BS×スタートゥインクル~12星宮に導かれたもの~ 作:風森斗真
次回で序章は終わる予定です
「ありがとうございました、いいバトルでした」
「こちらこそ。だが、次は負けない」
バトルが終了し、互いに握手を交わした"二代目激突王"と"月光"に、周囲は拍手を送り、健闘を称えた。
その後、簡単な授賞式を終え、大会は終了した。
大会が終わると、"二代目激突王"はデッキを片付け、店を出た。
店を出てしばらく町をふらふらと歩いていると、"二代目激突王"という二つ名ではなく、本名で自分を呼ぶ声を聴き、声がした方へと視線を向けた。
「やっぱり馬神くんだ!」
「……星奈ひかる。俺に用か?」
「用はないよ?見かけたから、声かけただけ」
"二代目激突王"―-馬神導に声をかけてきたのは、同級生の女子中学生、星奈ひかるだった。
宇宙と星座が大好きで好奇心旺盛、物怖じする、ということが一切ない天真爛漫な少女なのだが、導は突き放すように冷たい態度をとっていた。
「そうか」
「ね、馬神くん、商店街来るの珍しいけど、なにか用事あったの?」
「ちょっとな」
ぶっきらぼうな態度で、導はひかるの質問に返した。
その態度はいつものことなので、ひかるはあまり気にしていないようだが、その態度が原因で、一部の教師はもちろんのこと、生徒会や同級生の姫ノ城桜子からは改めろとよく言われている。
だが、何度言われても改める気は全くないらしい。
最終的に、教師たちは諦めてしまっているようで、もうその態度について言及することはなくなった。
いや、言及したくてもできなくなった、というところだろうか。
一度、生活指導で引っ張られたことがあるが、その時にぐうの音も出ないほど反論したらしい。その反論が事実であり真実であったことが教師たちの間に広まり、まるで腫れ物に触るかのような扱いに変わったのだそうだ。
それ以来、教師たちは基本的に導を放置するようになった。
もっとも、問題行動を起こすことがめったにないから放置しても大丈夫、と判断されているともとれるのだが。
「ふ~ん?あ、そうだ!ねぇ、これからお茶会するんだけど、よかったら来ない?」
「なんで俺が……」
「いいじゃんいいじゃん!まどかさんやえれなさんも来るし」
「せっかくだが、ごめんこうむる。これから行くところもあるしな」
まどかとえれな、というのは二人が通う観星中学校の三年生で、えれなはその明るい笑顔とカリスマから「観星中の太陽」、まどかは生徒会長として生徒が学校で過ごしやすいように見守ってくれていることから「観星中の月」と呼ばれている学校の人気者のことだ。
絶大な人気を持つ二人だが、導はこの二人、特にまどかに対して辛辣な態度をとることが多く、一部の生徒、特に生徒会からは嫌われている傾向にある。
そんな導を気遣っているのか、それとも本当に気にしていないのか、ひかるはそんな中でも導に声をかける珍しい生徒であった。
「そっか……それじゃまたこんどね!」
元気よく笑いながら投げかけられたその言葉に、ひらひらと手を振って返しながら、導はその場を立ち去っていった。
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商店街を出てしばらく歩いていき、自宅に到着した導は、ポケットから鍵を取り出し、玄関に差した。
かちゃり、と無機質な音を立てて鍵が開くと、導はそっとため息をつき、ドアを開けて中に入った。
玄関に入ってすぐ右手にある下駄箱の上には、ハンカチや鍵を入れておく棚のほかに、紫の長い髪をした美女と赤い髪をした端正な男に挟まれて笑顔を浮かべる幼い少年の写真が飾られていた。
言わずもがな、幼いころの導だ。
他にも、小学校の入学式や卒業式の時の写真、中学校の入学式の時の写真もあれば、バトルスピリッツの大会で初めて優勝したときの写真もある。
導はその中の一つ、昨年の暮れに撮った写真を手に取った。
「ただいま、父さん、母さん。今日も優勝したよ……ぎりぎりだったけど」
写真にそう報告し終わると、導はリビングを抜けて洗面所へむかった。
手洗いとうがいはきちんとしなさい、という両親からのしつけに従い、手洗いとうがいをすませ、キッチンへと向かい、冷蔵庫の中身を見た。
