契約魔法少女まどか☆マギカ   作:名前はまだない

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これにて終わり。ここまで読んでいただきありがとうございました。


僕と契約して魔法少女になってよ

「あれがワルプルギスの夜……」

 

 そう呟くまどかの視線の先には、巨大な異形の存在がいた。

 

「まさか結界さえ存在しないなんて……」

「存在自体が災害だったか? 規格外もいいとこだぜ」

 

 マミと杏子の表情は呆れていた。何度か魔女と戦った事があるからこそ、二人にはワルプルギスの夜がどれだけ桁外れの存在かが分かっていた。

 

「にしても、よく抜け出してこられたわね」

「はい、しばらくお友達と一緒にいたいと言ったらあっさりと」

「信頼されているのね、志筑さん自身が」

 

 一方魔女と初戦闘のさやかと仁美は緊張感よりも興奮の方がやや上だった。良くも悪くも魔女の事を知らないのが良い方へ傾いているのだ。

 ほむらもそれを察して二人へ注意を促す事はしなかった。それをするのは今ではないと思って。

 

――すまないみんな。結局この六人で対処するしかなさそうだ。

 

 まどかの横で若干項垂れるキュゥべえ。そう、結局営業の甲斐もなく契約出来たのは仁美のみだったのだ。

 

 やはりそこには普段と違い魔女との戦いが約束されているというのも大きい。願いを叶える代償として恐ろしい相手と戦ってくれというのは、普通に考えれば妥当なものではあるのだが、そこはまだ子供を抜け切れない年頃の少女達だ。頷く事は出来なかったのだ。

 

「いいよ。キュゥべえが悪い訳じゃないもん」

「そうそう。それに、ほむらの話じゃこれまでのループ、だっけ。それじゃこんな状況には出来なかったんでしょ?」

「それでも勝った事があるなら、今回は絶対大丈夫よ」

「ま、そういうこった。正直魔女退治が初めての奴が三人ってのは不安だけど……」

「そこは経験者のお三方を頼りにさせて頂きますわ」

「任せておいて。私はもう何度もあいつと戦ってきた。とりあえず、最初は打ち合わせ通りに」

 

 どこまでも前向きな六人にキュゥべえは感謝するように頷き、心持ち元気な声でその背を送り出す。

 

――それじゃあ頼んだよ、みんな。

 

 その声に頷き、六人の少女が姿を変える。ピンク、ブルー、イエロー、レッド、ブラック、グリーン。それぞれのイメージカラーを身に纏い、六つの輝きが荒れ狂う空の下へ躍り出る。

 

 それに気付いて使い魔を放つ魔女だったが、それはある意味で悪手と言えた。

 

「よっとっ! はっ! 楽勝楽勝!」

「そうですわね。この程度でしたらいい準備運動ですわ」

「ふ、二人共凄いなぁ……はっ!」

 

 まだ戦闘経験のない三人へその力の使い方や体の反応などを実地で教える結末となったからである。

 

 一方、ほむら達ベテラン組はと言えば……

 

「ちっ! 使い魔の数が多すぎるだろ!」

「そうね……これを全て相手にしていたらきりがないわ」

「こうなったらパターンBをやりましょう」

「待ってましたっ! さやかっ! 出番だぜ!」

「鹿目さん、出番よっ!」

「りょ~かいっ!」

「はいっ!」

「志筑さん、私達も」

「ええ」

 

 一旦全員集合し、それぞれ二人組となる。射撃攻撃のまどかとマミが一番後方へ位置取り、その前にさやかと杏子が、一番前方にほむらと仁美と続く。

 その視線の先には使い魔とワルプルギスの夜がいた。使い魔達はこれ幸いと一斉に六人へ迫る。

 

「行くわよ鹿目さん」

「はい」

「「ティロ・デュエットっ!」」

 

 使い魔達へ放たれる矢と弾の雨。それらは集結して迫っていた使い魔達を一網打尽に貫いていく。

 

「よしっ! 遅れるんじゃねーぞ!」

「分かってるってのっ!」

 

 それを見届ける事なくさやかと杏子はその手にした武器を構え、その場から力強く跳び立った。

 

「「はあぁぁぁぁぁぁっ!」」

 

 守護者を失い、障害物もないワルプルギスの夜目掛け、二色の閃光がまるで嵐を斬り裂くように駆け抜けていく。

 その加速を乗せた強烈な一撃はワルプルギスの夜を大きく吹き飛ばして激しく地面へと叩き付ける。

 

