学校に登校すると、ズキリと痛みが走る。
変な気持ち悪さに、一瞬世界がズレたように感じた。
しかし、すぐさま元通りになって一時的な変調かと判断する。
「生理かな、私」
ちょっと早めに生理が来たのかなと、憂鬱になった。
放課後の生徒会室、成ちゃんがお礼を言ってくる。
「ありがとう、試験前に備品の修理間に合ったよ~」
「困った時はお互い様だよ、じゃあね」
「気を付けてね」
今日は早く帰ろうと、成ちゃんと別れて下校する。
すると、廊下の端から笑い声が聞こえてきた。
あっ、慎ちゃんだ。
案の定、廊下の影から慎ちゃんが出てくる。
何故か、その周りに男子を侍らしてだ。
「はぁ……慎ちゃん……」
「あら、まだ学校にいたの衛宮さん?」
「慎ちゃん、少し良い?」
「少し?悪いですけど見ての通り忙しいですのよ」
「待ってよ慎ちゃん、失恋の事なんだけど」
私が一言、口にすると慎ちゃんがキッと睨みつけてくる。
あっ、地雷踏んだかも。いやいや、でも言っとかないと。
「何の事かしら?」
「えっと、ショックなのは分かるけどさ……そういう時に寄ってくる男子って下心あると思うしやめたほうが良いよ」
「なっ、違いますわよ!衛宮さん、貴方って人は本当に目障りですわね!仮にそうだとして、私の勝手でしょ!」
「いやでも、そういう事をすると周りの目がさ、悪い意味で目立つし」
「何ですか、私が傷心だからってコロっと落ちるような女とでも言うつもり!」
「いや、そうは言わないけど」
チラッと慎ちゃんの後ろを見ると、ちょっと引いてる男子の姿が見える。
うん、なんか、ごめんね。
「人を無闇に疑うとか信じられない、謝って!」
「うっ、ご、ごめんって……」
「はぁ……本当にそう思ってる?悪いと思ってるなら、形にして欲しいわね。そうだ、ちょうどウチの弓道場が散らかってるのよね」
フフンと意地悪そうに慎ちゃんがマウントを取ってくる。
まぁ、片付けで気が済むならやってあげるけどさ。
でも聞こえてるよ、後ろで男子達が思わずって感じで言った言葉。
「それって先輩が転んで散らかしたんじゃ」
「そうですよ、他の人が散らかしたみたいに思われるじゃないですか」
「い、良いの!それに、店が閉まっちゃうし、良いったら良いの!もう行きますわよ!ちゃんと、やっておきなさいよ、フンだ!」
「あっ待ってくださいよ!?すいません、じゃあ後はよろしくです!」
はぁ、慎ちゃんは仕方ないな。
走り去る後輩くん達に手を降って、私は弓道場に向かった。
代わり映えのしない弓道場を懐かしみながら掃除をしていたら、いつの間にか日が暮れてしまった。
「よし……うん?」
キンキン、カンカン、っとまるで何かと何かがぶつかるような物音がした。
止せばいいのに、引き寄せられるように私は弓道場の扉を開いて外に出る。
そこには、二人の女性が跳ね回る姿があった。
煌めく何かをお互いにぶつけ合う、あれは剣?えっ、あっちは槍?
「誰、あれ……それに、凶器……」
思わず後退る、それが良くなかった。
「誰!?」
人影が振り向く、ヤバい、何がヤバいか分からないけど、気づかれた。
急いで逃げる、どこに?
分からない、分からないけど走って逃げるんだ。
無我夢中で走っていく、後ろから何かがおってくるそんな気がして急いで走る。
いつの間にか、場所は廊下になっていた。
「はぁはぁ……何、不審者?何なのよ」
『おい、そこのお前』
「えっ?」
胸が急に苦し……熱い?
違う、痛い、痛い痛い痛い!?
何、何が、槍、赤い槍が胸から生えてる!?
「あっ……あぅ……」
世界が横に流れていく、違う私が倒れたんだ。
誰、そこにいるのは誰なの?
「可哀想なお嬢ちゃん、運がなかったわね。見られてからには死んで頂戴、運も力もない自分の人生を呪って逝きなさい」
「うっ……」
「はぁ、嫌な仕事をさせてくれる。えぇ、分かってるわよ。この様で英雄とは笑わせる、本当に嫌なマスターだわ」
女の人?私、死んじゃうのかな。
あぁ、やだなぁ、こんなことなら……。
「心臓をやられ……助から……」
誰?誰か来たの?
