてあげましょ」

「あ、うん」

「ちょ、ちょっとぉ!」

「うふふっ、羨ましいわね」

 

 背後から聞こえる賑やかな声から遠ざかるようにキュゥべえはその場を後にした。そして小さく胸の内に呟く。

 

――ワルプルギスの夜、か……。それが本当なら今のままじゃ危ないかもしれない……。




ほむら、悪質契約から解放される。その代償としてループの能力消失。ただし、魔法の系統は変わらず。
その理由は、今の時間を出来る事なら止めてしまいたいと思っているからです。
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