「志筑さん、手を」

「はい」

 

 地面へ落下していくのを見て、ほむらが仁美と手を繋いで動き出す。魔法で身体能力を更に強化した仁美に引っ張られるようになりながら、ほむらはワルプルギスの夜へと接近していく。

 

「ここっ!」

 

 そしてワルプルギスの夜が動き出そうとした瞬間、魔法を使い時間を止める。その間にも二人は移動を続け、難なくワルプルギスの夜へ最接近を果たした。

 

「後は頼むわ」

「かしこまりました。では、全力で……せいっ!」

 

 仁美の打撃が叩き込まれた瞬間、ほむらが魔法を解除。起き上がろうとしていたワルプルギスの夜が更に地面へとめり込む様に沈んだ。

 

「志筑さん、体勢を立て直す暇を与えないで!」

「分かっていますわ! ええいっ!」

 

 両手を合わせて振り下ろすように殴り付ける仁美。その一撃に間違いなくワルプルギスの夜が恐怖したのをほむらは見た。

 ここが攻め時と理解したほむらは、仁美の肩へ手を置きながらワルプルギスの夜の動向を注視した。少しでも何か行動しそうなら、即座に魔法を使用し時間を止めて仁美の攻撃でそれを中断させるために。

 

 そうこうしている内に、そこへまどか達も集まってきたのは言うまでもない。そしてそれに気付いた時も、ワルプルギスの夜は恐怖するように声を出したのだ。

 

「うわぁ、すっごいねこれ……」

「地面が凄く陥没してる……」

「し、志筑さんの魔法って地味だけど凄いのね」

「あ、ああ。あたし、手合せとかしなくて良かった」

 

 口々に目の前の状況を見て呆れと驚きを浮かべるまどか達。仁美はそんな言葉が聞こえていないのか、今もワルプルギスの夜へ拳による打撃を与え続けていた。

 

「もう習い事ばかりで嫌にっ! なりますわぁっ! 自分で望んだ事ではぁ! ありますけどっ! もう少し何とか出来ませんのっ! これではぁ! お友達と遊ぶ事さえっ! 難しいですわっ!」

 

 最初こそ掛け声だったのが、気付けば愚痴や不満になっていて、しかもそれを言う方が攻撃力が上がっているという不思議。

 ほむらも既に仁美から手を離しており、どこか遠い目でワルプルギスの夜を見つめていた。

 

(まさか、志筑さんがここまでなんてね……。私のこれまでの苦労って、一体……)

 

 全てのループで成し得なかった仁美の魔法少女化。それがまさかここまでのジョーカーだったとは。そう思ってほむらは乾いた笑いを浮かべた。

 

「志筑さん、まどか達も来たようだしここは打ち合わせ通りに」

「こんな事なら一度ぐらい休んでっ! 上条君のお見舞いに行けば良かったですわっ! そうすればっ! 今頃私が初恋を実らせていたはずですのにぃぃぃぃっ!」

 

 哀と怒りと悔しさのマジカルハンマーパンチがワルプルギスの夜を地面に縫い付けるかの如く沈ませた。

 その光景に誰もが唖然とし、何も言えずただその場に立ち尽くす。ほむらでさえあまりの光景に絶句していた程だ。

 

「ふぅ……あら? 皆さん来ていたんですのね」

 

 とてもイイ笑顔で汗を拭うように腕を動かし、仁美は後ろの気配へ気付いたように振り向いた。

 

「ひ、仁美……あんた……そこまで」

「ご心配なく。今のでかなり発散出来ましたわ。ええ、お約束します。この力を人に向ける事はないと」

「…………恋敵は人じゃないとか言わないわよね?」

 

 そのさやかの言葉に仁美は応えず微笑むのみだった。それにさやかは背筋が凍った感覚を覚え、両腕で自身を抱き締めた。

 

「と、とにかく今のうちにトドメをさしましょう?」

「そ、そうだな。みんな、準備はいいか?」

「うん、大丈夫」

「抜かりはないわ」

「ま、任せなさいっ!」

「私も参りますわ」

 

 それぞれが魔力を集中させていく。弓矢に、剣に、大砲に、槍に、銃に、拳にと。それら六色の輝きが高まったところで彼女達は揃って頷く。

 

「「「「「「ティロ・フィナーレっ!」」」」」」

 

 声と共に放たれた攻撃は、綺麗に重なり神々しい光となってワルプルギスの夜を貫くと、そのまま空へと散って黒雲を見事に晴らして行く。

 全ては終わった。そう告げるような晴天に誰もが笑みを浮かべる。そこへキュゥべえがやってきた。

 

――みんな、お疲れ様。悪いんだけどもう一働きしてくれるかい?