「よりに……お前……どんな顔で……」
ごめん、何言ってるか分からないや。
「まだ、手はある……」
赤い……ペンダント……綺麗だなぁ。
「ッ!?かはッ……ハァハァ……うぐっ……」
痛っ、くない?えっ、痛みが、えっ?
どこここ?学校だ、待って、何が起きたんだろ?
とにかく逃げなきゃ、どこに、家だ。
あっ、ペンダント……。
朦朧とする意識の中、何とか家まで帰宅する。
玄関に入るな否や倒れるように床に転がった。
「なんだったの、あの赤い女と青い女。何なのアレ、マトモじゃない。殺されかけた、いや殺されたんだ私、でも生きてる。このペンダントの誰かが助けてくれたんだ」
凛、と鈴の音がした。
これは、侵入者を知らせる音だ!
視界が歪む、浮き出るように人影が天井に生まれてくる。
驚く身体は感情を無視して転がって逃げる
「ハッ、見なければ楽に死ねたの物を……」
「青い、女」
「いちにちに同じ人間を二度も殺すなんてね」
「トレース、オン!」
手に持ったのは靴べらであった。
靴べらを強化して武器にする。
「変わった芸風ですこと、今度こそ迷わないことね」
「構成材質補強!」
赤い槍が振るわれる。
右っ、痛っ……なんてパワー!でも、壊れずに持ってくれてる。
「ほぉ、魔力を感じる。心臓を穿たれて動いてるのはそういう事か、楽しめそうじゃない」
ヤバい、ヤバイヤバイヤバイ、逃げなきゃ!
「キャァァァ!?」
「どこに逃げるというの、戦いなさい!それでも女なの!」
流れるように綺麗な足がお腹に向かって入ってくる。
くっ、痛い、苦しい。
「機会をあげたのに、女ならちゃんとしなさいよ!」
逃げなきゃ、あそこは土蔵、扉を閉めれば少しは……。
這々の体で土蔵に逃げ込む。
後は扉を、鋭く赤い槍が突き進んできた。
咄嗟に靴べらを青い女に投げ付ける。
槍の穂先が一瞬躊躇い、そして引くようにして靴べらを粉砕した。
「今のは驚いたわ。でも、それだけに残念。機転は効くけど動きは素人、魔術も未熟、筋は良くても……もしかして七人目だったのかしら?」
「巫山戯るな、助けてもらったんだ!私は、簡単には死ねない!生きて、生きて生きて生きて、義務を果たすんだ!死んだら義務を果たせない、こんなところで殺されてたまるか!意味もなく人を殺す、お前のような奴に!」
「七人目のサーヴァントだと!?」
土蔵が輝く光に包まれた。
爆発するような風圧、一瞬見えた黄金の煌めき、眩しさに目を覆いながら、ゆっくりと周囲を見る。
人がいた、とても綺麗な、男の人だ。
金髪ブロンドに騎士鎧を纏った貴公子、王子様がそこにはいた。
「問おう、君が私のマスターか?」
「マス……ター……」
「僕はセイバー。君を守る、サーヴァントだ。これより我が剣は貴方と共にあり、運命もまた私と共にある。契約は結ばれた、今、君を救ってみせる」
「ちょ、契約って……」
飛び出すように貴公子は土蔵から移動した。
戦うために、青い女と飛び跳ねる。
あれは、何かを握っている。
歪んで見えないが、何かを掴んでそれを振るっている。
見えるのは青い剣閃、それが恐るべき速さで振るわれる。
花火のように火花が散って、辛うじて剣と槍がぶつかるのが分かる。
貴公子は、まるでコマ送りするように突如前にスライド移動する、化け物地味た挙動をした。
しかし、青い女も負けじと動き回る。
左右に動く、その姿はブレて二人、いや三人に見える。
いやあれは残像だ。
「くっ!」
「ハァァァァ!」
「ッ!くッ!ハァァァ!」
貴公子の動きが更に加速する。
青い女が、後ろに下がり今までと違って表情を曇らせていた。
分かんないけど、なんか押してる。
思い一撃、クルクルとダンスするように貴公子が舞うと、いつの間にか片膝を着いて槍を使って防いでいる青い女がいた。
