嬉し恥ずかしなドキドキイベントを乗り越えた私は疲れながらも教室に入る。
教室にはみんながいて、ギリギリの時間だなと思っていた。
すると、そんな私達を見て、わざわざ席を立って話し掛けてくる人物がいた。
「朝から騒々しくってよ、衛宮さん」
「あっ、慎ちゃん」
「ままま、慎ちゃん言うな!」
「ごめんね」
その人物は綺麗な艶のある黒髪のロングの女の子。
毛先を少しだけゆるふわカールにしていてオシャレに余念がない、クラスのマドンナ慎ちゃんだった。
いいなぁ、私も日本人らしい黒髪ってちょっと憧れる。
慎ちゃんは不器用な女の子で、誤解されがちな所がある。
今だって余裕をもって行動したほうが良いよと言いたいのだ、多分。
ただ、誤解して横で成ちゃんがすごい顔になったので困りものだ、破ァと掌底をお見舞いしそうでヒヤヒヤだ。
慎ちゃんは居心地悪そうに髪を弄りながら、チラチラ此方を見て何か言いたそうにする。
笑顔で言葉を待っていると、視線に気付いたのか遅れながら取り繕った。
「部活をやめてからどうしてるのかしらと思ったら、生徒会長と随分と仲が良いんですのね。そういうの、太鼓持ちっていうんですよ、少しは周りの目とか気にしたら如何かしら?」
「ちょっと!」
まぁまぁ、と成ちゃんを抑える。
別に悪口を言ってるつもりはないのだ、本人的にはね。
「慎ちゃんも何かあったら頼ってくれて良いんだよ。そういえば、弦張りとか弓の直し、慎ちゃんは苦手だったでしょ?」
「よ、余計なお世話よ!ちゃんと出来るんだから、もう!貴方は部外者なんだから、道場に近づかないでよ!」
「ふざけてるわ、どうして今の流れから道場に来るなって話になるのよ。自分から追い出したのに」
「分かってないなぁ、あれが慎ちゃんの可愛いとこなんだよ。威嚇する子猫みたいでしょ、ツンデレって奴ですよ」
「ツンデレ、そんなものかしら」
「そんなもので~す。ほら、早く座ろう、藤村先生が来ますよっと」
そう言って成ちゃんに着席を促すと、廊下を走る藤村先生が教室に入ってきた。
「セーフだぜ!おはよう出席取るぞ!よし全員いるな、出席確認は終わりだ!」
「先生、ちゃんとしてください」
「大丈夫だ、問題ない」
藤兄、そういうとこだぞ。仕事はちゃんとして下さい。
淡々と、いつもの時間が流れていく。
授業を行って、あっという間に昼休みがやってきた。
人に宿題を教えたり、ノートを貸したり、先生の授業の手伝いとか意外とやることばっかりで大忙し。
成ちゃんに誘われて、生徒会室でお昼を食べる事になったけど、やることが多くて食事を摂る暇もない。
「ねぇ、ご飯食べなよ。昼休み、終わるよ」
「うーん、もうちょっと」
「なんで家庭科の宿題やってるの、人がいいのも勝手だけど、それってやる必要ある?」
「でも、どうしても出来ないってお願いされちゃったから」
「そういう押しに弱いの良くないよ。もうちょっと人を選びなよ、えみやん来る人拒まずって感じだよ」
また始まったと、成ちゃんの小言にすこしだけうんざりする。
私だってちゃんと人を選んでるよ、知り合いから頼まれてるからやってあげてるだけだしね。
「私、そんな節操なしじゃないも~ん」
「心無い奴らに良いようにされてるのよ、たまにはガツンと断ってやるべきよ!」
「何よ、人助けなんだから良いじゃない」
「何事も限度があるわよ。そのまま行くと体壊すよ。それに、アンタ噂になってるんだから頼めばエッチなことさせてくれそうって」
「待て、その話詳しく!誰がそんな事言ってるの、どこまで広まってるの!?」
どういうこと、そんな淫乱なイメージが広まってるってどういうこと!