「え? まだ魔女がいるの?」

「ちょっと勘弁してよ。意外と疲れたんだけど」

「正直あんな魔女を相手に疲れただけで済む方が凄いんだけど……」

「だよなぁ。で、一体相手は何だ?」

――うん、下手をしたらワルプルギスの夜より手強いかもしれない。とにかく僕についてきてくれ。

 

 先んじて動き出すキュゥべえを見て、ほむらがこの世の終わりのような顔をした。何せやっと最悪の結末を抜けたと思えば、自分の知らない展開と存在を告げられたのだ。もしほむらが以前の契約状態なら魔女化していた程の絶望感である。

 

「そんな魔女がいるわけが……」

「とにかく今はキュゥべえさんの後を追いませんと」

「そうだね。行こう、ほむらちゃん」

「……ええ」

 

 まどかに手を掴まれた事で意識を切り換え、ほむらは意を決して動き出した。

 

 そうやって移動する事数分後、六人が見たのは見事なスイーツバイキング会場だった。

 

「こ、これは?」

「み、見た事もないケーキやら何やらがいっぱいじゃねーか」

「すっご~い……」

 

 困惑するマミに目をキラキラさせる杏子とまどか。

 

「ちょっと、あ、あれってチョコフォンデュって奴でしょ? 初めて見たぁ」

「とても甘い匂いがしますわ」

 

 感激するさやかに漂う香りに頬を緩ませる仁美。

 

――どうやら気に入ってもらえたようだね。

「キュゥべえ、これは一体どういう事?」

 

 満足げに頷くキュゥべえと疑問符を浮かべるほむら。そこでやっとキュゥべえはネタばらしを行った。

 

 仁美が願った内容をやっと叶える事が出来たと。そう、ワルプルギスの夜との戦いが終わったらパーティーがしたいというものだ。

 

――僕もうっかりしててね。どういうパーティーがいいのか分からなかったけど、まどかが最初にケーキを願っただろ? それを考えてこういうものにしたんだ。女性は甘い物が好きと聞いているしね。

「ワルプルギスの夜よりも手強いというのは?」

――これだけの甘い物、君達全員で全て食べ切れるかい?

「……そういう事ね」

 

 そこでやっとほむらも理解したように苦笑する。キュゥべえなりのサプライズ演出だったのだろうと。正直心に良くなかったが、こうなれば許せない事もない。何せまどか達がもう楽しげにスイーツを皿へ取り始めていたからだ。

 

「ほむらちゃーん、早く取らないとなくなっちゃうよ~」

「今いくわ」

 

 こうして始まった青空の下でのお疲れ様会は大いに盛り上がり、ほむらも久しぶりに心の底から笑う事が出来た。

 美味しいお菓子に美味しい紅茶。何より大事な仲間であり友達と過ごす楽しい時間は、ほむらだけでなくまどか達の心にも強い幸せを感じさせた。

 

(これは凄いね。この瞬間だけで仁美の願いを叶えた以上の収穫だ。もしかすると、魔法少女同士を結び付けて友好関係にさせるのが、もっとも効率よくエネルギーを回収出来るかもしれない)

 

 六人の笑顔を見つめ、キュゥべえはそう思って頷くのだった……。

 

 

 

 それから時は流れ、まどか達は大人となりそれぞれに結婚して子を持つ親となった。今もまだあの六人の繋がりは消えず、ケンカをした事や衝突して揉めた事はあっても、その度に絆を強く深くしていたのである。

 

「あ~あ、あたし達も今年で三十かぁ」

 

 そう言ってため息を吐くのは、上条姓となったさやかである。ここは見滝原市の一角にある広めの一軒家。ほむらが夫や一人娘と暮らす4LDKの住宅であった。

 

「一々言うなって。ほら、あたしらよりも……さ」

「ちょ、ちょっと? 何でこっちを見るの?」

「マミさんは一つ年上だから、でしょうか?」

「あ、あはは……私達がなる前にマミさんだけ先になっちゃったもんね」

「いいじゃない。二十歳の時は散々それで私達にマウント取ったんですもの」

「あ、あれは別にそういうのじゃ……」

 