暫くの拮抗、なんとか振り払った形で貴公子が弾き飛ばされる。
そして、両者が距離を取った。
「卑怯者め、自らの武器を隠すとは何事か!」
「すまないレディ、気を悪くさせるつもりはなかったんだ。ただここは戦場、手段を選べない場所だと理解して欲しい」
「では一つ、貴様の宝具は剣かしら」
「貴婦人の目に入れるには無粋な物ですよレディ、ご想像にお任せします」
「抜かしなさい、剣使い!」
青い女がクルクルと赤い槍を回し、両手に持つ。
あの構え、最初に見たすごいヤバい何かだ。
「フフフ、貴方との語らいは楽しい一時だったわ。だからついでに聞いてあげる。今夜の逢瀬はここまでにする気はあるかしら?」
「それは魅力的だ。でも、引き止めてしまう私を許して欲しい。貴方が眠るまで側に居ることを約束する」
「そう様子見のつもりだったのに残念。それと、女を口説くならもっと血生臭くなくてはいけなくてよ……」
槍が、炎のように煌めく光を放つ。
まるで燃えるような赤い槍は、溢れる魔力を纏った物だ。
貴公子の顔に一瞬、驚愕する表情が浮かぶ。
「その心臓、貰い受ける!ゲイ……ボルグッ!」
「くっ!?」
貴公子の身体を赤い閃光が貫く。
まるで紙を吹き飛ばすように、それは彼の身体を簡単に跳ね上げてしまった。
「あぁ!?」
「躱したか!我が、必殺の一撃を!」
彼は、肩を貫かれていたが生きていた。
「呪詛……いや、因果逆転の呪いですね。ゲイボルグ、御身は影の国の女王スカサハか!」
「未熟者め、しかしドジッたわ。これを繰り出すのは必殺でなければいけないのに……残念だけど、今日はここまでよ。私の雇い主は臆病なの」
「おや、お帰りですかレディ」
「えぇ、そうよ。でも、もし追ってくるならば……その時は、決死の覚悟で追ってこい!」
「待ちなさい、ランサー!」
飛び去っていく青い女、その動きはやはり尋常でない物だった。
「貴方、大丈夫!?えっ、鎧が治って……貴方一体」
「えぇ、見ての通りセイバーのサーヴァントです。私のことはセイバーと、失礼。レディ、お名前を教えていただいても」
「え、衛宮士です……」
「衛宮……えぇ、分かっています。貴方は正規のマスターではない。それでも貴方はマスターだ、大丈夫です君を必ず守ってみせる」
「いきなりマスターって言われても、何がなんだか……」
その青い瞳が私を射抜くように見つめる。
顔も相まってか、思わず頬が熱くなった。
クッ、なんていうイケメン。
「では士と、私としてもこの呼び方のほうが好ましい」
「いきなり名前呼び、痛っ!」
「マスター!お怪我でも……」
「な、何これ!?」
痛みに顔を歪めると、セイバーが慌てて私の手を取った。
その手には、赤い剣のような模様の痣が浮かび上がってる。
セイバーは知っているのか、それは令呪ですねと言った。
待て、令呪って何なの?
「それよりも士、傷の手当を」
「えっ、救急箱持ってこなきゃ、待ってて」
「すみません、どうやら待っている時間はないようです。どうやら敵のようです」
「敵、って!ちょ、待って!どこ行くの、そんな怪我で!」
飛び去っていくセイバー、待てって、説明しろ!
慌てて追えば、何やら戦っている。
いきなり斬りかかるとは、言葉は不要ってこと、ちょっと待ってよ!
「やめて、セイバー!」
「なっ、何を……正気ですか!?」
「待ってよ、分かんないよ!ちゃんと説明してよ!こんなの絶対おかしいよ!」
いきなり人を襲うのも分からないし、助けてくれたんじゃないの。
なんで、そんな貴方が人を襲ってるの。
混乱してるんだから、ちゃんと教えてよ、知ってるんでしょ!
「そういう事か、素人のマスター」
「えっ?」
「取り敢えずこんばんは、衛宮さん」
「と、遠坂さん!?」
そこには学園のプリンスが立っていた。