TS聖杯戦争   作:nyasu

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女子は見かけによらず恋バナ好きだよね

そこは地獄だった。

全てが火の海に包まれたその場所は、人の営みというものが存在しない。

暗雲は広がり、月の光すら届かない。

目に映る空には、黒い太陽が映っていた。

それは過去の記憶、摩耗しかけた追憶の彼方にある原風景だ。

 

 

 

遠慮がちに扉を叩く音が聞こえる。

徐々にそれは大きくなり、ゆっくりと戸惑い混じりに蔵の扉が開かれた。

 

「先輩、先輩」

「さ……くら?」

「朝ですよ先輩、起きて下さい」

 

えっと、と自分の最後の記憶が浮かび上がる。

そうだ、私は修行の途中で眠くなってしまったのだ。

集中力が足りない修行不足を痛感する。

と、同時にスカートの端を慌てて整え、悪くもないのに睨みつけるように起こしに来てくれた後輩を見る。

 

「見た?」

「何をですか先輩、朝ごはんが出来てます。後は僕が片付けておきますよ」

「えっ、あっ、うん。君は、そのままでいてくれ」

「うん?寝ぼけてるんですか」

 

年頃の男性に端ない姿を見せてしまったという羞恥に顔が赤くなる。

あと、そういう目で見てないのに過剰に反応してしまったことや、そういう機敏に疎い後輩の純真さに自分が汚れているようだ。

あれもこれも、クラスメイトが悪い。

そ、そういう話とか恋バナとかしてくるから。

 

 

 

着替えを終えると、居間には藤兄が新聞を読んで座っていた。

桜くんが料理を追えて配膳までしてくれていて、家庭的な男子ってモテそうとか思ってしまう。

美味しそうなとろろご飯に醤油を掛け、口に含むと暴力的な甘さが襲ってきた。

 

「くっ、この味、オイスター!?これ、ソースだよ!ソース!」

「フフフ、早起きしてラベルを変えておいたのだ!」

「朝から何考えてるの、今年で25なのに結婚できないのはそういう子供っぽいところだぞ!」

「お前のおかげで遅刻しそうだ、ご馳走様。じゃあ俺は行くぜ」

「本当に何がしたかったんだ、馬鹿だろアンタ!」

 

文句もなんのその、掻き込むようにして食事を追えた藤兄は玄関まで掛けるとバイクに飛び乗った。

ふ、不覚にもカッコいいじゃないか、どうしてこれでモテないのか、それは内面が悪い気がする。

藤兄はヘルメットを被りながら、此方を振り返る。

 

「それでは先に行くからな。士(つかさ)も二度寝も程々にな、あと避妊はちゃんとしろよ」

「さ、最悪!信じられない、ば、馬鹿じゃないの!」

「先輩……」

「桜くんも照れないで、意識しちゃうから忘れて!クソ、このセクハラ教師!」

「じゃあな、朝ごはん今日も美味かったぜ!」

 

嵐のように去っていく藤兄、どうしていつもご飯を食べていくのか。

まるで居候じゃないか、というか聖職者が年頃の女の子の家に通うってどうなの?犯罪だと思います。

 

桜くんが食器を洗いながら話し掛けてくる。

私もやろうとしたが、手が荒れるからと断固拒否されてしまった。

くっ、女子力で負けてやがるぞ私ってば。

 

「先輩、何か昨日したんですか?」

「あー、うん、昔みたいにあだ名で呼んだ」

「あー、ダメですね。藤村先生、それ気にしてますからね。先輩に呼ばれるの好きじゃないんですから」

 

そう言われ、居心地が悪くなった私は丁度テレビに映った新都でのガス漏れ事件を話題に出した。

急な話題転換だが、桜くんは天然なので不自然に思ったりしないだろう。

 

「またガス漏れだって、大変だね。物騒だから気を付けないとね」

「それには心配及びません。えぇ、何故なら元栓を締めてダブルチェックしてますから、安心です」

「いや、そういう話ではない」

 

ほらね、やっぱり彼は天然である。

 

 

 

一緒に登校して学校まで辿り着く。

夕飯は何が食べたいだとか、昨日見たドラマの話とか、取り留めのない、それこそ記憶にも引っ掛からないような他愛のない話をしながら歩いていたらあっという間に着いてしまった。

学校までの道行きは、桜くんと登校している時は楽し過ぎて、こんな時間がずっと続けばいいのにと思ってしまう。

桜くんは退屈に感じてしまうかも知れないけど、私にとって平和な日常は掛け替えのない時間だ。

あの地獄を知っている私からしたら、この平和な日常は本当に大切なのだ。

ちょっとセンチメンタルな気分になりながら登校、そう言えば生徒会室に呼ばれていたな、なんて思っていると桜くんが遠慮がちに話し掛けてくる。

 