普通ならば、ある程度、食材が入っているものなのだが、導の目に入ったのは、比較的保存がきくチーズやバターなどの調味料だけだった。
両親はNGOの活動で不在にしていることが多いため、夕方になれば買い物袋を提げて帰ってくる、という可能性は低い。
となれば、導がとる行動は一つだった。
今日はよくよく、商店街と縁がある日だな、と思いながら、導は両親がより分けていた食費から三千円ほどを引き出し、再び商店街へとむかっていった。
途中、大会で戦ったカードバトラーや大会を見学していた子供たちとすれ違いながら、スーパーで買い物を終わらせ、献立を考えながら帰路についていると、突然、上空から巨大な白い光の球体がまっすぐ導のほうへ飛んできた。
「な、なんなんだよーーーっ??!!」
普段冷静な導にしてはかなり動揺した様子で、向かってくる白い球体から逃げるように走り出した。
だが、球体の飛行速度は予想以上に早く、導の逃亡もむなしく、球体に包み込まれてしまった。
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球体に包まれた瞬間、目を閉じた導だったが、特になにも異常はなかった。
恐る恐る目を開けてみると、そこには、薄い桃色のウェーブがかかった長髪の女性がいた。
「あら?弾とまゐの気配を追いかけてたつもりだったのだけど……あなた、誰?」
「いや、それはこっちの……もしかして、あんた、いや、あなたは……けど、ありえない」
「あら?わたしに見覚えがあるの?会ったことはないはずだけど??」
「俺が写真で一方的に知ってるだけだ。父さんと母さんから、あなたのことは聞いている。かつての旅のことや、そこであった戦いのことも」
目の前にいる女性に、導は心当たりがあった。
といっても、導は自身の両親や両親と懇意にしている二人の人物から写真と話を聞いていただけだったうえに、あまりに荒唐無稽なことだったので、作り話なのだろう、と勝手に決めつけていた。
「確かに、私は異界グラン・ロロの魔女であり、マザーコアの光主。本来なら、この星に来ること自体、ありえない存在だもの」
「異界へのゲートは閉じた。少なくとも、六百年以上は開かないはず……父さんも母さんも、コアの光主たちはそう話していた」
読者諸君の中には、二人の会話の意味が分からない者もいるだろう。
ここで、導の目の前にいる女性マギサと、導の両親、そしてコアの光主という存在について話しておく。
導の両親、
三十年以上前に、この世界とゲートでつながった一つの異世界があった。
その異世界の名は異界グラン・ロロ。バトルスピリッツの勝敗が物事を決める、六つの世界に分かれた世界だ。
六つの世界には、それぞれバトルスピリッツのカードに記されたものと同じ色のシンボルがあり、そのシンボルが各世界の活力の源となっていた。
そのシンボルをコアと呼び、コアを守護するカードバトラーをコアの光主と呼んだ。
詳しい経緯は割愛するが、その世界に招かれた導の両親と五人の少年少女たちは、グラン・ロロの支配者であり、地球を支配することを目論んでいた男、異界王の野望を阻止し、グラン・ロロの生命の源「マザーコア」をマギサに託し、二つの世界を切り離した。
その後、グラン・ロロでの経験を活かし、地球を少しでも良い世界にするため、両親は仲間たちとともに地球で活動することになるのだが、それはまた別の話。
「そう……あの子たちが……」
「……なぁ、もし、父さんたちの話が本当なら、なぜゲートが開いた?開くのはまだしばらく先だったはずだ」
「開かざるをえなくなった、というべきかしら?といっても、人が行き来できるような規模じゃないのだけれどもね……下手をすると、この星だけでなく、グラン・ロロ全土にも影響を与える事態になりかねない。だから、ちょっとした魔術をつかって、あなたに、正確にはあなたの両親に伝えたかったのだけれど……」
「二人の子供だから、気配を間違えた?悪かったな、父さんと母さんじゃなくて」
「そこまで言ってないじゃない!……けど、あなたの光も、二人と全く劣らないわね。もしかして、そうとう腕に自信があるんじゃない?」