 慌てるマミに周囲の目は冷ややかだった。何せ酔っ払って絡んできたマミを相手にまどか達は苦労したのである。

 その時の事が原因で、未だに彼女達五人は酔い潰れるまで酒を飲む事が出来ないでいたのだから。

 

 ただ、これを言うとマミは”反面教師って事ね”と大きな胸を張るので誰も言う事はしないが。

 

「それにしても、こうして子供を持ってもみんなで集まれるっていいよな」

 

 杏子の噛み締めるような言葉に全員が深く頷いた。どこも家族が理解と協力をしてくれているからだ。まぁ、さすがにかつて魔法少女をやっていましたとは話せるはずもなく、この集まりは中学時代から続く一種のサークル仲間みたいなものと誤魔化しているが。

 

「でも、驚きだわ。今もキュゥべえって営業してるんでしょ?」

「あれ、さやかちゃんがどうしてそれ知ってるの?」

「もしかしてさやかさんのところにも来たんですか?」

「ん。でも、仁美のとこも来たんだ?」

「ふふっ、そう言えばさやかさんのところも物心つく年齢だものね」

「成程なぁ。今四歳だっけ」

「うん。ほむらのとこは?」

「まだ来ていないけど話だけは聞いてるわ。こっちにも営業したいみたい」

 

 それぞれの表情が揃って苦笑に変わる。そう、彼女達が最初に産んだ子は揃って娘だったのだ。そしてその年齢が五歳から四歳となり、自分の意思と考えを言えるようになってきた。

 そこへキュゥべえが営業をかけているのだ。魔法少女同士が繋がりを持ちより多くのエネルギーを生み出すように、母娘でなってもらった場合も似たように大きな正のエネルギーを生み出すのではないか、と。

 

――やぁ、みんな揃っているね。

 

 そこへ現れるキュゥべえ。その顔を見るなり六人が揃って微笑む。何故ならその片耳には折り紙で作られたリボンがあったのだ。

 

「キュゥべえ、それって優子が作ったやつ?」

――そうだよ。僕と同じ個体が沢山いると言ったら、どれが僕か分かるようにってね。

「あ~……本当にやったんだぁ」

 

 優子とはまどかの娘である。それを聞いてまどかは楽しげに笑う。ただ、冷静にキュゥべえへ仁美が問いかけた。

 

「あの、それを付けていると周囲には怪現象に見えてしまうのでは?」

――心配いらないよ。普段はしまっておくからね。

 

 背中を見せてそこを開けるキュゥべえに誰もが納得して微笑んだ。分かったのだ。きっと他の子達もそれぞれでキュゥべえの識別用に何かを与える事が。

 ただ、それを言う事はしない。と、そこへほむらの娘であるかりんが顔を出した。

 

「おかーさんっ! ただいまっ!」

「おかえりなさい。お父さんは?」

「くるまのとこ。そろそろキレイにしないとな~って」

「そう」

 

 ほむらに似ているが、よく笑い元気な活発系であるかりんに誰もが小さく笑う。と、そのくりっとした目がキュゥべえを捉えた。

 

「あれ? こんなぬいぐるみ、あったっけ?」

「あっ、これは……」

 

 物珍しげにキュゥべえへ近付くかりん。と、そこで彼女の頭の中へ声が聞こえた。

 

――やぁ、はじめまして。僕の名はキュゥべえ。

「? きゅ~べ~?」

――そうだよ。かりん、もし良かったらお願いがあるんだけどいいかい?

「なぁに?」

 

 無邪気に話すかりんを見つめる六人の母親たちの目はどこか優しい。自分達よりもきっと娘達はもっと強く深い絆で結ばれるのだろうと思って。

 

――僕と契約して魔法少女になってよ。

 

 これは、幾多もの悲劇を繰り返した少女が行きついた可能性。救いのない物語へ紛れ込んだ、たった一つにして最大のイレギュラー。

 それが紡いだ物語には山場もなければ感動もない。ただ、それこそが少女の望みだった。だからこそ彼女は微笑む。天使のような自分の娘を見つめて。

 

 それは、さながら悪夢から解放された女神のような微笑みだった……。




まどマギの良さを何もかもなくして、ただキュゥべえが良い奴だったらを貫いた結果がこれです。
僅かでも楽しんでいただけた方がいたようで嬉しかったです。それに、まさかの感想や評価をもらえて喜んでいました。

もし良かったら、最後に一言でも感想頂けるとこれに勝る幸せはありません。
それでは、これで失礼します。
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