「先輩……部活に、顔出しませんか?」

「あー、うん、ごめん」

「そうですか、すいません余計なことを言いました」

「やー、違くて。生徒会室に用があるからいけないんだ。うん、また今度ね」

 

気落ちした桜くんの顔に罪悪感を抱く。

傷付けないように言葉を選んだのだが、本当に今回は用があるからいけないのだ。

嘘だとか思われてそうだと思ったが、桜くんは此方を信頼しているのか、また今度ですねと嬉しそうだ。

うぅ、尊い……汚れを知らない後輩の純真な心が私を追い詰める。

 

「それじゃあ先輩、夕飯楽しみにしてくださいね!」

「ちょ、声大きい!」

 

手を降って去っていく桜くんに、私は小さく手を降った。

 

 

 

生徒会室では、壊れたストーブがあった。

眼鏡に三編み、巨乳の生徒会長様が申し訳無さそうに手を合わせて立っている。

正論しか言わない我らが生徒会長、成ちゃんだ。因みに寺生まれを弄るとめっちゃ怒る。

 

「ごめん!機械関係って、えみやんしか頼めないの」

「良いよ良いよ、適材適所だよ~」

「やった。少ない予算配分で直せないのよ、これで寒い冬を越せるわ」

 

そう言って喜ぶ成ちゃんに、私も自然と頬が緩む。

ちゃちゃっと解析して異常を見つければ、直せるだろうなと簡単に推察していた。

じーっとストーブを見ていたら、いつの間にかニマニマした顔で顔を覗く成ちゃんがいた。

うっ、嫌な予感。

 

「聞いたよ、朝からラブラブだってね」

「もう~やめてよ成ちゃん。そんなんじゃないから、誰から聞いたの?」

「良いじゃない、可愛い後輩に熱烈アプローチ受けて。良いよね、私も可愛い男の子に慕われてみたいわぁ」

「桜くんはそんなんじゃないから、もう怒るよ?」

「私は別に間桐とは言ってないんだけど、おやおや?」

「もう!集中したいから出ていって、ほら出ていって!」

「照れるな照れるな、はいはい邪魔はしませんよっと」

「すぐ終わるから待っててよ、約束だよ」

 

はぁ、と軽くため息を吐いてストーブを解析する。

体のいい言い訳があって、魔術の秘匿は出来たけれど、なんだか方法を間違えた気がする。

本当に、桜くんはそういう関係じゃないのに、まったくもう。

それに、私は、いやいや忘れて集中しよう。

魔術を使ってストーブの中を調べていく。

あれをどうすれば直せるか、パーツをどう弄るかイメージしながら、異常部位を特定、対処法を思考する。

電線は絶縁テープで直して、そしたら動きそうかな。

 

「げっ、遠坂」

「おう、生徒会長。朝から見回りか?」

 

不意に、扉越しに成ちゃんの声が聞こえた。

続くように良く響く低い声、心臓が驚いたように一瞬だけ大きく動いた気がした。

なんでこんな早朝にと少しテンパる。

学園のプリンスが、今、廊下に居る。

どうする、このまま立ち去るまで待つか、それとも……。

 

「よし、女は度胸よ。別に告白するわけじゃないし、そうよ挨拶するのよ、うん」

 

理論武装完了、ストーブを持って廊下に続く扉を開く。

 

「成ちゃん終わったよ~」

「ごめん、頼んだの私なのに任せっぱなしで、許して」

 

扉を開けたことで成ちゃんが振り向き、キョトンとした遠坂さんの顔が目に入る。

一瞬だったが顔を見た私と目があったような気がしてすぐさま視線を逸した。

やばい、顔をマジマジと見ていたのがバレてたかもしれない。

変なやつだと思われてないだろうか。

焦る思考とバラバラに、口は自然と成ちゃんと会話する。

挨拶しようとしているけど、会話に逃げたのだ。

 

「もう、別にいいけど時間無いよ。次はどこいくの」

「えっと、視聴覚室で調子悪いのがあるって一応見て欲しいかなって」

「じゃあ、行くだけ行くか~」

 

興味を失ったのか通り過ぎるように去っていく遠坂さん。

その姿に、少しの安堵とちょっぴり寂しさを覚える。

うぅ、挨拶しようと思ったのに、いやまだ間に合うかな。

 

「朝、早いんですね……遠坂さん」

 

自分が出したとは思えないくらい、その声は小さかった。

やっぱ、今のなし!

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