「バトスピのって意味なら、まぁ、自信あるけど……もしかして、俺に父さんと母さんの代わりになれってこと?」
誤解がないように言っておくが、導は決して、両親が嫌いというわけではない。
むしろ、祖父母よりも大好きだ。
だからこそ、二人と比べてそん色ないといわれたことに、喜びこそ感じても怒りを感じることはなかった。
「……で、俺は父さんたちに代わって何をすればいいんだ?」
「あら?案外、素直に話を聞こうとするのね?」
「少なくとも、今まで俺が関わってきた人間の誰よりもましだ……父さんと母さんを知っていて、否定しない奴に悪い奴はいない。経験的に知ってる」
マギサの問いかけに、導は恥ずかし気に顔をそらしながら、ぶっきらぼうにそう返した。
その理由と、口にした言葉の意味を知っているマギサは特に何も言わず、手にしている杖の宝玉を導のほうへ向けた。
すると宝玉から白い光の球体と十二個の小さな光の球体が導のほうへと近づいてきた。
「この星に、グラン・ロロ第七の世界に危機が迫ってるの。その危機を退けるために、戦ってもらえないかしら?」
「俺も光主になれってことか……わかった。それが俺にできることなら」
意外とあっさり了承したことに驚きつつも、マギサは導にお礼を言った。
その瞬間、マギサが持つ杖から強い光が放たれ、導の視界をふさいだ。
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光がおさまると、そこは普段と変わらない商店街の外れにある森だった。
先ほどの現象は夢だったのだろうか、と思いもしたが、現実であることは、手の中にあるバトルスピリッツのカードデッキが証明していた。
何の気もなしにデッキの中身を見てみると、そこにはブレイヴという見たことのない種別のカードや<
――このカードたちはいったい……
そんな疑問が浮かんできた瞬間、背後に爆発音が響き、さらに六十年近く前から流行している特撮番組に登場する敵陣営の構成員のように統一されたタイツを着た人影が飛び出してきた。
その人影を追いかけるように、四人の派手なコスチュームを着た少女たちが飛び出してきた。
「プリキュア!牡牛座スターパンチ!!」
「プリキュア!獅子座ミルキーショック!!」
「プリキュア!天秤座ソレイユシュート!!」
「プリキュア!山羊座セレーネアロー!!」
少女たちが叫ぶと同時に、色とりどりの光が放たれ、構成員たちを吹き飛ばした。
いったい、どこの世界のアニメを見ているんだ、と思いながらその様子を見ていた導だったが、構成員の一人がこちらに気付き、一斉に向かってくると、立ち向かうべく身構えた。
その瞬間、デッキから一枚のカードが飛び出し、赤い光を放ったが、あまりに強い光に目がくらみ、その場にいた全員が思わず目を閉じ、構成員たちも目の部分を腕で隠し、光をさえぎっていた。
光がやむと、導に明らかな変化が起きていた。
その体はまるで十年以上前に流行した星座をモチーフにした聖戦士が身につけるような鎧に包まれ、手には赤い弓が握られていた。
スピリットを合体スピリットにするとこんな感じになるのかもしれないな、となぜか残っていた冷静な部分でそんな感想を抱きはしたが、やはり驚愕のほうが大きく。
「な、なんだ、これは??!!」
と思わず叫んでいた。
だが、混乱する頭を落ち着かせる暇もなく、構成員たちが飛び掛かってきた。
「ちょっ??!!」
中学に上がって以降、取っ組み合いなんてやったことがない導は身構えはしたが、どう対応すべきかわからずすくんでしまい、目を閉じてしまった。
が、まるで自分ではない誰かに体を動かされているかのように、無意識に体が動き、向かってきた構成員たちを相手に無双し始めた。
「ど、どーなってんの?!」
「わからないルン!!」
「けど、今がチャンスだよ!」
「はい!!」
突然、場をかき乱されたことに驚いた少女たちだったが、構成員たちが導に殴り飛ばされたことで現実に引き戻され、再び攻撃へ転じた。
それからは早かった。
数分とすることなく、構成員たちは全滅し、やたら大きく悔しそうな声が空から響くと、倒れていた構成員たちはすべて姿を消した。