待て待て、貞操観念ちゃんとしっかりしてますよ、私ってば。
しかし、成ちゃんの疑いの眼差しはすごい。
成ちゃんは椅子に対して反対に座って此方を見てくる。
「壁ドンしてから、顎クイして、そしてお願いどうしてもって言われたら、アンタ断れないでしょ?」
「確定!いや、いやいや、断るし、ちゃんと断れるから!」
「え~本当でござるかぁ?クラスメイトならまだしも、例えば仲のいい後輩とかに迫られても同じこと言えますかぁ?」
身振り手振りで全力で否定している私に、急に変なことを言ってくる。
えっ、桜くんと思わず想像してしまった。
夕日の指す空き教室、黒板を消すのを何故か一緒に手伝ってる桜くん。
そんな桜くんが、不意に肩を掴んで顔が見えるように無理矢理に態勢を変えてくる。
戸惑う私、そんな私の横に左腕がドン!右腕がドン!黒板をバックに逃げ道を防がれてしまい、戸惑いながら視線を合わせる私。
『先輩、僕……どうしても、先輩と……』
そう言って、ゆっくり顔に指が添えられる。
まるでガラス細工のような繊細な物を触るような優しい手付きで力を加えられ、自然と顔が上向きになる。
その段階になって、今まで幼く見えていた後輩が自分より身長が高い男だと意識してしまい、照れてしまう。
『お願いします、一度だけでいいんです。僕だけを……俺だけを見て下さい』
ゆっくりと近づいてくる顔、一人称が変わって急に男らしさを増す顔立ち。
あっ、ダメ、誰か来ちゃうし、初めてはこんな場所じゃなくて、いやいや違う違う!
「い……言えます!ダメって言えます!」
「今の間は?ねぇ、今の間は何?」
「ないです!はぁ、そんなんないし!ちょっと、何言ってるか分からないんですけど!」
「まぁ、落ち着けよ。えみやん、顔真っ赤だぞ」
「う、うるさい!もう、成ちゃんの馬鹿」
会話終了の合図のように、昼休みを終えるチャイムが鳴った。
あっ、お昼食べそこねた。
ボール磨きとか、清掃作業とか、グラウンドの整備とか、みんなの頼みを聞いていたら真っ暗になっていた。
もう真っ暗、冬が到来したなと時間の進み具合に感慨深くなる。
女の夜道は危険だし、急いで帰ろう。
まぁ、暴漢とか露出狂が出ても魔術師ですし怖くないけどね、来るなら来いってんだ。
忌々しい急傾斜地の道を走っていると、坂の上に白い何かが見えた。
あっ、外国の人?綺麗な、男の子だ。すごい、肌も髪も雪みたいに白い。
ちょっと、でも、血の気のないというか作り物めいて怖いかも、お人形さんみたいな姿だし。
そんな事を思いながら一瞥して、通り過ぎる。
「早くしないと、死んじゃうよ。お姉ちゃん」
「えっ?」
今、私の事を呼んだのかと振り返る。
しかし、そこには人影は一切なく、さっきの白い子供もいない。
「うわっ、うわわわわ、お化けだぁぁぁ!」
悲鳴を上げて全力ダッシュした。
お化けって、物理無効だから怖いじゃん!
ダッシュで変えると、玄関に仁王立ちする男がいた。
っていうか、藤兄であった。
「おい、こんなときくらい早く帰ってこい。年頃の娘が六時までどこをほっつき歩いてる」
「まだ夕方じゃない、真っ暗だけど」
「もういい、飯にするぞ。早く上がれ」
「分かっ……いや、ウチだし。何、自分の家みたいに言ってるの?家主なの、違うよね」
私の言葉を無視して藤兄を去っていく。
おい、話聞けよ、おい。
諦めて居間まで行くと、人数分の料理を桜くんが配膳していた。
「あっ、おかえりなさい先輩」
「…………」
「えっ、なんで無視するんですか!?」
「な、なんでも無い。ただいま」
ごめん、ちょっと、思い出して恥ずかしくなったの、放っといて。
全員が着席して、夕食を取り始めた。
今日は唐揚げか、隠し味はなんだろうな。
「おい、聞いてるのか?お前に何か合ったら、切嗣さんに申し訳ないだろうが。人助けも程々にしろよ」
「はいはい」
「あの……先輩って昔かそうなんですか?」
「おぉ?あー、そうだな。昔からコイツは困った奴を放っておけなくてな。子供の頃の夢なんか、魔法少女だからな」
「それは普段からダメな藤兄を見て、私がなんとかしなきゃって子供ながらに思ったからでしょうよ。悔しかったら彼女の一人でも作って自立しろ、女子高生に集るな」
ジト目で睨むと、芝居がかった動きで泣き真似をして、ご飯をおかわりしていた。
おい、そういうとこだぞ大河、話聞けよ。